ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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お誕生日会。ついでにクリスマスパーティ。

 メリークリスマス&ハッピーバースデイ。

 こんなに賑わいのある誕生日は生まれて初めてだ。

 わたし、嬉しい!

 前世を合わせても生まれて初めてだ。

 わたし、悲しい!

 でもいいんだ。今が良いのならおしなべてヨシ!

 

 だって、わたしの周りにはかわいい女の子たちばっかりで、もしわたしが男のままだったらハーレム状態なんだぜ。わたしが最高にカワイイ女の子であることが阻害要因になるだろうか。いやならない。これで嬉しがらないほうがどうかしている。

 

 そういや、パッパはこの中では唯一の男だけどイケメン俳優でもあるから、本当にハーレムみたいだ。もしかするとスラリンも男なのかもしれんが、スライムってもともと無性かもしれんしよくわからんところではある。

 

 みんなも興味があるのかパッパをチラチラ見てたりするんだけど、これはこれで悪くない気分。

 男としての嫉妬心みたいなのはまったく無いといったら嘘になるが、ほとんどない。

 うちのパッパは世界一カッコいいでしょ、と娘ながらに自慢したくなるからだ。

 前世? 成人していた? そんなもん忘れろ。

 わたしの魂はパッパを求めているんだ。そこにはなんの疑いもない。

 いまのわたしは、魔法が使えるだけのただの女の子ですよ。

 

――パッパとママンが並んでいる。

 

 キッチンの傍らの小さな肘を置けるくらいの高さのテーブルを挟んで、ワイングラスを片手に立っているだけで、まるで有名な映画のワンシーンみたい。実際にそういうシーンがある映画もある。ママンからは恥ずかしがって見せてもらってないけど、ネットを使ったらカンタンに調べられるのがいいところだ。

 

「お誕生日おめでとう」

 

 わたしとユアは両親から祝福を受けた。

 いま思えば、わたしも愛されていたんだなって思う。

 ただ、わたしの受信装置が壊れていたってだけで。

 がんばらなきゃ愛されないって思ってた。

 でも、それって自分の殻に閉じこもってただけで、前世でひとりきりでいたときとあまり変わらなかったんだな。

 いまは、魔法を広めて、その魔法が多少なりとも人の役に立っている。

 他者(ひと)のために尽くしていると思えれば、人間は安心していられるものだ。

 

「ありがとうございます。お父さま。お母さま」

「ありがとう。パパ。ママ」

 

「それじゃあ、乾杯から始めよう。みんなグラスを持ったかな」

 

 パッパがお耳を妊娠させるような声で言った。

 

 もちろん、わたしたち子ども組はジュースだけど、ちょっとした気分の問題だ。

 

 君の瞳に乾杯なんつーって。いやパッパが言うとマジでサマになるんだよ。

 

 そんなわけでみんなで乾杯をし、チンっと小気味よく音を鳴らす。

 

 パーティが始まった。

 

 寺田さんは、昔でいうところのメイドさんみたいに、かいがいしくわたしたちの世話を焼いてくれる。用意していた料理はアツアツで作り置きではない。いまは寺田さんが用意してくれたおいしいパーティ用のお食事を談笑しながらみんなで食べている。

 

 さすが完璧な寺田さん。電子工学だけでなく当然料理の腕も一流とまでは言わないまでも家庭的でありながらもそこらの料理店に負けていない。ママンがあまり料理とかしないから、わたしにとってのいわゆるオフクロの味といったら寺田さんの料理ってことになる。

 

 今日も色とりどりのサラダ。

 子どもの好きそうなステーキ。

 皮がパリパリでおいしそうなローストチキン等。

 ビュッフェ方式で食べられるパーティ料理の数々は寺田さんがいなければ絶対にできなかったものだ。

 そしてバースデイケーキ。

 きちんとふたつ用意してもらっているのが嬉しい。

 ユアといっしょのタイミングでふき消した。バギを使ったりはしてないのでそこは安心を。

 

「じゃあ、そろそろいいかな」

 

 食べ終わったあと、しばらく休憩してから理呼子ちゃんが口を開いた。

 そろそろ――というと、アレだ。

 

 誕生日プレゼント。

 前世でそんな記憶はなかった。

 どんな寂しい人生やねんって思うけど、少なくとも血のつながってない他人にプレゼントをもらった覚えはない。

 

 わたしはワクワクを隠しきれない。

 でも、みんなには負担をかけちゃったかなとも思う。

 わたしとユアの誕生日が隣接しているせいで、気を遣わせちゃっただろうし、単純にプレゼントにかかる費用も二倍かかる。

 

 うう。いかんいかん。誕生日に昏い気持ちを持ちこんでどうすんだ。

 

 わたしが罪悪感を覚えるのも違うだろうから、光で闇を覆滅するのだ。

 ニフラム。ニフラム。ヨシ!

