ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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異世界召喚。ついでに綺麗なエビちゃん。

 あれから何日か経過。

 

 武術大会の予選が終わり、わたしはお風呂に入っている。

 

 何人ものメイドさんに身体を洗われるというのは、ちょっとばかり緊張してしまうので、今日はひとりきりで入りたいと申し出た。ユユルもいないので、本当にひとりきりです。小学生ですが高学年なんで当然ひとりで入れますよ。髪を洗うときに目が染みるなんてこともありません。

 

 ふぅ……。

 

 お風呂は心の洗濯でもある。

 湯舟につかり武術大会に思いをはせる。

 冷静に考えると、わざわざ肉壁を創るのに人間の強者を探す必要とかないよな。

 

 確かに人間のなかには強者もいるようだし、魔法を使えなくてもスライムくらいなら余裕で倒せるだろう。これから魔法が普及すれば戦力の底上げも可能になる。わたしが戦ったアンクルホーンくらいなら倒せるようになるんじゃないか。

 

 しかーしっ!

 

 わたし召喚魔法使えるじゃん!

 

 エビちゃんはもとよりモンスターを召喚して、わたしが後列にいればよくない?

 いやもちろん、同族どうしで戦わせるのはどうかという倫理的な話もあるんだろうけど。

 いまだ魔法を覚えたてでレベルの低い人間を戦わせるのもどうなのかな。

 

 そんなことを思いついてしまった。つい先ほど。

 

 でもそんなことを言い出したら、武術大会を開いている意味がなくなるし、いまさら走り出したプロジェクトは止められない。まあ、まったく意味がないわけでもないけどな。

 

 人間には矜持がある。

 

 いままで魔物たちにさんざんやられてたんだ。

 女神様補正はあるものの、人間の力で魔物たちをうち払い、人間の誇りを取り戻すみたいなことを考えてるっぽい。魔法部隊を創ろうとしているのもそれが理由だ。ただ、それには時間がかかるんだよな。

 

 わたしのマホカトールは少なくともレムリアンでの安全をもたらしてしまっている。

 生存に余裕ができたんで、ある種の弛緩の状態だ。

 

 城内を歩いていると落ち武者みたいな髪型のおっさん(確か大臣だった)が、「イオ様がこの国におわしますれば、魔王ドゥアトを打倒する必要はないかもしれませぬ」みたいなことを言ってたしな。

 

 いやおまえ後ろ向きすぎひん? と思ったんで、「人の世は人の手で取り戻すのです」とかなんとか、それっぽいことを言ったらなんか感動してた。

 

 ただ人間って、基本的に今の生活を続けることに腐心する傾向があるから、あえて冒険しようっていう人は少ないかもしれない。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 自室に到着。尖塔の一番高いところにある部屋だ。

 トベルーラでショートカットできるのがいいところです。城の風呂が別棟になってるからね。

 窓から侵入する大泥棒って感じだが、もちろん尖塔には足をかけるところはない。

 トベルーラが使えないとわりと大変な場所だけど、メイドさんたちは文句も言わずに食事を持ってきたりもしてくれる。さすが本場のプロは違うね。

 

 で――、メイドさんに頼んでユユルを呼んでもらった。

 ユユルもトベルーラが使えないから、文字通りの意味で足を運んでもらうことになるわけだけど、バイキルトによって脚力を増しているから余裕だそうだ。

 

「どうしたの、イオ?」

 

「お姉さまにご相談です」

 

 相談は大事。これ地球でよく言われたことですから。

 

「相談? 妹としてそれとも神様として?」

 

「んー。どちらかと言えば神様としてのほうだと思います」

 

「そう……」ユユルが切り替えたようだ。「イオ様。どのようなことでございましょうか」

 

「実はいままですっかり忘れていたというか考えもつかなかったのですが、わたしはモンスターを召喚して仲間にできるんですね」

 

「モンスターをですか?」

 

 ユユルが微妙な顔になった。

 敵であるモンスターを仲間にできるという言葉に不審とは言わないまでも、不気味な感じを受けたのだろう。

 

