ありふれていない異世界吸血鬼が二大女神と出会う話 作:くたしん
ハイリヒ王国の王宮内寝室。月明かりが室内を照らす中、ベッドで眠る香織を見つめながら雫はあの日の事を思い出していた。
ーー南雲ハジメが奈落に落ちた、あの悪夢の日をーー
☆☆☆
あれは【不気味な何でも屋】と別れた直後の事だった。
勇者パーティは再びロックマウントと遭遇。光輝は【不気味な何でも屋】に挨拶を無視された事とロックマウントが香織達に死の恐怖を感じさせた(光輝の勘違い)怒りで高火力の〝天翔閃〟を発動。壁の一部が崩れて現れたグランツ鉱石を檜山が触ってしまい今度はトラップが作動してしまった。
トラップは転移系で、飛ばされたのは【不気味な何でも屋】が記録を塗り替える前までの歴代最高到達点、六十五階層。そこにいたのは〝ベヒモス〟と呼ばれる怪物と〝トラウムソルジャー〟軍団。
その魔物達となし崩し的に戦闘に入った勇者パーティだが全く敵わず、崩壊の危機に瀕した。
だが、その窮地を救ったものがいた。
南雲ハジメだ
決して能力が高くない彼だが〝錬成〟の魔法と機転を利かしてベヒモスの動きを止め、全員を撤退させる事に成功したが....
悪夢はそこからだった。
役割を終えてハジメも撤退しようとしたところ、『誰かが放った魔法』をくらい、その衝撃で彼は奈落に落ちていった。
狂乱した香織はメルド団長に気絶させられ、とても迷宮攻略の雰囲気では無くなったクラスメイト達は王宮に逃げるように帰り、今に至る。
「うっ...おぇ....」
雫はクラスメイトの死の瞬間を思い返してしまい、うぷっと吐き気が襲ってくるがまさか親友を寝ている間にゲロ塗れにするわけにはいかないのでなんとか堪える。
あの悪夢の日から早五日。香織はまだ目覚めない。
医師によると体に異常はないらしいので、雫は早く目覚めてほしいと思っていたが、同時に眠ったままでよかったとも思っていた。
(私達を勝手に呼び出しておいて、死んだら侮辱...冗談じゃないわ...!)
雫は先の出来事を思い出し、手のひらに爪が食い込むほど拳を強くにぎりしめる。ハジメの死の報告を教会や王国側に伝えたところ帰ってきた反応は、『死んだのが無能でよかった』『役立たずなど死んで当然』など反吐の出るようなものでそのような言葉を聞く度に雫は激情に駆られ何度も剣を抜きかけた。
ハジメとは多少しか親交がない雫でもそうなったのだ。ハジメの事を想っている香織がそのような下衆の言葉を聞いてしまったらどうなるか....想像に難くない。
ハジメが奈落に落ちた原因でもある『魔法の誤射』もクラスメイト達は誰も話題にしない。もし自分が放った魔法が原因でハジメが死んだのなら、人殺しになってしまう。ならばハジメが『勝手に自滅』した。それで自分たちの心は守れる。そういう結論になってしまった。
「あなたが聞いたら....怒るんでしょうね」
どうかこれ以上、私の優しい親友を傷付けないでください...! と雫が誰ともなしに祈ったその時だ。
「......雫ちゃん?」
「香織!」
香織が、目覚めた。しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わせる。
「......ここは....お城の部屋.....? あれ、確か.....私は、迷宮で......
南雲くんは....?」
「ッ! それは....!」
そして香織が徐々に記憶を取り戻す。受け入れなくない、認めたくない、現実の記憶が香織を襲った。
「…嘘、絶対嘘。そうでしょ? そうだよね? 雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? 南雲くんは……訓練かな? 訓練所にいるよね? うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して? 雫ちゃん」
現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎハジメを探しに行こうとする香織。そんな香織の腕を掴み離そうとしない雫。
雫は悲痛な表情を浮かべながら、それでも決然と香織を見つめる。
「…香織。わかっているでしょう?……ここに彼はいないわ」
「やめて……」
「香織の覚えている通りよ」
「やめてよ……」
「彼は、南雲君は……」
「いや、やめてよ……やめてったら!」
「香織! 彼は死んだのよ!」
「違う! 死んでなんかない! 絶対、そんなことない! どうして、そんな酷いこと言うの! いくら雫ちゃんでも許さないよ!」
イヤイヤと首を振りながら、どうにか雫の拘束から逃れようと暴れる香織。雫は絶対離してなるものかとキツく抱き締める。今の香織を離すと、一人で迷宮に潜りかねない。これ以上人が死ぬのは見たくない。
「離して! 離してよぉ! 南雲くんを探しに行かなきゃ! お願いだからぁ……絶対、生きてるんだからぁ……離して! 離してぇっ!!」
いつしか香織は雫の胸に顔を埋め泣き叫んでいた。
縋り付くようにしがみつき、喉を枯らさんばかりに大声を上げて泣く。雫は、ただただひたすらに己の親友を抱き締め続けた。そうすることで、少しでも傷ついた心が痛みを和らげますようにと願って。
どれくらいそうしていたのか、月光が室内を照らす中香織はスンスンと鼻を鳴らしながら雫の腕の中で身じろぎした。雫が、心配そうに香織を伺う。
「香織……」
「……雫ちゃん……南雲くんは……落ちたんだね……ここにはいないんだね……」
