ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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仲間。ついでに母親。

 日本の天気は不順だった。そろそろ梅雨の時期。

 イオが行方不明となってから、一か月ほどになる。

 

――雨。

 

 理呼子は教室の窓に流れる雨粒を物憂げに見つめる。

 先生の声が遠くに聞こえるが、授業に身が入らない。

 イオという存在がいなくなっても、世界は日常を繰り返している。

 まるで最初からイオなんていなかったように。

 

 地球側の混乱は思ったよりも少なかった。

 

 イオという超絶の存在がいなくなったところで、魔法は既に広まっているし、言わばジョーカーがいなくなったに過ぎない。

 日本政府は、ミサイルが降ってきた場合にどうすればいいのかという議論で、国会が一時機能不全に陥ったそうだが、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと気づいてからは落ち着いた。いわゆる正常性バイアスである。

 

 魔法はイオがいなくても広がっている。

 

 マホアゲルによる魔法覚醒処置はイオがいなくても進んでいるし、その際の魔法力もだいたいは人間の範疇を越えることはない。

 

 世界にイオを代替できる人間はいない。

 

 イオのように馬鹿げた超魔法力を持った人間は現れておらず、イオはおそらく宇宙の果てに向かったのであろうから、連れ戻すこともできないというのがルナの予測である。その予測は正しい。

 

 そして、ルナはイオがいなくなってから学校を休んでいる。

 

 なんとかする手段を見つけようと研究所のマンパワーで魔法的解決方法を探っているのだろう。

 

 仲の良いふたりがいなくなって、理呼子は心にぽっかりと穴が開いたようだった。

 

「イオちゃん。どこにいるの……?」

 

 魔法のことなんかどうでもいい。

 国のことなんかどうでもいい。

 ただ帰ってきてほしい。

 そう願い、理呼子は物憂げに空を見つめる。

 今日も灰色をした曇天が世界を覆っていた。

 

 ホームルームが終わり放課後になった後。

 理呼子はここ一か月で習慣になった職員室への訪問をおこなう。

 担任の安藤先生にイオの分の学校のお知らせや宿題をもらいに行くのだ。

 

「これが今日の分の宿題だけど。郵送でもいいんだよ?」

 

 安藤先生は優しげに言った。

 

「いえ、いいんです。ルーラの方が早いですし」

 

 理呼子は力なく微笑み、職員室を後にする。

 それからおもむろにルーラを使い、イオの家へ向かった。

 呼び鈴を鳴らすと出たのはイオのハウスキーパーでありマネージャーでもある寺田である。

 

「いつも、ありがとうございます」

 

 寺田の声は暗い。

 

 理呼子が持ってくる学校のお知らせは、イオがいなくなった事実をいやでも再認識させてしまうからだろう。しかし、理呼子がお知らせすら持っていかずにいれば、なおのことイオの存在が消えてしまうようでもある。

 

「おばさんは……その」

 

 理呼子は窺うような聞き方をした。

 

 イオがいなくなってみるみるうちにやせ衰えたマリアは、いま仕事を休んで家にこもりきりになっている。それも当然だろう。イオと連絡がとれなくなって早一か月。会話もできない。触ることもできない。迷惑もかけられない。甘えてもこない。要するにコミュニケーションが途絶されているというのは、死んだことと同義である。

 

「奥様は伏せっておられます」

 

「そうですか。では失礼します……」

 

 理呼子はその場を立ち去ろうとする。

 すると、そこに比較的元気な声がかかった。

 

「理呼子ちゃん。今日も来てくれたの」

 

 ユアだった。

 スラリンを腕に抱き玄関口に近づいてくる。

 理呼子から見て、ユアは不思議な子どもだった。

 天才子役という名声を欲しいがままにし、いまでは『星宮イオの妹』という肩書を手に入れて大躍進。ドラマや映画にも引っ張りだこという状態。

 

 いまでは、姉を喪った悲劇の妹としてインタビューを受けたりもしている。

 

 愛娘を喪い憔悴しきった母マリアよりも冷静で、「すぐにお姉ちゃんは帰ってくる」と言うユアの姿は、無知な子どもを装っているようでもあり、お茶の間のみなさんには健気に映ったことだろう。それで星宮家への好奇の目はだいぶん減ったという話だ。そこまで計算してユアが演技をしたのなら、まさに天才としか言いようがない。

 

 今もユアは悲しみをにじませない声を発している。

 

