ありふれていない異世界吸血鬼が二大女神と出会う話   作:くたしん

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雫視点。オルクス大迷宮での話です


その冒険者の名は

 

 

 私は八重樫雫。剣道が少し得意なただの女子高生....だったんだけど最近異世界に召喚されるという非現実的な事態に巻き込まれて今は竹刀じゃなくて本物の剣を持っている。

 

 非常に不本意ながらも元の世界に帰るために人類を救うと決めた日から早一ヶ月。訓練のためにオルクス大迷宮の前に到着した。

 

 オルクス大迷宮の前はまるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

 なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置みたいね。

 

 入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

 浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

 ここで私はあるものが目に入った。

 

「指名手配犯....? どこの世界にもいるものね....ん?」

「どうしたの? 雫ちゃん」

 

 受付の隣の壁に貼られていた指名手配書を見てどこの世界でもこういう犯罪を犯すものがいるんだな、と眉を顰めていると私の親友、白崎香織が話しかけてきた。昨日は南雲くんの部屋に突撃したらしい。彼が欲望に任せて襲うとは思わないけどもう少し警戒心持ちなさいよ....

 

 それは今はどうでもいいわ。結局いつもの可憐な笑顔を浮かべて帰ってきたので、『そういう事』はされてはいないだろう。

 

「いや、この指名手配犯ね、こんな可愛い娘なのに物凄い懸賞金だと思って」

「え?.....うわっ、凄い。一億ルタ....!?」

 

 その手配書は半年ほど前に出されたものでそこにはこう書かれていた。

 

 

=====================================================

 

ーー穢らわしき黒の翼を持つ吸血鬼の少女、レミリア・カルテナーー

 

討伐報酬:一億ルタ

 

特徴

 

・黒い翼と銀髪をもつ吸血鬼の少女

・絶滅したと思われてた吸血鬼族だが、魔人族に身を堕とすことで生きながらえていた。そのため魔力の直接操作ができ、凄まじい攻撃力を持っている

・神官や神殿騎士に躊躇なく襲いかかるほど凶暴

 

罪状

 

・エヒト様を侮辱する発言

・エヒト様より〝神敵〟であるとの神託が下りている

 

=======================================================

 

 手配書には色々と書かれているが、とりあえず私は人相書きを見る。

 

 一言で言うならそれは〝大人びた少女〟だった。ただの絵だけどこちらが威圧される、そんな印象を受けた。写真じゃないのにものすごく精巧な人相書きね...まるで写真みたい。

 

 後で知った事だけど人相書きは天職〝絵描師〟を持つ人により描かれているためここまでリアルな絵を描けるらしい。

 

 しかし、罪状を改めて見ると内容がえらくフワフワしてるわね....だけど、この世界での神の影響力がどれほど強いかがよくわかる。大して何もやっていないのにこうやって一億の賞金首にされているもの。恐ろしい話だわ。

 

「何してんだ嬢ちゃん達、もう行くぞ。何か気になるもんでもあったか?」

「あ、ごめんなさいメルド団長。ちょっとこれが気になりまして」

「ん? ゲッ、【レミリア・カルテナ】の手配書か....」

 

 メルド団長が苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「何か知っているんですか?」

 

「.....前に戦った事があってな....すまん、思い出させないでくれ。もう行くぞ」

 

 普段は豪放磊落な性格をしているメルド団長がここまで険しい表情をするなんてよっぽどな事情があるわね...いや、神殿騎士に襲いかかったと手配書に書いてあるからもしかして....

