ありふれていない異世界吸血鬼が二大女神と出会う話   作:くたしん

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運命の選択肢

 

 

 

 メルド・ロギンス。ハイリヒ王国の騎士団長。

 

 彼は騎士団の部屋で一通の手紙を見ながら先日の事を思い出していた。

 

 

 あれは、香織が目覚めた翌日の事。

 

「すまない、二人とも....! 俺の力が足りないばかりに.....!」

 

 メルド団長が香織と雫に土下座せんばかりの勢いで深々と頭を下げながらギリッと悔しそうに歯を食いしばる。

 

 彼は王宮に戻った後、ハジメを奈落に突き落とす原因となったあの魔法を誰が放ったか、生徒たちに事情聴取をしようとしていた。今後のためにも原因をハッキリさせた方がいいと考えたからだ。

 

 しかし、行動すること叶わなかった。生徒たちの詮索をやめるようイシュタルと国王に言われてしまったからだ。こうなってはメルド団長も動く事など出来ず、堪えるしかなかった。

 

「本当に申し訳なかった....!」

 

「「........................」」

 

 メルド団長は再度謝罪し二人の言葉を待つ。そして願う。どうか罵ってくれ、貶してくれと。それで二人の気持ちが少しでも晴れるなら甘んじて受け入れよう。

 

 だが

 

「気にしないでくださいメルド団長。ありがとうございます。色々と動いてくれて」

 

「ーーーっ!!」

 

 気を遣われた。自分より遥かに年下の女の子に....! 想っていた男を目の前で失った挙句尊厳を踏みにじられたのに誰も責めず痛々しい笑みを浮かべるだけの香織にメルド団長は心が引き裂かれそうになった。

 

 続けて香織はこう言ってきた。

 

「私達に稽古をつけてください」

 

「.....本気か?」

 

 メルド団長は驚愕する。普通であれば心がへし折れていてもおかしくない。なのに二人はまた戦線に戻ろうとしている。騎士団員でもここまでの精神力を持ってるものはいないだろう。

 

「私は、南雲くんは生きていると思っています。生存確率は一%以下かもしれませんが、確認するまでは0じゃありません。そして確認するためには強くならないとダメなんです。どこまでも、強く。相手を殺せるように、強くならないと....」

 

「メルド団長、香織は一度決めたら絶対に曲げません。それくらい頑固なんです。放っとけば、どこまでも突っ走ってしまう....だから、私も強くなってそのストッパーにならないと、守らないとダメなんです」

 

「っ.....!」

 

 年下であるはずの少女二人に気圧されるメルド団長。その気迫は鬼気迫るものがあった。

 

 だが同時に、悲しくも思う。

 

 (違うんだ。『強さ』とは決して相手を倒すとか、殺すとかそういうものではないんだ...!)

 

 しかし、『何も守れなかった』メルド団長の言葉は彼女達には決して届かない。思う事もあったが彼は二人に稽古をつけてあげる事にした。どうせ他のクラスメイトは暫く立ち直れないのだから。

 

 そして更に数日経った頃、手紙が届いた。差出人は【不気味な何でも屋】。

 

「さて、どうしたものか....」

 

 コンコンと部屋がノックされた後、香織と雫が部屋の中に入ってきた。

 

 

☆☆☆

 

 

 来客用のソファに二人を座らせてメルド団長は紅茶モドキを出す。

 

「急に呼び出して悪かった。至急伝える事があってな」

「分かりました。手短にお願いします」

 

 香織は一刻も早く訓練に行きたがっているようだ。目つきも以前の優しい感じから心なしか鋭くなってるような気がする。

 

「どこから話すか....そうだな。嬢ちゃん達、オルクス大迷宮で出会ったアイツを覚えているか?」

「アイツ....? もしかして【不気味な何でも屋】さんの事ですか?」

「そうだ」

「それが一体どうしたのですか?」

 

 メルド団長は紅茶モドキを飲んでひと呼吸おき、二人の目を見つめた。

 

 

 

 

 

「単刀直入に言おう。【不気味な何でも屋】が嬢ちゃん達二人を〝弟子〟に欲しいと言ってきた」

 

「「!?」」

 

 

 

 

 

 二人は驚愕した。当たり前だ。香織と雫が【不気味な何でも屋】と直接会ったのはあの迷宮内での数分間だけ。何故自分達を弟子に欲しがるのかまるで意味が分からなかった。ちなみにメルド団長が何故手紙の内容を知っているのかと言うと王宮に届く手紙類は必ず検閲が入るからである。