「あがってもらったら?」

 

 ユアは寺田に向けて言った。

 寺田は視線を理呼子に向ける。

 理呼子は辞退しようとした。

 結局のところ、魔法クラブのつきあいはイオを中心としている。

 イオが抜けたことで、どこか安定を欠く間柄にしかならないだろう。

 ユアとルナはどうだろうか。

 彼女たちは年齢も近く、そこそこに仲が良い感じだったが。

 

――自分はひとりぼっちだ。

 

 理呼子はそう思い、断ろうと口を開く。

 

「ありがとうユアちゃん。今日は帰るね」

 

「うん」

 

 踵を返し、ルーラを唱えようとする。

 

「ねえ。理呼子ちゃん」

 

「なにかな?」

 

「ルナちゃんは学校に来た?」

 

「まだ来ないよ」

 

「そう。研究室にいるのかな」

 

「たぶんそうだと思う」

 

「お姉ちゃんがいなくなったことの責任を感じてるの?」

 

「たぶん」

 

 ルナの立ち位置は、アメリカのエージェントであり、イオの魔法を研究する者だ。

 イオがいなくなって、ルナも学校に通う意味は消失したといえるが、それ以上にイオが宇宙に旅立ったときにゴーサインを出してしまったという責任を感じているのかもしれない。

 

「でも、それってみんなの責任だよね」

 

「そうだね。そう思うよ」

 

「だったら、みんながバラバラだと解決しないんじゃないかなと思うんだけど」

 

「イオちゃんがいないのにまとまれるかな?」

 

 目元に涙をにじませる理呼子。

 つられるようにして、寺田もわずかに涙ぐむ。

 しかし、ユアだけはうろたえもせずに、涼しげに応える。

 

「まとまらないとダメだよ。ドラクエでも仲間を集めないと解決しない問題も多かったでしょ」

 

 初代ドラクエは一人旅という無粋な返しはしない。

 ドラクエⅠだって、様々なアイテムを集める際に、誰かの想いを引き継いでいることが前提になっている。つまり、パーティじゃなくても、世界の誰かが主人公を助けていた。世界中からイオが望まれれば帰ってこれる。そう言いたかったのだろう。

 

「じゃあ……、ルナちゃんに会いに行く?」

 

「うん。そうしよう」

 

 ユアは嬉しそうにスマホを掲げた。

 何事かと思っていると、そこから聞きなれたドラクエの音楽。

 仲間加入時に流れるテーマだ。

 

 つまり、ユアが仲間に加わった。

 あるいは――、ユアから見れば理呼子が仲間に加わったと言いたいのだろう。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 理呼子たちがルナの研究所に行く前に、みのりのもとに向かうことにした。

 電話で連絡をとりあって、リリルーラで合流する。

 必然的にかかる時間は数十秒程度でいい。

 みのりのもとに集まることになったのだが、みのりがいたのは中等部の音楽室だ。

 みのりは魔法カンパニーから寄贈されたスタインウェイのピアノを弾いていた。

 ピアノでイオがどこにいるのか探るように、一音一音に祈りをこめていた。

 

「みのりお姉ちゃん」

 

 ユアが屈託なく呼ぶ。

 みのりはイオに似たユアのことももちろん可愛らしく思っている。

 

「ユアちゃんたち。どうしたの?」

 

「お姉ちゃんのことについて」

「イオちゃんのことについて」

 

 理呼子とユアはほとんど同時に声を発した。

 

「もう一度何かできることはないか話し合おうって」とユア。

 

「魔法クラブのみんなで集まって何かできることあるのかな」

 

 みのりは悲観的だった。

 期せずしてイオと友好を結べたが、自分はあくまで胸が大きいだけの一般人という認識だった。

 魔法というくくりで言えば、イオのように扱えるわけもなし。

 一般人と同じレベルと言っていい。

 

「一般人というくくりだったら、私も同じです」と理呼子。

 

「でも理呼子ちゃんはイオちゃんと同級生だったし、幼馴染でもあるんでしょ」

 

「どうしたんですか。みのりさん。イオちゃんに帰ってきてほしくないんですか?」

 

「そうじゃないよ……」

 

 みのりの声は沈んでいる。

 

「じゃあどうして」

 

「私がイオちゃんとお友達になった理由は知ってるよね」

 

「知ってます」

 

