ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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凱旋。ついでにプリン。

 レムリア王とその騎士たちは意気揚々と凱旋する。

 

 馬に乗り白銀のプレートメイルに身を包む騎士たちの顔は一様に明るい。

 

 絶望の淵どころか死の淵よりよみがえったのだ。

 しかも、傍らには少女の形をした神が座している。

 人の長い歴史の中で神が実際に介入した例はごく少ない。

 神話の時代に気まぐれにいくつかの奇跡を起こしたのみ。

 

――神は、偏愛しない。

 

 たとえ異形の者であっても。

 あるいは、信仰の多寡で人の取り扱いが変わったりはしないというのが通説だったのだ。

 しかしながら、今は違う。

 少女神イオは人を()()()()

 天のいと高きところにいる神々よりも、人の傍にいて人を愛してくれる神のほうが好ましい。

 兵士たちからイオにそそがれる視線は太陽を仰ぐような熱を帯びている。

 信仰心ランキングは、この時点でうなぎのぼり。

 古参の神々を抑えて上位に入っているといっても過言ではない。

 

 その神の傍に控えることができるという僥倖。

 

 いわば、神の騎士へ昇格したがごとき気分だった。

 浮かれ騒ぐほどではないが、沸き立つこころを抑えきれないのも無理はない。

 

 その列は整然としており、足取りは羽のように軽い。

 

 神は兵士たちに囲われるようにして、馬車の中に在った。

 

 街までは指間の距離であったが、神をまさか馬に直に乗せるわけにもいかないということで、その場ですぐに幕が張られ一時的に滞留し、街からすぐさま馬車が用意されたのである。

 

「んっ。んっ。んっ。姫様ぁ。なんかすごく揺れるんですけど」

 

 少女神は初めての馬車に戸惑っているようだった。

 対面にはユユル姫が座っている。

 姫騎士ユユルは護衛でもあり話し相手でもある。

 なにしろ、神がじかに御触りすることを許された身。

 ユユルは神にとってのお気に入りであろう。

 いわば神つきの巫女のような存在だ。

 ユユルが帯同することによってイオをつなぎとめることこそが肝要であった。

 もっとも、いまのイオに還る場所はなかったのだが。

 

「申し訳ございません。神の御業に比べれば至らないことが多く……」

 

 ユユルは姫騎士としての綺麗な所作で頭を下げた。

 逆に恐縮してしまうイオである。

 

「馬車に初めて乗りましたので、こんなに揺れるとは思ってもみなかったんです」

 

「やはり神さまは馬の背には御乗りにならないのですね」

 

「いえ、馬に乗ったことありますよ?」

 

 イオの習い事には乗馬というエレガントなものも含まれていたのだ。

 なにしろ子役の仕事は案外幅が多かった。

 

「神の世界にも馬はいるのですね。天馬とかでしょうか」

 

「さすがにそういうのはいないんですけど、空を飛ぶ乗り物はありますね」

 

「空飛ぶ絨毯とかですか?」

 

「鉄の乗り物ですね。鳥のカタチとかをしていて中に入るんです」

 

「鉄の……鳥ですか?」

 

 まったく想像の範疇を越えていた。

 中世程度の科学技術であり、魔物との生存競争に明け暮れていたこの世界の住人には、にわかに理解しがたいものだった。ただ、そういったことはいわば些末なこと。すべては神の世界――神の理とすればいい。大切なことは、神が人間にあたたかな視線を向けて支援してくれることだ。

 

 いまも、イオはユユルの胸のあたりに視線を向けている。

 生暖かい視線だった。だがユユルにとっては慈愛を帯びたものに映る。

 父を生き返らせ、祖父のようなケイブンの足を治してくれた存在だ。

 当たり前だった。

 ユユルが感慨にふけっているとイオは優しくほほ笑んだ。

 

「この世界の人間もいつかは創れるようになりますよ」

 

「イオ様は月の女神ルーラ様の化身なのでしょうか?」

 

「神さまっぽい人に魔法を授けられた、ただの人間ですよ。そのルーラ様がわたしの逢った神さまかもしれませんけどね」

 

「ルーラ様の御子ということでは?」

 

「わたしのお母さまは、マリアという名前なので違いますよ」

 

