ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

89 / 102
極大消滅呪文。ついでに帰還。

 魔法とは力ある言葉の詠唱である。

 

 少なくともドラクエではほとんどの呪文は詠唱によってもたらされるわけだが、わたしの場合はいろいろとおかしなことになっている超魔法力で無理やり持続力とか貫通力やらを付け足している。

 

 

 他方で、わたし自身まったく理解していなかったし理解する必要もなかったのだが……。

 

 今回の"りゅうせい"のような魔法は、通常の魔法とは()()()()()というか、そんな概念が異なるらしい。

 

――超高密度魔法言語。

 

 それがロト紋のラスボスが使う魔法の総称だ。どれもこれも頭のおかしい威力で、一発で国を滅ぼしたり、海を沸騰させたり、大陸のかたちを変えたりできる。

 

 ちなみにわたしも使える。使う必要ないけどな。ただのメラでも大陸ひとつを蒸発させることができるので、わざわざ魔法圧をあげる必要がないからだ。もし同じことをしたければ魔法力をこめまくればいいだけのこと。たぶん、効率悪い脳筋な使い方なんだろうな、わたし……。

 

 月で"りゅうせい"を観測したあと、わたしはレミラーマを使って正確な位置関係を把握した。

 それで、たぶんいますぐ迫ってくるって話ではないだろうということで、いったんみんなに報告することにしたんだ。

 

 魔法クラブの小さな密会。そしていつものメンバーだ。

 子どもたちだけで世界の危機を話し合うなんておかしいと思われるかもしれない。

 でも、実際のところ雨が降ろうが星が降ろうがあまり危機感はなかった。

 

――だって、わたしがいるじゃん。

 

 イオちゃんの超魔法力をもってすれば、どうとでもなるしな。

 こめられている魔法力は相当なものだけど、たぶんMP換算でも数百程度だろう。

 魔法圧の関係で威力は何十倍にも膨れ上がってるのかもしれないけれど、それでもたいしたことはなさそうだ。

 

 ちなみに、ママンは国のお偉方に報告するらしい。まずはパッパかな。パッパも世界の危機のためにがんばってるとは思うんだけど、さすがに魔法のことをどうこうする力はない。もし、この魔法(りゅうせい)が人間のしわざだったら、そいつを突き止めることとかはできるだろう。

 

 そんなわけで――。

 わたしたちはいつものように緊張感なく、コンビニで蓄えた戦利品をぱくつきながら会議をしていた。コンビニのお菓子を補給できるのはいつになるんだろうな。寺田さんに買ってきてもらうしかないか。

 

「それでイオ。"りゅうせい"とはどのくらいの距離があるんだ」

 

 ルナがビスケットを片手に言った。

 口周りが汚れていてぬぐってあげたいお姉ちゃんごころ。

 

「えっと……そうですね」ポテトチップスを食べていた手を止める。「こ、これくらいです」

 

 わたしは腕をいっぱいに広げてみる。

 広げすぎてぷるぷるしてしまった。

 

「イオちゃん。かわいい選手権にでるつもりかな?」とみのりさん。

 

 生暖かい視線だ。

 距離とか言われてもわかんないじゃん。

 すげえ離れてるとしか言いようがない。宇宙はとっても広いのだ。

 

「言い方を変えよう。どれくらいの時間で地球に到達しそうなんだ?」

 

「えっとですね。あと数日はかかるんじゃないかなと思います」

 

 あくまで感覚的な話だけどな。

 

「ちなみに今回の魔法だが、人間の仕業だと思うか?」

 

「というと?」

 

「超高密度魔法言語については、太平洋上で試したりもしているが、ひとつも成功した例はないんだ。かしこさが相当低いやつを何人か集めてもできなかった」

 

「何人ってレベルじゃなくて、何百人って集めたらできるんじゃないかな?」

 

 これはユア。

 今日はスラリンを膝に抱えて、少し眠そうだ。

 

「その可能性もなくはないが……どうなんだ、イオ。何百人か集めたらできそうか?」

 

「うーん魔法力自体は数百程度みたいなんですけど、魔法圧をコントロールする技術が相当高度みたいですよ。魔法をコントロールする技術自体は習熟していけば上がると思いますが、覚えたてのみなさんがすぐに使えるとは思えませんね」

 

「だとしたら――」ルナは少し言葉を切った。「神さまが犯人の可能性もあるな」

 

 もちろん形而上の神のことではなく、わたしに魔法をくれた神さまのことだ。

 

「神さまが? そんなことしてなんの意味があるんでしょう」

 