 交通事故で腕を失いピアノを弾けなくなったみのりをイオが癒したというのが理由だ。

 

「私は弱い人間なんだよ。あのとき私は生きる理由を無くしちゃってた。絶望しちゃってたの。だからかな。イオちゃんがいなくなってあのときの絶望を思い出してきちゃった。一歩も前に進めなくなる感覚。でもね――、底の底までおちきってしまうと、逆に安心するの」

 

 みのりにとって、イオの存在は絶望から救ってくれた希望そのものだった。

 希望が喪われ、にわかに絶望が顔を覗かせる。

 あのときの恐怖がよみがえってくる。

 だから絶望と同化しようとした。

 

「勇気を出して。みのりお姉ちゃん」

 

「ユアちゃん……」

 

「みのりお姉ちゃんが帰ってこないと、きっとお姉ちゃんはおっぱい成分が足りないって言うよ」

 

「確かにイオちゃんならいいそうだよね」

 

 みのりはほんのりと笑った。

 

 ユアが、トトトと近づく。

 

 自然とみのりはユアを抱きしめる形になった。

 

「確かにお姉ちゃんが抱き着きたくなるのもわかるな。柔らかくて気持ちいいもん」

 

 ユアはうずめるようにぐりぐりと頭を圧しつけている。

 イオはあれでも結構遠慮が見られるので、ユアのほうが暴れる猫のような感じだ。

 けれど、圧倒的に質量が足りないのでこそばゆい程度だった。

 

「お姉ちゃんなら、どこにいってもみのりお姉ちゃんの()()を忘れるはずがないよ。だからきっと帰ってくる」

 

 みのりは、自分が救われたのは、ただの運だと考えていた。

 いわば、イオがみのりに優しくするのは、同じ学園に通っているがゆえ。

 そもそものなれそめも父である理事長が娘のためにイオにお願いをしたからだ。

 

 けれど、ユアがいうように――。

 

 確かに、イオはみのりのおっぱいを求めていたのである。

 打算や計算なんかとは違う本能の渇望とも呼べるようなそんなレベルで。

 だから、イオにとってみのりは必要な人だったのだ。

 そのことを再認識できた。

 

「ユアちゃん、ありがとうね。もう一度集まろう」

 

「うん。じゃあドラクエの仲間のテーマを弾いて」

 

「なにそれ」

 

「様式美だよ」

 

 そういうわけで、みのりは仲間のテーマを華麗に弾いて、ユアたち一行に加わった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 理呼子たちがルナの研究所に入ると、何人もの研究員たちが地下のプール上に魔法力をこめていた。研究員に混じって、ルナがなにやら指示を飛ばしている。小さな体だが声は鋭い。

 

「ん。理呼子たち。来たのか」

 

 ルナが気づいてこちらにやってきた。

 特に気落ちした様子はないようだ。

 

「なにしてるの、ルナちゃん」と理呼子。

 

「これか?」

 

 理呼子は軽くうなずく。

 見ると、複雑な文様をプールのコンクリートに描いている。

 

「いままでこの世界の住民は誰一人召喚魔法を成功させることはできなかっただろう。神のフールプルーフによって、モンスターを召喚できるとすると、いろいろと不都合が生じると考えられるから制限項目に入っているのだと思う」

 

 ほかならぬルナ自身が見つけ出した魔法の法則。

 神さまが魔法を選別し、世界に必要以上の混乱が生じないようにしている。

 それが、フールプルーフ。

 

「お姉ちゃんを召喚しようとしているの?」とユア。

 

「そうだな。できるならそれが一番手っ取り早い。地面に描かれた文様は、イオがこれまでに召喚したパターンから抽出した指定文言を解析して独自にアレンジしたものだ」

 

「アレンジ……?」

 

「いままでイオが召喚したときに魔法陣が出現しただろう。そのとき魔法陣の外延にはなんらかの文字のようなものが見られた。それをAIを使って解析して意味を見定めた」

 

「魔法言語を解析したの?」

 

「ほんのりとだがな。問題はそれをどうやって出力するかなんだが……、正直わからない。私たちが魔法を使うときもべつに意識しているわけじゃないからな。だから、ふしぎなきのみを砕いて染料と混ぜて使ってみたりしてる」

 

「結果は?」

 

「かんばしくない」

 

 ルナは大きなため息をついた。

 そして、傍らに置いてあったルナ専用の椅子に座った。

 

