ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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孤独なイオ。ついでに異世界にて女神様になる。

 血の気が引くというのはこのことをいうのだろう。

 胃の裏側から一気に力が抜けていくような。

 手の平と足先から冷たさが突き抜けてくるような。

 自分が透明人間になっていくような。

 そんな孤独感。

 

「帰れなくなっちゃいました……」

 

 もし方向さえわかればオメガルーラで還れるのかもしれないけれど、なんら指標のない宇宙空間で、どっちが地球の方向なのかはわからない。

 

 オメガルーラはバシルーラの系統。

 その究極形態であって、要するに地点登録のような機能がないんだ。

 

「やだぁ。やだぁ。ママぁ! みんなぁ! ルーラ! ルーラ! ルーラ!」

 

 720兆の魔法力、ほとんど全部をつぎこんでもやはり発動せず。

 息ができないほど疲れる。

 

「っか……はぁはぁ……これが魔法力の枯渇」

 

 存在がかき消えそう。

 もし、いま攻撃されたら積んでいる守備魔法くらいしか効かない。

 わたしと同程度の存在に攻撃されたら危ないかもしれない。

 残された理性で、そんなことを思う。

 

「ギガマホトラ……」

 

 近くの星々から魔法力を吸い取り、とりあえず満タン近くまで回復。

 でも、こころの中の孤独感は回復しない。

 

 ひとりぼっちは寂しい。

 ママンもみんなも誰だって、最期にはひとりきりになるのはわかっている。

 でも今じゃないと思っていた。

 それどころか、魔法を使えばできる限り"別れ"を引き伸ばせるんじゃないかって思ってたんだ。

 

「神さま。助けてください。神さま!」

 

 わたしは果てしない暗闇の中に声を投げかけてみた。

 わたしを転生させてくれた神さまなら、もしかしたらわたしのことをどこかで観察してるかもしれないと思ったからだ。

 

 けれど声はなし。

 

 ちっぽけなわたしが助けを呼んでも、誰も答えてくれる人はいない。

 

「やだよぉ……」

 

 そのとき、ふと星の青さが目に入った。

 わたしはいま傷ついている。もしかしたら帰還できないんじゃないかって。

 それはもう、"死"といっしょだ。

 親しい人と声をかわせなくなること――コミュニケーションの途絶こそ死というのだから。

 

 死人に等しいわたしは、残された()()()にすがる。

 つまるところ、地球によく似た星にフラフラと近づいていく。

 人が本当に孤独を感じたとき、自然はただそこにあって癒してくれる。

 母星という言葉の意味を、わたしは悟る。

 涙が溢れてとまらない。脆くなったこころを包みこんでくれるみたいだから。

 

「レミラーマ……生命反応があるみたいです……」

 

 人間がいるのかな、この星。

 グレイみたいな宇宙人かもしれない。

 でも、なんでもいい。

 誰かに逢いたい。誰かに逢って声を聴きたい。

 胸をかきむしりたくなるほど人恋しかった。

 

――翻訳魔法(セナハ)

 

 わたしは星全土に翻訳魔法をかける。

 これで言語体系が異なっても会話ができるはずだ。

 逆バベルの塔になる全世界セナハは地球だと怒られちゃうところだけど、それは地球が文化的に高度だからだ。仮に文化レベルが低ければ文化情報が瞬時に混ぜあったりしないから特段の問題は起こらないだろう。

 

 それにいまは――。

 正直、わたし、どうでもいい。

 やけっぱちというか無敵の人というか。小学生らしい緊急避難行為と思ってください。

 誰かわたしを叱ってください。

 わたし、ごめんなさいって謝りますから。

 それで赦してください。

 わたし、かしこさが足りない小学生ですから。

 

「すんすん……いきます」

 

 そして、そのままガンダムみたいに大気圏へと突入した。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 城塞都市レムリアン。レムリア王国の首都である。

 人々の多くは城塞の中で生まれ、暮らし、そして一生を終えていく。

 

 仰ぎ見るほどの壁の高さは視界にすべてを入れることは叶わず、王国民にとっての誇りでもあった。城塞内に市場や住宅区なども完備しており、巨大な人間の巣といった様相だ。

 

 いま、レムリアンは戦雲に覆われていた。いや絶望というべきか。

 

