ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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世界を癒す魔法。ついでに世界を壊す魔法。

 地震というのは、地球を覆っているプレートのズレによって生じると言われている。

 要するに、巨大な地すべりが地震ということらしい。

 正確には地すべりによって()()()()()()がビヨーンって戻るときに地震が起こるみたいなイメージ。バネをグッと下にやって、手を放したときに元に戻るのが地震という現象だ。

 

――その報はみのりさんの方からもたらされた。

 

 わたしと理呼子ちゃんはコンビニから帰ったあと、魔法クラブでみんなといっしょにお菓子を食べようと思ってテーブルの上に戦利品を並べていた。冷凍食品のフライドポテトやアイスはさすがに冷凍庫の中だけどな。今日はルナもユアもいないから明日になるが、みんなといっしょにワイワイ食べるのはパーティみたいで楽しい。そんなふうにワクワクしていると、みのりさんがダッシュで走ってきたんだ。おっぱいが揺れて、わたしはこれまたワクワクしていたんだけれど、もたらされたニュースは良くないものだった。

 

「ニュージーランド沖で地震ですか?」

 

「うん。マグニチュード9以上。震度で言えば7強だよ」

 

 前世では――いや今世でも地震はテレビの中の出来事だった。

 告白すれば、地震で何人死んだとか何人が家を失ったとか言われていても、それはただの数の話でしかなかった。そりゃ人並みにはかわいそうだなとか思ったりもするけれど、わたしにできることは限られていたし、ひきこもりの人間がどこかの誰かを助けにいくなんてできるはずもないからな。おそらくわたしの考え方は平均的だと思う。でも今はどうだろう。

 

 わたしはじっと自分の手を見つめてみる。

 前世とは比べ物にならないくらい華奢で小さな手のひらだけど。

 今のわたしには"魔法"がある。

 それこそ奇跡のような力で何人ものいのちを救える。

 なんなら行く必要すらない。

 この場で全世界をターゲットにザオリーマにベホマズンをかけたらいい。

 

 でも……。

 日本でもアメリカでもない国にまでわたしが魔法を使うべきなのかというと難しい問題があって、基本的にわたしは魔法カンパニーに所属しているひとりの従業員という立ち位置だ。

 

 勝手に魔法を使ったらママンに叱られそうだな。

 

「みのりさん。わたし魔法を使うべきなのでしょうか?」

 

 ルナがいないのでこの場では一番お姉さんのみのりさんに聞いてみた。

 

「救える人は救ったほうがいいと思うけど。ザオリク系だって時間が経過しすぎていたらどうなるかわからないんでしょ?」

 

「そうですね」

 

 そう。つまりはだ。

 いまだ外国には魔法が普及していないので、おたくらでなんとかしてくださいという論法は通じない。いや、もし仮に魔法が普及していても大規模災害で亡くなった数万人をどうにかできる存在なんて、わたしくらいしかいないだろう。

 

「イオちゃん……」

 

 理呼子ちゃんが何かを悟って、わたしの服の袖をつかんだ。

 

「大丈夫です。いつもと同じくお母さまに聞いてみますよ。それからですね」

 

 わたしはすぐにスマホで連絡をとった。

 いきなりリリルーラをしたりする、かしこさ3の女の子なんているはずもない。

 電話をするとワンコールでつながった。

 

「お母さま。ご相談したいことがあるのですが……」

 

「イオ。ダメよ!」

 

「まだ何も言ってないですが……」

 

 ママンの信頼度、もう少し溜まっているものだとばかり思っていたよ。

 つい最近やらかしたことなんて……んー。ごほん。

 まあそれはそれとしてだ。

 

「せめてお話くらいは聞いてくださってもよろしいじゃないですか」

 

「そうね……。イオ、こっちにきなさい」

 

 それでスマホは切れた。

 どうやらリリルーラで来いということらしい。

 魔法クラブではなく親子どうしサシでの話し合いがお望みなら、わたしとしても否はない。

 というか、そもそも最初からそうだったしな。

 ママンの方から話を打ち切られないなら、わたしはだいたいは付き合ってきたわけだし、ママンの言い分も聞いてきたつもりだ。

 やらかしについては……まあ、()()()()()()()()()が起こってる。

 

「お母さまに呼ばれたので行ってきますね」

 

「イオちゃん……」

 

 理呼子ちゃんが寂しそうな顔をしていた。

 いっしょにコンビニに買い物行くのもしばらくできなくなるかもしれない。

 袖をつまむ一瞬。

 わたしは理呼子ちゃんの手を握り返す。

 

「たいしたことじゃないと思いますよ。いつものようにちゃちゃっと魔法で解決するだけです」

 

 まあ、たぶんたいしたことじゃないよな?

