ありふれていない異世界吸血鬼が二大女神と出会う話 作:くたしん
遅くなりました。
今回から書き方変えてます。
南雲ハジメの生死が相変わらず不明なまま翌日になった。本体はそのまま奈落攻略を続けて、修行は分身が担当する。
香織と雫は最初どんな事をやらされるのかと身構えていたけど、生憎、私は普通の事しかやらない。
しばらくはランニング、腕立て、腹筋、スクワット、体幹トレーニングなどの基礎的なものを二人にはこなしてもらう。もう少し実戦も交えるのかと二人は思っていたらしいけど、基礎も作れてないのにいきなり実戦とか出来るわけない。当面は体作りだ。よく動く! よく寝る! よく食べる! を基本に二人には修行を頑張ってもらう。
これでも一応工夫はしている。
二人は半吸血鬼なので基礎スペックが大幅に上昇しており、人間基準のトレーニングをするとあまりにも時間がかかりすぎてしまう。
そこで私が考案したのが、ミレディの〝重力魔法〟で二人に負荷をかけること。これにより効率が良いトレーニングが出来るようになった。腕立て伏せをやり終えた後、地面を見るとくっきりと自分の手形に大地が陥没していて、二人は驚愕していた。ちなみにミレディは「本来はクソッタレを倒すための魔法なんだけどなぁ……」と何やら不満気だった。魔法は使い方一つだ。敵を屠るためだけに使うというのはつまらないというのが私の弁である。
また、二人の新しい武器は現在、鋭意製作中だ。というのも私の予備の武器はあるが二人にはサイズが合わないので一旦溶かし、素材を継ぎ足した後、再度打ち直しをしている。大体二週間ぐらいで完成するわね。まだ向こうの世界の素材を持ってて助かったけど、とてもじゃないが防具には回せないな……これは現地調達で行くか。
あぁ、こんな時に神や転生者たちから奪い取った神器があればなぁ、と思ったがすぐにその考えを否定した。
当たり前の話だけど、『神の』『武器』である神器は悪魔と物凄く相性が悪い。物にもよるけど吸血鬼である私が神器を持った瞬間、体は爆散する。半分吸血鬼である香織と雫もアウトだ。持った瞬間、内臓がスプラッタになる。現象としては完全に呪いの武器とかのそれよね。神罰が下りそうな発言だけど、実際そうなのだから仕方がない(体験談)。神器はやはり棚に飾り、鑑賞するのが一番良い。装飾には目を見張るものがあるからね。
え? 持てないのにどうやって棚に神器を飾っているのかだって? 答えは簡単。トングか何かで挟むのよ。汚物処理みたいになっているがこうでもしなければ持ち運べない。やっぱり神罰が下りそうね。
ちなみに最近手に入れた神器は『暴炎(ばくえん)神龍セット』と『赤龍の剣』という防具と大剣だ。背中部分から生えている翼みたいなのがスペースを取って仕方がない。奪う際に『この武器はなぁ!全サーバー初なんだぞぉっ!!』って訳の分からない事を言っていた。転生者って時々訳が分からないのよね。
☆☆☆
二人が私と出会って二週間が経った。相変わらず南雲ハジメは見つからない。
この頃になると二人の身体も吸血鬼のスペックに追いついてきたのか、かなり機敏な動きを見せるようになった。どうやら体がだいぶ仕上がって、奈落に投入しようかとも考えたが今のままでは私の足手まといでしかないのでここから第二ステップに入る。
唐突だがここで後日の二人にインタビューしてみた。
Q:第二ステップを終えてどうでs
A:二度とやりたくない!!!!