「あくまで仲間モンスターなんですよ。モンスターというだけで差別したり虐げたりするのは好ましくないと思います」

 

「努力いたします」

 

 モンスターと仲良くというのは、この世代ではたぶん無理だろう。

 人類絶滅の危機まで行ってたわけだしな。王国崩壊は普通にありえたわけだし。

 でも、モンスターと仲良くする作品もドラクエの中にはたくさんあったわけで。

 モンスターは『人間になりたい』から、高度になればなるほど人間に似てくるなんて話もある。

 

 もしかすると、モンスターを仲間にできるドラクエVの主人公は、祖先に魔族がいるのではないかなんて話もあるんだ。この世界がもしもドラクエ世界に通じているとすれば、タイムパラドックスが起こりかねない。

 

 だから、モンスターと仲良くする萌芽を残しておきたいわけですよ。

 

「それでイオ様は何をご相談されたいのですか?」とユユル。

 

「ここでモンスターを召喚してみてもよいですか?」

 

「それはもちろん、イオ様の御心のままに」

 

「ありがとうございます。じゃあ、さっそく――」

 

 わたしにとっての一番の仲間モンスターと言えば、やっぱりエビちゃんだよな。

 バラモスエビルのエビちゃんは近所の仲のいいおっちゃんって感じで、ちょっとビクビクしてるところがあるけれど、そこが愛嬌でもある。

 

 スラリンやロビンを召喚するということも考えた。でも、スラリンはユアに、ロビンはルナについているわけで、彼らを召喚してしまうと地球側では召喚できなくなってしまう。召喚魔法は地球では成功していないからな。もしかしたらこっそり大人数で召喚魔法に成功した人たちもいるかもしれんけど、そういう報告はあがってない。それにもし召喚魔法に成功しても魔法力が足りなければすぐに送還されてしまうだろう。

 

 エビちゃんは現世にとどまることなく、毎回帰ってるから呼び出す場所が違っても問題ない。そういうわけでエビちゃんに白羽の矢が立ったのだ(というかわたしが立てたのだ)。

 

「はい、"しょうかん"」

 

 青白い魔法陣が地面に光る。

 そして、ズモモと地面からにょきにょき生えるようにして威容があらわれる。

 エビちゃんは、種族としてはバラモスエビル。魔王種ではないけれど、魔王の亜種ではあるから、その力は一般人から見れば凄まじい。

 徐々にあらわれる姿にユユルの顔が引きつってくる。

 そして、エビちゃんがぎょろりと下を向く。首が短いからそういうふうになっちゃうのだ。

 ふ。かわいいやつめ。

 

「エビちゃん。元気でしたか?」

 

「や……」

 

 ん?

 

「灼けるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 エビちゃんが顔を手で覆い、地面を転がりもがいている。

 体中から煙のような何かが発せられ、ジュウジュウと灼けるような音が響く。

 あれ? なんだ。何が起こってる。

 

「どうしたんですか!? エビちゃん」

 

「聖なる波動が……聖なる波動があああああ!」

 

「聖なる波動?」

 

「あの……マホカトールの効力なのでは?」とユユルが呟いた。

 

 あ……。

 

 そうだよ!

 エビちゃんは仲がいいけど、れっきとした魔物だっただわ。

 

 マホカトールは漫画では邪気をはらって、モンスターに正しい心を取り戻させたりもしてたけど、現実世界ではモンスターに対して直接この魔法範囲に入れたことはない。

 

 しかも、ちょっぴり強めの魔法力をこめてるから、単純にモンスターを大根おろしですり下ろすような効果があるのかもしれない。いま継続ダメージ入っちゃってる?

 

「エビちゃんごめんなさい。ベホマ。ベホマ!」

 

「か、回復とかの問題ではありませぬぅぅぅ!!!」

 

 違うの?

 

「マホカトール解除するから」

 

「イオ様。それはそれで困ります!」とユユル。

 

 じゃあ、どうすればいいんだよ。

 

「じぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!」

 

 パタリ。

 

 天空へと伸ばされた腕が地面に落ちた。

 エビちゃん、死んじゃった?