 

 

 

 ☆

 

 

 

 リリルーラを使うと、ドラマ撮影の時とかに使う控室のようだった。

 ママンは目の前にいて、化粧台に座っている。

 少し疲れた顔をしているようだった。

 

「お母さま、来ました。ホイミ」

 

「出ホイミはやめなさい」

 

「疲れていたようでしたから」

 

 ママンは大きなため息をついた。

 

「いつかはこんな日が来るんじゃないかって思ってたわ」

 

「なんの話です?」

 

「大規模災害のことよ。ここ一年くらいは何事もなかったでしょう。数万人が亡くなるような災害は幸いなことに一度も起こらなかったのよ」

 

 うーむ。そういわれればそうかもしれないな。

 でも、それがどうしたんだろう。

 全世界にベホマズンするのと、今回の件で違うことと言えば……。

 多少地域限定になることと、ザオリーマをすることくらいじゃないか?

 

「いままで日本とアメリカのためにいろいろ活動してきたのはわかるわよね」

 

「それはまあ……わかりますけど」

 

 全世界ベホマズン以外は、基本的にはアメリカと日本以外には実益をもたらしていないからな。

 

 ユーラシア大陸にマホトラをかけたこともあるけど、あれは魔法を使えない一般人にはなんの影響もない代物だ。結局、日本で魔法が解禁されたと同時にマホトラも撤廃したから、あるのかないのかすらもわからなかったはず。

 

「あなたが会社としての枠組を越えてボランティア活動をすると、ある時には救いある時には救わないという不平等なことが生じてしまうの」

 

「わたしの時間の問題ですか……」

 

 人間の時間は有限だ。

 わたしだって、ラナルータやサンズオブタイムを使わなければみんなと同じ。

 すべてを救うことはできないってわけだな。

 

「ベホマズンのときにわかったでしょう。人はあなたを勝手に解釈するわ。ちょっとした災害が起こるたびにでかけていけばさながら小さな女神様、なにもしなければ小さな魔王ということになるのよ」

 

「勝手に評価させておけばいいのでは?」

 

 そんな人間は、背景にすぎんだろ。

 あるいは、わたしの邪魔になるなら障害物だ。

 もちろん、なにもしませんけどね。

 

「あなた、今日コンビニにお買い物いったでしょ」

 

「ぎくり。なんで知ってるんですか」

 

「母親が子どものことで知らないことなんてないのよ」

 

 魔法のこと知らなかったでしょという言葉はのみこんでおく。

 まあ、おそらくわたしを見守っている人がいて、その人から報告がいくようになってるんだろう。ママンは世界を救う勇者的な役割を期待されているからな。大魔王イオちゃんの暴発を防ぐ要だから。

 

 って、それはさておいてだ。

 

「コンビニの話がなにか関係あるんですか?」

 

「もうコンビニにすら行けなくなるかもしれないわ」

 

 そして続ける。

 

「救うにしろ救わないにしろ、どっちにしろ人が寄ってくるわよ。称賛するためか批判するためか。どちらでもね。強すぎる力を人は無視することはできないの」

 

「うーん。最近はポンコツイオちゃんとしてかわいがられているような気もしますけど」

 

 大変遺憾ながら、そういうことになっています。

 配信ではカワイイカワイイと専ら評判のイオちゃんですよ!

 

「リアルで寄ってくる人間はもっと剥きだしの感情をぶつけてくるわ」

 

「それはまあそうかもしれませんけど。だったらどうすればいいんです? 魔法を使っても使わなくてもダメなんですよね?」

 

 それって要するに。

 チェスや将棋でいう詰みにはまったのでは?