「気まぐれで人類を滅ぼしたくなったとかどうだ」

 

「わたしに魔法を授けておいて人類を――つまりわたしを滅ぼそうとするんですか?」

 

 それは矛盾しているように思う。かしこさの足りない人が使っても大丈夫な設計――フールプルーフをなんでわざわざ設けたのかということにもつながってしまう。

 それに今のところ星の魔法では世界が滅ぶことはなさげ。

 わたしがいる限りどうとでもなりそう。

 もちろん、わたしの魔法力が急にとりあげられたりしたらその限りではないけれど、それはわたしが死ぬときだろうという気がしている。

 わたしは魔法であり、魔法はわたしだから。

 両者は密接不可分にして、死がふたつを分かつまで離れがたい。

 

「メタルールがあるのかもしれない」

 

「メタルール?」

 

「例えば、人類を滅ぼす気はないが神の試練とかな」

 

「だとすればヌルゲーですよね」

 

「まあな。イオなしで止めてみろとかだとかなり厳しそうだが」

 

 わたし以外の方法で止めるとなると、確かに大変そうではある。

 てか、映画でそんなやつあったよな。

 巨大隕石の直接降り立って爆弾で破壊するとかそんなの。

 永遠のロックバンド、エアロスミスの主題歌が響き渡る例のアレね。

 

「ちなみに、わたしありで破壊する場合はどうしたらいいんでしょうか」

 

「そもそもあれは魔法攻撃とはいえ、そこらの隕石を召喚して地表に叩きつけているのだとすれば物理攻撃のようにも思えるしな。まずはイオラあたりで小さく砕いてみたらどうだ?」

 

「あのですね。ルナちゃん」わたしはキリっとした顔で言った。「えふいこーるえむえーってご存じですか」

 

 そう、伝説の番組で披露した図式。

 ピオラで加速した棒切れは地面をえぐりとるほどのエネルギーに達する。

 つまり、スピードとは力だということ。

 

「当たり前だが……」ジトーっと見られてしまった。

 

「イオちゃん。覚えていたんだね。偉いね」とみのりさん。

 

「うん。すごいすごい」と理呼子ちゃんもほめてくれる。

 

「お姉ちゃんの海馬が働いている!」とユア。さりげにお姉ちゃんをディスってない!?

 

「わたしが言いたいのはですね」

 

「わかっている。砕いたところでスピードが早ければ威力は残存すると言いたいのだろう?」

 

「そうですそうです」

 

「ただ、質量が減ればそれだけエネルギーも減るわけだからな」

 

「漫画だと"りゅうせい"は隕石群なんですよね。今回は大きな固まりみたいなんです。たぶん、通常の挙動だと隕石が普通に分かたれて堕ちるのではないでしょうか」

 

 つまり、砕いてもそれは織り込み済みというか。

 完全勝利には至らずに地表に被害がでるかもしれない。

 もちろん、時間を巻き戻したりすれば無傷だけど、こころのキズは残るわけだからな。

 わたしは完璧に誰も傷つかないで終わらせたいんだよ。

 

「アストロンとかをかけてわたしが受け止めるとかはどうですかね?」

 

「イオちゃん危ないよ」

 

 理呼子ちゃんが即座に心配の声をあげてくれる。

 

「漫画では実際にそうやって防いでたんですよ」

 

「それはわかるけど……」

 

「アストロンをするくらいなら、トベルーラで止めたほうがまだいい」

 

 受け止めるのはいいわけね。

 

「止めたあとどうしたらいいですか?」

 

「宇宙の果てにポイ捨てしろ」

 

「どこかの誰かの星に墜落したりしませんか? 宇宙のどこかにはわたしたちと同じように知的生命体が暮らしている星があるかもしれませんよ」

 

 もしかしたら、この"りゅうせい"だって、誰かがポイ捨てしたゴミかもしれないじゃないか。

 人知れず星を破壊してましたとか嫌なんだけど。

 

「じゃあメドローアで消滅させろ」

 

――メドローア。

 

 実をいうと本編とダイ大では仕様が異なるが、本編よりも漫画のほうが初出なのでそちらのほうが有名かもしれない。ヒャド系とメラ系を無理やり合成させて対象を消滅させる効果を生み出すというすごい魔法だ。

 

 ちなみにこの魔法ならわたしも倒せたりするのかなと思ったりもするけど、そもそも発動自体させないので無理ですよ。はい。

 

「わかりました」

 

 わたしは深く納得して頷くのでした。

 

「いや、まだだ」ルナは納得していないみたいだった。

 

「なんです?」

 