 

「おいしい料理を食べたあとだからちょっと気後れしちゃうところなんだけどね」

 

 寺田さんが理呼子ちゃんに白いケーキ箱を二個重ねた状態で渡してくれた。

 ひとつには『イオちゃん用』、もうひとつには『ユアちゃん用』と書いてある。

 基本的には同じプレゼントで調整するようにお願いしたところなんだけど。

 果たしてこれは――。

 

「こ、これは……おっぱいプリン!」

 

 説明しよう。

 おっぱいプリンとは、おっぱいの形をしたプリンのことだ。以上。

 理呼子ちゃんが料理の勉強してるとか言ってたけど、これを作るためだったのか。

 大人もいるなかで、『おっぱい好きなんでしょ』と言われているようで、ちょっち恥ずかしいが、わたしの好きなものを作ってくれるのは嬉しい。

 

「私だと思って食べてね」ニッコリ。

 

「はは、ありがとうございます」

 

 んっ。おいしい。おっぱい様の山を突き崩すのは罪深い行為であるが。

 

 ちなみにユアのほうには、なんとスライムの形をした青色のゼリーを作ってくれていたみたいだ。スラリンがプルっと震えて……もしかして脅えている!? スライム喰いじゃないからね。ユアは口周りをべたべたに汚しながら一気に食べてしまった。スラリンぷるぷる。

 

「理呼子ちゃん、ありがとう」

 

 満面の笑みを浮かべるユア。

 スライムマスターのユアにとっては嬉しいプレゼントだったのだろう。

 理呼子ちゃんは人のことを考えられる本当に良い子です。

 

 続いてみのりさんからは――、すげえデカいものを持ちこんでるなって思ってたけど、包装紙で包まれたソレは電子ピアノのようだった。

 

「物だとイオちゃんたちなんでも揃っちゃうだろうから、私が一番得意なものを贈るね。ふたりをイメージした曲だよ」

 

 曲名は"きみとぼく"というらしかった。

 きみというのはユアのことで、yourとも書けるからな。

 ちなみにぼくはわたしのことだけど、ioの綴りがIに通じるからだとか。

 

 曲はなんというか二面性があるような感じ。

 わたしとユアが並んで冒険しているような感覚を抱いた。

 勇壮さと溌剌さ。

 可憐さと優雅さ。

 どっちがどっちというわけではないのだろうけれど、挑戦する者といった風情。

 胸にじーんときた。

 

「すばらしかったです。みのりさんプロデビューはまだですか!?」

 

「イオちゃん。ありがとうね。でもプロっていうのは褒めすぎ。まだまだ練習しないと」

 

 そして、おっぱい。

 わたしはおっぱいに――失礼、みのりさんに抱きしめられていた。

 ああ……ああ……(語彙消失)。

 

「わたしがピアノを弾けるのはイオちゃんのおかげだからね」

 

 正直に言うと。

 

 わたしのほうなんか、あのときは調子に乗ってベホマズンを病院全体にかけれるんじゃね程度しか思ってなかった。

 

 不埒な動機ですらなくて、単に砂場で遊ぶ子どもと同じような感覚だったんだ。

 

 でも、いまはよかったって思う。

 

 白熱するような想いをお胸様から感じた。

 

 こころの底からこみあげてくる感動をカタチにしたのが、この曲らしかった。

 

 胸にじーんとくるわけだ。

 

「お次は私だな」

 

 ルナの番になってわたしは少し身構える。

 はじめの出逢いのとき、ルナは札束でわたしの後ろの席を買おうとしたり、夏には理呼子ちゃんに百万円を贈ろうとしたりと、なにかとバランス感覚がよろしくないルナである。

 