「では、天使様ということでしょうか」

 

「まあ、それに近いことは言われたことはありますかね。イオちゃんマジ天使とか、視聴者さんによく言われます」

 

「しちょうしゃさん?」

 

「そう、視聴者さんです」

 

「しかし、恐れながら申し上げさせていただきますと、天使とされる存在は先触れを伝えるなどにとどまっております。イオ様のお力は神と比肩しうるものなのではないでしょうか」

 

「うーん。他の神さまに逢ったことがないのでわかりませんね。ただ邪聖竜ドゥアトでしたっけ、そいつよりはたぶん強いですよ」

 

 具体的には一千億倍くらい強い。魔法力限定の話であるが。

 

「ドゥアトは、もともと神の一柱として数えられております。そうするとイオ様はやはり神!」

 

「神と天使って何が違うんでしょうか?」

 

「厳密には違いはありません」

 

「え、そうなのですか」

 

「簡単に言えば、天使は神に遣わされし者。しかし、力次第では神と呼ばれたりもしますので」

 

「じゃあ、わたしも姫様たちの宗教的には神さまになっちゃうの?」

 

「そうなりますね」

 

「そうですか」

 

 訂正しても無駄だと悟ったイオは、まあそれでいいかと考えた。

 自分が神さまっぽい存在として崇められるのは現代社会でも経験していることだ。

 人は勝手に人を評価する。

 それを止めるのは春に萌えいずる草花を芽吹かせないに等しい。

 至難――というよりは、不可能に近い。

 超常の力をふるえば必ずそういった評価はくだされる。

 

 ただイオとしては、友人とコンビニに行けなくなったり、母親と買い物に行けなくなったりするのは嫌だった。でも、この世界には友人も母親もいないから、べつにどーでもいいやという感じだったのである。もちろん、ちょっとは人間のため、異世界おっぱいのためというのがユユルを助けた理由であるから、すべてがすべて自暴自棄からきた行動ではない。

 

「イオ様は魔法の力を兵士たちにもお授けくださるのでしょうか」

 

 ユユルは真摯なまなざしで質問した。

 なにしろ、人間を支援してくれるとはいえ、どこまでやってくれるのかは未知数。

 神の気まぐれが一瞬で消えてしまえば、人類の存亡が危ういのである。

 

 だが――。

 

「いいですよ」と軽い返事。

 

「イオ様はどうして人間を助けてくださるのでしょうか?」

 

「人が好きだからですよ」

 

 イオはあっさりと言った。

 対面に座るイオの姿は小さな童のようであったが、この上なく頼もしい言葉だ。

 ユユルは感動に胸が打ち震える。神がこれほどまでに人を愛してくださるとは。

 

「我々はイオ様にどうやって報いればよいのでしょう……」

 

「時々でいいからギュってしてもらえたら優勝です」

 

 よくわからないが、それでよいらしかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 レムリアン城は白亜の城と呼ばれている。

 

 大理石を丁寧に積み上げた美しい城であり、見上げると白鳥が羽を広げたようにも見えるのだ。

 

 城からは()()と呼ばれる巨大な通路が十字に走っている。

 

 その昔、古代の王レムリア一世がこの城を創ったとき、部下はもっと複雑な道筋にすべきだと進言をしたのであるが、王は聞き入れなかったという。

 

 王が道を誤ったときに攻めやすい城のほうがよいという考えだった。

 

 現状ではモンスターとの生存競争なので裏目に出ているが、レムリア十四世は今まさにレムリア一世の所業が素晴らしいものであると再認識した。

 

 見れば――、ほとんどすべてといってよい民衆たちが、大きな街道につめかけている。

 

 戦闘時に神の御姿を目に入れたものは少ない。街の民衆は異形の者――神曰く『モンスター』あるいは『魔物』の来襲に備えて、皆、扉を硬く閉じていたし、木製の閉じ蓋で窓を覆っていたからだ。

 

 だが、出撃した王が出撃し崩御されたことは知っていたし、姫ユユルと少数の守備兵では絶望的なこともまた知っていた。

 

 王はすぐに知らせを走らせた。神による助力により救われたのだと。

 そして、魔物達は撃ち払われたのだと。

 

