ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
空気を切り裂く音が耳に入った時、美咲少佐らは掩体壕の中で身を伏せていた。
次の瞬間、陣地の周辺で爆発が発生した。
物理的な砲弾と違い、ネウロイの攻撃は基本的にビームである。それ故に曲射による間接射撃が殆どない。上から攻撃が来ないというだけでもマシではあるが、ビームであるが故に周囲の物体を焼き尽くし、照射された物をプラズマ化させて原子レベルでの破壊をするから手に負えない。
戦車がしっかりと隠れられる戦車壕が地面から盛り上がる爆煙で見えなくなる。
戦車はまだいない。さらに後方に巧妙に偽装されていて、ネウロイが前進を開始した時に無事である戦車壕に前進して然るべき攻撃を行うのだ。
だがそれを知っていても、美咲少佐らはなんら安心できなかった。聴覚で云々出来るレベルを遥かに超えた音響で、一時的に聴力を消失させていた。
今の彼女に出来ることは直撃を受けないように祈ることだけだった。
「畜生、空なら回避できるのに」
そんな彼女の愚痴も、爆発に紛れて聞こえた者はいなかった。
砲撃は二十分にも及んだ。
彼女は、陸戦隊の2人を含んだ部下に野戦電話と無線機が被害を受けていないかを確かめさせつつ、自身は掩体壕から身を乗り出し防衛陣地の状況を確認した。
今までの経験と、重機を使った大規模な塹壕ではあるが、それでも無傷とは言えなかった。
歩哨壕や一部の交通壕が破壊されて砲撃によるクレーターと土砂で埋まっていた。
幾らかの負傷者も出ているようだった。
そこまで確認したところで上空をエンジンの爆音とウィッチの影が通過していった。
この辺りの空域を受け持っている航空隊が航空防止を図る為に前進してきているのだ。
「少佐、無事ですか⁈」
交通壕につながる通路から飯塚軍曹が駆け込んできた。
「問題ない」
「良かった。砲撃で吹き飛んでたら寝覚めが悪いですから」
飯塚軍曹は疲労が色濃く残る顔に安堵の色を浮かべて笑った。
「ところで損害は?」
「歩哨の4名が負傷しましたが戦車隊は戦闘力を維持しています」
「了解した。本格的な攻勢が始まったらすぐに航空要請を行う。ネウロイに邪魔されなければ5分で来るはずだ」
この攻撃が前線全体で発生しているのかは分からなかったが、後方の基地では既に支援攻撃の準備が行われているはずだった。
事実既に即応部隊によるネウロイへの防止攻撃は行われている。航空要請に使う無線機からは航空攻撃を行う部隊の無線が混線して流れていた。
「噂の502航空隊も来てくれるかもしれない。期待していてくれ」
「期待していますよ」
ネウロイの進撃は砲撃が終わってから三十分後に行われた。
本来なら間を置かずに進撃が行われるはずだ。
そうでなければ砲撃を行った意味がなくなってしまう。ネウロイの進撃が遅れた理由は連合軍の航空防止戦で戦力の移動が妨害された為だ。
それでも多脚の戦車型ネウロイは目の前に現れた。8本足で大型の個体。重戦車タイプが先頭に20体、その後方に6本足、中型で足が速い奴らが40体以上。
さらにその後方には人間よりやや大きい程度の四足の歩兵タイプが多数。
規模でいえば大隊規模だな。
美咲少佐は上空の直協部隊に連絡を取った。
その合間にも戦車隊は攻撃を開始していた。
無事だった塹壕にダッグインした九七式中戦車改の一個小隊が一斉に主砲を放った。
海軍では小口径砲に分類されるが陸では大火力になる105ミリ砲が先頭の重戦車タイプに殺到する。
いくつかは地面を削るだけに終わったが、2発の高初速徹甲弾がネウロイの脚を吹き飛ばし、胴体を大きく抉りその場に擱座させた。
間髪入れずに別の小隊の九七式中戦車改が発砲し擱座したネウロイのコアを破壊した。
だがネウロイもやられたままではない。発砲煙に向けてビームを撃ち返してくる。
運の悪い戦車が砲塔にビームを被弾し吹き飛んだ。
美咲少佐は無線機を掴んで司令部へ通信を繋げた。