囁くような、今にも消え入りそうな声で香織が呟く。雫は誤魔化さない。誤魔化して甘い言葉を囁けば一時的な慰めにはなるだろう。しかし、結局それは、後で取り返しがつかないくらいの傷となって返ってくるのだ。これ以上、親友が傷つくのは見ていられない。
「そうよ」
「あの時、南雲くんは私達の魔法が当たりそうになってた……誰なの?」
「わからないわ。誰も、あの時のことには触れないようにしてる。怖いのね。もし、自分だったらって……」
「そっか」
「恨んでる?」
「……わからないよ。もし誰かわかったら……きっと恨むと思う。でも……分からないなら……その方がいいと思う。きっと、私、我慢できないと思うから……」
「そう……」
俯いたままポツリポツリと会話する香織。やがて、真っ赤になった目をゴシゴシと拭いながら顔を上げ、雫を見つめる。そして、決然と宣言した。
「雫ちゃん、私、信じないよ。南雲くんは生きてる。死んだなんて信じない」
「香織、それは……」
香織の言葉に再び悲痛そうな表情で諭そうとする雫。しかし、香織は両手で雫の両頬を包むと、微笑みながら言葉を紡ぐ。
「わかってる。あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。……でもね、確認したわけじゃない。可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。……私、信じたいの」
「香織……」
「私、強くなるよ。それで、あんな状況でも今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲君のこと。だからね、もっと、もっと、もっと強くなる。光輝くんにも負けないような、いや、それ以上に強くなる」
「香織...?」
雫は香織の目を見る。狂気などに染まってる感じは見えないがどこか危うさを感じた。
「香織、私も力を貸すわ。だから、そんなに力を求めすぎないで。香織には治癒魔法があるじゃない」
再びギュッと抱きしめる雫。今の香織は抱きしめていないと力を求める余り自分の身を滅ぼしかねない道に進もうとしている気がしたためだ。
「ありがとう雫ちゃん。だけど、私が強くならないと意味がないと思うんだ。私は、攻撃する手段が少なすぎる。私が強力な攻撃魔法でも持っていればこんな事にはならなかった。あの魔物を殺せるくらいの力があれば、南雲くんを救えた。私が弱かったから、私が.....」
「ッ!」
雫は、再び悲痛な表情を浮かべた。
白崎香織という人物は決してこんな事を言う人物ではなかった。誰にでも優しく、女神のようだと例えられるほどに穏やかで可憐な少女だった。
だけど
ーー親友が、変わってしまったーー
どうして? 南雲ハジメが死んだからだ。
なんで南雲くんが死んだ? ベヒモスの攻撃と、誰かの魔法の誤射によってだ。
どうすれば救えた? 分からない。考える。原因を、理由を、ひたすら考える。
そして、気付く。
ーー私が弱かったからだーー
私がもっと強かったら、親友を悲しませずに済んだ。
私がもっと強かったら、親友の恋路を途絶えさせる事もなかった。
私がもっと強かったら、親友が変心することもなかった。
あまりに単純で分かりやすい理由だ。こんな当然の話を今の今まで気付かなかった自分をぶん殴ってやりたいと雫は思った。
だから、雫も決意する。もう、これ以上親友を悲しませないために
「香織、私も強くなる。貴女よりも。誰よりも」
雫のその言葉に香織は面食らったがすぐに微笑んだ。
「私の方が強くなるよ」
「私の方が経験も、天職的にも有利だわ。残念だけど香織が私を越える事はない」
「言ったね? いずれ雫ちゃんに追いついて、追い越してみせるよ」
そう言い合った二人は、再び強く抱きしめあった。
私は強くなる
大切な人に、会うために
私は強くなる
大切な人を、今度こそ守るために
だから、もっと! もっと! もっと! 今よりも!
強く!強く!強く!
強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く
ーー誰よりも、強くなる!!!!!!!!!ーー
少女達は心の中で咆哮した。決して声には出ていないが、その鋼よりも硬い決意は力強く、さながら波紋のように、辺りに轟いた
「.....................」
場所は変わってとある森の中。広場に建っている石柱の上で、蝙蝠の羽を背中から生やした銀髪の少女は月光をその身に浴びながらハイリヒ王国がある方角を無言で見つめていた。
そこに近付くは一体の『ニコちゃんマークのような仮面を付けた』ゴーレム。
「どったの【レミリア】?」
レミリアと呼ばれた少女は心底楽しそうにニッと笑った。
「なんでもないわ。〝ミレディ〟」
バサリと蝙蝠の羽を広げ、月に向かって手を伸ばす。
ーーああ、こんなにも美しい月だからーー
ーー素敵な出会いになりそうねーー
月を、掴んだ
香織 :強さ=パワー。
雫 :周りで起きた出来事の責任は全部自分のもの。
レミリア :本作の主人公。なお、東方projectのレミリアとは一切関係がない。
ミレディ :ミレディ
ああ、こんなにも美しい月だから素敵な出会いになりそうね:レミリア・スカーレットの名言「こんなに月も紅いから 本気で殺すわよ」を元に言い換えたもの。なおこの作品のレミリアは東方のレミリアと一切関係がない。