ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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無能な働き者が味方にとって最大の害悪であるのはフォン・ゼークトが指摘する遥か以前から社会的原則だった。

田畑を耕し獣を狩ってさえそうなのだから戦闘を行う軍隊にとってはどれほど迷惑な存在であるかは語るまでもないだろう。



part 0.5グレゴーリ戦線 塹壕1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネウロイが放つ瘴気によって森は枯れ、剥き出しとなった地面には雪が積もっていた。

その雪の中に僅かに顔を覗かせる泥混じりの地面の上を野戦四輪車がやってきた。

扶桑陸軍では隊長クラスの人物の移動などに使われる小型の車両である。その後部にはいくつものアンテナが互いの電波に干渉してしまうのを避けるために絶妙に距離を空けて立てられていた。

 

その野戦四輪車、九五式小型自動貨物車には扶桑海軍のマークが描かれていた。

「時間通りに来ましたね」

車両すら通行することが可能な大規模な交通豪に設けられた小さな待避所で、出迎えの上等兵が言った。

「ああ、そうだな」

短く答えた西川軍曹は扶桑国海軍海兵隊が最近になって採用した白と黒の斑点模様の冬季用迷彩服についた土を落としながらその車両を見つめた。

 

2人は扶桑海軍の陸戦隊から扶桑陸軍に派遣された一個中隊に形式上は籍を置いていた。

だがそれは書類上という話で、彼らはグレゴーリ攻略のために派遣された陸軍との調整役のためにたった2人で最前線に送り込まれていたのだ。

 

戦術調整士官の不足から急遽立てられた代役ではあったが、一年近くをこうして塹壕で過ごすうちに2人から潮の気配はすっかり抜けていた。

「この辺りは最近じゃネウロイの攻撃が激しくなってきてるからって重要戦区に指定されたって話ですからね」

 

「そのための前線航空統制官ってわけだ。運が良ければウィッチ達を拝めるかもしれねえな」

 

「だといいんですがね、どうにも航空隊は陸さんも海さんも撃墜に拘るところがありますからね」

 

「だが有り難い限りだ。ネウロイだっていつまでも塹壕が巣の近くにあったんじゃ寝覚めが悪いだろう。そのうち仕掛けてくるだろうからな」

 

「戦車型とバズーカでやり合うのは御免ですからね」

 

 

 

 

 

 

美咲明乃少佐は合流予定だった陸戦隊を見つけて運転兵に止めるように命令した。

比喩表現ではあるが軍隊には戦死した方がマシだという任務も存在する。

 

彼女にとってのそれは内地での新型無線機システムによる航空地上管制の試験現場から追い出される原因になった命令書によって現実になった。

 

戦艦越後から辛くも生き延びた彼女はその後の軍歴の多くを本土での防空システムや地上からの航空統制の開発に捧げていた。その中でも彼女は実際の航空機を使用した模擬空戦を主に担当していた。

アガリを迎えたウィッチのその後の軍歴としては可も無く不可も無い。

 

だがその経歴に満足していたわけでもなかった。

試験中、彼女の駆る零式練習戦闘機が発動機不調を起こした。

彼女は慌てて機体を不時着に持って行こうとしたが、整地されてない野原に機体を下した直後に脚が弾み機体は横転した。

彼女は全治1ヶ月の怪我を負った。彼女が気に入らなかったのはその負傷が彼女の左腕と足に影響を与え、二度と自分の手で航空機を操縦出来なくなってしまった事だった。

 

海軍の中で彼女に残された道は、通信・情報士官としての道か、前線航空管制官の道だった。

彼女は前者を選択した。

 

だがその決断は消極的否定によるものだった。

結局、リタイアしたパイロットが次に選ぶ商売としては都落ちのように感じられたのだった。

 

軍を辞めるという選択肢(彼女の夢は小説家であった)もあったが、戦時中にアガリを迎えているとはいえ貴重なウィッチを軍は簡単には手放さなかった。

 

美咲の希望は叶った。ただしグレゴーリ攻略作戦での前線航空管制官としての任務の後にという但し書きがついてだったが。

 

 

美咲少佐がグレゴーリ攻略軍扶桑陸軍第三派欧師団第二戦車連隊第一戦車大隊第二中隊にやってきた背景にはそうした事情があった。

 

 

 