後方に待機している無線車両を中継して後方の連合軍司令部に電波が飛ぶ。
「タカサキ二二よりタカサキ〇一」
「タカサキ〇一」
少しの間を置いて司令部が応答した。
「大隊規模のネウロイがタカサキ二二の正面に接近。タカサキ二二は支援を要請する」
「了解。暫し待て」
無線機が沈黙した。美咲少佐は愛用しているブリタニア製の双眼鏡で戦況を確認した。
戦車の攻撃は上手くいっているようには見えなかった。やはり3000mで交戦を開始したためか砲弾の命中率は高くなかった。もっともそれはネウロイ側にも言えることだった。
最初に撃破された一両を除いて今のところ戦車隊に被害は出ていなかった。
「タカサキ二二、こちらタカサキ〇一。現在待機中の部隊を派遣した。喜べ、502航空団だ。無線符牒はライト、周波数は147.55」
「タカサキ二二、そいつはありがたい」
美咲少佐は素早く無線機の周波数を指定された数字に切り替え、空に向かって呼びかける。
「タカサキ二二よりライト。応答せよ、送レ」
「ライト〇一よりタカサキ二二、上空に到達した。ネウロイの集団を視認」
どこかで聞いたことがある扶桑語の声と同時に上空を爆音が駆け抜けた。
ウィッチが二名に、単発爆撃機が一機。
機体後部にプロペラのある独特な形状は、カールスラントが運用する重攻撃機Do301だった。
ウィッチは2人とも扶桑海軍の軍服を着ていた。
「タカサキ二二、地上から君たちを確認した。そちらの装備を教えてくれ」
「こちらのウィッチ二名は扶桑海軍の標準装備。こちらはロケット、クラスターを定数装備。追加で通常爆弾も6発、送レ」
「タカサキ二二了解。まずクラスターで後方の中型をやってくれ。定数だと4発だな。ウィッチは後方の歩兵タイプを頼んだ」
「ライト了解。攻撃する」
旋回してきたDo301がネウロイの後方から仕掛けた。胴体から四つの黒い物体が切り離された。
それらは重戦車タイプの後ろの空で無数の小型爆弾をばら撒いた。
数秒後、中型の戦車型ネウロイの集団を包み込むように小爆発が発生した。爆弾の集中豪雨だった。
正面からの砲撃を弾けるネウロイも、上空からの散弾のような爆撃には耐えきれなかった。たちまち10体ほどの中型ネウロイが吹き飛んだ。
そのさらに後方でも上空からウィッチ達の20mm機関砲による攻撃が加えられていた。
「いいぞ!ライト〇一、今度は手前の重戦車タイプだ。ロケットでひとまとめに吹き飛ばせ!」
美咲少佐は興奮気味の声で呼びかけた。
Do301のロケット砲の定数は、2インチの小型徹甲ロケットを20発束にしたものを二基。合計40発搭載していることになる。
それらによる弾幕が先頭を進む重戦車ネウロイを包むように着弾していった。
いくつものネウロイが粒子になって霧散していく。
美咲少佐は頬を吊り上げて笑っていた。
このまま通常爆弾とDo301の機銃で攻撃していけば必ず撃退できる。そう思っていた。
だが急にウィッチ達の銃撃が止んだ。
双眼鏡で確認すれば先ほどまで地上に攻撃をしていた2人のウィッチが空に駆け上がっていた。
「タカサキ二二よりライト〇一、状況知らせ」
「ライト〇一、敵航空ネウロイ出現。対処に移る」
見れば上空に黒い胡麻粒のようなものが見えた。味方とは反対の方向から来ていることからネウロイの集団と思われた。
「幸運を祈る」
畜生と内心で悪態をつきながら、美咲少佐は周波数を司令部に切り替えた。
「タカサキ二二よりタカサキ〇一、直協は航空ネウロイの阻止に入った。地上支援の部隊を回してくれ」
だが返ってきた答えは絶望的なものだった。
「こちらタカサキ〇一、新たな部隊の派遣は不可能だ。広い範囲でネウロイの攻勢が発生している。現在回せる機体はない。そちらで対処してくれ、終わり」
歯を食いしばりながら無線機の送受信器を戻した美咲少佐はそのまま野戦電話をとった。
「前線航空管制班より本部」
相手はなかなか応答しなかった。
「こちら本部」
「直協は航空ネウロイとの交戦に入った。以降の支援は不可能」