 

 私は、メルド団長にそれ以上聞かず香織を伴ってオルクス大迷宮に入った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 迷宮の中は外の賑わしさとは無縁だった。

 

 縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能ね。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているみたい。

 

 私達は物珍しげに辺りを見渡していると、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が大量に湧き出てきた。

 

 メルド団長によると〝ラットマン〟という魔物らしい。二足歩行で上半身がムキムキで、八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がなく非常に気持ちが悪い。私の頬が引き攣る。

 

 私は天職〝剣士〟で抜刀術の要領でラットマンを切り裂く。うぅっ、生き物を斬る感覚がかなり気持ち悪い...せめてこれがとっとこ◯ム太郎に出てくるハムスターのように可愛かったら....いや、それはそれで斬りにくいわね、うん。

 

 と、ここで一匹のラットマンが壁の穴から這い出て奇襲を仕掛けた。相手は...壁際にいた香織だ。

 

 

「危ない白崎さん!」

 

 

 しかし、ラットマンの前に土の壁が出来て、ラットマンを撃墜。香織がその隙に魔法を放ち、ラットマンの息の根を止めた。

 

「ありがとう南雲くん。ナイス防御」

 

「どういたしまして、白崎さん。ナイス魔法」

 

 二人はそう言ってお互いに微笑んだ。

 

.....いいコンビしてるじゃない。

 

 私も、釣られて笑みがこぼれたが周りはそうもいかないようで「なに白崎さんと楽しそうに会話してんじゃボケェッ!」という声が聞こえてきそうだった。光輝に至っては「なぜ香織に倒させてるんだ! 南雲が倒すべきだろ!?」とくってかかっていた。外野はもう少し大人しくしてなさいよ、もう...

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 私達は一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。今日はこの階層を探索して終了ね。

 

 現在の迷宮最高到達階層は七十階層だがそれは半年前ほどに現れた〝ある冒険者〟が達成した偉業であり、今でも超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いらしい。

 

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通で、前まで確実なマッピングがなされているのは四十七階層までだったが現在は六十階層まで広がっている。これも先述した〝ある冒険者〟の偉業だ。ソロでそれやってのけるってのが凄いわね....私達いらないんじゃ....? いや、いくら強くても一人で魔人族に特攻してくださいってのもおかしな話か。私達が戦うのもあまり意味が分からないけど。

 

 

 私は先程南雲くんと良いコンビネーションを見せて、少しニヨニヨしている香織を休憩中からかうと香織が少し拗ねてしまった。

 

 小休憩が終わり、再び探索を開始。すると前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 私は光輝とともにロックマウントを取り囲もうとするけど、足場が悪いのもあってなかなかうまくいかない。

 

 するとロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 

直後

 

 

 

 「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 私達前衛の体をビリビリと衝撃が走り、麻痺したかのように硬直する。ロックマウントの固有魔法〝威圧の咆哮〟だ。しまった、魔物には固有魔法がある事をすっかり忘れてた...!!

 

 ロックマウントは私達が隙を晒してる隙に次の行動に移す。ロックマウントはサイドステップして傍にあった岩を砲丸投げのようなフォームで香織たち後衛に投げつけた。

 

 そこで私は衝撃の光景を目にする。

 

「ひぃっ!?」

 

 香織が悲鳴を上げた。

 

 

 なんと投げつけた岩もロックマウントだったのだ。

 

 

 さながらル◯ンダイブのように目をギラつかせたロックマウントの気持ち悪さに香織達後衛の頬が引き攣り、つい迎撃用の魔法を中断してしまった。

 

 危ない...!!

 

 そう思ったその時だ。

 

 

 

 ロックマウントが、空中でなにかに捕まった。

 

 

 

「え...?」

 

 それは例えるなら、【影で出来た手】。漆黒で形成された巨大な手だった。

 

 それに捕まったロックマウントは、一切の抵抗を許されず、通路の奥にまるでホラー映画のように引き摺り込まれた。もう一匹も呆けている間に影の手に捕まり、同様に引き摺り込まれた。

 

 次いで聞こえてきたのは肉を斬り裂き、骨を砕く音。ロックマウントの断末魔。ここはいつからホラー映画の世界になったのよ。大のホラー嫌いである香織が顔を青褪めさせながらガタガタと震えながら私の手をギュッと握ってくる。分かるわよその気持ち、私だって怖いもの。

 

 やがてそれらの音は収まり、辺りを不気味なほどの静寂が包む。

 