「厳しそうな方が来ると思っていましたがまさかウィッチでしたか」

軍用車を中隊の車両集積所まで誘導してきた陸戦隊の西川軍曹は車両から降りてきた美咲少佐を前に目を丸くしていた。陸戦ウィッチとは違う、航空ウィッチの小綺麗な姿に、しかし軍人としての態度で彼は答えた。

彼は美咲少佐の事を何度か耳にしていた。

ニュース映画で見た彼女のウィッチとしての活躍、壮絶な戦艦越後最後に立ち会った者としての証言。

 

「貴方は……陸戦隊の方ですか?」

 

「ええ、訳あってここで陸軍と海軍の調整役をやっています。我々はこれから海軍の航空支援についての打ち合わせをしに行きますので後は陸軍の飯塚軍曹の指示に従ってください」

そう言って彼はいつのまにか隣に立っていた陸軍の迷彩服を着た若い男に後を託した。

飯塚軍曹と呼ばれた男は美咲少佐から見ても軍曹にしては若い、部類に入った。

 

「では少佐殿、貴女の任務をなさる以外ではこちらの指示には絶対に従ってください。運が悪く無い限り死ぬことはないでしょう。我々は貴女がどれほど大事な存在か理解しています。必ずお守りいたします」

 

「敬語じゃ無くて良い。年齢的には近いようだし、意思疎通がしやすいだろう」

 

「そりゃ有り難い」

彼はおかしそうに言った。

「まあとにかく、我々は必ず貴女をお守りします」

 

「嬉しいよ」

飯塚軍曹は彼女を中隊本部へ案内した。

 

 

 

 

 

 

 この中隊には九七式中戦車改が二個小隊、合計9両存在する。

この戦力を中核として直掩の二個歩兵小隊と一個整備小隊が中隊本部の指揮下に入る一種の戦闘大隊の中隊版みたいなものであった。

その戦力の中核はなんと言っても扶桑陸軍最強と呼ばれた九七式中戦車改だった。

1400馬力を超える発動機と105ミリ砲と言う他に類を見ない火力で対グレゴーリ攻略のための戦線を維持する役目が与えられていた。

歩兵部隊も一般的な歩兵火力の他に対機甲火力としてリベリオン陸軍からの供与でM1ロケットランチャーを装備していた。

 

 

 

 

当然それらの説明は中隊長からはされなかった。後に専任下士官から聞いたものである。

美咲少佐の前にいた中隊長は、前線にいる軍人であるという事を加味しても醜男だった。いや、どこか見窄らしい男だった。

 

「いやしかし、一週間も居てくれるとは有り難い!」

挨拶もそこそこに彼は同じような言葉を繰り返していた。

美咲少佐はすでにその男に疑問を抱いていた。この男には常に戦線で数が不足している前線航空管制官が、それも管轄が違う海軍が一週間も張り付く意味を分かっているのだろうか。

 

「では後は専任軍曹の指示に従ってください。私はこれからブリーフィングがありますので」

そう言ってほとんど何も説明する事無く、専任軍曹と呼ばれた男、飯塚軍曹に全てを丸投げした。

 

 

 

「専任下士官だったのだな。そういうのはもっと古参の、ベテラン軍曹か曹長がやるものかと思っていた」

中隊指揮所になっている天幕を後にした美咲少佐は交通壕を歩きながら尋ねた。

「仕方がありません。戦争ですから」

飯塚軍曹は表情を変える事無く答えた。

 

軍を知り、最も部隊を熟知した古参兵はこの戦争でほとんどが死傷し消耗していた。

それはどこも変わらない。扶桑やリベリオンなどの本土が戦場から離れた国でもそうなのだから欧州の軍はもっと悲惨なのだ。

自分たちは恵まれた方だと、2人は意識する事で無理やりに納得していた。

 

 

 

 

交通壕からグレゴーリの方に向かって伸びた人1人がやっと通れるかくらいの細い塹壕を通って出た先の観測壕に入りながら飯塚軍曹は言った。

「先日の戦闘では中隊には目立った損害は出ていません。ネウロイ側も威力偵察のつもりなのでしょう。ですが戦車部隊は弾薬が潤沢とは言えません」

 

「こちらの数が健在なのは救いだな」

 

「正しく、隣の中隊は定数の一割減ですから」

観測壕は上部を土で固めた屋根を持つ半地下のものだった。スリッド状の窓からは荒れた大地と、その奥でガス雲を纏ったネウロイの巣、グレゴーリがあった。

風で時々瘴気が濃く流れているのか、紫色の煙のようなものが時々グレゴーリと観測壕の合間を流れていた。

 