 城塞の門はことごとく閉じられており、いつもの活気はない。

 みな、息をひそめていた。守備兵の数は少なく、緊張で顔がこわばっている。

 なかには緊張の度合いが振り切れて、逆にだらしなく筋肉が弛緩しているものもいた。

 

 歯がカチカチと鳴っている者。

 ロウのように肌が蒼白となっている者。

 力なく壁の背を預けている者もいる。

 誰しもが絶望している。

 

 それもそのはず――、

 

 地平には、異形の者たちが地を覆いつくさんばかりに迫っていた。静かに猛攻している。

 人口32000程度のレムリアンにおいて、戦闘ができる正規兵は500名にも満たない。

 非戦闘員をかりだしたとして、2000名程度。

 せいぜい熱湯をかけたり弓矢を射かけたりするくらいしかできないが、抵抗しなければ絶死するほかない以上、悲壮感を漂わせながらも戦闘の準備をしている。

 

 趨勢は既に決まっていた。

 王は既に出撃し、紙切れのごとく蹂躙された。

 

 人間には異形の者たちに抗う術はない。単純な膂力でもそうだが、物理法則を無視した不可思議な力を使うのだ。何もないところに突如爆発が起こったり、手のひらから炎を出したりする。あるいは、鉄のように硬い皮膚をやっとの思いで切り裂いたかと思えば、みるみるうちに回復してしまう。

 

――神は我らを見放したか。

 

 生き残った兵士が這う這うのていで城塞の中に報告に戻り、そして今に至る。

 残された最後の希望は援軍の到着であろうが、しかし異形の者たちに抵抗する方法がない以上、もはや望みなどあってないようなものだった。

 

 望みを捨てない者もいる。

 

 青い姫。クリスタルライトの髪を肩口まで伸ばし、同じく青の瞳の少女だ。

 彼女は常ならば快活な、猫のようなしなやかさを持つ少女であるが、今は父親を殺された怨みからか、燃えるような峻烈さを内面に秘め、指示を飛ばしている。

 

「姫様。やつらがここに来るまで今しばらくかかりますぞ。お体をお休めください」

 

 60を越えた老骨が姫に声をかけた。

 多少の衰えは見えるものの、昔は鬼神と呼ばれたこともある男だ。

 

「ケイブン。あなたのほうこそ、膝に矢を受けて戦働きはできないのではなかった?」

 

「なんのこの老いぼれ。久々の戦の前に胸が高鳴っておりますわい」

 

「そう。ならいいのだけど――それと、私のことは姫ではなく名前で呼びなさい。私はもう……姫ではないのだから」

 

 王が討ち死にし、母親は早世している。

 必然的に血縁が後を継ぐことになるので、姫はもはや姫ではなかった。

 ケイブンは一瞬、顔をしかめる。

 少女といってもいい年頃の子。

 ましてや赤子のころから教育係として付き従ってきたケイブンにとって、姫は孫のような存在である。その過酷すぎる運命を思えば、思慮が落ち着かない。若さのしたたるような年齢の子があっけなく命を散らすのは、自らが死ぬよりもなお辛いものだ。

 ケイブンは歯をくいしばった。

 

「かしこまりました。ユユル様」

 

「やっぱりなんかおちつかないわね」

 

「ならいましばらく姫様と」

 

「ええ……そうしてちょうだい」

 

 異形の者たちが現れ始めたのはいったいいつのころだったか。

 最初はちらほらとブヨブヨとした青い塊のようなものが現れた。

 外に野草をとりにいった農夫がそいつを見つけて、石つぶてを投げつけただけで死んだ。

 兵士たちが槍を使えば、あっさりと屠ることができた。

 だから、笑った。

 次に現れたのは巨大な蝙蝠に不気味な顔が張りついたような奴があらわれた。

 そいつもたいしたことはなかった。弓で射ればあっさりと倒せたからだ。

 そして――そんな調子で、じわりじわりと強敵が現れ始める。試されているようにじわじわと。

 城塞の外に出るには覚悟が必要になってくる。そして徐々に物流が滞りはじめた。

 王は異形種を打ち滅ぼすために何度となく出征したが、どこからともなく現れる異形の者たちを相手どるのは終わりのない戦いだった。

 