 

 メルド団長から手渡された手紙を広げ、二人は目を通した。

 

 

========================

 

貴女たちの事が気に入りました。私の弟子になれ。

                      【何でも屋】より

========================

 

「「え、えぇ...?」」

 

 困惑した。シンプルすぎる。それに普通は勇者である光輝を弟子に取りたがるものだよね...とこれ以外に手紙は無いのかとメルド団長に聞いたが手紙はこれだけらしい。

 

 ここで二人はちょっとした疑問が湧いた。

 

「私達【何でも屋】さんに自己紹介してないですよね? よく私達宛てだって分かりましたね?」

 

 あの時自己紹介していたのは光輝だけだ。香織と雫の名前をどうやって知ったのだろうか。

 

 するとメルド団長がピクリと固まった。

 

「...えーと、知りたいか?」

「え? ま、まぁ。はい」

 

 メルド団長はポリポリと頭を掻きながら封筒を取り出して二人に渡す。封筒にはこう書いてあった。

 

 

 

『生脚曝け出した黒髪の神官服を着ている少女』『胸元とヘソ丸見えのポニテ剣士』様へ

 

 

 

「「.................」」

 

「まぁ、嬢ちゃん達の事だろう。迷宮であれだけガン見してたしな」

 

 二人は自分達の戦闘服をチラッと見る。

 

 

 香織:大胆なスリットが入ったスカート。健康的な太ももを惜しげもなく晒し出している。

 

 雫:モデルも出来るほどの素晴らしい谷間と引き締まったくびれ。胸元に至ってはちょっと動けばズレて大変なものが見えてしまいそう。

 

 

 二人はプルプル震えた。

 

 

 だってしょうがないじゃない...! これしかなかったし...! 性能が良かったし...! 動きやすいし...! 最近ようやくこの格好にも慣れてきたんだから...! 二人は誰に向けてるかも分からない言い訳を心の中で叫んだ。ていうか普通にセクハラである。もう少しマシな呼び方あるでしょ!? と再び心の中でシャウトした。

 

「ま、まぁアイツは口数は少ないが結構毒舌だからな。その、気にすんな?」

 

 流石、女騎士を部下に持つ社会人メルド団長。紅茶モドキを飲みながら視線を逸らし、必要最低限の言葉でフォローをした。もし香織の脚や雫の胸元をガン見しながら言ってたらセクハラで即解雇である。敬虔なエヒト信者でもあるメルド団長が神の使徒にセクハラを働き解雇など笑えなさすぎるし、自分が奈落に飛び込む羽目になる。彼はまだ団長をやめるつもりもないし、死ぬつもりもない。

 

 

☆☆☆

 

 

「で、どうする?」

 

 メルド団長は紅茶モドキを入れたカップをソーサーに置いて真剣な表情でそう問いかける。とてもさっきまでのアホな雰囲気を感じさせない引き締まった表情だ。

 

「どうするって言われましても....」

 

 香織と雫は困ったようにお互いに顔を見合わせた。

 

 いきなりそんな事を言われてもすぐに決心出来るはずもなく。ていうか得体の知れない人物のもとにいきなり行くなんて普通に嫌である。

 

 

 しかし

 

「「.............」」

 

 二人は考える。

 

【不気味な何でも屋】は聞く限り凄まじい実力を持っている。オルクス大迷宮第七十階層をソロで攻略しているということは六十五階層の怪物・ベヒモスをも倒したのだろう。

 

 そのような実力者の弟子にしてもらえたのなら....今よりもっとレベルアップ出来るのではなかろうか。

 

 だがもちろんすぐには決めれない。二人はもう少し【不気味な何でも屋】の情報が欲しかった。

 

「メルド団長、何であの人は【不気味な何でも屋】と呼ばれてるんですか? 着ている服は確かにアレですけど中身は可愛い女の子ですよね?」

「【何でも屋】の通り名の由縁か。それはアイツの仕事ぶりからそう付けられたんだ」

「仕事ぶり?」

「ああ。アイツは『正当な報酬させ貰えば』何でも依頼をこなすんだ。それこそドブさらいやペットの捜索から....殺しまで」

「「っ!!!!」」

 

 二人は思わず息を呑む。報酬さえ貰えば、何でもやる。だから【不気味な何でも屋】

 