 

「だから悩んでるのよ……」

 

 ママンはうなだれてしまった。

 正直なところ、書き割りの人間たちがどう思ったところで、テレビの向こう側の数字に過ぎないと思う。わたしにとってのモブたちの感情よりも、ママンとか魔法クラブのみんなとか、知ってる人の感情を優先したい。ママンが悲しんでるのがつらい。

 

「えっと国は何か言ってきているんですか?」

 

「要請はあったわ」

 

「だったら行ったほうがいいのでは?」

 

「あのジジイども。私に丸投げしたのよ。いちおう形式的には民間企業への要請だから断ることもできるの。でも断ったのはあくまで国ではなくて魔法カンパニーのほうだから責任を免れると思ってるのよ」

 

「戸三郎おじいちゃんもですか」

 

 日本の首相である戸三郎じいちゃんなら、わたしのことをいろいろ考えてくれそうだけど。

 

「ひとりで抵抗したところで、日本魔法会議全体としては前回のこともあって、あなたのことを(おそ)れているのよ。あるいはもてあましているとも言えるわね」

 

「お母さまくらいしか大魔王イオちゃんをコントロールできない感じですよね」

 

「ひ・と・ご・と~」

 

 ああああああっ!

 ママンにまたほっぺたを伸ばされるぅ。

 

「でもですねお母さま」ひとしきり伸ばされたあとわたしは言った。「日本のお偉いさんも権力持ってる人も関係ないですよ。わたしはお母さまの愛情を信じているからお母さまのいうことを聞きたいんです」

 

 ママンはわたしを理解しようと努めているように思う。

 もしママンがやめろというのなら、わたしは何もしないことを選ぶ。

 ただ、ママンに選ばせるのも酷だ。

 もともとわたしには魔法に対するブレーキのようなものはない。

 現実世界における不利益は考えたらわかることだし、かしこさ3の少女になってわかる道理。

 コンビニに行けなくなるのはつらいしな。

 でも人に怨まれるよりは、神さまみたいな扱いをされるほうがマシな感じがするし、どう思われようと、見殺しにするよりは救ったほうがわたしの趣味的には好きだ。

 人の命は重いっていうのくらいはわかるしな。

 

 わたしは電子レンジでチンするよりも簡単に世界を救える。

 

 難しいところだけど、いろいろ考えてもどっちが正解かなんてわからんし、どっちかというと人を救うほうが褒められるからいいんじゃないかな。

 

 大規模災害について言えば、そのエリアに魔法をかけるだけなら五秒で終わることだし。

 

 それになによりママンの苦悩を終わらせたい。

 

 わたしは自分で選び取ることにした。

 

「お母さま。やっぱりわたし魔法をかけようと思うんです」

 

「コンビニにも気軽に行けなくなるかもしれないのよ。本当にわかっているの?」

 

「いいのですよ。だいたい日本やアメリカのためだけに使っていたという意識はないんですよね。将来的にはこの星の誰もが魔法を使えるようになればいいなと思っていますし、ちょっと便利な魔法ライフを送ってもらえれば嬉しいと思っているんですよ」

 

 そう、イオちゃんの意識は世界レベル。星スケールなのだ。

 

「何万人もの命を蘇生させるのは、ちょっと便利とは言わないわ」

 

 ごもっとも。

 それくらいはわたしにだってわかる。

 ママンは視線を落した。

 少しうなだれているように見える。

 

「思えばあなたとどこかに買い物に行ったことすらなかったわね」

 

「んー。そういえばそうですね」

 

 だいたいの買い物は通販も可能だし、寺田さんが買ってきてくれるからな。

 ママンは大女優だし、コンビニに行くようなタイプじゃない。

 おててをつないでいっしょに何かを買うというようなことはなかった。

 

「今度どこかに買い物にでもいきましょうか?」

 

「えっと、それができなくなるって話だったのでは」

 

「魔法が今よりもずっと普及して、あなたが少し大人になった頃の話」

 

 未来の話か。

 

 まあ確かにわたしと同じことを誰かができるようになるかもしれないし、誰かができなくてもみんなでできるようになるかもしれない。

 

 ママンの視線は優しく、かつてないほど母親の愛情を感じる。

 

 愛されるための準備が不足しているわたしは、どうすればいいかわからなくなって頭を垂れるしかない。

 

 頭を撫でられていた。

 なんだか眠くなってくる。安心する。

 そして、素直になれるような気がする。

 

「ママ大好き」

 

 わたしは言った。

 

「私もよ。イオ」

 

 抱きしめられていた。

 とても嬉しい。わたしを普通の女の子に戻してくれるのは、やっぱりママンの言葉だけだ。

 ギュっと抱きしめかえしながら、放したくないって思ってしまった。

 

 実際にニュージーランドに行く必要すらないんです。

 そう魔法ならね。

 