 そして奥からコツ、コツと足音を鳴らしながら、それは現れた。

 

 

 身長は170cmぐらい。顔を黄色のボロボロフルフェイスマスクのようなもので覆っていて、素顔は分からない。マスクでかさ増ししてる分を考えると中の人の身長は160cmぐらいかしら。マスクの頭部分には黄色の尖った耳が二つ付いていて、丸い目とギザギザの口は黒いマジックペンのようなもので適当に書かれている。

 

 服装は首元まですっぽりと覆うこれまたボロい黄色の外套に血糊がベットリと付いている。その下には足首まで覆い隠す黄土色のドレススカートを着ており、そしてこれまた黄土色のブーツを履いている。

 

 素肌を一切見せないその風貌はもしここにあの有名なモンスターをボールで捕獲するゲームの最新世代をやったことがある人ならまず間違いなくこう呟くだろう。

 

 

 

ーーあ、ミミッ◯ュだーー

 

 

 

 だがゲームのような可愛らしさは一切なく、普通に怖い。まるで死神だ。全身にロックマウントの血を付着させて首をグラグラさせながら歩いてくるから夜に不意に出会ったら失神する自信がある。よくても失禁ね。よくないわよ。

 

 

「全員、構えーーー「バカやろう! やめろ!」へぶぅっ!?」

 

 光輝が聖剣を構えて臨戦態勢を取ろうとしたがメルド団長に拳骨を落とされて中断させられた。

 

「なっ、なにするんですか!?」

「あれは人だ! めちゃくちゃ不気味で怖くてドン引きな格好をしているが人だ!」

「えっ、人? あれが...? えぇ....?」

 

 光輝の疑問はもっともだ。ミミッ◯ュ似のその人? は魔物と言われた方がしっくりくるような格好をしているからだ。

 

 メルド団長はため息をついて、頭をかきながらその不審者の紹介をした。

 

 

 

 

「こいつはこの世界での最強の冒険者にしてオルクス大迷宮第七十層攻略者

 

 

金ランク、【不気味な何でも屋】だ」

 

 

 

 全員ギョッとした。嘘、この人が....!? こんな格好の人が....!?

 

 私達の驚愕を他所に、不審者改め【不気味な何でも屋】さんはこちらをジーっと見つめていた。いや、マジックペンで書かれた目だけど。怖い。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「援護してくれて助かったぞ。まぁ、俺らでもなんとかなったが...え? 魔石? いや、お前が倒したんだから別にいいんだが。横取りだからいらない? ....まぁ、そういう事なら。お前こういうところ律儀だよな」

 

 メルド団長が豪快に笑いながらバシバシと【何でも屋】さんの肩を叩く。あの二人知り合いなのかしら? と思っていると副団長のアランさんが「あの二人は前に一度手合わせした事がありまして。多少親交があるのですよ」と補足してくれた。

 

「おおっ、そうだ! 紹介がまだだったな、こいつらは噂の勇者一行だ。俺が教官をしている。お前もその熱苦しいの脱いで挨拶したらどうだ?」

 

 メルド団長にそう促され【何でも屋】さんはフルフェイスマスクに手をかける。

 

 

 

 口の部分がパックリと裂けて、そこから上部分をフードを外すように顔を出した。

 

 

 

 そこが開くの!? え、チャックないよね!? どういう構造!?

 

 クラスメイト達も「なんであんなマジックで適当に描かれた口元が開くんだ!?」「普通マスクごと脱ぐだろ!?」とツッコミの嵐。騎士団員の方々は「俺らもあんな反応したっけな〜」と苦笑していた。

 

【何でも屋】さんの顔があらわになる。

 

 

「「「「「ーーーーーーっ!?」」」」」

 

 

 そして私達は、またも驚愕した。

 

 

 サイドテールに纏めたサラリとした金髪。長いもみあげの部分をリボンで纏めておりそのワンアクセントが可愛らしい。小ぶりな鼻にスッとした口元。

 