――街は勝報に沸いた。

 

 ついで、ほどなく、奇跡の力によって皆のキズはことごとく癒された。

 

 神は伝説上の存在でも、物語の中の存在でもなく、現実の存在として人々を助けてくれるのである。神は現世にご降臨されているだけでなく、城へと向かっているというのだ。

 

 それで、神の御姿を一目見ようと民衆たちは街道の両脇に詰めかけることになった。

 

「神様!」「どこにいらっしゃるの?」「もうそろそろご到着なされるそうだぞ!」「兵隊さんたちの顔がみんな輝いて見える」「英雄たちの凱旋だ」

 

 人口3万人を越える民衆が一斉に押しかけたのである。

 いくら巨大な道だとはいえ、密集限界に近い。

 

「おかあさーん」

 

 祭りのときのように人がひしめきあい、母親といっしょに来ていた五歳くらいの女の子がはぐれてしまう。子どもにとって大人たちは密集した木のようだ。

 

 少しでも密度の薄い方へと本能的に駆け出し――。

 

「おかあさん。どこー」

 

 それで、隊列の前にでてしまった。

 眼前には馬の巨大な影が迫っている。兵士も驚いたように馬を制御しようとするが、もともと馬は臆病な生物だ。とっさに現れた小さな生物に動揺を隠しきれず、大きく足を振り上げた。

 馬の体重で轢かれれば、もちろん命は危うい。

 女の子は目をつぶることしかできない。

 誰もが女の子の目前に迫った死を覚悟した。

 

「トベルーラ!」

 

 そのとき、空の高いところから声が響いた。

 人々の視界に飛びこんできたのは、女の子を傍らにかかえる少女の姿。

 輝くばかりの銀の髪と、月のような金色の瞳が特徴的な可愛らしい御姿。

 誰もが一瞬で理解した。

 

――彼女こそが少女神イオ。

 

「大丈夫ですか? あぶないですよ」

 

「おかあさんとはぐれちゃったの」

 

「そうですか」

 

 女の子は事態をよくのみこめておらず、母親とはぐれたことを伝えるのみ。

 

 少女神はにこやかにほほ笑むと、

 

「この子のお母さまはいらっしゃいませんか?」

 

 それほど大きな声でもないのに、空間に響きわたるような声で少女神は告げた。

 誰もが時間が止まったかのように推移を見守る。

 やがて、民衆のなかからひとりの女性が躍り出た。

 ほとんど地面に頭をこすりつけるようにして赦しを請うている。

 

(この世界でもあったんだ。土下座)

 

 正直、イオはドン引きした。

 

 が、向こう側から見れば、謎の神的な何かに不敬を働いて神罰をくだされるかもしれない状況なのだ。王族の進行を妨げたという理由だけでも罰するに十分な世界なのだから、神の場合はそれよりも遥かに重罪なのである。

 

 恐れ震える母親の前に、イオは女の子を伴いふわっと飛んでいく。

 

「お許しください。まだ物事の道理もわからぬ子どもなのです」

 

「あ、大丈夫です。はい」

 

 イオは女の子を地面に下ろした。

 すぐに女の子は母親のもとに駆け寄っていく。

 それでも土下座の姿勢を崩そうとしない。

 処罰を待つ罪人のような姿勢だ。

 

 しかし、これでは動くに動けない。

 どうしたものかとイオが思案していると、馬の影がイオにかかる。

 すぐに、馬上から降りたのは、レムリア王だった。

 

「イオ様。いかがなされましたか?」

 

「この子が迷子になってて、それで馬の前にでちゃったみたいですね」

 

「ふむ。念のためお聞きいたしますが、この母子に罰を与える気はないということでよろしかったでしょうか」

 

「もちろんです」

 

 イオとしては、母親の愛情を否定することはできない。

 いままさに、母親と切り離されて寂しいのに。

 

「だそうだ。女よ――立って子を連れていきなさい。今度は離さぬように」王は周りを見渡した。「皆も聞いたな。この者の罪はイオ様が既に許されておる。神が許された者に人が咎を与えることは許されておらぬ。他の者が責めることのないようにせよ!」

 

 王は民衆から母親が責められることのないように配慮を求めた。

 