「左手にサンズ・オブ・タイム。右手にザオリーマ」

 

 わたしは左手に時を戻す魔法を、右手に全体蘇生魔法を宿す。

 

「ちょ、ちょっとイオ……」

 

「どうせ不平等とか言われちゃいますし、建物とかが倒壊してたら生き返っても閉じこめられてしまいますからね」

 

 なので時間をわずかばかり巻き戻す。

 

 地表の時間を巻き戻せば、プレート自体のエネルギーは発散されているはずだ。

 地震は二度は起こらない。

 

 勢いあまってニュージーランド沖だけでなく全世界に向けて発射しちゃったけどご愛敬だ。

 

 ニコっと笑ってママンを見あげる。

 

 あ、ダメだ。ママンも笑顔だったが意味が違う。

 

「イオぉ~~~~~!」

 

「あああ、お母さま。ベアハッグになってますから。お母さまぁ!」

 

 そんなわけで、大魔王イオちゃんの魔法によって世界は救われたのでした。

 めでたし。めでたし。

 

 

 

 ☆

 

 

 

127:名無しの魔法少女観察者

 

 倒壊した建物等はすべて復活

 あれだけの被害があったにも関わらず人命損失ゼロ。

 うーん。これは女神様かな?

 

 

134:名無しの魔法少女観察者

 

 というか、なぜか全世界で人が生き返ったりしているわけだが

 イオちゃんは大雑把だからな、しかたないね

 

 

136:名無しの魔法少女観察者

 

 やはり時間制限があるのか

 埋葬されちゃってる人は復活しなかったけどな

 

 

145:名無しの魔法少女観察者

 

 それこそ寿命というやつだろう

 ザオリク系は寿命を延ばす効果はないからな

 

 

155:名無しの魔法少女観察者

 

 ていうか、全世界にメダパニをかけていて

 地震が起こったように見せかけた説のほうがありえるんじゃね?

 

 

168:名無しの魔法少女観察者

 

 >>155

 なんの意味があるんだよ

 よしんばそうだとして

 全世界で復活している人がいるのは事実だしな

 実は死んでなかったとかいうほうがおかしいだろ

 

 

173:名無しの魔法少女観察者

 

 大規模災害はイオちゃんがなんとかしてくれるとして

 どこからが大規模災害なんだ?

 

 

181:名無しの魔法少女観察者

 

 この前、事故で死んだ父ちゃんが生き返ってビビったわ

 ワンチャンあるかなと思って、遺体保管していてよかったww

 

 

182:名無しの魔法少女観察者

 

 草生やすなよwwwおめでとうwwwwww

 

 

184:名無しの魔法少女観察者

 

 ゾンビじゃね?

 

 

194:名無しの魔法少女観察者

 

 腐った死体として復活

 

 

202:名無しの魔法少女観察者

 

 大規模災害の時はイオちゃんが魔法使ってくれるとして

 どこからが大規模災害になるかだよな

 大規模災害のほうがむしろオレらにとってはよくね?

 

 

210:名無しの魔法少女観察者

 

 それもまたイオ様ちゃんのご気分次第なのだ

 ああああっ。イオちゃん様の輝くおみぐしぃ

 すうはあすうはあ

 

 

224:名無しの魔法少女観察者

 

 最近またマスコミ連中が学園前にたむろってる感じ

 イオちゃんの心象を害さないほうがいいと思うんだが

 小学生はナイーブなんだぜ

 コンビニいけなくなるだろうが

 百合子ちゃんとのイチャイチャをもっと見たいんだ

 

 

238:名無しの魔法少女観察者

 

 ついでに言えば、イオちゃんのことを神さまだとか天使だとか

 考えてる連中も混ざってる模様

 

 

243:名無しの魔法少女観察者

 

 まあ指先ひとつで数万人蘇生させてるわけでな

 頭おかしくなるでほんま

 

 

252:名無しの魔法少女観察者

 

 イオちゃんが校門前まで来て、人だかり見てガッカリして

 ルーラして帰るのかわいそう

 

 

266:名無しの魔法少女観察者

 

 配信もお休みぎみだしな

 少しおとなしくしとこうって感じなのかも

 

 

281:名無しの魔法少女観察者

 

 結果として魔法普及が加速することにはなったけれど

 これも一長一短だな

 イオちゃんと同じようにザオリーマ使えるやつって出てくるのだろうか

 

 

296:名無しの魔法少女観察者

 

 地味にはじめての魔法犯罪も出ましたよ

 トベルーラ使っての盗撮な

 イオちゃんの姿を撮ろうとして、あえなく御用

 歴史に名前を残せてよかったかもしれん

 

 

309:名無しの魔法少女観察者

 

 落ちろカトンボ!

