ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
ハルという少女は良いところにやってくる事が多い。本人は偶然だと言っているけれど、その偶然を引き寄せるだけの運の良さというのも戦場で生き残るには重要な要素だと思う。
だから私は彼女を信頼している。
空戦に参加したハルは、両手に構えた20mm機関砲で次々にネウロイを撃破していった。
最小の動きだけでネウロイを捕捉していく。それを見ていたら負けていられない。
それにネウロイは地上にもいる。そっちはトゥルーデが対処しているけれどやっぱり1人では荷が重いみたいだ。
「それじゃあ……私もトゥルーデの方に行こうかな」
「分かりました。ではハルさんは私についてきてください」
ミーナは姿が見えないけれど、こっちの動きもハルの動きも全部把握しているようだった。
高度を落としていくと6本脚のネウロイにトゥルーデが手を焼いていた。
見た目に反して素早い個体らしい。
まずは動きを抑えるべきか。
高度を落として急接近。シュトゥルムで竜巻を足元に引き起こした。
唐突な風で脚が巻き上げられバランスを崩したネウロイが動きを止める。
その隙をトゥルーデは見逃さなかった。
弾の切れた機関砲を斧みたいに振り上げて、魔法力を込めて振り下ろした。
トールハンマーみたいにネウロイの胴体が切り裂かれ、分厚い装甲の下にあったコアが丸出しになる。それを懐の拳銃で彼女は撃ち抜いた。ネウロイの本体が消失する。
「エーリカ、上の方はいいのか?」
「ハルが来てくれたからね、それよりも……」
巣の方から大量の砂埃が舞っていた。地上型ネウロイの大群が攻めてきている証拠だった。
流石に数が多すぎる。
「生存者は?」
「地上に落ちたウィッチのうち軽傷だった2名が救助ポイントまで連れていっている」
トゥルーデも無線でヘリコプターが来ているのは知っているはずだ。地上を逃げる生存者も無線が生きていれば聞いているはずだ。
救助ポイントはその時に生存者たちとのは合間でやり取りしたんだろう。
「流石ヘリコプター」
垂直離着陸ができて多少開けた場所があるだけでどこにでも駆けつけられる柔軟性は確かに良いかも。
「それじゃあ……救助完了までやっちゃおうか」
「攻めすぎるなよ。あそこまで大群だと時間稼ぎにしかならんからな」
「わかってるって、じゃあお先に」
愛機にエネルギーを送る。黒いチューリップのパーソナルマークの周囲に魔力の共鳴波が浮かび上がった。
体が押し出されるように加速していく。上空では二つの飛行機雲がネウロイの爆散する光の中を駆け抜けていた。
地上のネウロイは生身の歩兵からしたら十分素早いのだろう。
ただ、ストライカーに比べたら鈍足である。
攻撃を回避することもできず次々に撃破されていく。小さいネウロイがその隙を突いて前進しようとする。当然そっちはトゥルーデの対地掃射に巻き込まれて吹き飛ばされる。
戦いはまだ終わる気配を見せない。
空母に着艦するヘリを見届けながら、私達は空中にとどまり続けた。
ハルとトゥルーデの2人によって救助されたのはウィッチを含めて14名。作戦に参加していたのは42名だから三分の一くらいだった。
巣の近くだということもあってか生存した人は瘴気によって著しく体力を消耗していた。
そのせいで状況を詳しく聞き出すのは困難だった。
ただ1人、竹井少佐を除いて。
彼女は現在空母に真っ先に下されて事情聴取が行われている。未だ全容はわかっていないけれど空母までの道すがらに聞いた話では相当良くない状況らしい。
いまだに着艦許可は下りていない。
合流したハルも何処かもどかしそうにしていた。既に私たちは全員弾切れ。戦おうにも補給が必要だった。
「ヴェネチアの避難計画はどうなっているのですか?」
「今の所は順調そうです。まだ戦闘が始まったばかりで状況は混乱を極めているようですが」
ハルの問いかけに、艦隊の無線を傍受していたミーナ中佐が答えた。
