ありふれていない異世界吸血鬼が二大女神と出会う話   作:くたしん

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この小説、感想がえらい少ないんですよね・・・





やはり人生とは思い通りにいかない

 

 

「んぅ……?」

 

 八重樫雫は起き上がり、辺りを見渡す。彼女は敷かれた布団の中で眠っていたようだ。服もいつの間にか小麦色の作務衣を着ている。

 

 雫が今いるのはレミリアの家だ。和室特有の藺草の香りが実家を思い起こさせる。外は明るい。チチチ、と鳥の囀りも聞こえる。

 

 そして、横に誰かいる。そちらを見ると……

 

「おはよう、雫ちゃん」

 

 白崎香織がニコッといつもと変わらない微笑みを浮かべていた。

 

「……かお、り? 香織……なの?」

 

「うん! 香織だよ。雫ちゃんの親友の白崎香織。()()()()()()()()()()()()()()けど……ちゃんと生きてるよ!」

 

「……香織……香織ぃ!」

 

 しばし呆然とし、夢じゃないかと疑う雫。香織はあの夜に魔物に下半身を噛み砕かれて……だけど、夢じゃない。香織に抱き着くと優しく暖かい体温が伝わってきて、自然と涙が溢れた。

 

「ごめんね、色々心配かけちゃって。だけど、この通り元気だから」

「ひっぐ、ぐすっ、よがったよぉ〜」

「本当にごめんね。……あの、それで雫ちゃん。そろそろ離してくれないかな? だんだん苦しくなってきたんだけど」

「がお〝り〝〜! 本当に、本当に無事でいてくれてありがどう〜!」

「うん、私も雫ちゃんが無事で本当に嬉しい……だから、あの、そろそろ。あ、何か体の骨がミシミシ言ってきたヤバいヤバいヤバいちょっとあの落ち着いて話し合おう雫ちゃんまずいよこのままじゃ本当にギブッ!ギブだから!お願い離しぐえっ!?」

「ああっ!? ご、ごめん香織!!」

 

 

☆☆☆

 

 

「けほっ、こほっ。もう、死ぬかと思ったよ」

「ほ、本当にごめん。なんか、力のコントロールが効かないというか……」

「ふふっ、別にいいよ。……私も早くこの体に慣れなくちゃいけないね」

 

 香織は微笑み、左眼にかかってた髪をのけるとその奥に隠れてたものが露わになった。

 

「! 香織……その眼……」

「……雫ちゃんもだよ?」

「え……?」

 

 雫は香織に促され、部屋の中にあった鏡を覗く。そして、愕然とした。

 

「なに、これ……」

 

 雫がそう言うのも無理はないだろう。

 

 二人は元々艶やかな黒髪を持っていたが、今はグラデーションがかった灰色になっている。口を開けば犬歯が、手を見ると爪が鋭利に尖っていて、その気になれば容易に人体を貫き、斬り裂くだろう。

 

 そして、一番変わったのは『眼』。香織は左眼が、雫は右眼の瞳孔が深紅に染まり、強膜の部分は光を一切感じない黒で覆われていた。また、瞳孔は縦に割れていてそれがより一層人外感を出す。

 

「本当になっちゃったんだ……【半吸血鬼】に」

「うん……」

「二人とも起きたー?」

「あ、レミリア……」

 

 襖を開けて部屋に入ってきたのは二人を半吸血鬼にした張本人、吸血鬼レミリア・カルテナとミレディ・ライセン。レミリアは軽い調子で二人に声をかけ、近付くと体をペタペタと触り始める。

 

「えっと、ど、どうしたの?」

「ん? ボディチェックだ。上手く血が馴染んでるかどうかのね……よし、問題ないな」

 

 最後にポンポンと体を叩いたレミリアは立ち上がり再び歩き出すが、その背中に二人が呼びかけた。

 

「どうしたの?」

「い、いや、その……ありがとう。助けてくれて」

「私も、助けてくれてありがとう」

 