という返答を頂くくらい大好評の第二ステップだったが一体どういうものだったのか。
ある日。広場にて
「二人とも、新しい武器には慣れた?」
「うーん、正直まだ全然かな?」
「私も。刀を振っている、と言うよりかは刀に振られてるって感じね」
そう言い、ため息を吐く二人の腰にはようやく完成した新たな武器が提げられている。
雫が腰から提げている桜色の鍔と若紫色の柄が特徴の太刀の名は【陽断〈アマタチノカミ〉】。黒い鞘に収められたその太刀を抜けば海のように蒼い刀身が全ての敵を斬り裂く。
香織が腰から提げているのは二振りの小太刀だ。名は【風雷〈タチミカヅチ〉】。白い鞘の中では黄金色の刀身が抜き放たれる時を待っている。
二人の武器は【秩序無き世界】に生息している【龍】の素材で作られた物だ。龍の名前は【嵐龍】と【雷龍】。この二頭は番(つがい)で、嵐龍が竜巻と共に雲を広げ、雷龍が雷を落とすコンボは中々にえげつなかった。仕留めるのに丸一日かかり、なんど体を砕かれたかも覚えていない。ついでにその余波で一国が滅んだ。悲しい事件だった。
「素材が強力だからね。ひたすら使って慣れるしかないわ。そんな訳で今日やるのはこれよ」
そう言った私が両手を胸の前で組むと同時に、半径百mほどのドーム状の結界が辺りを包みこむ。
「レミリア、何を始める気?」
「まぁ、見てなさいよっと!」
私が結界に更に魔力を込めると、虚空から鋭い目付きと額から生えている一本の鋭利な角が特徴の白兎が一匹現れた。
「……? ! キュッ!」
白兎は辺りを見渡し、二人を視界に捉えると猛然と駆け出す。
「雫、倒しなさい」
「了解……シッ!」
雫は居合の要領で【陽断〈アマタチノカミ〉】を抜刀。洗練された動きで飛びかかってきた白兎の首を音もなく切り落とす。白兎の断面からは鮮血が……ではなく突然全身が光り、体が粒子状になって雫の中に入り込んだ。
「! これは……?」
「雫ちゃん、大丈夫……?」
「えぇ、まぁ……?」
少しだけ心配そうに雫を見つめる香織だが、当の本人は頭の上にいっぱい?マークを浮かべ、頭を傾けていた。
「雫、体は今どんな状態?」
「どんな状態? うーん……えーっと……」
あーでもない、こーでもない……雫は目を閉じて言葉を考える。別にそこまで悩む必要はないと思うんだけど。
「なんと言うか……その……めちゃくちゃほんのりと強くなった……? みたいな感じかしら」
「大体それで合ってるわ」
「レミリア、何をしたの?」
「そう慌てないで。今から説明するわ」
まず、この術を開発した経緯から説明しよう。
これを開発したのは大昔の事。とある転生者から聞いた話だ。
その転生者曰く、他の異世界では敵を倒せば倒すほど経験値というものが手に入り、レベルアップしてどんどん強くなっていくと言う。それを聞いた私はこう思った。
え、何それ。ズルい。
敵を倒すだけでどんどん強くなる!? なんてチート! 羨ましすぎる。もし私がそんな世界にいたら経験値集めのために積極的に人類を滅ぼしにかかる事だろう。自分が強くなるためだ。しょうがないよね。
この世界(トータス)もそうだけど秩序無き世界で強くなるにはそんな楽には行かない。強くなるためにはひたすら己を苛め抜くしかなく、筋力を上げるための筋トレ、ランニング。武術は体に叩き込み、魔法やスキルはひたすら使う事でその練度を高めていき、その努力の結晶を強敵にぶつけ、戦闘技術を磨く。その過程はひたすら地味で、根気も必要。効率も悪い。
だが、そんな話を聞いては試さずにはいられない。私は早速、そのシステムを再現する魔法を開発し始めた。効率化できるところは効率化する。それは強くなるためにも必要な事だから。
そして出来上がったのがこの魔法【永遠狩猟】(なお、本体でしか出来ないため、やる際は分身と入れ替わっている)。超簡単に言うと、この結界内に発生した魔物を倒せば倒した人間が強くなる。さっき雫は白兎を倒した。その時に『経験値』が入り込んだため、ほんのりと強くなったように彼女は感じたのだ。
「つまり、ドラ◯エみたいに敵を倒せば倒すほど私達はレベルアップして強くなるって事だね?」
「ド◯クエっていうのはよく分からないけどそう言うことよ。じゃ、早速始めましょ」
「ちょっと待ってレミリア。気になる事があるんだけど」
「なによ雫」
「この魔法、【永遠狩猟】って言うのよね? なんか嫌な予感「さ、始めるわよー」ちょっ!? 待ちなさいよ!!」