 いったい何が出てくるのか。

 でも、ルナにならなんでももらってもうれしいぞ。正直、お金は要らんけどな。

 ルナが持ってきていたのはなんか卒業式とかで卒業証書が入ってるような筒だった。

 普通に考えれば、わたしの絵とかでも描いてくれたのかなって思うのが普通だが、果たして。

 

「ニューイオちゃんズランドだ」

 

「あの、それってどういうことなんでしょうか」

 

 アメリカってなんでもかんでもニューつけるの好きだよな。ニューヨークとか、ニューなんたらかんたらとか……。

 

「たいしたことじゃない。ロバートを強請って適当なアメリカの島をもらってきた」

 

 とっさにママンを見る。

 これって絶許案件なんじゃないかと思ったからだ。

 イオちゃんズランドのときとは違って、今度は外国だし。一時的な借り受けではなく、ルナはもらってきたって言った。「所有」という概念は強固だ。

 しかし、意外なことにママンから出てきた言葉は「是」。要するに受け取ってもいいらしい。

 

「厳密にはあなたではなくて、魔法カンパニーの方に所有権が移譲されるの。外国企業が土地を所有するのも珍しくもないし、領土をもらったというわけじゃないからいいらしいのよ」

 

 ママンも固辞したが、先だっての対テロの活躍とかで押し切られたかたちになったらしい。パッパまでアメリカ側にまわって説得されれば、まあそうなるよな。

 

「アメリカからしてみれば、島ひとつでイオちゃんのご機嫌をとれれば丸儲けだろうしな。ついでに言えば、ロシアからは北方領土返そうかって打診来てるらしいよ」とパッパ。

 

 ロシアもかよっ。

 日本としては悲願だろうけど、イオちゃんズランド、そんなに要らないよ!

 

「その……迷惑だったか?」ルナがしおらしい。「夏に遊んだとき楽しかったから。来年もまた遊びたかったんだ」

 

 ああ!

 ルナがかわいい。

 こんな弱々しいルナはルナじゃないけど、なんともいじらしいじゃないか。

 元祖イオちゃんズランドは日本に還してしまったし、いまは絶賛国の公共テーマパークとして稼働予定だ。来年にはみんなで遊びに行くってことはできなくなるだろう。

 ルナはもう一度同じように島で遊びたかったんだろう。

 

「ルナちゃん。ありがとうございますね。嬉しいですよ。とっても」

 

「そうか。よかった」

 

 ルナも成長しているなぁ。

 

「ねえ。ルナちゃん」今度はユアが声をあげる。「わたしの誕生日プレゼントは?」

 

 おお、さすが七歳児あらため八歳児。

 

 遠慮という言葉から解き放たれているな。

 

「ああ、それならちゃんとあるぞ。ニューイオちゃんズランドはふたつの島が隣あってるんだ。そこをユアちゃんズランドと名づければいい」

 

「じゃあ、そこは私が好きに改造していいの」

 

「いいぞ」

 

「やったー!」

 

 万歳するユアがかわいらしい。

 

 実際に島を改造するとなると、わたしが出張るしかないんだろうけどな。

 かわいい妹のためならお姉ちゃんは無限にがんばりますよ。

 

 それから、ママンとパッパにはゲームをもらった。

 2030年も変わらず続く名作RPG。ドラクエと並ぶもうひとつの国民的RPG。

 うん。みんなも知ってるファイナルファンタジーだ。

 もちろん、それなりのゲーマーだったわたしとしては、ファイナルファンタジーも欠かさずやってきたわけで、死んでもゲームできるなんて嬉しい。転生しても絶対にゲームするぞと思っていた。ドラクエのほうが半ば仕事だったせいもあって、他のゲームをする時間がなかったけれど、いまからたくさん遊びつくしてやる!

 

 なお、ユアのほうは……ポケモンだと!?

 

 

 

 ☆

 

 

 

 みんなから誕生日プレゼントをもらった。

 あとは、ユアへのプレゼントだな。わたしはポケットの中に入れているちょっと大きめな膨らみを意識する。

 スライムベスの玩具。

 理呼子ちゃんと買いにいったプレゼントだ。

 

 さて、今が最高のタイミングだというところで、

 

「あ、お姉ちゃん。私からプレゼントあるよ」

 

 機先を制された。

 たぶん、わたしの初動をユアが見抜いたんだろうと思う。

 それにしても、プレゼントだって?