「ありがとうございます!」

 

 母親は言われた通りに立ち上がり、女の子とともに民衆の中に帰っていく。

 民衆はより一層沸いた。

 

「さすが王様!」「イオ様不遜ながらかわいいと思ってしまった」「イオ様やさしい」「この萌えいずるような感情は……萌えと名づけてもよいだろうか」「王様カッコよくて素敵」「さすが我らが王。大度を示される」「イオ様万歳! 王様万歳!」

 

「あ、あの~」イオがおずおずと手をあげる。

 

 ピタリと声を沈める民衆たち。

 

「ちょっと思ったんですけど、そこのお母さま」

 

「な、なんでございましょうか」

 

「ご亭主はどうなされたんです?」

 

 騎士たちのなかにいるのかもしれないと思ったが、そんな様子もなく、であれば女の子の年齢からつい最近亡くなっているのではないかと思ったのだ。

 

「夫は一年ほど前に魔物に襲われ亡くなりました。残されたものは指輪くらいです」

 

 つまり、未亡人だったのである。

 イオは、未亡人という言葉だけで興奮する文明人である。

 

「じゃあ、生き返らせますね。サンズ・オブ・タイム。ザオリク!」

 

 指輪をよすがにして、夫の身体を再構築。

 そして、ザオリクによる蘇生。

 

「あれ、ここは……」

 

「うそでしょ。あなた……」

 

「おまえ……」

 

「おとうさぁん!」

 

 家族が抱き合う姿がそこにあった。

 

「おお奇跡だ」「命を復活させることができるとは……」「なんという神々しいお姿」「私の恋人も生き返らせて!」「イオ様。母を生き返らせてください」「神よ! ご慈悲を」

 

「寿命で死んだ者は生き返ることはありません。魔物に殺された者や不慮の事故で亡くなった者のみが生き返ります。あと、あまりにも長い時間が経過しているとダメかもしれませんけど――」

 

 それでもよいのかとイオは聞いた。

 

 よいに決まっていた。

 

 どんどん声が大きくなり、イオは次々と時間を巻き戻しては蘇生魔法を叩きこんでいく。

 

 人々の感情のうねりは夜になるまで続き、そのまま勝利の宴へと至るのだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 ちと疲れた。最後あたりはよすがとなるモノをトベルーラで全部浮かせて、全体的にサンズ・オブ・タイムで巻き戻したり、墓地のあたりからゾンビな感じでよみがえらせたり、まあすごかったわ。今日だけで千人くらいは住民が増えたんじゃないかな。たぶん。

 

 なんか思うんだけど、異世界人ってやっぱり現代社会より感情表現が豊かというか、イオちゃんの女神さま的な扱いが激しくないですかね?

 

 わたし、カワイイカワイイ言われているくらいがちょうどいいって思うんですけど、圧倒的かわいさでねじふせるだけでなく、ここではやっぱり神様的扱いが強いというかなんというか。

 

 もしかして、現代社会よりわたしってやらかしてるのかな……。やらかしは自分では理解できないところもあるような気がする。そもそも、やらかしが何であるかということを理解できていればやらかさないはずだしな。

 

――まあ、いっか。

 

 みんな生き返って、嬉しそうにしてたからいいんじゃないかなぁと思うんですよ。

 この世界は、たぶん命が数段軽い世界。

 民草の命なんて、一瞬で消えるような儚さがあるんだろう。ここの王様はなんか優しそうだったけど、王様が優しくても魔物は襲ってくるわけだしな。

 

 それに、わたしが人間扱いされないのは、もうこの世界ではいまさら感があるし。

 

 わたしをわずらわしく思って暗殺しようとしてくる勢力がいるかもしれんけど――邪教徒とか、そいつらに殺されるようなイオちゃんではない。

 

 うん。よく考えたら別によくね?