 そして最後は物量に負けた。

 なにげない異形の集団と思ってみれば、統率のとれた軍団だったのである。

 

「あいつら何かに……いや誰かに統率されているのかしら」

 

「かもしれませぬ」

 

「だとすれば、そいつを倒せば戦に勝てる?」

 

「どうでしょうな……仮に指揮官とやらがいるのであれば可能性はあるかもしれませぬが、戦いには勢いというものがございます」

 

「指揮官を倒しても勢いは止まらない?」

 

「人間であれば恐怖という感情がありますから、敗戦で死にたくないというのが自然な感情でございます。ですが、奴らにそういった感情があるのか……」

 

 ケイブンの中では、異形種とは強いて言えば狼に近い。

 弱者を容赦なく襲い、骨まで噛みちぎる。血に興奮すれば止まることはないだろう。

 もちろん、生命である以上、己のいのちが燃え尽きるのは避けたいはずだ。よほど巨大な力で薙ぎ払われれば、奴らも止まるかもしれない。だが、人間は弱い。奴らを止める術はない。

 

「そう」

 

 つまり、それは異形の軍団を壊滅させるまで止まらないということであり、ユユルたちが生き残る可能性は限りなく低いということであった。

 

 誰もがもの憂い顔つきをしている。

 やがて、ケイブンが言った。

 

「せめて姫様だけでもお逃げくだされ」

 

「あらどうやって?」

 

 ユユルはうっすらとほほ笑んでいる。まるでおもしろい冗談を言われたかのように。

 

「王族のみが知る秘密の通路などがあるのでは?」

 

「あったとしても、王国民を捨てた王族なんかに価値はないわよ」

 

「姫様さえ生き残れば再興の可能性はありますでしょう」

 

「あいつらがいる限り――王国どころか人間はことごとく滅びるわよ」

 

「勝てぬ戦を見極めるのも大事ですぞ」

 

「ケイブン。私は脅えながら暮らしていくよりは笑って死んでいきたいの。お父さまだってそうだったのでしょう」

 

「姫様は自棄になっておられる」

 

「かもしれないわね」

 

 しかし、人類が大敗し滅びの間際にいる状況で、自棄を起こさない人がどれほどいようか。

 実際にどこに逃げても、仮に生き延びたとしても人類は脅えて暮らしていくことになるだろう。

 衰弱し、やがて死んでいくよりは、いっそ華々しく散りたいという気持ちはケイブンにもわからなくもなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 地が唸っているようだった。

 異形種たちが大地を踏みしめる音が地鳴りのように聞こえてくるのだ。

 

「う……あ……あ……みんな死んじまう」

 

 戦場に駆り出されたばかりの新兵が涙を浮かべながら嗚咽をもらしていた。

 

 ユユルは目の前に迫った異形を睨みつけた。

 

 豆粒ほどの大きさだった異形の者たちが、いまは惜しげもなく怪なる姿をさらしている。

 

 身長の何倍もの巨大さを持つカニの化け物。あいつを殺すだけで何人もの人間が胴体を泣き別れになったのを人伝てに聞いている。

 

 青いぶよぶよしたカタマリも一匹一匹は弱いが、折り重なるように潰され窒息死させられた者もいるという。

 

 あるいは――熱線で頭を撃ちぬかれ一息でむなしくなった者もいる。

 

「死ぬ。むごたらしく殺されて死ぬ。絶対に死ぬぅぅ」

 

 ユユルの隣にいた新兵は精神に変調をきたした。ひとりではない。

 鉄でできた鎧が震えのせいでガチガチと鳴っている。

 

「落ち着きなさい」

 

 ユユルは走りまわり、声をあげつづけ、少しでも鼓舞しようとした。

 最後まであきらめるつもりはなかった。

 しかし、これでは戦いにすらならないだろう。

 勝機は一片もなく、ただ蹂躙と破壊だけが待っている。

 

「油を落せ!」

 

 熱した油を眼下へと投下する。

 油をもろに浴びた青いブヨブヨはそれだけで一瞬で蒸発したが、何匹死のうがものともせず死体を階段にして、どんどん壁をせりのぼってくる。

 

 火を射かけた。

 油に燃え移りあたり一面が火の海になる。

 