 そして最も目を奪われたのは眼。瞳孔が血に濡れたような美しい真紅だが眠たそうに目を細めているのと眼に光が無いように見えるため、まるでこの世ではない何処かを見つめているように私は感じた。

 

 なんと、不気味なマスクの下はかなりの美少女だった。私達より年下じゃない? それぐらい顔立ちが幼い。でも、この世界最強の実力者ということは流石に年上よね? と思っているとメルド団長が【何でも屋】さんは二十歳だと教えてくれた。それでも若い。

 

 不思議と吸い込まれるような魅力が【何でも屋】さんにはあり、何人もの男子生徒が頬を赤らめさせて見惚れていた....だから香織。そんな鬼のような恐ろしい笑顔で南雲くんを見ないの。ほらもう南雲くん怖がってるじゃない。

 

 メルド団長が光輝に「ほれ、挨拶しておけ。お前が越えるべき目標だぞ」と小突くと光輝は「え? 目標? 目標.....?」と凄い微妙そうな表情をしながら【何でも屋】さんの前に立つ。【何でも屋】さんの格好は幾多もの死闘を乗り越えてきたレジェンド、というよりかは狂戦士とか死神とか言われた方がシックリとくる。勇者がそんな負のイメージを持つ存在を目標にしても、といった感じかしら。

 

「えっと、はじめまして、勇者・天之河光輝です。よろしくお願いします」

 

 ただ光輝もそれなりにコミュニケーション能力はある。ニコッとすぐにいつものイケメンスマイルを浮かべて無難な挨拶をするが【何でも屋】さんは光輝に見向きもせず、私の所へ来た。今まで女の子に無視された事などない光輝は笑顔のままビシッと固まっている。

 

「なっ、なんでしょうか....?」

 

「..............................」

 

【何でも屋】さんはなにも言わない。ただジッと見つめてくる。そのまま数秒間、【何でも屋】さんは私を見つめ続けてきたが、やがて視線を外した。だけど今度は香織に近付いて、再びジッと見つめる。香織も居心地が悪そうに、【何でも屋】さんを見たり視線を外したりする。そりゃ至近距離で見つめられるって普通に嫌よね....メルド団長は物珍しそうに「ほぉ、【何でも屋】がここまで他人に興味を持つとわ....」と呟いているけど止めてくださいよ....

 

 やがて【何でも屋】さんは満足したのか香織からも視線を外し、再びフルフェイスマスクをかぶって不気味なスタイルに戻ると今度は誰にも目をくれずスタスタと歩き去った。な、なんて自由な人なのかしら。私と香織を見るだけ見ておいて後は放置って....

 

「なっ、なんなんだあの人は! 挨拶を無視するなんて....!」

「ははっ、アイツはああいう奴だから気にすんな。実力は折り紙付きだからそのうち一回ぐらい訓練を見てもらう予定だ。マジでビビるぐらい強いぞ」

「....それまでに俺の方が強くなってますよ」

「その意気だぞ光輝。よし、そろそろ行くぞ。もうすぐ訓練も終了だ」

 

 メルド団長の号令により探索を再開。光輝が未だ憤慨しているので落ち着かせる。確かに挨拶を無視されるのはいい気はしないわよね、と私も苦笑いを浮かべた。

 

 それにしても、【何でも屋】さんはなんで光輝や他の人達を無視して私と香織を見つめてきたのだろう? 何か顔に付いてた? 一応顔を触って確認してみるけど特に何もついていないし、香織の顔にも何も付いていない。じゃあ【何でも屋】さんは一体『なにを見ていた』のかしら?

 

 いけない、探索に集中しないと。下手すれば大怪我では済まない。【何でも屋】さんの件は考えても無駄な事だ。

 

 私はそう思い、残りの探索に集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南雲くんが、死んだ

 

 

 

 

 

 

 

 




不気味な何でも屋:ミミッキュ擬人化イラストをモデルにしてみました。調べると出てくるかも
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