「だから犯人のほうだ。メドローアで証拠物を消滅させると誰が犯人かわからないだろう」

 

「そうですね」

 

「どうやったのかはわからんが、このまま手をこまねいているのもおもしろくない。そこでだ――、マホカンタとアタカンタを複合的に使う」

 

「マホカンタとアタカンタですか?」

 

「そうだ。そうすれば魔法の使い手のほうに還っていくはずだろ。まあ一部は反射できない魔法もあるから、もしかすると反射できないのかもしれんが試してみる価値はある」

 

「それはそうですけど、地球に使い手がいたらヤバくないですか?」

 

「だから砕けといっているんだ。小さい欠片をひとつ残しておけば、地球に還ったところで被害は極小にとどまるだろ。犯人にカウンターを喰らわせられるし、欠片を追えば誰が犯人かもわかる」

 

 アメリカ人ってやっぱり脳筋よな。

 ルナも九歳になったけど、そこんところは変わらない。

 

「じゃあ、まずはイオラあたりで少し砕いてから、大きなカタマリはメドローアで消滅。そののちマホカンタとアタカンタで反射させてみて犯人を突きとめるという流れですね」

 

「ああ、そんな感じだ。忘れないようにメモしていけよ」

 

 そのくらいは覚えられる。

 これでも学園では上位の点数はとってるんだ。

 ちょっと凡ミスが多いけれど。

 

「忘れないように私が書いてあげるね」

 

 理呼子ちゃんの笑顔がまぶしい。

 そんなわけで作戦行動は決まった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 短距離ルーラ(宇宙レベル)を使って、わたしは冥王星のあたりまで来ていた。

 目で見える場所なら月でもなんでも記憶された場所になるから、ルーラは非常に便利だ。

 本来、冥王星と地球は48億キロほど離れていて、ここまで到達するのに既存の技術では約10年ほどかかるらしい。

 今回の"りゅうせい"は太陽系の外から来ていて、三日足らずで地球に到達するというのだから、いかにスピードが速いのかがわかるというものだ。

 

 だいたい1秒間に18000キロメートル進んでるらしいです。

 まあ、三日というのはわたしの感覚だから本当は違うのかもしれないけどね。

 ちなみに光速だと1秒間に30万キロメートル進むので、まだまだよねって感じ。

 

「それにしても寂しい世界です」

 

 宇宙は星の宝石箱ではあるけれど、地球の喧噪に比べたら静かすぎる。

 巨大な秩序系の中に自分というちっぽけな存在が浮いているかのようで怖くなってくる。

 そして正直なところわりと昏い。

 深海ほどではないにしろ、ひとりぼっちは寂しい。

 早く仕事を終わらせて帰ろう。

 

「レミラーマ」

 

 おなじみの探索魔法を使い隕石を補足する。

 まだ太陽系外だが、そろそろ太陽系内に侵入してきそうだ。

 それにしても、"りゅうせい"はこんなに迂遠な魔法なのか。

 三日も……あるいは三日以上かけて対象にぶち当てるなんて、攻撃としてはほとんど意味がない。

 漫画ではもっと早く――、唱えたらほとんど瞬間的に降り注いでいた。

 人間が唱えたはいいものの、手ごろな隕石が無かったから呼び寄せるのに時間がかかったということも考えられるけど、そんなことってあるのかな。

 

 やっぱり、神さまの仕業だったりするんだろうか。

 

「トベルーラ、ピオラ」

 

 空気抵抗のない宇宙空間ではスイスイと加速することができる。

 魔法力で加速度をあげていけば、隕石よりもちょい早い程度のスピードは簡単に到達できる。

 見えてきた――。

 と思ったら、一瞬で通過。

 振り返って、トベルーラで追いつく。

 徐々にスピードを合わせていき、並走する形になる。

 隕石は巨大だった。少なくともイオちゃんズランドよりもずっと大きい。全部を視界に入れる距離を保ちつつ、わたしはしばし考える。

 

「えっと、まずは……どうするんでしたっけ」

 

 そう、わたしはメモを理呼子ちゃんに書いてもらったんだった。

 

 なぜかママンには水筒とリュックサックと非常食を持たせられたけれど、遠足じゃないからそんなのは不要だ。でもママンの愛を断ることができるはずもなく、いまのわたしはウーバーイーツみたいなリュック装備である。宇宙のあれやこれやらに耐えられるようにトラマナで覆ってますよ。宇宙服より耐性ついちゃって大丈夫なんですかねこれ。まあいいか。

 

 理呼子ちゃんのメモを見ると、イラスト入りでわかりやすい。ピンク色の背景にわたしが二次元的にデフォルメされて描かれてある。

 

