ありふれていない異世界吸血鬼が二大女神と出会う話 作:くたしん
すぐに投稿できるとか言って一週間もかかってるじゃねぇか! すんませんでした(謝罪)
それはそうと、色が付きました。お気に入り登録、誤字報告、感想を書いていただきありがとうございます。まだまだ皆さまに読んでいただきたいところがいっぱい有りますのでこれからも頑張っていきます!
香織と魔物がいる所から少しだけ離れた場所。大木に身を預けるようにして、雫は倒れている。少しの間、死んだように動かなかった彼女だがしばらくするとピクリと動き、両眼をゆっくりと開けた。
(くそっ、意識がトンでた……! 一体どれくらい……痛っ……!!!!)
雫はなんとか生きていたが酷い状態だ。頭を触れば血がベットリと付き、体を少しでも動かせば全身を激痛が走る。見れば右腕がダランとしている上に、左脚も骨折したのか満足に動かせない。肋骨も何本かやられているだろう。今まで体験した事のない痛みが雫を襲う。
「行かなきゃ……! 香織が、戦ってる……!」
それでも雫は動く。親友を助けるために。きっと彼女は自分の帰りを待っている。
雫は木や落ちていた枝を支えにして片足を引き摺りながら歩き出す。得物であるアーティファクトは刀身が真ん中からポッキリと折れてしまっていた。それでも、香織の元に……
「痛くない……! これくらい痛くない……!! 香織は……私が守る……!!」
道中で何度も転倒。内臓も傷ついているのか咳き込むたびに血を吐き出す。しかし、それでも歩みを止めず、雫は元いた場所に辿り着いた。
バキッ……! グチャッ……!
何か音が聞こえる。闇に紛れて姿は見えない。音の出所に近付く。
「…………ぇ……?」
出した本人にしか聞こえないようなか細い声を雫は思わず出した。
嘘だ。そんな筈がない。絶対嘘だ。有り得ない。雫は心の中で目の前の現実を否定するが残念ながらそれは紛れもない現実だった。
血塗れの香織の上半身が、魔物の口内から飛び出していた。
「う、うわあ゛あ゛あ゛あ゛ああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
雫は絶叫しながら痛む体を無視して無理矢理走り出し、魔物の口内に折れたアーティファクトを突き刺す。奇襲を受けた魔物は「グルゥア!?」と悲鳴を上げて香織を放り投げ、雫は転びながら受け止めるが、その衝撃で泣き叫びたくなるような激痛が彼女を襲う。しかし、持ち前の精神力で痛みを捻じ伏せ必死に呼びかけた。
「香織!! 目を覚まして!! 香織!!!!」
「……し……ず……ちゃ……ん……?」
香織はなんとか生きていた。しかし、下半身は魔物の牙に蹂躙されてズタズタだ。腰も完全に砕けていて、眼に力はなく、その命の灯火は今にも消えそうだ。魔物が油断してトドメをささなかった事と彼女が神の使徒じゃなければとっくに息絶えていただろう。
「なんとか、ここか……あっぐうっ……!!!!!!」
雫は何とかして香織を連れてここから逃げようとするが、元々痛んでいた体に無茶をさせたせいか足がもう全く動かない。咳き込み、血を吐くがそれでも雫は諦めず、香織の体を掴んで魔物から離れようとする。しかし香織が手で制し、弱々しい声で雫に声をかけた。
「……し……ず……だけ……で……に……げ……て……」
「何をバカな事言ってるの!! 絶対、二人揃って地球に帰る!! 勝手に死んだら承知しないわよ!!」
魔物は口内に突き刺さっていたアーティファクトを吐き出すと、血をダラダラと垂らしながら怒りに目を滾らせ、二人に迫ってくる。
「動け!! 動け私の体!! お願い!! 今だけでいい!! 動けったら!!」
しかし、雫の体は思うように動かない。重症の体で人一人を連れて逃げようとしてるのだから当然だろう。魔物が急速にその距離を詰める。雫は自分のあまりの不甲斐なさに涙が出てきた。なんで私は目の前の親友一人すら助けられない!? 今度こそ守るとあの夜に誓った!! なのに、なんで……!!!!!