 日本に比べたらはるかに命の軽いこの世界だが殺人を犯している人間がまさかあんな間近にいたなんて...! 二人は顔を青ざめさせた。

 

「嬢ちゃん達、この世界では殺人はそんな珍しい事じゃない。俺だって騎士団の仕事で犯罪者を何人か殺したことがある。【何でも屋】にしても聞いてる限りは犯罪者を討伐する依頼でしか殺しはしていない。嬢ちゃん達の世界では殺人をした奴はどんな理由があろうと罰せられるみたいだが....【何でも屋】は口数も少ないし、たまに口を開けば毒を吐くがそれでも飯に付き合ってくれたこともある。だから...アイツの事は軽蔑しないでやってくれ」

 

 メルド団長は少し悲しそうに笑った。

 

「い、いえっすみませんでした。少し驚いただけです」

「メルド団長がいい人なのは知っています。軽蔑なんてしません」

 

 二人は慌てて頭を下げた。メルド団長はクラスメイト達の兄貴分で色々とお世話になっている。今更メルド団長が極悪人だとは思わない。

 

 ここはそういう世界なのだ。慣れるしかない。

 

「すまんすまん、空気を悪くしちまったな。話を戻すが【何でも屋】が今まで弟子を取ったという話は聞いた事ないが依頼で新人冒険者の教官をやった事もあるらしくてな。めちゃくちゃキツかったみたいだが、新人冒険者達の死亡率がグッと下がったらしいから教官としても優れているんじゃないか?」

 

 教官としても優れている...

 

 訓練はキツいらしいがそれは望むところだ。しかし、まだ決心はつかない。

 

 理由は香織はハジメに会うために強くなりたいのだが出来ればハジメを探すために『オルクス大迷宮を攻略しながら強くなりたい』からだ。【不気味な何でも屋】が香織達に対してどういう指導をするのか分からない以上、香織達は行く気にはなれなかった。

 

「【何でも屋】さんにこっちに来てもらうってのは?」

「あぁ、それは俺も考えたんだが...ここだけの話、アイツは教会や王族の事をあまり良くは思っていないんだよ。だから多分無理だろうな。騎士団は【何でも屋】に指名依頼する事もあるし関係を崩すわけにはいかん」

「教会をよく思っていないって...大丈夫なんですか?」

 

 教会はこの世界での最高権力だ。批判など下手すれば異端の烙印を押され処刑である。

 

「アイツ曰く『信仰してるのはエヒト様であって、教会では無い』だとよ。まぁ、【何でも屋】はその辺をうまく隠してるみたいだ。何回か教会の高難度依頼も受けてたらしいしな。お陰で教会からのアイツへの信頼は厚い。だから『神の使徒』を弟子に取るという無茶が出来るんだ。実際、お偉いさんからは嬢ちゃん達を【何でも屋】に預けてもいいと許可が出ている」

 

 二人は言うまでもなくこの国の重要人物だ。国賓をそんなホイホイと金ランクとはいえ冒険者に託せるのかと疑問に思っていたがなるほど、教会の人たちもこの話を聞いているのか。通りでこんな相談が出来ると思った、と二人は納得した。

 

「それでこれは俺の考えなんだが....」

「なんでしょうか?」

 

 

 

「嬢ちゃん達は、【何でも屋】のところに行った方がいいと思う」

 

 

 

 メルド団長は一切迷いのない瞳でそう言い切った。

 

「それは、何故ですか?」

 

 香織としては一刻も早くオルクス大迷宮に行きたい。【不気味な何でも屋】がオルクスに連れてくれるかは分からない。それでも、何故。

 

「香織、お前はどう強くなりたいんだ?」

「どう、ですか? それはもちろん相手を薙ぎ払えるような....」

 

 

「そりゃ無理だ」

 

 

 

 ピシャリとメルド団長はそう言ってのけた。香織の目が吊り上がる。

 

「どうしてそんな事分かるんですか? 確かに私は攻撃手段があまりありませんがそれでも努力すれば....」

 

 

 

「香織は〝治癒師〟だろ?」

 

 

 

「.........!」

 

 香織は味方を癒すのが本業の〝治癒師〟だ。攻撃魔法は持っているが多彩さと威力に欠ける(一般の魔法使いよりかは上)。最も適性があるのは治癒魔法と補助魔法だ。これで前衛にデバフをかけて回復をするのが香織の基本の役目なのだが今求めてるのは『ベヒモスをも倒せる、殺せるような力』であり、決して『そんなもの』ではない。だが、香織に攻撃魔法の適性はあまりなく、攻撃魔法を使うぐらいなら補助魔法で前衛を支援した方が遥かに効率的だ。

 

「ベヒモスを殺せるような魔法は俺は知らん。香織一人の力では絶対無理だ」

 

 仮に香織が攻撃魔法や武術を会得しようとしても、よくても並程度で終わる。この世界で魔法を使うには適性が絶対だ。『人間をやめない限り』神の法則に縛られたままである。

 

 そんな事、香織本人が一番分かっている。分かっているが...