 香織と雫はレミリアに頭を下げる。レミリアとしては別にお礼を言われるような事はしていない。二人に惚れているから助けた。それだけの話である。

 

「それでね、レミリア。一つ聞きたいんだけど」

「なに?」

「あの、やっぱり私たちの人生が対価で奪われるの……? でも、それならなんで私達を助けたの……?」

「え? ーーーーーーーーあぁ、それね」

 

 胸の前で手を合わせ、不安気に問いかける雫とは対照的に「そういえばそんなこと言ってたな」と軽い調子でレミリアは思い出した。

 

「なに、貴女たちの命を奪うつもりはこれっぽっちも無いさ。だが人生は貰う。そう言う事だ」

「「どういう事?」」

「いずれ分かるさ」

 

 二人は「何言ってるんだこいつ」みたいな眼でレミリアを見ているが飄々とした様子で流す。二人が顔を見合わせて首を捻る中、ジトーッとした視線をミレディはレミリアに送っていた。

 

よく言うわこいつ。ジョークだったくせに

 

 確かにレミリアの言ってた事はジョークだし対価はいらないと思っているが、『二人の人生を対価に貰う』というのもあながち間違ってはいない。吸血鬼、悪魔に気に入られてその人の人生が変わらないはずがないのだから。

 

 だが、レミリアのあの言葉で二人が死にかけたのは事実。猛省すべきだ。今度からは『ぎゃおー! たーべちゃうぞー!』ぐらいにしておこう、そうしよう。失敗を反省し、見直す事で人類は賢くなっていくのだ。人類に出来て吸血鬼に出来ないはずがない。

 

 

☆☆☆

 

 

 ちゃぶ台を四人で取り囲み、レミリアは二人にお茶を出す。ミレディはゴーレムだから飲めない。そういえば昨日も出したのに結局、二人は一口も飲まなかったなとレミリアは思い出した。毒が入っているとでも思われたのだろうか。今は雫がお茶を綺麗な所作で飲んでいるので警戒心は緩くなったのだろう。

 

 ただ、二人がレミリアのジョークで逃げ出し、死にかけ、レミリアが窮地を救った事により警戒を解いたというのはマッチポンプ感がしてならない。もし二人がこの事に気付いてしまったら全力で謝り倒すか、記憶を操作することも視野に入れなければ。二人に嫌われたら向こう100年立ち直れない自信がある。

 

 そんな感じで内心では冷や汗をかいているレミリアは気持ちを落ち着かせるためにお茶をズズッと啜る。いい味だが、そろそろ在庫が切れる。トータスには似たようなものがあるのだろうか、探さないといけない。

 

 コトッとちゃぶ台の上に湯呑みを置くレミリアだが、そこで香織の様子がおかしい事に気付いた。

 

「どうしたの香織、そんなにソワソワして。トイレは開けて左よ」

 

「違うよ!! えっと、あの、その、ね」

 

 視線を忙しなく彷徨わせ、何か言おうとしている香織。だが、やがて決心がついたのかレミリアを力強く見つめた。

 

「お願いが、あります」

 

「なに?」

 

 香織はレミリアの元まですり寄り、正座のまま頭を下げ、叫んだ。

 

 

 

 

「今から私と一緒に南雲くんを探してくれませんか!!!」

「……」

 

 

 

 

 まぁ、そうなるか。レミリアは香織の頭を見る。綺麗な髪の毛だ。梳いてみたい。邪念が入った。

 

 レミリアはトータスに召喚された際、一度行った所に移動できる魔法【影移動(シャドーダイブ)】を使おうとした。そして、レミリアは【不気味な何でも屋】として〝七十階層〟まで攻略している。

 

 

 つまり、レミリアはその気になれば()()()()()()六十五階層まで行けるということだ。

 

 