「それで……なにをしにきたんだ」

 

「イオちゃんが戻ってこれるように、みんなで一度集まろうってことになったの」理呼子が言った。

 

「魔法クラブか。確かにクラブ活動でいろいろと判明したことも多いだろう。しかし、人手と技術を費やせる研究所のほうが確実じゃないか」

 

「ルナちゃんだけじゃ思いつかないことだってあるかもしれないよ」

 

「ここには人類最高峰といってもいい頭脳も集約している。子どもたちが集まって何ができると言うんだ?」

 

 ルナの言葉は酷薄にも思えたが正論でもあった。

 いまやっている召喚魔法のようなテストも、ルナの研究所以外ではなかなか行えない。

 

「でも、イオちゃんの一番の仲良しはここにいるみんなだったじゃない」

 

「べつに友情を否定しているわけじゃない。だが現実的に言えばイオを取り戻すためにはお遊びじゃない科学的アプローチが必要だ」

 

「それはそうかもしれないけど」

 

 そもそも魔法クラブで集まろうといったのも、ユアの思いつきに近い。

 理呼子はユアに同調したに過ぎず、少女らしい共感に過ぎないと言われればそれまでだ。

 けれど、イオへの想いまで否定されたようで、理呼子は痛ましい顔になる。

 

「理呼子ちゃんバトンタッチ」

 

 ユアが前に出た。

 ルナは仰ぎ見るかたちになる。

 

「なんだ?」

 

「ルナちゃん。あーそびましょ」

 

「なにがいいたい」

 

 不機嫌そうに返すルナ。

 

「魔法なんてさ。遊び半分で使ったほうがいいんだと思うよ。魔法クラブの裏手でポンポン撃ちまくってたときが一番楽しかったと思わない?」

 

「それはそうかもしれないがな。イオは宇宙空間で独り泣いているかもしれないんだぞ」

 

「大丈夫だって。お姉ちゃんはきっと異世界おっぱいとか言って、どこかで綺麗なお姉さんに()()()()でもしてもらってるよ」

 

「おまえ、姉に対して薄情すぎないか」

 

「ルナちゃんが思いつめすぎなんだよ」

 

「思いつめてるわけじゃないぞ。科学者として被験者の安全確保には当然配慮すべきだったんだ」

 

 ルナはガクリと肩を落とした。

 小さな身体をより一層小さくして、椅子の上で体育座りになる。

 

「イオの性格もわかっていた。宇宙の果てから帰還できなくなる可能性も当然考えられた。なのに、思いつかなかった。私は科学者失格だ。む……」

 

 みのりがルナを抱きしめていた。

 圧倒的質量から繰り出される攻撃に、ルナは溺れそうになる。

 

「な、なんだ。なにをするみのり」

 

「ルナちゃん、一人で抱え込んでも何も解決しないよ」

 

「私はだな。他の科学者とも相談してるぞ。マムとも話し合ってるしな」

 

「そういうことじゃなくてね」

 

「ロバート大統領や日本の総理大臣とも話し合ったしな。日本の国防や魔法の広め方なんかもマリアの代わりに会議に参加してる」

 

「ルナちゃん、いったん肩の力を抜こう」

 

「肩に力なんて入ってないぞ」

 

「ほんとに?」

 

 みのりが抱き着いている最中に、ユアが近づいてルナの肩を揉んだ。

 ルナはまだ九歳児なので、肩がこるなんて事象とは縁遠い。

 

「こ、こそばゆい」

 

「あれれ、少し硬いよ」

 

「硬くなんかないぞ」

 

 みのりが抱き着いているのでルナは逃げだすことができない。

 ユアは容赦なくルナの全身をソフトタッチで攻めていく。

 

「あははは。やめろ。ははははは」

 

 ルナはジタバタともがいた。

 

「ルナちゃん、いっしょにきて」

 

「わかった。わかったからやめろ」

 

 ようやくルナから手を離すユア。

 ルナはちょっとだけ涙目だ。

 

「で、どこについていけばいいんだ」

 

「あ、その前に定番のテーマを」

 

 スマホから仲間のテーマを流すユア。律儀である。

 

「四人パーティか。これも定番だな」

 

 ルナは近くにいた研究員に、少しの間出ると言い伝えた。

 これでようやく魔法クラブのメンバーがそろったのである。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 マリアは酔いつぶれていた。