待たない。余計な事に気付く前に結界に魔力を込める。
私の魔力が注ぎ込まれた結界は白く輝き、魔力の嵐が吹き荒れる。あまりの暴風に二人は吹き飛ばされないようにするので精一杯だ。やがて嵐が治るとそこに現れたのは軽く数百を超える魑魅魍魎共。体長十mは軽く越える巨人を筆頭に蛇や狼、熊型などなど巨大な魔物達が皆その目に敵意を宿し、濁流の如く襲いかかってきた。
二人の顔が固まる。
「え゛? 何これキイテナイ!!」
「やっぱり!! 謀ったわねレミリア!!」
「あんなチマチマした事やってられないわ! 数十年もやり続けるつもり? 限界を越えるのよ!」
私は結界の外に脱出。視界から外れ、無数の魔物達は香織と雫をロックオン。涎を垂らし、棍棒や牙といった各々の武器を構える。
「うぅ……よ、よしっ! もうこうなったらヤケだー! やるよ雫ちゃん!! 絶対二人で生き残ろう!!」
「……ええ! 覚悟を決めろ私! ここを死地と定めよ! 全身全霊をもって目の前の敵を打ち砕け!」
そう叫んだ二人は共に抜刀。気合いの声を上げて魔物の海に突撃した。
…………………………
…………………………
…………………………
一時間後、二人は黒焦げになって倒れた。魔物の数はあと百ぐらい。うん、まだまだね。とりあえず二人の回収に向かう。これ以上攻撃されたら再生するための時間も魔力も勿体無い。
☆☆☆
「「ひ、酷い目にあった……」」
体の再生を終わらせた二人がうっへりとした様子でそんな事を呟く。再生はどうやら上手くいったようだ。
「じゃ、十分後に再開ね」
「「え゛??」」
二人はしばらく呆けた後、自らの頭をトントンと叩いてみたり、耳を引っ張る。何をしているのかしら。
「ごめんレミリア。私、耳がおかしくなったみたい。今『十分後に再開』って聞こえた気がするんだけど」
「別におかしくとも何ともないわ。この後はずっとこれよ」
香織が苦笑しながら私に異常を報告してくるけど、特に問題はなさそうだ。私も笑顔で伝えると二人の表情がまたもや固まった。
「あ、あのレミリア。私たち今結構とんでもない状態になってたよね……?」
「えぇそうね。見事な散り方だったわ」
「そ、それで今なんて?」
「十分後に再開ね」
「「ノー! 絶対にノー!!」」
「???????」
二人は激しく拒絶。私は少しだけ混乱した。なぜだ、強くなりたいと願ったのは二人の方だ。この特訓はとても効率よく自身を強化できる。今、数体とはいえ魔物を屠った事でよりその効果が実感出来たはず。なのに一体なにが不満だと言うの。
「二人とも、安心なさい」
「「?????」」
「貴女たちは絶対に死なせない。吸血鬼の体はいくらでも再生するわ。だから、何度でも挑戦出来るのよ?」
私は二人の肩にポンと手を置きその後サムズアップ。安心出来るように、なるべく優しく笑いかけた。体が爆散しても治るって事はただの怪我、修行で怪我しないなんて事はない。永遠狩猟は死ぬ心配も無く、敵を倒すだけで簡単に成長できる。体がミンチになった程度で死ぬ人間ならばこうはいかない。吸血鬼だからこそ出来る業だ。あぁ、なんてチート! 二人はとても運がいい! 信じれば救われるかもしれないとか曖昧な事を宣う神になんて頼る必要はない! 悪魔は確実に契約者に利益をもたらす。さぁ、一狩り行くわよ!
「「うぼぁ」」
珍妙な呻き声と共に、二人の口から魂らしきものが出てきた。流石に魂が無いと死んでしまう。体内に戻っていただこう。
「「はっ、ここは誰? 私はどこ?」」
魂を体内に押し込むと二人は再起動。だいぶバグってるようだがどうやら無事のようだ。
「じゃ〜十分後ね〜」
「「…………グズッ、はい…………」」
二人は死んだ目でそう頷いた。さて、私は少しだけ離れよう。そろそろ隠すのも限界だ。
☆☆☆
「ゲボッ!ゲホッ、ゲホッ!うぐっ……! ゲボッ……オェ……!」
家の裏に回ると同時に激しく咳き込み、血の塊を地面に吐き落とす。体の中心をミキサーかなにかで掻き回されているような感覚に襲われ、嗚咽する度に口から血が滝のように落ちる。それだけではなく、目や鼻からも血が滴り、腕を見ると皮膚が一部パックリと裂けて骨まで見えていた。
なぜ私がこんな状態になっているのかと言うと先程の【永遠狩猟】にある。
永遠狩猟は結界内に出現した魔物を倒す事で『経験値』が手に入る。
では、その『経験値』は何処から生み出しているのか?