 レミリアには翼があるため〝奈落〟にはそのまま飛び降りれる。仮に奈落で魔物に遭遇したとしてもレミリアの強さから考えても問題ないと言っていい。香織と雫は【半吸血鬼】になって力を手に入れた。レミリアに付いて今すぐ奈落に飛び込みたい気持ちはよく分かる。

 

 だが、駄目だ。今すぐには連れて行けない。

 

「なんで。もしかして【影移動(シャドーダイブ)】は一人でしか移動できないとか……?」

 

「いや、【影移動(シャドーダイブ)】は四人までなら同時に移動させることができる。ふむ、そうだな……私の血がまだ貴女たちに馴染みきっていないから、と言えばいいか」

 

 今の二人の体は吸血鬼の血が入り、強大な力が入った反面、まだその扱いに慣れていない。もしこの状態で戦闘にでも参加すれば、ダッシュをする度に足は捥げ、敵を殴るたびに腕は爆散する。少なくとも今日一日は安静にして翌日からトレーニングするというのが理想的だ。勿論、血がすぐ馴染むというわけにはいかず、トレーニングは暫く続ける事になる。

 

 それに

 

「貴女たち、武器壊れたでしょ?」

 

「「あ……」」

 

 そう、二人の武器はサーベルタイガー型の魔物に襲われた際に使い物にならなくなってしまった。今の状態で武器無しは流石に無茶だ。

 

「そう、か……すぐに行けるわけじゃなかったんだね……」

 

 香織としては少しアテが外れた感じだ。吸血鬼の力は控え目に言っても強大で、そんな力を一朝一夕で扱えるわけがない。

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

 香織はそこまで言って言い淀むが、何を言いたいのかはレミリアには分かっている。

 

「皆まで言わなくてもいいわよ香織。ーーー私に南雲くんを探してほしいんでしょ?」

 

「!!……うん……でも、駄目だよね? 私がこの体(半吸血鬼)になった意味が無くなるし、レミリアに払えるものなんて何もないから……」

 

 そう言って困ったように笑う香織だが、レミリアにはコテンと首を傾けた。

 

 

 

 

「え? 別にいいけど?」

 

 

 

 

 

「え、あぁそうなんだ。ありがとう……ってうぇえええええええええええ!? い、いいの!?」

「何かご不満?」

「いっいや、そりゃありがたいけど……なんで? 私、払えるものなんて本当に何もないよ? あ、それこそ魂を対価に、とか?」

 

 一体自分は何だと思われてるのだろうかとレミリアは問い詰めたくなったが、ミレディから「おめぇの自業自得だし、おめぇは吸血鬼だろうが」という視線が飛んできたので黙っておくことにした。つくづく『人生を対価に欲しい』と言った事を後悔するレミリアであった。口は災いの元とはよく言ったものである。

 

 

「あのねぇ、私は貴女たちに二目惚れしたって言ったじゃない。好きな相手に対価を求めるってあり得ないでしょ?」

 

 

 しかも、二人はレミリアの【娘】だ。なおさら対価を求めるのはおかしい。香織が望むなら喜んで奈落に飛び込むつもりだ。

 

「レミリア……ありがとう」

 

 香織がレミリアに向かって頭を下げ、少し遅れて雫もレミリアに頭を下げる。別にそこまで気にすることではないのだが。

 

 しかし、いいのだろうか。

 

「え、何が?」

 

()()()()()()()

 

「っ!」

 

 今から奈落に向かえば、答えが出る可能性がかなり高い。いや、出る。まだまだ先だと思ってたことが、現実になる。

 

 大雑把だが南雲ハジメの生存比率は(デス)9割。(ライク)1割と言ったところか。いや、もっと低い。香織はその低すぎる確率で心を保っている。もし、心の準備が出来ていない状態でハジメの死を確認してしまったら精神に途轍もないダメージを負うだろう。

 

 だが、もし南雲ハジメの死が確定しても二人には絶対に強くなってもらう。容赦はしないつもりだ。それでも本当にいいのだろうか。

 

