ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
グレゴーリ戦の事後処理は二週間という時間がかかった。502の命令違反に始まり、消耗品、人員の整理、そして残された人達への弔い。
ようやくいち段落したところで、個人的な問題の対応が出来るようになった。
部屋には私と彼女のみ。
破壊された義手はそのままに、彼女は覚悟を決めた顔をしていた。
「良いのだな」
この問い直しに、意味はあるのか。きっと彼女の中ではもう決まっていることなのだろう。そうなれば私の助言など聞きはしない。
だけれど私が納得するためには必要なのかもしれない。
「はい、お世話になりましたラル中佐。これからはまた、ハルとして空に戻ります」
あの一件以降彼女は再び502に臨時で籍を置いている。
その際にあの伯爵と取引をして彼女のために色々な便宜を図った。
「これは独り言なんだがな、ウォーロックと核兵器運用の事実を軍は抹消したらしい。よって君にかけられていた叛逆の嫌疑も、その後の軍規違反も全て存在しないことになった」
たった今迄、ハルは病休であった。そうすることで彼女を解放する。
そのうち彼女も知ることになるだろうが、これだけは私から直接言いたかった。
全く、大変だったのだぞ。一週間前に急にハルの身分に戻ると言い出したのだからな。
「それは……」
「おかえり、ハル」
ただいまと言って欲しかったが、彼女は少しだけ考え込んでから、疑問を投げてきた。
「軍がよくそれを通しましたね」
「伯爵の軍政力には舌を巻いたよ。ついでに軍も汚点をいくつも抱えたくはないのだろうな」
核兵器とウォーロック。どちらもネウロイを殲滅するために人類すらも殲滅しかねない代物だ。
流石に軍も人だ。本質は変わらない。
殺戮というものが人間の生存に直結する部分に存在していようとも、それを止めることができる理性があるのも人だ。
それは人が集まって出来上がった組織にも同じことが言える。
「もちろんこれは君だけじゃなく計画に関わっていたもの、マロニー派やその裏にいたであろう者達も同じだ。まあ、マロニーに関しては別件での汚職や横領の罪状でいずれにせよ軍法会議中だから問題はないがな」
どちらにしろ失敗した彼らが再び力を取り戻すのは長い時間がかかるだろう。
リベリオンも莫大な予算が必要な核兵器の再開発は簡単にはいかない。それにウォーロックのような量産も制御も利かない存在も兵器としては使い物にならない。
切り札を欠いた組織は脆い。そして元凶の1人であるハルは切り札を持っている。
「まあ、君を狙う存在はしばらくは抑え込めると言うわけだ。アントナー・ジークフリンデ・グラーフ・ケルンテン・フォン・ハル」
グラーフ、つまりはケルンテン伯爵。その領地は現在では存在しないが、称号が持つ効力は健在だ。外交官だった先代ケルンテン伯爵亡き今、彼女は血縁の中で唯一の後継者だったがその継承を今まで保留にしていた。だが彼女が彼女として軍に戻るためには曲がりなりにも立場の保証が必要となる。だからこそ彼女は伯爵を継いだ。
これは私の策略ではない。彼女の意思だ。
あるいは彼女なりのケジメなのかもしれない。
「ああそれと……何かあればエドヴァルナ・グラーフ・シェイエルン・フォン・シュレイナも出てくると」
流石に今の身分の彼女には簡単に手は出せまい。
「お節介だって言ったんですけどね……」
シュレイナ伯爵をお節介と言えるのは君くらいな者だろう。あれはなかなかに食えないお方だ。
「まあ、曲がりなりにも伯爵だ。政治の世界の常識からすれば下手に手を出そうとはしないだろうさ」
ああ、あともう一つあったな。
「それと502は人員削減だ。部隊はそのままによりコンパクトかつ機動性をあげる。君には原隊に復帰してもらう」
「……え?」
意外と、君もそんな表情ができるのだな。
なんだか安心した。
「辞令だ。本日付をもって貴官の現任務を解除する。以降は一週間以内に原隊へ復帰、指示を仰げ。以上だ」
彼女をいつまでもここに置いておくとミーナがうるさいからな。数日前から抗議の手紙がかなり来ている。過保護すぎると言えばそれまでなんだが、今の彼女は健康体だぞ。
「JG52ですか?」
「そうだ。彼女達も君に会いたがっていたからな」
そう言うと彼女はくすくすと笑い出した。きっと彼女を呼び戻そうとするミーナ達の顔が浮かんできたに違いない。
「ふふ、そうでしたね。ありがとうございます」
「次の便で一度ロンドンへ行ってくれ。そこからJG52に向けての定期輸送便が飛んでいる。手配はつけておいた」
「ええ、では挨拶回りを少ししてきますね」
「たっぷりしてこい。時間はまだあるのだからな」
西の空に、小さな胡麻粒のような黒い影が見えた。
レーダーではるか手前からばっちり見えているけれど、それでも肉眼で確認しようとすると最初はいつもこんな感じだ。
点のような存在は次第に大きくなっていき、シルエットがはっきりとしてくる。
四発のエンジンを持つ大型機。リベリオンのB-17爆撃機を輸送機に改造した機体だ。
国籍マークはもちろんブリタニア。
なんのことはないいつもの定期便だった。
でもそれに乗っている人はちょっとだけ、特別な存在だった。
『こちらJG52第二中隊所属ウィッチ。コールサイン フラウ。基地までの護衛を行う』
『こちら定期輸送便999号了解。護衛感謝する』
近づいていくと細部がよく見える。機体横に設けられた監視窓に人影が映った。
お目当ての人だった。
「ただいま」
窓から見える人影がそう言った気がした。
「おかえり」
あの時以来、本心で言えなかった言葉がようやく言えた。
ブレイブウィッチーズ編完
ハルちゃんの三走目
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