答えは簡単。私の『魂』だ。
削った魂は結界を通じて経験値に変化。それを核に魔物を生み出し、倒させる事で強化する。これが永遠狩猟のメカニズムだ。私は不死身の吸血鬼。魂も再生するし、痛みにも慣れているので命に別状は無いが、一つだけ問題点がある。
それは、文字通り魂を削っているからか、仮にも生命を誕生させているからなのか、とにかく反動がエグい。お手軽簡単に強化が出来るその代償は凄まじく、倦怠感は勿論のこと、酷い時は毛穴という毛穴から血液が噴出したり、目がグチャグチャに溶けたりする。いや、別にそれも問題では無いな。どうせ再生する。倦怠感は気合いで何とかなる。
本当の問題はこの状態の自分を香織と雫に見られる事。心優しい二人の事だ。血反吐をぶち撒け続ける私を見たら心配して修行どころでは無くなるのは過去の体験から知っている。それはマズイ。私はこれ以上に効率の良い特訓方法を知らない。
「レミリア、お前……」
「!……なんだ、ミレディか」
声が聞こえたので慌てて振り向くといたのはミレディ。見られたのが香織と雫じゃなかったのは幸いだ。
「ミレディ……あの娘たちに言うんじゃ無いわよ……私は……あの娘たちに、強く……うぐっ、ゲボッゲボッゲボッ……!」
「…………」
「あぁ、きつい……きついわ……でも、こんな事で……立ち止まれない……なのに……くっ!」
「…………」
「ミレディ、私のこの魔法は文字通り魂を削るの……だから、もし……私に何かのことが起こったら……あの娘たちの事を……」
「レミリア……
いや、なに深刻そうな雰囲気出してんだよ。お前不死身だろ」
「ノリが悪いわねぇ。もう少し心配しなさいよ」
私は水を取り出して口を濯ぎ、ペッと吐き出した。ミレディが呆れた様子で見てくるが、そんなんだから友達が少な……ミレディが重力魔法を放ってきた。そんなにケンカしたいのね。受けて立つ!
☆☆☆
更に数日経った。
基礎トレーニング、永遠狩猟。吹っ飛ぶ。
魔法の訓練、永遠狩猟。吹っ飛ぶ。
武器の扱い方を教える、永遠狩猟。ぶっ飛ばされる。
模擬戦、永遠狩猟。体がミンチになる。
そんな感じで血と骨と肉が乱舞し時々ウェルダンになるという人肉喰らい垂涎不可避(ジュルリ)な毎日を送っている二人は今日も一日の修行を終えて家に戻ってきた。艶やかな黒髪は血と泥だらけ。修行中着ている作務衣もボロボロ。そんな二人は家に戻るとすぐにぶっ倒れた。永遠狩猟をやり始めてからはよく見る光景だ。偶に家にたどり着けず道中で気絶する。悪魔である私から見ても年頃の女の子がやる事では無いが、二人が強くなりたいと願ったし、確認も取った。仕方がないね。
「ふふっ、今日も死んじゃった……死んじゃった……体がベギバギィ!って……そういえば今日新しい死に方したよ雫ちゃん……」
「奇遇ね香織。私もよ。人体ってあんな事になるんだ〜アハハ」
ドブのように濁り切った瞳で今日の死亡報告をする二人。いや、別に死んでないから死亡報告ではないわね。それはそうと二人とも血やら汗やらが混じってとてもヤバい臭いがするので早く風呂に入ったほうがいい。
「……あぁ、うん……そうするよ……」
「お言葉に甘えるわ……」
ズルズルとゾンビのように部屋の外に出る二人。この家は【
二人の姿が完全に消えた後、ミレディが口を開く。
「なぁレミリア。永遠狩猟、だっけ? あれもうちょっと何とかならないの? ほら、例えば魔物をもう少し弱くする、とか動かないようにするとか」
「無理ね。魔物を弱くすると必然的に得れる経験値は少なくなるし、魔物は生み出した後は制御ができないのよ」
それに、力だけを得た者の末路などロクなものではない。私は何度もそれを見てきた。敵と戦う事で技術も向上させないと力はついてきてくれない。