「香織が望むなら一日ぐらい間を置くけど?」

 

 一応、レミリアは確認を取る。だが、香織にそんな心配はいらない。

 

 

「ーーー何言ってるのレミリア。私のエゴで南雲くんの生存確率を更に低くするわけにはいかないよ」

 

 

 いい眼だ。眼を逸らさず、真っ直ぐ力強くレミリアを見つめる。レミリアはニッと笑って立ち上がると軍服に着替えた。

 

「OK香織。貴女の依頼を受けるわ」

「ありがとうレミリア。このお礼は絶対するから」

「大丈夫よお礼なんて。私は貴女たちの【娘】なんだから」

「……私達に【半吸血鬼】になれって言った時から気になってたんだけど、何で私達の事【娘】って呼ぶの?」

「半分私の血が入っていて、私は貴女たちが大好き。となるともうこれは親娘って事よね?」

「「いや、その理論はおかしい」」

 

 なんか色々と大切なものをすっ飛ばしてるような気がするし、香織と雫の親は今も地球で愛娘の帰りを待っている。親ではない。そう言われたレミリアは口を尖らせた。

 

「思想、文化の違いって奴かねぇ……まぁいいわ。対価なんて気にしなくていいから」

 

「それはだめだよ。こういうのはしっかりしておかないと」

 

「貴女、中々頑固ね。ーーーーーーじゃあ、今貰うわ」

 

「え?ーーーーーーーっぅ!?!?!?」

 

 レミリアは香織に一瞬で近付くと、突然左肩と首の間に噛み付いた。鋭い牙が皮膚を貫き、溢れ出した血を吸い上げる。

 

「何をっ」

 

 雫は慌てて立ち上がり、レミリアの吸血を止めさせようとしたが香織が手で制する。

 

 香織には分かったのだ。レミリアがこれで手打ちにしてくれている事に。自分の想い人を見つけるためならこれしきの事、喜んで受け入れる。

 

 数秒経ち、レミリアは口を離す。首筋と口元に赤い橋がかかり、ぷつりと切れた。血を飲み込んだ後は目を瞑り、全身で味わう。

 

 

ーーあぁ、極上ーー

 

 

 舌でペロッと血を舐め取ると全身をエネルギーが駆け回るのをレミリアは感じた。ゆっくりと眼を開けると更に深紅に染まった瞳孔が姿を現す。

 

「ご馳走様。あんまり悪魔にお礼を払おうとするものじゃないわよ。分身は残していくから後の事はそっちに聞いてね。

 

 

 

 

 

ーーーそれじゃ、行ってくるわ」

 

 

 作務衣姿のレミリアの分身が現れた後、レミリアの本体の全身が黒く染まる。そして、まるで液体のように溶けてその場から姿を消した。

 

「……行っちゃったか。帰ってくるまでどうしよう、かお……どうしたの? 大丈夫?」

「ふぅ……ふぅ……あ、あのレミリア……なんか、体がめちゃくちゃ熱いんだけど……!?」

「あぁ、そりゃ媚毒を注入したからね。すぐ消えるわよ」

「びどっ……!?」

「うちの香織になんってもん注入してくれてんのよ!?」

「そんな事言われても」

 

 媚毒は吸血鬼が持っている毒の一つだ。牙を突き刺すと同時に大量の媚毒を注入し、毒漬けにする。そして解毒も吸血鬼にしか出来ない。つまり、この毒は獲物を逃さない為のもので、普通に噛み付いていたら香織は今頃気が狂いかけている。

 

 牙で皮膚を貫くと人間は痛がるから影響が然程出ない量の媚毒を注入して吸血を行なったのだ。これ以上どないせいっちゅーねん。肩を掴んで揺らす雫に対してレミリアは投げやり気味にそう答えた。

 

 

☆☆☆

 

 