 ユアがわたしに?

 へえ(にちゃあ)、お姉ちゃんは嬉しいですよ。

 

「ありがとうございます。何をいただけるのですか?」

 

「はい。これ」

 

 渡されたのは紙の券が二枚。

 

「お姉ちゃんが妹の立場になれる券?」

 

 ひとつは一日券で、ひとつは十分間のお試し券らしい。

 よくわかんにゃい。

 

「なんでしょうか。これ」

 

「これはね。いつもがんばりやさんのお姉ちゃんが妹の立場になれる券です」

 

「つまり、ユアがお姉さんになってくれる券ですか」

 

「そうだよ。わたしが"姉なる者"を演じるの」

 

「ほう……。ではお試し券を一枚ご使用願えますか」

 

「毎度あり」

 

 そういうノリなの?

 

 ユアはわずかに首をさげる。そしてスイッチが切り替わった。

 

 真正メソッド演技は、演じる対象への自我の没入だ。

 

 今のユアは深海の中を潜り、対象へとアクセスしている。

 

 姉なる者。

 

 もちろん、わたしは真の姉ではあるものの、ユアのイメージそのものではないだろう。

 ユアが思い描く、もっとも姉らしい姉を演じることになるはずだ。

 

「イオちゃん。お口のまわりにケーキが残っているわ」とユア。

 

「え、そうですか」

 

「まったくもう。ダメな子なんだから」

 

「ふひっ」

 

 なんだかこそばゆい感じだ。

 ユアがかわいい声で姉を演じている。さすがの演技力は圧倒的な姉のオーラを身にまとっているが、さすがに八歳児では無理があるだろう。バブみにすらならない。

 

「あの、ユア。ちょっと違和感が凄まじいです」

 

「めっ! お姉ちゃんに向かって呼び捨ては許しませんよ」

 

 腰に手をあてて、すごんで見せる様もかわいらしい。

 でもここは乗ってあげるのが姉なる者のつとめか。

 

「ごめんなさい。お姉ちゃん」

 

「そうそう。私はお姉さんなんですからね。ほら、お姉さんが食べさせてあげますからお口を開きなさい」

 

 な、なんだと。

 みんなの前で赤ちゃん羞恥プレイを強要されるのか。

 これは新しい。みんなの目が生暖かい。

 

「あ、あの……お姉ちゃん。ちょっと恥ずかしいな」

 

「恥ずかしがらないの。イオちゃんは赤ちゃんなんだから」

 

 ええ!? わたし赤ちゃん設定なの!?

 これってユアが楽しいだけでわたしの旨味成分はどこにあるんだ。

 スプーンを使って、残っていたおっぱいプリンをひとさじ。

 それがわたしの口元に。

 

 姉なる者としてのプライドが破壊されてしまう。

 わたしは目をつむり、衝撃に備える。

 

「はい。終了です。延長したい場合は別途料金がかかります」

 

 ユアのサービスはシビアだった。

 いっそ最後までしてほしい気分がちょこっとはあったり――。

 いやなんでもない。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「わたしのほうもプレゼントがあるんですよ」

 

 ユアがスラリンを好きなことは十分に理解している。

 けれど、スラリンについては――。

 いや、モンスターについては異類恐怖症という人類の本能的な部分での生存本能が働く。

 未知の生物に絶滅の危険が伴えば当たり前だよな。

 まあわたしがいるから大丈夫なんだけど、誰もが理性的に考えられるわけじゃない。

 

 だから。

 だからである。

 この魔法は生物っぽく動かす疑似生命体を創り出す魔法だ。

 

――変形機工呪文(レゴーム)

 

 漫画版ドラクエ、蒼天のソウラで使われたこの呪文の解釈は、機械的なレベルを劇的に魔改造し、魔物レベルにまで押し上げるというものである。

 

 もちろん、元が機械だから生命体のように増えたりはしない。

 

 ちょっと高度なロボットのようなものだ。

 

 これなら大丈夫だよね。

 

 スライムベスはピキーと小さく鳴いている。

 一抱えもあるスラリンとは違い、この子は手のひらサイズで持ち運びしやすいぞ。

 ちょっと硬いのが難点だけどな。

 

「お姉ちゃんありがとう。でもそれダメだと思うな」

 

 ユアの裁定は厳しかった。

 というか、みんなの視線が……『あちゃあ』って感じなのがなんで?