 

 

323:名無しの魔法少女観察者

 

 イオちゃんのトベルーラをかぶせられて

 地面に強制的に叩き落とされる盗撮者の動画見たんだけど

 まあそうなるよな

 

 

331:名無しの魔法少女観察者

 

 まあ死なない程度に速度調整しているからヤシャスィーン

 

 

334:名無しの魔法少女観察者

 

 イオちゃんが優しいようにお前らも優しさを持つべき

 

 

346:名無しの魔法少女観察者

 

 とは言うても家族生き返ったら普通に拝むだろ

 日本人って家族同士のつながりが薄くないっすか?

 そんなんだから無縁社会って言われるんだよ

 

 

348:名無しの魔法少女観察者

 

 おまえガイジンか?

 力抜けよ

 

 

351:名無しの魔法少女観察者

 

 イオちゃんが日本人だという事実に嫉妬している連中

 

 

352:名無しの魔法少女観察者

 

 なんだ戦争か?

 来いよベネット。イオちゃんがなんとかしてくれるぞ

 

 

362:名無しの魔法少女観察者

 

 >>352

 イオちゃんに頼んだ結果、国がひとつ消滅してもええんか?

 

 

370:名無しの魔法少女観察者

 

 なんにせよイオちゃんは神!

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 しつこい。

 

 お前たちは本当にしつこい。飽き飽きする。

 

 心底うんざりした。

 

 口を開けば親の恩人。子の恩人。兄弟の恩人と馬鹿の一つ覚え。

 

 お前たちは生き返ったのだからそれで充分だろう。

 

 身内が生き返ったから何だと言うのか。

 

 自分は幸運だったと思い元の生活を続ければ済むこと。

 

――イオちゃんは拗ねている。

 

 いやマジでちょっと生き返らせたくらいで、グダグダ言い過ぎ。

 わたしのような小娘にかかずらってる暇があるなら、日銭を稼いで静かに暮らせばよい。

 ロリコンですかあなたたちと言いたい。

 

 マスコミ連中。わたしを神さまにしたい連中。ロリコン盗撮者さん。ともかくたくさんの人が学園の前やマンション前にわんさか来ている。

 

 魔法のことを広めた直後の状況によく似ているが、あのときと異なるのは外国人もかなり混ざってることだ。もうなんでもいいから一目みたいとかそんな感じ。

 

 アイドルってレベルじゃねーぞ。

 

 そんなわけでわたしは月に来ていた。

 どうやってか。ルーラを使ってだ。

 ルーラは記憶している場所に瞬間移動する呪文。

 そして月は()()()()()んだから、月まで飛べばいいだけのこと。ただこれも結構な魔法力を喰うから、一般人じゃ厳しいかな。地球と月の距離は約38万キロだったはずだ。魔法力が足りなければフールプルーフによって不発に終わるだろう。

 

 当たり前のことだが、トラマナを使って全環境対応型なわたしは、空気が無くても呼吸できるし、呪文とかも唱えることができる。

 

 まあ今は単に独りになりたかっただけだ。

 

 誰もいない静かな世界。

 月面はやっぱりゴツゴツしてて寂しい世界だった。

 見上げると、地球はやっぱり青くて小さかった。

 

 星の喧噪も人のひしめきあう音もここまでは届かない。

 

「イオちゃん。こんなところにいたんだ」

 

 音のない世界に突然、声が響いた。

 理呼子ちゃんだった。

 いつかの砂浜の逆バージョンのように、わたしは地面に座っていて理呼子ちゃんは立っている。

 

「隣座っていい?」

 

「いいですよ」

 

 ち、近い。

 もう肩が触れ合えるんじゃないかってレベルで近い。

 ドキドキしてきた。

 このふたりきりの状況。相手は小学生だとはいえ……身体的には同性どうしとはいえ。

 わたしを好きだと言ってくれた子が隣にいるという状況は、わたしにボールがある状態。

 投げ返すのはわたしの自由。

 けれど、いつだって言葉がそこで止まる。

 魔法はポンポン使えるくせに、一言が言えない。

 つまるところ、わたしは選ばれたこともなければ選んだこともない人間であるから、モラトリアムということこそがわたしの本質である。

 そういう言葉も、言い訳なのかもしれないけれど。

 