 

「ざ……ザオリク」

 

 どういう効果でもがき苦しんだのかわからないけど、とりあえず蘇生魔法をかけてみる。

 すると、エビちゃんはパッチリと目を開けた。

 妙に澄んだ瞳だ。くたびれたおっちゃん風味が抜けて綺麗なエビちゃんになってる!

 

「憑き物が落ちたような気持ちでございます」

 

「邪気が抜けたのでは?」とユユルが突っ込む。

 

 おっさんらしい弱者男性の悲哀みたいなやつはあったけどね。

 それはしかたないのよ。

 

「あの、何か変なところない? 大丈夫?」

 

 わたしはエビちゃんに治癒魔法をかけながら聞いた。

 

「いままでのわしは些末なことに囚われていたのです。宇宙とはイオ様のことだったのですね」

 

「うん。まあ大丈夫じゃないことがわかりました」

 

 返してあげたほうがいいのかな。

 いやでも変になっちゃったエビちゃんのまま返すのもまずい気がする。

 

「ところで、ここはどこですかな。地球とは異なるようですが」

 

「ここはアレフガルドカッコカリ。異星ですよ。ドラクエのモンスターもいたので、もしかしたらドラクエの世界かもしれません」

 

「ふぅむ。なるほど……それでわしを呼んだ理由はなんですかな」

 

 エビちゃん。その場で起き上がり石畳の上にちょこんと正座する。かわいいおっさんか。

 できるだけ目線をあわせてくれてるんだろうな。それでもみあげるかたちになっちゃうけど。

 

「この世界には邪聖竜ドゥアトという魔王がいるみたいだけど、エビちゃんはその名前に聞き覚えがありますか」

 

「まったく存じあげませぬ」

 

「ここから南東にいったところにいるみたいだけどわかります?」

 

 レミラーマが貫通したあとは、もはや隠すのもあきらめちゃってるから魔法感知能力に優れているエビちゃんならもしかしてわかるかなと思ったんだ。

 

「ふむ。わしよりも強大な力を感じますな」

 

 さすがエビちゃん頼れる仲間。

 

 エビちゃんとドゥアトの魔法力を比較すると、ドゥアトの方が強そうではある。

 魔王級ではあっても、エビちゃんは前座の量産型だからな。

 

 だけど力だけがすべてではない。

 エビちゃんの智慧、頼りになるわ。マジで。

 

「わたしよりも強そうですかね?」

 

「そんなことはございませぬ!」

 

 力強く言うエビちゃん。

 まあ、単純な力だけなら、たぶん楽勝とは思うんだけどね。

 

「超高密度魔法言語とかも使える相手なんですけど」

 

「握りつぶしてしまえばよいのでは?」

 

 まあ――、たぶんできるとは思うんだけどね。

 アメリカでテロが起こったときに、魔法発動前に魔法力で握りつぶすことができた。

 発動自体を阻止できたわけで、超高密度魔法言語であっても、同じことはできそうだ。

 でも、一抹の不安があるんだよな。

 

「ほら、ちょっと気を抜いてオメガルーラとか使われたら怖いじゃないですか」

 

「イオ様の超魔力でマホステをかけておけば問題ないのでは?」

 

「そんなもんですかね」

 

「ええ、ハッキリ言って何を恐れているのか、わしには理解できませぬ。イオ様は魔法をつかさどる神なのですぞ。木っ端の魔王など歯牙にもかけますまい」

 

「やっぱり神様なんですね」とユユル。

 

 違うから。

 エビちゃんは近所のおっちゃんで、姪っこを姫様扱いしているようなものだから。

 

「と、ともかくですね。ドゥアトについては単純に倒してしまうのではなく、話を聞かなければならないんです。そうしないと地球に帰れませんから」

 

「イオ……」とユユル。

 

 帰りたいのは確かだ。

 でも、ユユルのことも今では大事な存在ではある。

 

「イオ様はわしに何をお望みですかな」

 

「ドゥアトのほうも戦力を揃えているでしょうから人手が欲しいんです」

 

「わしでよろしければいくらでも手を貸しましょうぞ」

 

 なんか綺麗すぎて違和感あるな。

 でも、ありがたい言葉だ。

 