 レミリア(本体)が奈落に向けて出立した後、香織も通常に戻り、特にやる事のない二人はレミリア(分身)に半吸血鬼の体の取説を聞く。

 

 半吸血鬼の特徴は以下の通りである。

 

・魔力の直接操作

・体がミンチになっても再生するほどの再生能力

・爆発的な身体能力

・寿命の増加、成長による見た目の変化がほぼ無くなる

 

 身体能力に関してはトレーニングをすればまだまだ伸びる。あと、吸血鬼の弱点である太陽については半分人間のため、吸血鬼のように当たった瞬間灰になるわけではなく、日に焼けやすい程度だ。その辺はレミリアが持っている『吸血鬼印の日焼け止め〜(青狸感)』で何とかなる。

 

「なんか気になる事はある?」

「気になる事……この見た目どうにかならない?」

 

 二人の瞳孔は縦割れ紅眼だし、爪はまるで刀のよう。翼は生えていないが控え目に言っても人外だ。このままでは流石に色々と不都合が出る。

 

「あぁ、それは大丈夫よ。血が馴染んだら見た目は元通りになるから」

「ほっ、良かった。あとはやっぱり身体能力かな。今でどれくらいなんだろ?」

「それは私も気になるわね」

 

 二人はステータスプレートを取り出すが、その瞬間顔が固まった。

 

「「ん??」」

 

 数秒後、香織と雫は再起動。首を捻った後、ステータスプレートを透かしてみたり、コンコンと叩いたりする。急にどうしたのだろうか。

 

「「ステータスプレートが壊れてる」」

 

 二人のステータスは以下の通りだ。

 

=================================

 

白崎      歳     レベル:

 

天職:^ ^

筋力: ( ͡° ͜ʖ ͡°)

体力: ( ^ω^ )

耐性: ✌︎('ω'✌︎ )

魔力: ( ・∇・)

魔耐: ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆

技能:( ✌︎'ω')✌︎

 

 

八重     歳     レベル:

 

天職:( ´Д`)y━・~~

筋力: d( ̄  ̄)

体力: *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

耐性: ٩( 'ω' )و

魔力: ( T_T)\(^-^ )

魔耐: (● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

技能:\(//∇//)\

 

=================================

 

 ステータスプレートがゴミと化した瞬間であった。やはり吸血鬼の血が入ると機能しなくなるらしい。まぁ、神の天敵のステータスなんて表してどうするんだ、という話か。

 

 というわけで二人のステータスプレートは後でレミリアが偽装する。

 

 次に今後の方針についての確認だ。

 

 まず二人にはここに住んで、己を徹底的に鍛え上げてもらう。その後はクラスメイトの所に戻ってオルクス大迷宮を攻略。大雑把に言えばこんな感じだ。

 

「あと、修行に関してはかなりキツくやるつもりよ。本当に大丈夫?」

「うん、望むところだよ」

「右に同じく」

 

 そう、と言ったレミリアは二人に隠れてニヤリと笑った。言質はとった。これで完璧やな。ミレディが「うーわっ」と引いてるが気にしないでおこう。別に殺すつもりはないから問題ないというのがレミリアの理論だ。

 

 さて、あとは南雲ハジメを見つけるだけだ。落ちた場所は香織から教えてもらってるし、今は本体が奈落に到達してる頃だろう。という事はもしかしたら南雲ハジメを見つけてるかもしれない。いや、連絡がないという事はまだか。

 香織はソワソワと落ち着きがなく、雫もなんて声をかけたらいいか分からない感じだ。もしかしたら今この瞬間にでも物言わぬ南雲ハジメと対面するかもしれない、冷静になれないで当たり前だった。お願い、無事でいて……! と言わんばかりに香織は顔の前で手を組み、必死に願うがぶっちゃけそれは厳しい。