「どうなっている!!」
声の主が変わった。中隊長だった。
「航空ネウロイに襲われているんです」
「何考えてやがる!いざとなったら支援できんだと?馬鹿野郎」
中隊長の怒声が響いた。
莫迦はお前だ。
美咲少佐は内心断じた。戦闘の真っ最中に個人的な怒りを優先している。
「兎も角以降の支援は不可能!以上終わり!」
少しして野戦電話が鳴った。
「こちら第一戦車壕、専任軍曹、航空支援が途絶えましたがどうなったのですか?」
美咲少佐は呆れた。連絡が届いていない。何のために中隊本部に連絡したのかが分からない。
「現在、航空ネウロイの出現により直協は不可能、各部隊に伝達願う」
美咲少佐は早口で言った。
「すまない。これ以上は力になれない」
「いいえ、これだけでも随分楽になりました」
再び戦車が攻撃を再開した。先ほどよりかは距離がつまっているためか、今度は複数のネウロイが吹き飛んだ。
だがネウロイの攻撃も勢いを増していた。
戦車を支援する歩兵部隊のバズーカや機関銃までもがネウロイに向けられて火を噴いていた。それらを吹き飛ばそうとネウロイのビームが撃たれていく。
「爆撃機が引き返してきます!」
双眼鏡で戦況を確認していた陸戦隊の西川軍曹が叫んだ。
つられて空を見ると、先ほどのDo301が単機で急降下をしていた。
「何をするつもりだ?」
背後から航空ネウロイに追いかけられている。
ビームが逃がさないと言わんばかりに機体に迫るのが見えた。
一瞬当たると思った攻撃は、やや機体が左右に揺れた事で直撃を回避していた。
そのままビームは地上のネウロイに命中した。
同士討ちだった。
それと同時に機体が強引に引き上げられ、重戦車タイプのネウロイの上空を掠めるように飛んでいった。
追いかけていたネウロイはその機動に追いつけずに地上の重戦車タイプを巻き込んで墜落した。
一時的にネウロイの集団の統制が乱れた。
「よし!敵の前面が崩壊した!」
陣地の至る所から歓声が上がり、応えるように反撃の火力が強くなったが、それは一瞬だった。みるみるうちに火力が衰えていくように美咲少佐は感じた。
戦車の砲撃の頻度が落ちていた。
「弾薬不足か」
今度はネウロイ側が仕掛ける番だった。
だが結局ネウロイは陣地を突破できなかった。
急遽投入された陸戦ウィッチが前線に到着し、火力支援を開始したからだ。
「現在までの損害は戦死12名、負傷者30名。戦車2両の完全損失。第一戦車小隊は小隊長が戦死してます」
落ち着かない様子で中隊長は飯塚軍曹に尋ねた。
「敵はどうなってる?」
「現状前線3000mの位置で進行を停止。陸戦ウィッチが展開しているため向こうも簡単にはでてくる様子はありません」
ネウロイも莫迦ではない。天敵であるウィッチを前にして一度戦力の再編に迫られているのだ。その間に中隊は再編と補給を行なっていた。
だが中隊長は安堵もせず、報告のために同席していた美咲少佐を睨んだ。
「なぜ支援を続けられなかった?」
詰るような声だった。
「先ほども伝えた通り敵航空ネウロイが出現したからで」
「違うね、あんたら航空隊はいつもそうだ。撃墜数しか頭にない。地上なんて……」
中隊長は莫迦にするような視線で美咲少佐を睨んだ。
「報告します!ネウロイが進撃を再開しました!」
彼の言葉は、駆け込んできた伝令の叫び声にも似た声で遮られた。
「私が陣頭指揮を取る。貴様らは当てにできん」
中隊長が動き出すよりも、飯塚軍曹と美咲少佐は駆け出していた。
「根は良い人なんですよ」
「そうなんだろうな」
美咲少佐は頷いた。
「仕事熱心そうだしな」
その人間としての美質が、指揮官としての美質と一致しているとは限らないと言うのは彼女はよく知っていた。
ネウロイは空地一体の進撃を行なってきていた。空ではいくつもの飛行機雲が絡み合い、爆発と黒煙が空を埋めていた。
簡単に直協が呼べる状態ではなかった。掩体壕に戻った美咲少佐には陣地を眺めることしかできなかった。
熾烈な攻撃の応酬に陣地と、ネウロイの集団の至る所で爆発が起こる。