「コンビニ行けなくなっちゃったね」

 

「ええ、そうですね……モシャスを使えばいけるとは思いますが」

 

「イオちゃんはモシャスを使いたくないんでしょ」

 

「そうですね」

 

 たぶん、自分自身をありのままで受け入れてほしいからかもしれない。

 そんな都合のいい優しい世界なんてどこにもないけどな。現実世界はなろう小説の異世界じゃないんだし。ファンタジーじゃないんですから。

 

「でも――」とわたしは続ける。「理呼子ちゃんとお買い物行くのは楽しいです。だから宗旨替えしてモシャスしてお買い物行きたいです」

 

「イオちゃん、無理してない?」

 

「いいえ」

 

「イオちゃんはかわいいな。頭撫でていい?」

 

「ん。んえっ。はいどうぞ」

 

 小学生の女の子から撫でられるという事案発生。

 もしも前世の状態だったら確実にわたしは官憲のお世話になっていただろう。

 それにしても理呼子ちゃんに撫でられると気持ちいい。

 

「にゃーん」

 

「あれれ。イオちゃんが猫さんになってるよ」

 

「にゃーん……」

 

 しばらく撫で続けられて、やがて肩を寄せ合って無言のまま地球見をしている。

 

 理呼子ちゃんとは無言でも気にならないんだよな。

 

 むしろ悪くない、甘すぎないくらいのムード。

 

 居心地のよい空気感。

 

 言い換えれば、そう換言するならばだ。ドラクエでいうところの"テンション"というものは確実に存在する。ドラクエにおいて"テンション"はⅧにおいて初出。

 

 効果は攻撃力があがったり守備力があがったり、スーパーサイヤ人みたいになったりと、いろいろすごい。

 

 つまり。つまりは……モラトリアムの壁を越えるには勢いが必要なんじゃないか。

 いまのようなテンションの余勢を借りてなら、伝えられるんじゃないか。

 わたしが理呼子ちゃんに想いを伝えるには、今を持って他はないんじゃないか。

 たいしたことじゃないんだ。

 わたしも好きだよって、ただ一言だけ。一言……。

 

「理呼子ちゃん」

 

「ん?」

 

「……」

 

 んぐ。喉の奥に何かがつかえたような感じ。

 ピッコロ大魔王が卵を産むときみたいに、言葉が胃のあたりで大きくなっている。

 

「す……」

 

「す?」

 

 だああああああああっ!

 神さま。わたしにチート能力をください!

 

「ス……」

 

 理呼子ちゃんの顔を見る。

 黒髪美少女の理呼子ちゃんは、小首を傾げてわたしの言葉を待っている。

 

 そして見た。

 

 見てしまった。

 いや、視覚的にはほんの小粒程度で、とても見えたといえるほどではない。

 オゾン層などがない月の宇宙は、満天の星空が輝いている。

 星の輝きは埋もれてしまう。

 

 だからソレが違うのだとわかったのは、魔法的な感知能力だ。

 

「彗星?」

 

 わたしの魔法力は遠大な感知能力も有しているといえる。

 

 レミラーマのように明確なソナーではないものの、なんとなくなら対象を判別することができる。つまり、一種の"気"で感知するみたいなそんな感じ。

 

 巨大な星が猛烈なスピードでこちらに近づいてきている。

 

 さすがに地球よりは小さい。月よりも小さい。

 けれど、小さな衛星程度の大きさはあるかもしれない。

 それがありえないくらいのスピードで迫ってきているのがわかる。

 宇宙は遠大であり無窮であるから、ここに到達するにはまだ時間がかかるだろうけれども。

 もちろん、あんなスピードでがっちゃんこしたら、地球終了のお知らせだ。

 

「どうしたのイオちゃん?」

 

「星が迫ってきてるんです」

 

「星って? 彗星のこと? 地球にはたくさんの彗星が何十年に一回か来るんだって」

 

「いや、あれは彗星ではなく……」

 

 そう、わたしはこんな()()()()を見たことがある。

 

 星空の彼方から隕石を落下させる超級呪文。

 

 ロトの紋章でラスボスが使っていた。

 

――りゅうせい。

 

 と呼ばれるものだった。

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