「その1、イオちゃんのイオで隕石を小さく削ります。ふむふむ……初級爆発呪文(イオ)!」

 

 隕石の表面に穴が穿たれた。

 小さな欠片が表面に浮いたが、勢いは衰えることなく続いている。

 魔法的な力でやはり行き先は補正されているらしい。

 

「その2、小さな欠片の大きさを測ります。拳大が残っていればいいでしょう」

 

 わたしは隕石に静かに降り立った。

 隕石の上空をふわふわと欠片が浮いているようだが、これは新幹線や飛行機に乗ってるときのように、実はものすごいスピードで動いているのだ。

 ピョンって飛んでも、ものすごいスピードで後ろのほうに身体がいったりはしない。

 それと同じだ。

 

 うん。拳大ですね。

 

「その3、隕石をメドローアを使って消滅させましょう。隕石の欠片をいっしょに消滅させないように気をつけようね。はい、わかりました」

 

 イオちゃんは素直な良い子なので、理呼子ちゃんの言葉にもきちんと従えるのである。

 ちなみに、イラストはニコニコ顔のわたしが弓矢を放っている。

 

 そうメドローアの「ローア」の部分は、アローに由来する。

 左手にヒャド系、右手にメラ系の呪文を宿し、両者を均衡合体させる。

 そしてそれを引っ張って弓を放つような姿勢になる。

 

 これが――。

 

極大消滅呪文(メドローア)!」

 

 炎と氷の矛盾した属性を混成させた光は、隕石にぶち当たった瞬間に存在自体をごっそりと削り取っていた。ドリルか何かで削り取ったような、穴が穿たれた感じだ。

 

 しかも、その削り取ったカスがまったく生じていない。完全に無へと消えた感じ。

 

 質量保存の法則からすると、有が無になるのって変な感じもするけど、よくわがんにゃい。

 ともかく消えたってことぐらいしか。

 ただ、最初はビビりつつ唱えたんで、穴が開いただけにとどまってしまった。

 

「もういっちょ。極大消滅呪文(メドローア)!」

 

 今度は魔法力をより強くこめて唱える。

 同じように、二回か三回も同じことをやれば隕石は跡形もなくなってしまった。

 ふよふよと浮いている欠片以外は夜の闇のような空間が広がるばかりだ。

 

「その4、マホカンタとアタカンタで隕石を跳ね返しましょう。詳細は次ページに」

 

 止まってなければ――、つまり並走していれば少なくとも物理的な法則での衝撃はないらしいが、魔法力を内包している以上、どんなことが起こるかはわからない。

 

 もちろん、わたし自身がスカラやマホステとかいろいろ詰みまくってる存在ではあるけれども。

 

 理呼子ちゃんは過保護だ。

 

 わたしを想ってくれてると考えれば素直にうれしい。

 

 それで、次のページに書かれてあったことには少し驚いた。

 

 マホカンタとアタカンタを()()()()()と書かれてあったんだ。

 

 つまり、通常マホカンタは身体を中心に球形のバリアを張る呪文である。

 地面に立っているときは半ドーム状に。

 しかし、理呼子ちゃんの発想としては、マホカンタやアタカンタをメラみたいに投げつけるというか、身体の外を中心点として発生させてはどうかと描かれてあった。

 

 イラストでは球形のマホカンタそしてその外側にアタカンタを配したものを、ドッジボールするように投げつけてる姿が描かれている。

 

「すごいな。理呼子ちゃん」

 

 わたしより使い方がうまいかもしれないな。

 

 そんなわけでわたしは、マホカンタ&アタカンタボールを投げて、隕石の欠片の少し前方に配置した。

 

 ピン――。

 

 一瞬。まさに一瞬のうちに欠片は見えなくなる。

 

 あっという間に太陽系の外側に逆戻りしたようだ。暗闇の中であんな小さな欠片を視認することはできない。でも、レミラーマを使えばだいたいの方向性はわかる。

 

「うーん。けれど――、これって」

 

 どう考えても地球の方向じゃないよな。

 しばし考える。犯人はわからずじまいだけど、とりあえずどうしたものか。

 あの欠片にこもっている魔法の感覚はなんとなく理解した。

 だから、レミラーマで追えると思う。

 でも使い手の元に還るまで、かなりの時間がかかるんじゃないか?

 

「ん、最後のページがありました」

 

――その5、ちゃんと帰ってきてね。イオちゃん。

 

 とりあえず、わたしは魔法の欠片を放置して、ルーラを使って即座に帰還したのでした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。