元々ヴェネチアは最前線になっていたということもあり国民の半数近くは自主避難として植民地やロマーニャ南部へ難民として避難していた。
尤もロマーニャとかでは難民問題が発生し始めていたが、こうなってしまっては問題が云々ではない。ヴェネチアが落ちればそのままロマーニャも本土陥落の危機になってしまうのだ。
あっさりと亡国の危機に瀕しているロマーニャとヴェネチア。ガリア奪還とグレゴーリ破壊の反攻作戦で連合軍は戦力を消耗している。その上戦力を引き抜かれた格好になっているロマーニャ方面の軍備はかなり手薄。持ち堪えられるかはわからない状況だった。
「戦争は水ものっていうけど……これは水にしては急流すぎるでしょ」
竹井少佐によれば既存のネウロイの巣を上回る巨大な巣の出現がそもそもの原因らしい。
元の巣は人型ネウロイ共々破壊され、新たな巣から出撃した数多のネウロイは現在進行形でヴェネチアを攻めている途中だった。
ネウロイ側に何か戦略の変換があったのだろうか。あれは私たちとコンタクトを取ろうとしていたのは確かだけど……その必要がなくなった?ううん……未知の知性体だから理解するのは不可能だけど、もしかしたら戦略の見直しが急務かな。カールスラント奪還はいつになるやら。
「ヴェネチア政府からの要請はまだ入っていませんが、私たちも戦いに参加することはほぼ確定でしょう」
ようやく着艦許可が下りた。
「そういえばハルは何処から来たの?ヘリを連れてきてたってことは近くに母艦があると思うんだけど」
私たちが乗ってきた空母以外ヘリとかストライカーを運用できる船が近くにいただろうか?
そもそも機体の所属番号を見ると原隊のものじゃない。アフリカ戦線で使用している機体だった。
「艦隊への補給船団です。ちょうどバレンシアから出ていた便に運良く搭乗できたので、輸送船の護衛についていた軽空母からユニットを拝借してきました」
それって人のストライカーユニットってこと?
「へ…へえ……」
「もちろん喜んで貸してくださいました」
「後でちゃんと返しておくようにね」
それにしてもハルも変わったなあ。
今までは生き急いでるような、自分の体に関心がないような感じだった。それも殲滅することだけを考えるような殺戮マシーン。
だけど今の彼女は、何処か達観したような感じがする。戦い方もミーナ中佐の援護と常識的な、セオリーに則った戦い方がメインだった。
その代わり、何かを空で求めるようなそんな気がしてならない。無くしたものを探すような……復讐とは違う何か。
「空虚……」
「エーリカ、何か言ったか?」
「なんでもないよ。トゥルーデ」
思わず口から出た言葉に私自身驚いた。
そうだ。空虚なのは私達も同じだった。国を失い、隣人を、国民を、仲間を大勢失って、いろんな戦場に都合よく送り込まれては守る国を失ったまま戦っている私たちは亡国の軍人そのものじゃないか。いつまでも祖国を奪還できないままでいる。彼女を空虚だって言える立場じゃないだろう。
今だって私たちは、ヴェネチアが亡国になろうとしているのに、空母の方は他人事のままだ。人々が死に瀕しているのにだ。それが私は一番許せない。
「ねえトゥルーデ……」
「どうしたんだ?」
「祖国を失う人痛みを一番わかってる私たちがずっとここで待ってるだけでいいのかな」
今すぐにでもヴェネチアを助けに行くべきなんだ。
「……私たちだけじゃ力不足なのも事実だ」
そう、たった4人でヴェネチアを守ることはできない。そんな英雄のようなものができるのは大昔の戦いか、御伽噺の中だけ。
そうやって言い訳をつけて、自分のしたいこと、に蓋をする。ハルだったらどうするんだろう?なんだか……持てるだけの武器を持って勝手に飛び出していきそう。
「ねえハル、ヴェネチアは……」
ハルの横に並んで聞いてみた。
「見捨てるわけにはいきません」
その瞳には炎が宿っていた。やっぱり根本は変わらないんだ。
ハルちゃんの三走目
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