「と言っても、あの娘達そろそろ精神的にやばいだろ。二人ともボロボロじゃん。やつれてるし、目の下に隈が出来てるし。少し休ませたら?」
「休ませる必要はないわ」
「ーーーーー本気で言ってるのか」
チリチリと肌を焦すような魔力の波動をミレディから感じる。だが、そんな威嚇をされても私は意見も方針も変える気は微塵もない。
「オルクスに挑む前にあの娘たちが潰れるぞ」
「あの娘たちが? はっ、冗談」
瞬間、轟ッ! ミレディの魔法が私の頬をかすめて通過。背後でドォン! と音を立てて襖が破壊された。おい、後で直せよ。
「せめて一日ぐらい休ませてあげろ。あの娘たちはちょっと前までロクに戦いも経験していないただの子供だ。そんな娘たちがあんな修行に耐えられるわけないだろ」
その殺気は出会った時のことを思い出す。私が無理矢理外に連れ出して、殺し合いをして……いや、私は死なないし、ミレディも色々と特殊だから殺すわけにもいかないので殺し合いではないか。仲良くケンカし続けたものだ。やるというのなら受けて立つけど、今はそれどころではない。今度、時間がたっぷりある時にやろう。
「ミレディ、貴女こそあの娘たちの事をなめていないか?」
「……なんだと」
私は立ち上がり、厨房に向かう。そろそろ始めるか。おっと、その前に。
「この後、時間ある? いいものを見してあげるわ」
☆☆☆
草木が眠る丑三つ時。ライセン大迷宮のミレディの自室に赴くと部屋の主は「うげっ」と面にとても嫌そうな表情を浮かべた。悪魔である私にとってとてもそそられる表情だがこの後に差し支えるので今はチンピラのようにウザ絡みするのはやめておこう。ミレディの反応は超楽しい。
「なんだよレミリア。私の部屋には入るなと言ったはずだぞ」
「あら、五時間前に言ったこともう忘れたのかしら?」
「あぁ、あれね。つってもこんな時間じゃあの娘たちもう寝てるだろ。それともあれか、寝顔を見て『どう?これがいいものよ』とでも言うつもり?」
「あら、いいわねそれ。と言っても、あの娘たちの全てが私の宝物なんだけど」
「お前よくそんな小っ恥ずかしいこと言えるな。鳥肌立つわ……ちょっと待て、そんな好きなのにあんな事やらしてるのマジで意味分からないんだけど」
「好きだから強くしたいに決まってるじゃない。あの娘たちの願いは絶対に叶えるわ」
「お前に目をつけられた二人が不憫で仕方がないよ」
「強くなりたいと願ったのはあの娘たちよ。だから最善の手を尽くす。当然の話じゃない」
「いや、最善ってお前……えぇ……?」
ミレディが物申したい目で見てくるが、願いに全力で応えなければそれこそ不誠実ではないか。悪魔の名が廃る。
「悪魔って普通、もっとお手軽簡単に力を与えて代償をもらうものだろ……」
「確かにそういう事もあるけど私はあの娘たちが好きになったのよ? 破滅なんかさせてどうするのよ」
「ある意味毎日破滅してるようなもんだけどなあの娘たち……二人は前世で一体なにをやらかしたんだ」
「悪魔が気に入ったのだからそれなりの事でしょうねぇ。街一つ滅ぼしたか、国一つ崩壊させたか、それとも終末でも引き起こしたか……」
理由はどうでもいいが輪廻転生の考え方でいくと、前世で善行を積んでたらきっと私と出会う事は無かった。それだけは言える。
「じゃあ私は一体なにをやったんだよ」
「神でも殺したんでしょ。それはさておき行きましょう。あの娘たちは今日もやっているわ」
☆☆☆
明かりが落ちて静寂に包まれている居間。縁側には月の光が差し込んでいる。ここで香織と雫は普段寝ているのだが、並んで敷いてある布団は今は空だ。では、二人は何処にいるのかというと家の前にある少しだけ開けた場所で刃を交えていた。
『はぁっ!!』
『くっ……! いいわよ香織、その調子!』
『ありがと! もっといくよ!!』
『えぇ! 来なさい!』