 ダイニングルームで独り寂しくウィスキーを呑んでいる。

 イオがいなくなって最初のころは、伴侶のアダムも心配して来てくれたが、イオがいないという寂しさを埋められるものではなかった。

 イオはイオであり、アダムはアダムなのだから。

 伴侶と娘はべつものなのだ。

 

 イオがいなくなって最初の一週間はかなり強くルナにあたってしまった。

 そして自己嫌悪。

 そして次の一週間はアダムに当たり散らかした。

 これも自己嫌悪。

 次の一週間は、ユアも自分から離れていくようで、学校に行くなと言ってしまった。

 寺田に言われて、ギリギリのところで踏みとどまったが、最低の親である。

 そして、今週はもうなにもかもが嫌になってしまい、酒でまぎらわしているという始末である。

 

「うう……イオぉ」

 

 大好きと言ってくれたのだ。

 大好きママ、と。

 それなのに、行かせてしまった。

 あのとき、もう少し考えればよかったのだ。

 後悔で身を裂かれるような思いだった。

 

「ママ」

 

 顔を上げると、ユアが心配そうな顔で立っていた。

 

「ユア……どうしたの」

 

 重い体を奮い立たせるようにして、最低限の親としての体裁を保つ。

 いまさらつくろっても遅いだろうが。

 

「今日はみんなで集まったよ」

 

「そう」

 

 魔法クラブで集まった。そう言いたいのはすぐに理解した。

 ただ、マリアとしては魔法クラブの面々とは逢いづらい。

 イオがいなくなった責任の所在を問いただしてしまいそうになるからだ。

 だから、言葉短く口をつぐんだ。

 

「それでね。お姉ちゃんを取り戻すためには――」

 

「聞きたくないわ」

 

「ママどうして?」

 

「どうせルナの入れ知恵でしょう。あの子がイオのためにいろいろやってるのは知ってるわ」

 

「ルナちゃんを悪く言わないでよ。それにお姉ちゃんが宇宙に向かったのは、私がレミラーマの使い方を教えたからだよ」

 

 頭の奥がカッと熱くなった。

 

「あなたのせいじゃないでしょう? 元はと言えば、強く止めなかった私が悪いのよ」

 

「ママ泣かないで」

 

 ユアが近づく。マリアはユアを抱きしめた。

 

「お姉ちゃんは羨ましいな。こんなにママに愛されて」

 

「あなたのことも愛してるわ」

 

「姉妹だもんね」

 

「ええそうよ」

 

「でも、今はお姉ちゃんのことが心配でしょ」

 

「そうね」

 

「私ね。ほんのちょっとだけお姉ちゃんが帰ってこなければママを独り占めできるかなって思っちゃったの。悪い子でしょ。ママ怒る?」

 

 マリアは何も言えなかった。

 姉妹という関係は微妙で、愛の定量に敏感だ。

 子どもが嫉妬しているとしたら、どこか不平等なところがあるのだろう。

 ここ一年はイオに注視しすぎたのかもしれない。

 

「怒ったりはしないわ」

 

「よかった」

 

 ほっとしたように言うユア。

 

「でも、それだとどうしてイオが帰ってくる方法を考えようと思ったの?」

 

「お姉ちゃんのことも好きだもん」

 

「そう」

 

「妹って結構大変なんだよ」

 

「知らなかったわ。教えてくれてありがとうね」

 

「うん」

 

「それで……よければ教えてくれるかしら。あなたたちが考えた方法」

 

「簡単だよママ。新しいドラクエを作ってもらうの」

 

「新しいドラクエ。新しい魔法?」

 

「そう。それしかないよ。だからみんなの力が必要なの」

 

 新しい魔法がこの世界に定着するには、みんなに認知されなければならない。

 そうやって、マホアゲル他、魔法が顕現したのだから。

 

「確かにそれしかないわね。どうしてこんな簡単なことを思いつかなかったのかしら」

 

「これもフールプルーフなんじゃないかって言ってたよ」

 

「神さまの……」

 

「うん、だからお姉ちゃんは神さまが呼び寄せたのかも」

 

「だったら、神さまにお願いしないといけないわね」

 

「そうだよ。お姉ちゃんを返してって」

 

 その日、マリアは名前を呼んではいけない会社に電話をかけた。

 イオに魔法を与えた神とは違うにしろ、そちらも神さまには違いなかった。

 




(´・ω・`)終わらんかった……もう一話追加しときます

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