「エビちゃん。ありがとうございます。ついでにいま武術大会が行われているんですけど、参加者さんたちを鍛えてやってもらえませんでしょうか」

 

 わたしは傍にいたユユルに視線を投げた。

 ユユルはシードなので、明日から本選で戦うことになる。

 見た感じは、たぶんアレクかユユルのどっちかが優勝しそうな感じ。

 

 まあ本選に勝ち残った人たちは人間基準でいえば相当強いほうらしいので、平民だったら兵士として取り立てて、あるいは英雄としてまつりあげて、イオちゃんズバトルに参加させようという算段だ。王族はもちろん部隊長として魔族と戦争ね。これは決まり事なんでわたしがどうこういう資格はない。たとえわたしの助力がなくてもそうするつもりらしいし。

 

 魔王絶対殺すマンになっている人間さんたちなのでした。

 

「人間とでございますか?」

 

「はい。こちらにいらっしゃるユユル姫様とかな?」

 

「卑小なる人間とわしでは戦いにもならぬと思いますが。見たところ、そちらのお方のレベルはまだ15程度、さすがに力不足というものでしょう」

 

 んー。ここ一か月でかなり訓練してたけど、そのくらいだったか。

 街の周りをグルグル周ってモンスター倒しまくってたみたいだけど。

 ちなみにドラクエ世界においては、訓練でもレベルが上がるようだ。ドラクエⅥとかで兵士たちと戦ったりしてもレベルが上がっていたから、命を奪う必要まではないみたい。地球では訓練してもレベルが上がらなかったのに、ドラクエ星人だけズルいような気がしなくもない。

 

「イオ様の使徒であらせられるエビ様」ユユルが膝をつく。「レムリアンが姫、ユユルと申します。私はまだ若輩者でございますが、エビ様にお力添えをいただれば幸甚でございます」

 

「うむ。よかろう。せいぜい死なぬように気をつけるがよい」

 

 エビちゃん、やっさしー。

 でも、姉ちゃんはあげないぞ。

 

「一応、わたしのお姉さまですからね。傷つけたら許しませんよ!」

 

「ひ、ひえっ。さようでございましたか」

 

「ついでに、バフはわたしがかけてますからね。エビちゃんでも簡単には勝てませんよ」

 

「そ、それは逆にわしのほうが手も足も出せませぬ」

 

「んー」

 

 まあ確かにバイキルトとかは日常生活に支障がでるから二倍程度にとどめているけれども。

 スカラとかアタカンタ系はたぶんこの世界基準じゃなくて銀河レベルでカッチカチだろうしな。

 マホステも反則レベルだろうし……。

 エビちゃんの攻撃でまともに通るのがないかもしれない。

 

「でもそこは武術大会ですから。単純にチートを使って勝つのが正義じゃなくて勝ち方とかありますから」

 

 わたしは言いつのる。

 そうだよ。だいたい剣が肌を切り裂けないとしても、首元に剣をつきつけたら勝ちみたいなところがあるじゃん。わたしまだ参ったしてないよって言っても、さすがにそこまでされたら負けでしょ? だから、ユユルがいくらバフ大盛でも負ける可能性もなくはないんだ。

 

「イオ様。武術大会でイオ様のお力を借りるのは少々不平等な気もします」とユユル。

 

 何回か言われたことではある。

 でも、ユユルは城の外で訓練もしているし、万が一ということもなくはないからバフを切りたくはなかったんだよ。妹として当然でしょ。

 

「女神の加護ですから誰も文句は言いませんよね?」

 

「それはまあそうですが……。実力という意味では鈍ってしまいそうで」

 

「わたしのバフは凍てつく波動だろうがマジャスティスだろうがはずせません。時間経過も無意味です。20万年分くらいつっこんでますからね。つまり、姫様は一生その状態が続くからべつにいいんじゃないですか」

 

「異国の姫よ。イオ様のご寵愛なのだ。素直に受け取っておくのがよいだろう」

 

 エビちゃん、ナイス。

 ユユルは軽く頭を下げて、そのままでよいということになりました。


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