再び刃を交える二人。うん、まだまだ刀に振られているが、私の教えた事を守っているいい動きだ。
「えっ、ちょっと待って……あれ、何してるの?」
「なにって、模擬戦じゃない」
物陰に隠れながら信じられないものを見るような眼で二人を凝視するミレディ。彼女の眼にはあれが舞踏会のダンスにでも見えているのかしら。まぁ、信じられない気持ちも分かるけど。朝から晩まで鍛錬漬けな上に深夜に自主練をやってるなんてね。私も最初見た時は眼を疑ったわ。
「あれは、お前が指示してやっている事なのか?」
「いいや、あの娘たちが勝手にやってるのさ。全く、練習熱心なこと」
「いや、お前……あんだけハードな事やっておいて睡眠時間まで削って鍛錬って無茶にも程があるだろ」
「まぁ、そうよねぇ……」
思わず苦笑する。半吸血鬼はその気になれば三日三晩は動き続けられるが、流石にこのトレーニング量はやり過ぎだ。
「じゃあ止めろよ。壊れるぞ。半吸血鬼が病気とかになるのかは知らないけど」
「普通の人間よりかは頑丈なのは間違いないけど、無茶無謀は若者の特権だもの。止めるつもりはないわ。貴女にもあったでしょ? そんな時期が」
「……」
まぁ、ミレディの場合現在進行形で無茶をしているが。というか無謀だな。ミレディとそのお仲間達はよくこんな作戦を実行したものだ。
「それに、極限まで自分を追い込めばその身が鋼となり、刃となるのよ。時に精神は肉体を超越するものよ」
「脳筋理論じゃねぇか。大丈夫かそれ」
「まぁ、大丈夫じゃない? 雫もいるし。ほら」
私とミレディが話してる間に、二人の模擬戦はいつの間にか終了していた。雫は得物を鞘に収めた。一方の香織は未だ抜刀したままだ。
『はぁ、はぁ……違う……今の感じじゃない……! 雫ちゃん、もう一回!』
『ダメよ。これで終わりって約束でしょ?』
『うっ、で、でも……!』
『ごねたってダメ。今日はもう寝ましょう? どうせ明日も死にまくるんだから』
『……そうだね。ありがとう、今日も付き合ってくれて』
『別にいいのよ。親友じゃない』
香織はまだ不満そうだが大人しく納刀し、雫は微笑みながら軽く香織の頭を撫でる。うーむ、ナチュラルにこういうことが出来るとはやるわね。
『……いつ、オルクス大迷宮に行けるのかな。クラスのみんなはもう潜ってると思うんだけど……』
『焦っても仕方ないわ。今は力を溜める時よ』
『分かってはいるけど……半吸血鬼になった後も奈落の捜索はずっとレミリアに頼りっぱなしで私たちは何も出来てない。それが本当に悔しい……! それなのに南雲くんも未だに見つからない。もう、どこかで死んでるんじゃないかって……いや、もしかしたら死体すらも……』
俯き、手のひらに爪を食い込ませて悔しさを滲ませる香織。大切な人を失う気持ちはよく分かるし、よく見てきた。私も若い頃、ああやって焦ってた……っけな? もう年取ったら若い頃のことなんて覚えていないわね。
『香織……南雲くんは決して勉強はできるタイプじゃなかったけど、地頭はいいからきっとどこかで生き延びてるわよ。……私たちも早く強くなって迎えに行きましょ?』
『雫ちゃん……うん、そうだね。生きてるって信じないとね』
『その調子よ。だけど、焦りすぎは禁物。香織は放っておくとどこまでも突っ走っちゃうんだから』
『分かってるよ……』
唇を尖らせる香織。その様子はまるで母親に怒られる娘のよう。雫はイケメンなだけではなくおかんパワーもあるようだ。
「……そうか、二人ともここまで諦めが悪いというか頑張り屋だとは思わなかったよ」
「えぇ、私の想像以上だわ。あそこまで一生懸命だと応えたいじゃない」
「……まぁ、同意見だよ。初めてだな、お前と意見が合うの」
「あら、そうだったかしら」
「そうだよ。初めて出会った日から、ずっと……なぁレミリア」