 だが――、

 

「ヒャド」

 

 緑色のふわふわした奴がなにやら唱えると、氷のカタマリがあっという間に鎮火してしまった。

 

 通常の矢を射ってみても――、

 

「スクルト!」

 

 比較的柔らかそうなやつでさえ、弓矢をはじくようになる。

 

「ギラ! ギラ!」

 

 そして、繰り出された炎が分厚い門を押し叩く。

 破壊されるまで幾分もかからないだろう。

 門を破壊されれば、もはや人類に抵抗すべき手段はない。

 中にいる人間は一人残らず食い散らかされ、誰一人助かることはない。

 

 ユユルは額に汗ではりついた髪を厭わず、腕がちぎれるくらい何本も矢を放っている。

 上空には何匹もの異形の者がおり、炎を吐いたりしてわざわざ近づいてくる様子もない。

 そのうちの一匹がユユルに向けて炎を放った。

 

「しまっ――」

 

 死の予感。

 一瞬で視界が赤く染まる。

 なにひとつ守れず。反抗することすら許されず。

 ただ、むなしくなる。

 グッと歯をかみしめた。

 

 だが――、いくら待っても衝撃が来なかった。

 

 ()()()()()()()

 

「え……?」

 

 ありえない光景に、ユユルは目を見開く。

 

 見ると大気が割れ、雲間から一条の光が差し込んでいる。

 そこから、絶世といってもいい美しい少女が、ふわりふわりと降下してきている。

 見たこともないような簡素な服であるが、それが逆に少女の肢体を美しく見せていた。

 肌理は細かく、白く輝くようであるし、精巧な陶器のように美しい。

 輝く銀の髪。震えるまつげが花弁のようにゆっくりと開き、そこから宝石のような涙が流れた。

 幼気であるがそこにいる人間は誰もが思った。

 美しい、と。

 

「女神様?」「なんと神々しい」「泣いてらっしゃるぞ」「我らの奮闘に涙してらっしゃるのか」「戦い自体を厭われていらっしゃるのかもしれない」「おう……神よ」

 

 小さく、あどけない姿であったが、おそろしく神聖な存在に感じた。

 泣きはらしている姿が痛々しい。誰もが戦いを忘れて惚けたように見ている。

 

「すんすん……なんで戦ってるんですか?」

 

「神よ。ご照覧いただいていたのですか?」ユユルは言った。

 

「ごしょうらん?」

 

「見ていただいていたのですか?」

 

 さりげに言い直すユユル。

 年相応に幼いのだろう。ただ、炎を掻き消すという超絶の力を持つ存在だ。

 直観的に人類の行く末を決めるであろうことを察したユユルはともかく神のごとき存在の助力を請いたかったのである。

 

「見てましたら、なんか戦ってました」

 

 スンスン泣きはらし続ける少女神。

 ゆっくりと降下しつづける間、異形の者たちもうろたえているのか手を出してこない。

 

「神よ。我らに力をお貸しいただけないでしょうか」

 

「わたし、神さまじゃないですよ」

 

「そんな……」

 

「時折は、小学生は神! とか、美少女は神さまだよねとか言われたりもしますけど」

 

「やはり神なのですね! 小学生というものはよくわかりませんが」

 

「でも、モンスターを倒すのもちょっと気が引けます」

 

「ご助力いただけましたら、私の命を捧げます。一生仕えろというのでしたらそうしましょう。私ができることでしたらなんでもいたしますから」

 

「姫様!」ケイブンが焦ったように声を出す。

 

 超常の存在はイケニエを求めることもあるという。

 戦いに胸を痛める少女神がイケニエを求めるとは思えないが、神の意図など測りようもないのである。

 

「下がれケイブン!」

 

 ユユルは覚悟を込めてケイブンを睨みつける。

 それから、女神に振り向いた。

 少女神は小首を傾げたようだ。泣きはらした瞳のまま少しだけ照れているような。

 

「えーっと……なんでもですか?」

 

「はい!」

 

「じゃあ、抱き着いてもいいですか?」

 

「え?」

 

「それでギュってしてもらっていいですか?」

 

 神がご所望なのは、なんと抱っこであった。

 やはり精神的にも幼いのだろうか。

 まるで母親を見失った迷い子のようだ。

 