 ママンが顔を抱えている。

 

「あの、この子は厳密には生きていないのですよ。ゴーレムみたいなものですから」

 

「イオ。ターミネーターも恐れられただろう」ルナが言った。「生きているか生きていないかはあまり関係がないんだ。人間の脅威になるかが問題なんだ」

 

「冷静に考えたら、イオちゃんがやらかさないわけがないんだよね」

 

 うわ。わたしの信頼度低すぎ!?

 

「イオちゃん。普通に渡すだけじゃ満足できなかったのかな」

 

 理呼子ちゃんまで。

 

「なるほど、こうして"伝説"が量産されていくのか」

 

 パッパ~。

 

「イオ。誕生日会が終わったら、少しお話しましょうか」

 

 ママンにほっぺたを伸ばされるのは既定路線なのでしょうか。

 

「おいたわしや、お嬢様」

 

 寺田さんだけだよ。わたしの味方なのは。

 

「じゃあ、ぐすん。いりませんか」

 

「うーん。生み出してしまったものを壊すのもかわいそうだよ。この子も生きてるんだよね?」

 

「そうですね。ヒットポイントはあると思います。それを命と呼ぶかは別としてですが」

 

「まあ……スライムの存在を許している以上、スライムベスの脅威度もそこまではないだろう」

 

 ルナがわたしからスライムベスを受け取ってながめすがめつしている。

 ちょっと、照れたように赤くなってんぜ。ベス子。

 

「少し中をのぞいてみたいな」

 

「ダメだよ。ルナちゃん。ベス子ちゃんはお姉ちゃんもらったものなんだから」

 

 ユアがベス子を奪って、胸の中で親鳥のようにかばっている。

 すまぬ。こんなぽんこつな姉で。すまぬ。

 

 ユアがかばったこともあり、スライムベスの脅威度はスラリンよりも遥かに低いと見積もられたことから、しばらくは様子見。執行猶予とあいなったのである。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ごくり……」

 

「どうしたのイオちゃん」と理呼子ちゃん。

 

「いえなんでもないです」

 

 わたしの目の前には罪のカタチがある。

 スラリンとベス子が寄り添うようにしてぴったりとくっついているという図。

 スラリンが気に入ってくれたのは先住猫と来たばかりの猫を引き合わせるときみたいに、ウマがあってよかったと思うけど。

 

 わたしが魔法を使うとなんらかのポカが生じるんだよな。

 

 恐ろしい……。わたし呪われてるのかしらん。

 

「お姉ちゃん。自分のポンコツを他人のせいにするのはよくないよ」

 

 人のこころを読むのもよくないと思います!

 

「で、どうしたんだ。イオ」

 

「あの……実は皆さんがたにもプレゼントを用意してたんです」

 

 だって今日はクリスマスも兼ねてるんだ。

 誕生日だけだったら、みんなから誕生日を受け取るだけでよかっただろうけど、クリスマスいったらプレゼント交換もあってしかるべきだろう。

 

 だから、わたしは密かに用意していたんだ。

 とはいっても、昼の間に部屋でこっそりと用意しただけのものだけどね。

 

「出せ」

 

 カツアゲをする不良みたいな声でルナが言った。

 天才児は状況を一瞬で察したようだ。

 

「これなんですけど……」

 

「指輪か?」

 

「ええ、みんなの分を用意してあります」

 

 わたしはテーブルの上に指輪を並べた。

 

「なんだこれは。銀のようだが微妙な輝きをまとっているような」

 

「これはミスリル銀です」

 

――ミスリル銀。

 

 ファンタジー鉱物の中でも有名な魔法を滞留させやすいとされる金属。

 

「どうやって?」

 

「その、メタルスライムを」

 

「メタルスライムを?」

 

「ちょっとだけ。先っちょだけ。先っちょだけですよ。召喚したんです」

 

「ほう……あれだけやるなといってる召喚をおこなったわけだな」

 

「本当にさきっちょだけですよ。スライムの先端部分だけです」

 

 召喚魔法からは完全に出してはいない。

 そう、だからこの世界に呼び出し未遂のはずだ。

 

「そんな既遂時期の話をしてもらっても困るんだが、それで?」

 