 

「それでも、私は....!」

「香織....」

 

 あの悪夢の日、自分は攻撃できずに、なにも出来ずに終わった。そんな事、二度とごめんだ。指先に力が入り、膝に爪が食い込む。

 

 

 

「だが、【何でも屋】なら可能性はある」

 

「え....?」

 

「どういうことですか?」

 

香織が顔を上げて、雫が尋ねた

 

「【何でも屋】のあの魔法、覚えているか?」

 

「あの魔法...【黒い手】のような魔法ですね?」

 

「そうだ。あの魔法は【何でも屋】以外で使ってる奴は見たことない。それだけじゃない。アイツはあれ以外にも俺が見た事ない魔法をたくさん使える」

 

「つまり....?」

 

 

 

 

 

「【何でも屋】なら、香織に適性のある攻撃魔法を知ってるかもしれん」

「本当ですか!?」

「うぉっ!? 近い! 近い! あくまで推測だ! 推測! 行かなきゃ分からん! 離れんか!」

「すっ、すみません....!」

 

 香織はメルド団長に抱きつくような勢いで迫り、メルド団長がのけ反ると恥ずかしそうにソファに座り直した。メルド団長はオホンと咳払いして仕切り直す。

 

「で、どうする? 行くか?」

 

「はい! 行きま....あ、でも迷宮攻略が....」

 

 話を聞く限り行ってみたい。行ってみたいが...やっぱり迷宮攻略も一緒に...香織はグルグルと頭を悩ませた。

 

「その点はアイツに返信せないかんし俺が一筆添えといてやる。【何でも屋】はこっちの今の事情を知らないだろうしな。アイツも鬼じゃないからその辺の事情も汲んでくれるはずだ。それに一生アイツのもとにいるわけじゃあるまいし、とりあえず会ってみるってのも良いと思うぞ?」

 

 別に香織と雫は一生【何でも屋】のもとに囚われるわけではない。会って、話を聞いて、体を動かす、そこから判断しても別に遅くはない。この世界最強の冒険者に少しでも修行をつけてもらうだけでも実りある時間になるはずだ。

 

 

「...そうですね。私、行きます! 【何でも屋】さんのところに!」

 

 迷宮攻略も出来て強くなれるなら願ったり叶ったりだ。香織は良い返事が貰えれば【何でも屋】に会うことを決めた。強くなるための千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかないし、回り道した方が早く着く場合もある。

 

 

 

「了解した。雫はどうする? アイツが武器を使ってるところを見た事はないが弟子に欲しいなら何か感じたものがあるはずなんだが...」

 

 雫は数秒間瞠目し考えたあと、目を開けた。

 

 

 

「香織が行くなら、私も行きます」

 

 

 

 香織を守ると決めた手前、彼女がどこに行こうとついていくつもりの雫に迷いはなかった。彼女もまた、【何でも屋】の弟子になる事を決めた。

 

「......そうか」

 

「雫ちゃん....ありがとう」

 

「気にしないで。香織が死んでしまったら私、生きていられないもの。当然の事よ」

 

「雫ちゃん....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめん、それはちょっと重いかな」

 

「!?」

 

 

☆☆☆

 

 

 後日、【不気味な何でも屋】から『オルクス大迷宮は修行で使う。◯日?時に××で落ち合おう』と書かれた手紙が届いた。

 

 

 

 

 






香織 :強くなりたいのと迷宮攻略を同時並行したい。今作では特に攻撃魔法を御所望
雫  :香織が行くとこに自分の姿あり。重い
メルド:勇者一行を崩壊寸前の状況に追い込んでしまったということで騎士団は上層部からの信用を少し無くしており、今回の香織、雫の【何でも屋】への弟子入りの話が教会の推薦があったのもそういう経緯があったため。



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