「ええー……、わかりました。それがお望みでしたら」

 

 ふわーっとしたまま近づいてくる少女神。

 抱きしめた瞬間に魂ごと燃え尽きるのかもしれない。

 だとしても――、もはや残された道はない。

 イケニエだとしても、それでもかまわない。

 ユユルは腕を広げて受け入れる。

 ひな鳥がとびこんでくるような感覚。

 間際まできた少女神は小柄で華奢な矮躯であり、腕の中にすっぽり収まるほどだ。

 

「ぎゅー」

 

 意外なことに、女神を抱え込んでも何事もなかった。

 少女は抱き着くとほのかに暖かく、ちゃんとした質量をもった存在に思える。

 つまり、人の子と変わらない。

 

――かわいい。

 

 と、ユユルは思った。

 妹がいたらもしかしたらこんな感じかもしれない。

 

 無粋なやつがいた。

 いよいよ、謎空間に突っ込みを入れんとした異形種が炎を吐きつけてきたのである。

 が、なぜか炎に包まれてもまったく熱くなかった。

 

「おっぱいを邪魔しないでください。ザキ」

 

 ただ少女神がなにやら呟いただけで、細長いウナギに鱗がついたような生物は一瞬にして身体を硬直させ、ぽとりと地面に落ちる。もっとも、かなりの質量体なので、本当のところはズシーンと地面を揺らすほどの音だったが。

 

 ともかく、少女神は――恐ろしい力を秘めているのだった。

 けれど、胸のあたりに顔をうずめ、それからはにかむようにほほえむさまは、ただひたすらに庇護欲をくすぐる存在だ。

 

 内包する力と外面が異なりすぎることに戸惑いを覚えながらも、ユユルは王族としての使命を全うするために口を開く。

 

「女神様」

 

「イオです」

 

「あ、はい。イオ様……お力をお貸し願えるのですね」

 

「ん。はい。できればモンスターも倒したくはないんですが、おっぱい――ではなく――お姉さんの依頼なら承りますよ。まずはお名前を教えてほしいです」

 

「私の名前はユユルと申します」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 スンスン。泣き虫イオちゃんはこころに寒さを感じながら降下していました。

 それから地表まであと少しというところまで来たら、なにやら騒がしいじゃないですか。

 というか、ドラクエのモンスターがわんさかいる。

 スライムに、ドラキー、あばれざるに、メイジももんじゃ。スカイドラゴンにホークマン。

 モンスター部屋につっこんだときよりひでえ状況だ。

 どうやら人間が住んでいる都市に攻撃を加えている模様。

 さりげに異世界の都市といってもよかったし、人類初の別の星の人間を発見しちゃったわけだけど、なろう小説で慣れているわたしは、さほどの感動も覚えなかった。

 

 いや、帰れなくなって寂しさでいっぱいのわたしは、そんなことを感じる余裕もないといったほうが正しいかもしれない。

 

「レムオル」

 

 とりあえず透明になって、もう少し近づいてみる。

 それでしばらく様子を窺っていたんだけど……。

 どうやら人間たちのほうがかなり劣勢のようだ。わたしはモンスター差別主義者ではないが、見た目人間のほうをやっぱり偏愛している。なんの理由もないのにモンスターを殺すのは反対だが、人間がやられているところを見ておもしろいわけがない。だって、わたしも人間だし。

 

 まあ――人間の定義っていう問題はあるけどな。そのあたりはあまり深くは考えません。

 

 もう少し近くに寄ってみると、青い髪の女の子がいわゆる姫騎士みたいな服装で必死に指示を飛ばしていた。

 

 周りがみんな男の人ばっかりの中で紅一点。戦いの場にいる女の子ってファンタジー的には珍しくないのだろうけど、現実的にはけっこう厳しいよな。

 

 それで、どうやら人間たちはずいぶん現実的な――というか、魔法を使えないようだった。

 

 片や人間の何倍もの大きさをもったモンスター、しかも魔法を使えるやつもいる。そして片や脆弱な人間だ。いくら智慧と勇気があろうが、戦いにすらなっていない。

 