「それで先端部分だけを……こう、ぷちっと」

 

「イオちゃんがスライムにまで厳しいね」と理呼子ちゃん。

 

「大丈夫です。メタルスライムも元がスライム族なんで、構成物質のほとんどが単一なんですよ。先っぽ部分が引きちぎられてもすぐに元に戻ります。痛くないか聞いてからもぎましたし、ちゃんとベホマもかけました」

 

 ぷるるんとスラリンが震えた気がした。

 そんなに怖いことをしたつもりはないよ。本当です。

 

「それで?」ルナの顔が怖い。

 

「それであとは腕力任せでリングを創ったり、ギラとかで表面加工したりといろいろしました」

 

「私が聞きたいのは、だ」ルナが腕を組んでいる。「なぜミスリル銀を調達したかということだ。普通の金属ならモシャスで創れるだろう」

 

「あ、それはですね。装備してみればわかりますよ」

 

「ふむ」

 

 ルナが指輪をはめる。小さなおててでも大丈夫なようにちっちゃめなやつも創っている。

 それでも人差し指が限度だったようだ。要調整だな。

 

「ん。なんだこれは……」

 

「それは()()()()()()()()です」

 

「マホアゲルの指輪だと。つまり魔法力をチャージするための装置を創ったのか。そのために魔法力を滞留させる金属が必要だったというわけだな!」

 

 唾を飛ばして興奮気味のルナ。

 まあ、そういうことです。

 

「まあそういうことです」

 

「パパの分もあるのかい?」とパッパ。

 

「もちろんありますよ」

 

 ちょっと大き目サイズの指輪がそれだ。

 

「ふぅむ。使い方はどうするのかな。まさか祈るというわけにもいかないだろうし」

 

「単純に常時回復するだけですよ」

 

「ちなみにどれくらい?」

 

「53万程度ですかね」

 

「実質無限に等しいな……」パッパが驚いている。

 

 実を言えば、パッパのスパイ活動中に少しでも危険を減らせればと思ったんだよ。

 みんなもそう。これから魔法が広がっていったら、あのテロみたいな出来事がみんなにも降りかかるかもしれない。

 

 それは嫌だったんだ。わたしだったら対処は容易いけど、みんなはそうじゃないから。

 

「高度な呪文が使えるやつに装備させたらかなり危険そうだな。おそらくアメリカには量産してほしいと頼まれるだろうが、甘い顔を見せるなよ」

 

 ルナの言うことはもっともだとわたしも思う。

 この指輪はけっこう時間がかかったから、あんまりたくさんは創りたくない。

 

「そうですね。あのみなさんの安全のためなんです。念のためにつけておいてください」

 

 いちおうトラマナ等の防御魔法は永遠に等しい時間かけているけれども、バイキルトなどの制御が難しい呪文はかけてないからな。

 

 なにかしら抜けがあるかもしれないんだ。

 

「イオちゃん。もしかしてあの火事のときのこと?」

 

 そう理呼子ちゃんが呟く。

 あの火事のとき、理呼子ちゃんは魔法が使えるにも拘らず危険に陥っていた。そのときはまだトラマナなどは張ってない状態だったけど、もし魔法がもう少し使えれば理呼子ちゃんひとりでもなんとかなっただろう。まちがいなく理呼子ちゃんのことも頭にあったのは事実だ。

 

 理呼子ちゃんは慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 

「ありがとうイオちゃん。装備させてくれる?」

 

「えっと、はい」

 

 指輪なんか誰だって自分で装備できるとは思うが、理呼子ちゃんなりの覚悟の現れなのだろう。

 

 って、左手を差し出してきてる理呼子ちゃんのお顔が真っ赤だ。

 

 え、なにこれ。なにこれ。なにこれ。

 

 もしかして、わたし。

 既成事実なるものを作らされようとしているのですか。

 

「イオちゃん。早く装備させて」

 

「は、はい。とりあえず、じゃあ人差し指に」

 

「イオちゃん」

 

「あ、はい。ワカリマシタ……」

 

 すべてを悟ったわたしは薬指に装備させたのであった。

 理呼子ちゃんが嬉しそうで何よりです。ハイ……。




アイディアとしていただいた『レゴーム』を使わせていただきました。
感想お待ちしておりますー。

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