すると、雫の頬を何かが包んだ。香織の手だ。彼女は、雫の頬に向けて手を伸ばして涙を拭いとり……
『笑った』
「かお……り……?」
その笑みは普段の彼女のものとはあまりに違う、脂汗を額に滲ませ苦痛を含んだ痛々しい笑みだ。
それでも、今まで雫が見てきた中で一番優しい笑みだった。
「お……ね……がい……に……げ……て……」
「!!!!!」
その笑顔を見て、雫の心は更に締め付けられた。この優しい娘はこの期に及んでまだ他人の身を案じているのだ。しかも、自分は想像を絶するほどの激痛に苛まれているのにも関わらず、雫に安心感を与えるために笑いかけている。並大抵の精神力ではない。
「バカなこと言わないで。絶対に、絶対に貴女も助ける……!!」
しかし、雫に見捨てるという選択肢などあるはずもなかった。香織の気持ちを考えれば雫は一人で逃げ出すべきだろう。生きるべきだろう。だけど、もう一度言う。
そんな選択肢など、存在しない。
雫は涙を拭い、血を拭い、香織を抱いて這いずる。右腕と左脚は骨折してるが関係ない。無理矢理動かす。激痛が走る。歯を食い縛り、耐える。亀よりも遅い速度だがそれでも逃げる。
「……ダメ……だよ……」
「喋らないで。傷に……ああああああああああああああああああああっ!?」
「!!!!!」
いつの間にか魔物が二人に追いついており、その脚で雫を踏み付けた。何百キロもの体重がある体長四メートルの魔物の踏みつけに大怪我の体が無事でいられるはずもなく、雫は絶叫。血反吐をぶち撒け、全身がミシミシと嫌な音を立てる。
魔物は二人を見下し、特に強い怒りを雫に向ける。この人間の女は自分を傷つけた。だから殺す。魔物は己の怒りと本能に任せ、その鋭い牙を突き立てようとするがーー
「……フーッ……! フーッ……! その脚をどけろ……殺すぞ……!!」
しかし、雫は一切怯まず魔物を睨み返した。修羅、羅刹。そのような表現が似合うほど殺気が篭った血塗れの瞳に睨まれた魔物は怯んで脚を離し、その隙に雫は再び這いずりだす。
魔物は最初、何故自分が怯んだのかよく分からなかった。相手は既に瀕死。どう足掻いてもこの人間の女は自分には勝てない。なのに、何故。
「グルルルルルルルル……!!」
魔物の怒りが更に滾る。よく分からないが不快だ。絶対に殺す。こいつだけは。こいつだけは確実に、今ここで殺す。
魔物は慎重に、再び二人に迫る。雫は再度睨み付けるが魔物はもう怯まない。雫は「はぁ……」と溜息を吐いた。
「ごめんなさい香織……私、何も約束を守れなかったわ……」
「……いい……よ……やっぱり……最……後は……雫ちゃん……の……傍が……いい……から……」
「……ありがとう」
顔を近付けてお互いに語り合う二人。魔物が牙を剥く。
( (あぁ、もう少しだけ長く生きたかった……) )
結局、自分達は何も為さず、ゴミのように死んでいく。二人は眼を瞑り、その時を待った。出来れば、来世もこの大切な人と一緒にいられますように……と願いを込めて。
その瞬間だった。
ドォン!!!!