 レミリアの眼を持ってしても奈落の底は見えなかった。そんな高さから英雄クラスの人間が落ちるならまだしも、一般人並みのステータスらしい南雲ハジメが落ちて無事なはずがない。彼が落ちてからまだ二週間も経っておらず、吸血鬼の鼻は人間の血に敏感だ。落ちたポイントを探せばすぐに見つかるだろう。

 現実というのはいつだって非情なものだ。香織にはすまないと思うが世の中そういうものである。人はいつだって簡単に死ぬ。早いか、遅いか、それだけだ。

 しかし、南雲ハジメを見つけた後どうするべきか。香織は深い悲しみに襲われるだろう。アフターケアの事を考えなければ。彼女の好物、趣味は一体なんなのだろうか。親友である雫の助けも借りよう。

 

 娘の想い人の無事を第一に祈らないあたり、やはりレミリアは悪魔だしロクでもなかった。

 

 

☆☆☆

 

 

 コツコツコツとちゃぶ台を人差し指で叩くレミリア。誰も何も喋らない空間で指の音だけが響く。

 

 

 レミリア(本体)が奈落に向かって出発し、二時間が経った。

 

 

 おかしい。時間がかかりすぎだ。一体何をモタモタしているのだろうか。

 

「あの、レミリア……」

 

「あぁ、分かってる。(おい、本体。何をしている。そんなに時間がかかるような依頼じゃないだろ)」

 

 痺れを切らしたレミリアが本体と通信を取る。

 

 落下ポイントは絞れてる上に分身はまだ出せる。何らかのトラブル(魔物に死体を漁られる)等などなければ……いや、それでも痕跡は多少残るはずだ。見逃すようなレミリアではない。

 もし万が一生きていたとしても大怪我をしている事には間違いない。そう遠くへは行けてないはず。なのに、何故。

 

 本体から返信が来た。レミリアは眼を見開く。

 

 

「は? 見当たらない? 痕跡の一つもか?」

 

 

 何故そんな事になったのか。二時間前に遡る。

 

 

 

ーー二時間前ーー

 

 

 どこまでも続く闇、崩落した橋桁。レミリアの眼下に広がるのはそんな光景。ぽっかりと空いた奈落がレミリアを誘ってるようにも感じた。

 

「望む所だ」

 

 牙を見せ、獰猛に嗤うレミリアは翼を折り畳み、奈落に向かって飛び込んだ。

 

 

 

「さぁ、奈落攻略。行ってみよう!」

 

 

…………

 

 

…………

 

 

…………

 

 

 

 と、まぁこんな感じで格好つけたがぶっちゃけ簡単な仕事だ。ただの人間があんな高さから落ちて無事なわけがない。地面に叩きつけられた死体を回収してオワオワリである。

 

 レミリアは奈落の底に立つと足首まで水に浸かった。そういえば降りる途中にちょっとした滝、鉄砲水が崖から何本も噴き出ていたな。それが底に流れて川を作ってるらしい。

 

 周りは完全な闇に覆われているがレミリアは吸血鬼だ。夜目が効くので特に問題はない。

 

 だが、もし死体が川に流されたのなら厄介だ。深い所でもレミリアの脹脛ぐらいまでしか浸からないような深さな上に流れも緩い。流されるような事は無いと思うが、水により鼻が効かなくなるのは誤算だった。レミリアは分身を更に二体と無数の蝙蝠を出現させて周囲の捜索にあたる。

 

 さて、さっさと見つけるか。

 

 

 

 

 

 二時間後

 

 

 

 見  当  た  ら  な  い

 

 

 いや、なんで?????????????

 

 

 死体どころか痕跡の一つすら見つけられない異常事態にレミリアは混乱した。どこか見落としがあったか? 