「なに?」
「私との『約束』守れよ」
「えぇ、もちろんよ。悪魔は契約を守るわ」
ミレディは私の友人だ。ならば約束を守るのは当然の事である。私はミレディに向けてそう、笑った。
『ところで雫ちゃん。明日もまた死ぬってパワーワード過ぎない?』
『……えぇ、ほんっとあの修行なんとかならないかしら。確かに右肩上がりどころか崖を登る勢いで強くなってはいるけど……』
『一回、レミリアになんとか出来ないか相談したんだけど『え?死んでないじゃない?何を変える必要があるの?』って真顔で返答されたよ……』
『私も、魔物の攻撃力だけでも下げてほしいってお願いしたら『下手に攻撃力の低い魔物の攻撃で削られるよりかは高火力の魔物で一思いに粉砕された方が意外と痛くないわよ』ってドヤ顔で言ってきたわ……ほんと、バカじゃないかと』
………………
「おいレミリア、言われてるぞ」
「どうもあの娘達とは話し合いが足りてないみたいね」
安全に効率よく強くしてあげてるのになんて言い草。これ以上に効率が良いトレーニング方法があるのなら持ってこい。やはり人間とは悪魔以上に欲張りだ。二人の願いなら何でも聞いてあげたいがそれとこれとは話しが別だ。それ以外の願いなら何でも叶えてあげるつもりだけど。
せっかく私のような悪魔が気に入ったのだからもっと欲望を持ってもバチなど当たらないし、仮に当たりそうになったら神仏をぶっ殺しに行くまでよ。そしていずれは三人だけの世界を作り上げるのだ。
☆☆☆
二人を半吸血鬼に変えてから一カ月が経った。まだ南雲ハジメは見つからない。本当に見つからないわね。そろそろイライラしてきてんだけど。お陰で香織は私を見てくれない。死体でも何でもいいから早く見つかれ南雲ハジメ。
と、とてもじゃないが香織と雫には聞かせられないことを考えているそんな私の元には一通の手紙が届いている。王家の家紋が押された上等な紙を使った手紙だ。今朝、ブルックのギルドに顔を出すとキャサリンから渡された(私宛の手紙はギルドに届くようになっている)。
爪で封を斬り裂き、中身を取り出して読む。ふむふむ、成る程ね。アイツも気が効くじゃないか。
さて、どうしようかしら……二人の方をチラッと見る。
「やった!! 遂にやったよ〜!!」
「生き残った……!! 生き残った〜!!」
香織と雫は広場の中心で泥と煤に塗れながらもお互い泣きながら抱いて喜び合っていた。二人は遂に【永遠狩猟】をノーミスで攻略したのだ。ここまで長い道のりだった。実に感動的である。
よし、じゃあ次は魔物の量を二倍にしてみよう。二人はまだまだ強くなれる。きっと泣いて喜ぶに違いない。
おえっ!? その前に反動がっ!? ……ふぅ、あっぶなー、うっかり心臓が飛び出るかと思ったー(物理)
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もうすぐ勇者一行がオルクス大迷宮65階層に到達する。戻るのなら連絡が欲しい
メルド
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修行中に起きたことは小ネタみたいな感じで出すつもりです。さっさと原作に戻りたいんでねぇ!
個人的に納得がいかない点があるのでもしかしたら変えるかも。
永遠狩猟:elonaの終末がモチーフ。なお、記述通りレミリアにはかなりの反動が来るため、レミリア自身がやる際はあまり効率が良くない。それに気付いた時レミリアは軽く打ちのめされた。ぶっちゃけもっといい名前があったはず。
二人の武器:差別化するのも考えたけど、ほかに思いつかなかった。
精神は時に肉体は超える:ウマ娘のセリフ。みんなアプリはやってるか!?私はやってるぞ!お陰でだいぶ投稿が遅れちまった!