「ネウロイ共は巣を地上攻撃から守るために地上に戦車型を多数展開しています。奴らのビームは直線的にしか来ませんからこちらみたいに野砲の曲射攻撃が無い分マシですが、それでも硬いですからね」

 

「そうだな……あれらは野砲の火力支援でも中々潰すのは困難だ。それに戦車型ではあるが最近ではこちらの野砲と同じような後方からの火力支援もしてくるようになっている」

 

「ええ、全くその通りです」

 

「航空攻撃で潰せばそれだけで負担は軽くなるはずだな」

戦車の弾薬が少ないとなれば、あと一回か二回大規模な攻勢をかけられた場合考えたく無い事態も発生する可能性があった。

弾薬の補充は現状では満足に行っていないようだった。

グレゴーリ攻略のために備蓄しているというのが上からの回答であったが、備蓄に集中して防衛が疎かになるようでは順番が逆だろうと美咲少佐は憤りを感じていた。

 

同じ理由でネウロイの機甲火力の漸減も却下されたのだった。

 

 

「それで、私はどこで任務を果たせば良いのかな?」

 

「案内します」

 

美咲少佐が欧州の地に来るまでの合間に読んだ陸軍の教本によれば中隊の防御陣地は800m程度が望ましいとされていた。

戦車部隊であれば1km程度まで拡大しても問題ないとされていたが、中隊が受け持つ防御陣地は5kmにわたっていた。

その前線の僅か3km後方では列車砲を移動させるための線路を工兵隊が敷設している最中だった。

 

「たった二個中隊で10kmもの前線を維持するつもりか」

 

「正確には残る一個陸戦ウィッチ中隊を以て機動防御を行うつもりです」

 

「戦力不足だからか」

本来戦車大隊は3個戦車中隊と1個陸戦ウィッチ中隊が戦闘力としての基本である。だがこの戦車大隊はすでに一個中隊が編成上から消失していた。美咲少佐は天を仰いだ。

 

そんな説明を受けながら、飯塚軍曹は塹壕を奥へと進んでいった。

「ここですがどうでしょう?」

 

その場所は瘴気で枯れ、倒れた木々がいくつもおり重なった丘のような場所だった。

倒木によりネウロイ側からは暴露しづらい場所だった。

その場所に美咲少佐とその部下が航空管制を行うには十分な広さの掩体壕があった。

丘であるからか主警戒線がよく見渡せた。

「良い場所だ」

 

「予備の掩体壕はここから後方に200mの位置にあります。危険を感じるか、我々が何かを言ったら迷わずそちらへ退避してください。そこでも状況が悪化した場合は大隊本部へ後退してください」

 

「分かった。では開設作業に入る」

そう言って彼女は掩体壕をもう一度見渡した。よく見れば電話線が埋設されて、その先端を掩体壕の隅っこに覗かせていた。

「電話線は引いてあります。その他に必要な線はすいませんがそちらでお願いします」

 

「有り難い限りだよ」

 

 

美咲少佐がある事実に気付いたのは、途中で戻ってきた陸戦隊の2人も加えて野戦電話を設置し、航空無線へ直接通話するための機材を設置している最中であった。

彼女が飯塚軍曹と交わした内容は本来なら下士官と少佐がするものではなかった。

 

それは本来、中隊長が地図と編成表を使って説明するべきものだった。

だが彼女は疑問に思いつつも疑念を抑え込んだ。

 

「随分と立派なものができましたな」

 

「ああ、君たちのおかげでもある。ありがとう」

 

「礼には及びません。それと海軍と陸軍の航空機とウィッチへの支援要請の割り当てが完了しました。海軍の編成表はこの通りですが、現在この空域に展開している第502統合航空戦闘団も要請があれば支援に入るそうです」

 

前線航空管制官と言ってもその所属は扶桑海軍だ。

彼女の権限だけでは呼び出せるのは自国の海軍航空隊だけだった。だがそれだけでは数も効率も悪い。故に陸戦隊が交渉役になり陸軍の航空隊を手配したのだった。

 

 

 

戦闘そのものは彼女が装備を展開した12時間後に発生した。

 




美咲少佐、一難去ってまた一難。

ハルちゃんの三走目

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