「ゴゥワアア!?!?!?」
闇を切り裂く様にして突如飛来しきてきたのは一発の魔弾。それは流星のような勢いで魔物の顔面に炸裂し、吹き飛ばす。特徴でもある立派な牙は二本とも折れ、一本は砕け散り、もう一本は二人の近くの地面に突き刺さった。
雫は体を起こし、呆然とその様子を見つめる。たった一撃。一発の魔弾で自分を一瞬で戦闘不能にした魔物を吹き飛ばすという現実離れした光景に雫は我が眼を疑う。
そして、幼くも気品のある、あの声が聞こえた。
「ここは〝死の山〟なぜかここに出没する魔物は他の地域に出てくる魔物よりも一線を画す強さを持っていて、ミレディ曰く〝真の大迷宮並み〟なんででしょうねぇ?」
バサリと蝙蝠の翼を羽ばたかせて、二人の前に舞い降りる。闇に溶け込む黒い軍服を着た、吸血鬼の少女だ。
「やっほー香織、雫。生きてるー?」
レミリアはまるで道中偶然知り合いに会ったかのような気楽な挨拶を二人にして、クスクスと笑った。
☆☆☆
「レミリア……なんで……?」
「私は吸血鬼よ。二人の血の臭いを嗅ぎつけてね。全く、思ってたより遠くに行ってたから助けるのが遅くなっちゃったじゃない」
やれやれだわ。とレミリアが息を吐くと吹き飛ばした筈のサーベルタイガー型の魔物がレミリアの背後に突如現れた。
「危ない!!」
雫は咄嗟にそう叫ぶがレミリアは全く反応しない。魔物は牙がズラリと並ぶ凶悪な口を開け、レミリアに突き立てようとする。魔弾を受けて口内はボロボロだが、それでもレミリアの柔肌を貫くには充分だろう。
しかし、そうはならなかった。
「グルゥッ!?」
レミリアの腰の辺りから突如【影で出来た手】が生えてきて、魔物の頭をガッチリと捉えた。そう、オルクス大迷宮で【不気味な何でも屋】が使っていた、あの魔法だ。
【影魔法 影爪】
影の手を作り出す魔法。注ぐ魔力の量により大きさを変えることができ、実体化している五本の爪が敵を斬り裂く、殴る、掴むことができる。
【影爪】に捕われた魔物は必死にもがくが、逃げ出せない。五本の爪が頭に食い込み、そしてーー
ブシュウッ! と音を立てて破裂した。
脳髄と血が辺りに飛び散り、異様な臭いが雫の鼻をつく。レミリアは未だにビクビクと痙攣している魔物を森の奥に放り捨てると【影爪】も空中で霧散した。
まさに瞬殺。雫は驚きのあまり空いた口が塞がらない。レミリアはフフッと、余裕たっぷりな笑顔を見せた。
暫し、辺りは静寂に包まれる。だが、その静寂はすぐに破られた。香織だ。
「ゴフッ! ゲホッ! ……ヒュー……ヒュー……」
「香織!!」
香織が吐血し、雫が慌てて近付く。香織はかなり限界の様子だ。あと数分もしないうちにその命を落とすだろう。
「あぁ、香織しっかりして。どうしよう。一体どうしたら……」
治癒の力なんて持っておらず、どうする事も出来ずに辺りを見渡す雫。その視界にレミリアが入る。
「お、お願いレミリア。何でもする。何でもするから……香織を……」
「おっと雫。悪魔に『何でもする』なんて軽々しく言うものじゃないぞ。何されるか分かったものじゃないからね」
雫はなりふりかまっていられないのか声を震わせながらレミリアに縋り付く。しかし、レミリアは「しーっ」と口の前に人差し指を立てて雫に忠告するばかり。そのまま香織の前に歩み寄る。
「あら、凄い怪我ね香織。これでよく生きて……あぁ、〝自動回復〟を自分にかけたのか。その間ずっと……よく精神が……うんうん、やっぱり私の眼に狂いは無かったわね」
レミリアは一人で勝手に納得して月を背景にその場でくるりと一回転。そして実に楽しそうに語り出す。
「さて、二人とも。実は私は『死んでから十分以内の人間を生き返らせる』事が出来るの。あぁ、回復魔法は私そこまで得意じゃないから香織は直せないからそれを踏まえた上でよく聞いて頂戴。あの魔物は〝真のオルクス大迷宮〟一階層レベル。あれ以上の敵がこの世界にはまだまだいるから南雲くんとやらを見つけるにはもっと力が必要よね。
さて、一回死んでから明日以降に答えを出す? それとも今【半吸血鬼】になる? どーっちだ?」
過去編を一回挟みます。