 

 いや、『あの魔法』はこういう時は役に立つ。あれで何度も確認したのに見当たらないという事はこの近辺には確実にいないという事だ。

 

 突き出た岩棚の上で胡座を組み、考えるレミリア。すると、分身から連絡が入った。

 

 (本体。気になるものがあった。ちょっと来てくれ)

 

 それを聞いた本体は翼を使って上昇。呼び出した分身は奈落の途中(巨大な縦穴の中程)で空中に留まり、崖を見つめていた。

 

「なぁ、本体。これをどう思う?」

「どうって、ただの横穴じゃない」

 

 レミリアの眼の前にあるのは水流によって出来た横穴。滝の一つが反対側の崖から鉄砲水の如く飛び出てていて、そのまま穴に飛び込み、中はウォータースライダーのようになっている。

 

「南雲ハジメは橋から落ちたって言ってたよな?」

「えぇ、そうね」

「橋から真下に落ちると何本か鉄砲水が噴き出てるわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……いやいやいやいや、まさか」

 

 横穴は人一人ぐらい余裕で飲み込みそうな大きさだ。その先はどこまで続いているか分からない。

 

 

 

「嘘でしょ」

 

 

 

……

 

 

……

 

 

……

 

 

「という事は、まだ南雲くんは生きてる可能性があるって事だよね!? よね!?」

 

「え、ま、まぁ、うん。そ、そう……かもね」

 

 場面は家に戻り、レミリア(分身)から説明を受けた香織は身を乗り出して勢いよく迫ると、レミリアは歯切れ悪く返答。香織はほっと息を吐き、安堵したかのように座る。雫も少しだけ肩から力を抜いた。

 

「ひとまず、一安心だね……レミリア」

 

「……なに?」

 

 香織と雫は「せーの」と息を合わせ、

 

 

「「明日から、よろしくお願いします!!」」

 

  

 決然とした表情で、二人はレミリアに頭を下げた。

 

 

「えぇ。よろしく」

 

 

 レミリアがそう返答すると香織はやる気を漲らせているのか、笑顔を見せながら両手でガッツポーズを作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそっ、最悪だ!!!

 

 そんな香織とは対照的にレミリアは内心で思いっきり舌打ちした。これで事が済むだろうとタカを括っていたがとんだ大誤算である。捜索は続けるつもりだが、範囲が一気に広がりすぎてすぐに見つけられる自信は正直言って無かった。人生は思い通りにいかない方が面白いとはよく聞くがこんな所で面白さは求めていない。

 

 行方不明者を探す=自分の心臓に針をずっと突き刺し続けるようなものだとレミリアは考えている。その人を見つけない限り一生取れる事はない。

 

 南雲ハジメが生きていれば一番いいのは間違いないが、それは希望的観測すぎる。死んでいたら香織は深い悲しみに襲われるだろう。その死を一生忘れられないかもしれない。だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、行方不明は一番最悪だ。今のように下手に希望を持ってしまい、針は一生刺さったまま。そして時間をかければかけるほど針はより深く突き刺さり、抜けなくなる。その人を探し続けて、前を向く機会を失う。こうなると本気で記憶を操作する事を考えないといけない。

 

 

 

 レミリア・カルテナにとって南雲ハジメなど()()()()()()()()

 

 

 

 生きていれば万々歳。死んでいたらそれまで。それくらいにしか思っていない。この捜索で生きているにしろ、死んでいるにしろ、すぐに見つけたかった。

 

 それがレミリアの、今の率直な気持ちだった。

 

 

 





補足

最初の二人が喜び合うシーン。これはweb版銀翼天使戦の後の・・・これ以上は察してください。

二人の眼→モチーフは東京喰種の赫眼で、瞳孔を縦割れにしたもの。厨二心がくすぐられますねぇ! 東方で言うなら禍霊夢

記憶の操作、何故今しない?→もし万が一ハジメが生きて見つかった場合、不具合が出るため。

レミリアにとってハジメはどうでもいい→会話もしてないような奴に思い入れなど出来ません。そもそも人間は吸血鬼にとってただの餌でしかなく、香織、雫のようなパターンはかなりレアです。

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