 わたしは青い髪の女の子をいつのまにか心の中で応援していた。

 失われたママンの要素をなんでもいいから補給したかったからだ。

 女の子要素がこの場には、その子しかなかったから。

 

 でも見守るにとどめた。

 魔法を使って介入するのはいいけど――、ここにはイオちゃんの行為を止めてくれる人は誰もいない。どこまでやっても野放図に許されてしまいそうで、それは逆にどこか怖かった。

 

 やがて、スカイドラゴンが炎を吐き女の子を焼き殺そうとする。

 

上級氷結呪文(マヒャド)!」

 

 迷ってる暇なんかなかった。

 いまだにこころに大ダメージを負ったイオちゃんは、うしなわれたおっぱいを求めて戦いに介入することを決めたのである。

 

「神よ。ご照覧いただいていたのですか?」

 

 女の子がなんか言っていた。

 

「ごしょうらん?」

 

 難しい言葉はようわからん。武人系言語を使う子なのかもしれない。

 防人語を話すキャラだっているし、まあおかしくないけどな。

 

「見ていただいていたのですか?」

 

 ああ、そういう意味ね。知ってる知ってる。

 

 そのあと、わたしを神さま扱いするんで最初は否定しておいたけど、まあそのあたりはおいおいでいいかと思ったりもした。だいたいわたしの持ってる力から言えば、神扱いされてもしかたないところだし、現代社会ですらそうだったんだから、たぶん、それより数段科学力が劣るこの世界では、何を言おうがどうせ神さま扱いされる。

 

 小学生は神とか、美少女を神扱いする人は日本で多いから、それからいったらわたしは神さまで間違いないしな。

 

 メンドウくさいんで、そのままでいいや。

 

 そしたら、伝説の言葉「なんでもしますから」が飛び出した。

 うら若き乙女が言うべき言葉じゃないと思うけど、いまのわたしは例によって愛情に餓えた孤独なシルエットです。つまりは補給しなければならなかったのです。

 

――おっぱいを要求する。

 

 まさかそんなふうには言えないので、とりあえず抱っこを要求してみました。

 通ったよ! 要求。やったぜ! 抱っこ。

 胸にはプレートがあって硬かったけど、ルカニでこっそり柔らか成分にしてやった。

 そして堪能するおっぱいさん。ん~~~、小ぶりであるがすばらしい弾力。

 若さがあって大変よろしい。みのりさんには圧倒的に負けるがおっぱいに貴賤なし。

 わたしはそう思いますね。

 

 青い髪の女の子はユユルって言うらしい。

 ものすごくかわいらしい子だから、もしかしてって思ったけどお姫様だよ。

 ついにわたしにもお姫様のお友達ができました。

 やったよ、みんな。

 

「それでは、モンスターたちを追い返したらいいですかね。倒すこともできますけど、あまり殺したくはありませんし……」

 

「イオ様の御心のままに」

 

 膝をつき頭を垂れるユユル。

 なんか微妙な気持ちになってくるけど、人類の存亡がかかっている一戦なんだ。

 さもありなんって感じか。

 

「マホカトール」

 

 とりあえず破邪呪文をかけてモンスターを城内に入れないようにしてっと。

 案の定、邪悪な意思を伴っているモンスターたちは城内に入れないようだった。

 魔王のオーラとか何かに感化されているのだろうか。

 それとも、生来的にそうなのだろうか。

 いずれにしろ、マホカトールで大陸とかを覆ったらハッキリするのかもしれんけど、ここまで追い詰められたら、今度は人間側がモンスターを排斥しようとするだろうな。悩ましい。

 

 こびりついた頑固な汚れを落すように、城壁に張り付いているやつらはとりあえずジュバっとニフラムで浄化した。光の彼方に消し去る呪文だが、たぶんどこか別の場所で生きているだろう。

 

 どこかに指揮官とかいるのかな。

 だいたいこういう時は、背後に控えていたりするもんだけどさ。

 あるいは猛将だったら、真正面に陣取って先駆けとかするんだろうけど、今回は城壁にいたやつは正直雑魚ランクのモンスターばかり。

 だから、一番奥に引っ込んでるかなと思ってたら……いましたよ。明らかにボス的なやつ。

 

――アンクルホーン。

 