 

 ヨシ。考え終了。思考停止でいこう。

 

 わたしは視線を上げる。

 

 お城の中は綺麗だった。

 

 いま、わたしがいるところは、たぶん応接室的な何かだ。ホワイトハウスよりも格調高い感じがするけど、冷暖房は当たり前ながらなし。まあ、トラマナで全環境対応型ではあるが、そもそも春先のような暖かい気候なのでさほど問題はないようだ。暖炉はあるな。いまは火がついていない。

 

 ふむ……暖炉か。

 ちなみに中世では、お尻を丸出しにして暖炉で温めるというのがオーソドックスだったらしい。

 今はどこにもいない孤独なイオちゃんだったが、そのうちメイドさんが来たら、そんな風景も見ることができるのかもしれない。

 

「お尻かお胸か。それが問題だ」

 

 きわめて哲学的思考に、わたしは眉に力を入れて考える。

 と、そこにユユルがやってきた。

 姫騎士の服装は終わり、シックなドレスに着替えている。これはこれで悪くないけど、ユユルは青い髪で青い瞳のちょっとクールな感じがする子だから、硬いプレートメイルが似合っていた。

 

 でも姫様姿も素敵。

 

「イオ様。おたずねしたいことがあるのですが」

 

「なんです?」

 

「あの……」少し考えるような仕草。「イオ様は……」

 

「はい」

 

「飲食はなされるのでしょうか」

 

 決死の覚悟で聞いたのだろう。

 不遜な質問をしていると思ったのかもしれない。

 ユユルは恐る恐るという感じで聞いていた。

 

「はい?」

 

「神様でありましたら、人間の食するものを食されるのかと思いまして」

 

「あ~。まあ大丈夫だと思いますよ。食べないでも大丈夫ですがね」

 

 ハラヘラズの魔法を使って、胃の中に直接流しこめばべつに食べないでも問題ない。

 ちなみに、排泄もバシルーラないしはオクルーラで恒星にでも直接飛ばせば問題ないだろう。

 太陽系レベルの距離ならワープは可能であるので……、イオちゃんはうんこをしないので。

 

 なんかご都合主義的にトイレだけは水洗で綺麗とか水道は大丈夫みたいな都合のいいことはなかったので、この世界ではトイレを使わないことに決めたのでした。神さまだから別に問題はない気がする。

 

「やはり、イオ様は人とは正真正銘異なるのですね」

 

「おいしい食事は好きですよ」

 

「イオ様のお好きなものはなんでしょうか」

 

「プリンとかですかね」

 

「プリン……ですか? それはどのような食べ物なのでしょう」

 

 マジかよ。この世界にはプリンがなかった。

 

「ハラヘラズ」

 

 ポンっと空中からプリンを生じさせる。

 この魔法、想像した器ごと空間に生じさせるので、今回のプリンは透明なガラスの容器に入っている。スプーンつき。トベルーラを使って姫様のお手元に。

 

「こんな感じの食べ物です」

 

「神のスイーツですか……なにやらあのぷよぷよしたモンスターのような」

 

「青くないですよね?」

 

「あ、いえ、イオ様のお出しになったものを恐れているわけではありません。いただいてもよろしいでしょうか」

 

「もちろんです」

 

 ユユルは最初おそるおそるスプーンでつっついていたが、やがて意を決したのかプリンを口に入れた。

 

「ん~~~~っ」

 

 ふっ。なろう小説十八番。

 現代知識食べ物無双を知らないやつはおるまい。

 特にプリンなんか定番中の定番だ。

 

「こんなおいしい食べ物初めて食べました。これはいったいどうやって創るのですか?」

 

「……わかりません。卵的な何かです」

 

「卵的な何かをどうするのですか」

 

「卵的な何かを……卵的に何かするとそうなります」

 

「そうですか……」

 

「……」

 

 ちくしょう!

 

 悲報。イオちゃんの知識ではプリン無双ができない!

 

 これでは不思議なちからでなんかわからんがおいしい食べ物ができました的な説明しかできない。

 

 再現性がゼロだ。

 

 ちなみに、わたしがわたし自身の魔法力を使って出した食べ物って、いわば共食いみたいな感じなんで、いまいち気乗りしないんだよな。味はまあおいしいよ? でもなんか違うんだよなって感じ。

 

 なお、ユユルはプリンを気に入ったらしく、三つほどおかわりを要求してきました。

 スイーツが女の子を陥落させる魔性を秘めているのは間違いないと思います。




そろそろ敵の首魁にでも会いにいくかぁとおぼろげながら考えています。

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