様々なものが連続する爆発で吹き飛ばされていた。
陸戦ウィッチも戦線を支えきれないのか、集中攻撃の中で見えなくなっていった。
黙示録のような光景だった。
それでも美咲少佐達の掩体壕はいまだに無事を保っていた。
不幸が起きたのは、戦闘が始まってから20分ほど過ぎた頃だった。
「伏せろ!」
美咲少佐の頭を西川軍曹が地面に押し付けるようにして倒した。
その直後、轟音と衝撃波が掩体壕を襲った。
美咲少佐が意識を取り戻したのはそれから1分も経っていなかった。
畜生、越後から生還したのにーーそこまで考えてようやく意識が本格的に覚醒した。
そろりと体を引き起こす。
外傷はなかった。代わりに無線機のところにいた部下はその無線機ごと吹き飛ばされて死んでいた。自分に覆い被さっていた西川軍曹は気絶したままだった。
彼を担ぎ上げ、予備の掩体壕に向かって走り出した。
ジグザグに入り組んだ塹壕の中の景色は強烈な印象を持って彼女に刻み込まれた。越後で戦争の何たるかを見てきたつもりであったが、陸での戦いはネウロイがすぐ目の前にいる事もあって凄惨極まるものだった。
あちらこちらで塹壕に突入したネウロイと戦車や歩兵が戦闘を繰り広げていた。
炎上する戦車からは炭化した人だったものが頭や手を救いを求めるようにして突き出していた。
ネウロイのビームで丸焦げになったり、爆発で吹き飛ばされ腹を裂かれた歩兵がネウロイに押し潰されていた。
かと思えばネウロイにゼロ距離で戦車が発砲し、吹き飛ばしていた。
陸戦ウィッチがズタボロになってユニットの残骸のそばに倒れ込んでいた。
彼女の下半身は無くなっていた。
その中を彼女は駆けた。戦況次第では航空支援を要請しなければならないからだ。たとえ航空戦力がなかったとしても。
助けてくれと、まだ息がある兵士が助けを求めるのを無視して彼女は軍曹を背負って走った。
歩兵戦闘の現実が、彼女の人間としての美徳を麻痺させていた。軍人としての判断基準だけが彼女を動かしていた。
怒鳴り声がしたのはその時だった。
「逆襲するんだ!反撃部隊を編成せよ!」
「無意味です」
中隊長と飯塚軍曹の声だった。
「もはやネウロイの主力は潰走しています。このまま防衛戦を維持するのに注力すべきです」
「いいや、逆襲するんだ。これ以上ネウロイに進撃されて堪るか!」
「どうやって?先ほどの命じられた逆襲で二十名以上が戦死、戦車隊も一個小隊が吹き飛んだのを忘れたのですか?」
美咲少佐が2人の前に現れたのはそんな時だった。
同時に、彼女はウィッチとしての卓越した直感が死の接近を予期させた。
咄嗟に飯塚軍曹の腕を引っ張った。
反対側の塹壕の通路から歩兵サイズの四足歩行型ネウロイが現れたのは同時だった。
同時に飯塚軍曹の持っていた九九式短機関銃が中隊長ごとネウロイに火を噴いた。
ビームが中途半端に発射され、塹壕の壁に当たって爆発を起こした。
爆風に吹き飛ばされた飯塚軍曹と美咲少佐は中隊長がいたあたりを見つめていた。
ネウロイの姿は既になく、中隊長の下半身だけがそこにあった。
「根は良い人だったんです」
「……」
疲れ切った表情で飯塚軍曹は上体だけを起こして項垂れた。
「ただ、中隊長としてはどうしようもなく無能だった」
美咲少佐は無言で頷いた。
彼女は無能は罪だと思っていた。
「憲兵への報告は、戦闘が終わってからにしてください」
「……何を言っているんだ?」
飯塚軍曹の表情が変わった。
中隊長の体は死因が何だったのかわからないほど損壊していた。
「中隊長はネウロイの攻撃で名誉の戦死を遂げた。中隊長の体は吹き飛んでいて直接の死因は分からない」
誰も何も見ていない。
「そして軍曹、貴方は中隊の生き残りを守ってやらなければならない」
上空を502航空隊のDo301がフライパスした。
「汝がなすべきことを速やかに為せ」
ハルちゃんの三走目
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