 羊のような下半身と、真っ赤な色をした筋肉モリモリのおっさんの上半身が合体した、半人半獣の魔物だ。

 

 そいつは、オーク四人に籠のようなものをかつがせて、そのうえでふんぞり返っていた。

 

「こんにちわぁ」

 

「うお! おまえは誰だ!」

 

「わたしはイオです。あなたはアンクルホーンさんですよね? 誰の命令できましたか?」

 

「殺せ!」

 

 幾人かの魔物が魔法を放ってくる。

 マホカンタで反射。ついでに魔法力で増大させてみたらどうなるだろう。ジュバ。

 あ、メラがメラミ級になって蒸発しちゃいましたよ。

 正当防衛だよな。

 

「そういえば、自白の呪文があるんでした。誰の命令で来たんです? セナハ」

 

「ぐ。ドゥアト様の命令だ」

 

「ドゥアト?」

 

 それが魔王の名前かな。

 ドラクエシリーズにそんなやつはいないので、聞いたこともない。

 ちなみにたぶんだけど、"りゅうせい"を放ったやつがそうなら、居場所は知ってる。

 

「あのー、人間を襲うのやめてもらえませんか?」

 

「何を言ってる。脆弱な人間どもなど、我らの糧になるべき存在でしかない!」

 

 アンクルホーンは、籠から跳躍し地面に降り立った。

 そのまま、近場にいたオークをつかむ。じたばたともがくオーク。

 なにやってんだって思ってると、そのままこっちにオークを投げつけてきた!

 

 仲間を投擲するのかよ。

 

 アタカンタとスカラの順番を交換。ピオラによるスピード追加。

 物理反射呪文によって、オークは即座に音速に近いスピードで跳ね返っていく。

 

 グシャ。何十匹かを巻き込んで、地面をえぐりとるような感じで飛翔していって。

 

――お肉。

 

 焼く前のハンバーグみたいな感じだ。

 うわぁ……。やってみたけど、やっちゃいけない系だった。

 ゴアシーンは小学生が見ちゃいけない。

 

「ザオリ―マしとこっ」

 

 肉片になったアンクルホーンその他のモンスターが動画の巻き戻しみたいに戻っていくのもわりとグロい。復活したアンクルホーンは明らかに脅えていた。

 こんなかわいい女の子を前に脅えるとか、やっぱりモンスターは感覚がアレだな?

 わたしはもう一度にこやかな笑顔のまま口を開く。

 

「あの、できましたら、モンスターの皆さんを連れ帰ってほしいんですが」

 

 終わりっ! 閉廷!……以上! みんな解散!

 世界はラブ&ピースだと思うんですよね。

 

「ひっ。げ、幻術か?」

 

「まぎれもない現実ですけど」

 

 だいぶんファンタジーしてるけどな。

 

「ば、馬鹿な。何をした?」

 

「何って、物理反射呪文ですよ。それにいくつかの魔法を混ぜ合わせました」

 

「そんな魔法聞いたことすらない……」

 

「まあどうしても嫌だというのなら、消し去るだけですけど」

 

 ニフラムでどこかに消し去るだけ。痛みはないし、たぶんどこかで生きてる。

 そういう意味で言ったんだけど、アンクルホーンは赤くなったり青くなったりして、大急ぎで逃げていった。指揮官を失ったモンスター達は潰走するやつが半分。もう残り半分はわたしがニフラムで消した。何匹かは兵士たちが倒してたけどな。

 

 まあ……いいか。

 

 ついでに、なんか知らんけど騎士的なおっさんたちもさっきのザオリーマで生き返ってた。

 

「私は死んだはずでは……」

 

 髭面の偉丈夫がきょろきょろ辺りを見渡す。

 わたしとも視線が合うが、戸惑ってるみたいだ。

 

「お父さまァっ!」

 

 向こう側からユユルがダッシュで駆け寄ってきている。

 

 え、王様なん?

 

「イオ様。お父さまを生き返らせてくださるなんて、ありがとうございます」

 

「死んだ人間を生き返らせるとは……」「奇跡だ」「神よ。おお。神よ」「イオ様ぁぁぁん」「麗しき女神よ」「ああ、光あれ。この世界は救われたのだ」「イオ様ばんざーい」

 

 そして、ひざまづかれるわたしなのだった。




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