こんにちは。貴女で良いのよね?
良かったわ。
ロミルダ・リーデルよ。よろしく。
多分、私が一番彼女と長く飛んでいたんじゃないかな…。
カールスラントの指定していた防衛線を破棄することになったあのタイミングで、私も空に上がった。
私も徴兵組でね。ただ、あの子よりは先に訓練校に行っていたさ。ただ、私が戦場に上がった時には既に部隊はかなりのダメージを負っていた。
その穴埋めとして派遣されるのだから損耗率は余計に上がる。一緒に来たはずの同期が初戦以降見かけなくなってしまった、なんていうのも珍しくないし実際私の同期でJG52に配属された子も二人初戦で死んでいった。
そんな戦場があの時の欧州だった。
私が上がった時、直前になって部隊変更が行われたんだ。それで、あの子の2番機になったんだ。
身長が私よりも低くて見た目には幼い少女だった。私もその時同じくらいだったけど……だけどそんな少女に私は、自然と従っていた。すでにそれだけの貫禄が彼女にはあったんだろう。不思議だったけど……あの地獄を何度も経験していたらそうなってもおかしくないな。
1940年
前線臨時基地
私がその基地に来た時には、すでに複数回の空襲を受けて基地の機能は致命的なダメージを負っていた。
その時にはすでに私の体もダメージで辛かった。
撤退する軍事品や兵を乗せてベルリンまで走り抜けてきた列車が、折り返しで基地に戻るのに便乗する形で私達補充のウィッチは戦地へ向かった。
だけどその時の列車はごつい機関車1両以外に人が乗れる車両はなくて、有蓋貨車にふとんと毛布、そして暖をとるための装備を一式載せて21時間の旅をしてきたのだ。
そして空襲は私が列車で揺られている合間の出来事だったらしい。焼けた瓦礫と化した管制塔と格納庫。そして司令部の建物が直撃を受け、現在は食堂を臨時の指揮所にしている状態だった。
瓦礫撤去もままならず、土木車両もいくつもやられてしまっては、作業も遅々として進んでいるようには見えなかった。
未だ白煙が立ち上っているくらいだ。すぐ近くでは消火活動がいまだに行われていた。
ストライカーユニットが収められているハンガー格納庫の隣の格納庫も、ビームで焼き払われた跡と、燃え跡が痛々しく残っていた。
中には、丸焦げになった新型爆撃機が残骸となって佇んでいた。
いくつかは翼がビームで溶断され、胴体もジュラルミンや圧延鋼が溶けて滴った跡がある。
そんな残骸を見ていると、何両かのトラックが隊列を組んで基地の入り口に向かっていった。
基地からはいくつもの車両がベルリンに向かって伸びる臨時道路に出ていた。
上級士官の多くが戦死してしまったことと、基地機能の喪失から後方へ撤退するという命令が出されていることを知ったのは、臨時で基地の指揮を取っているJG52の飛行団長が話していたのを聞いたからだ。
新人だった私にだってあの時の状況は絶望的としか言いようがなく、実際祖国の危機をヒシヒシと肌で感じていた。それでもどうすることもできなかった。
初出撃はそれから数時間後。第一飛行隊隊長だというバルクホルンさんが伝えに来てくれた。作戦は撤退する本隊の時間を稼ぐために空中、地上の双方の敵を落とし続ける事。時間として5時間。基地に戻っての再補充を何度か行う過酷なものだった。
同時に変更された部隊表はその時見た。
彼女の名前は知っていた。ベルリンやカールスラント中…いや連合国中の新聞に書かれていたんじゃないかな?まあ小さかったけど、エーリカ・ハルトマンに並んで飛んでいる写真は印象的だった。
記者さんはその暗号を頼りに来たんでしょ?その暗号が使われ始めたのもあの頃さ。
最初の印象は……一つ下の年齢にしてはかなり小さい……だった。それと同時に、ベルリンやニュルンベルクとは違う……血と硝煙の匂いが混ざり合った空気。それが彼女にまとわりついていた。
簡単な挨拶をした後、少しして彼女が行動方針を教えてくれた。
「私から離れないように、離れる時は私についていけない場合だけ」
「それ以外は……」
「特にないかな。生き延びることが第一だから」
簡単な指示だった。だけど教科書的で、ある意味訓練学校の延長戦のようなものだった。新聞に載るほどのエースなのだから何か秘策があるのかなと思っていた私は正直に言うと、あの時肩透かしを食らった気分だった。
だけれど、その理由は嫌というほど身に染みた。
「ついていけない時はどうすればいいの?」
「離脱するって言ってから左旋回で上昇。なるべく戦域の上に逃げるように」
「わ、わかりました!」
飛び上がった空は、どんよりと曇っていた。
それでも欧州では結構普通な空色で、地上から見る分には格段なにも変わらない。でも空から見れば恐ろしいほどの圧迫感があり、まるで空が迫ってくるようだった。
もしかしたらこの空は作り物の絵のようなもので何かの拍子に落ちてくるのではないかと漠然な不安に襲われた。
地上には最前線で戦っていた車両たちが基地の方に向かっていくのが小さなごまつぶのように見えた。
しばらく飛んでいると、目の前に黒い群衆が現れた。
同時に長機だった彼女が上昇を始めた。高度を取り相手の上から攻撃を行う。まさしく一撃離脱の定石だ。
上空高く上がった私達は、急降下でネウロイの群れに真上から飛び込んだ。
ビームが打ち上がってくる事はなかった。
先に彼女が撃ち、瞬く間に三機が落ちた。私も続いて目の前に入っていたネウロイに向けて引き金を引いた。
なかなか当たらない。後ろや横を通り抜けていくだけ。焦って加速した。
命中。空中で爆散。
戦場の高揚感に当てられて気が動転していた。
「大丈夫?」
彼女の冷めた声で、ようやく意識が落ち着いた。近くでは沢山のウィッチとネウロイが空中戦を繰り広げていた。
「大丈夫ですッ」
「ならまっすぐ飛んで。ずれてる」
「あ、申し訳ありません!」
「気にしないで」
その頃になってようやく機関銃のマガジンが空っぽになっていたというのに気がついた。
旋回を繰り返す彼女を追いかけながら、マガジンを交換した。30発入りの弾倉は撃ち続けたら数秒で撃ち尽くしてしまう。
すぐに目の前に敵機が現れた。その敵機の前を、別のウィッチが飛んでいる。
撃て。短い言葉が耳に聞こえて、反射的に私は敵を撃っていた。
二機撃墜。初戦でだ。
だけれどその分弾丸も多く使ってしまっていた。
そろそろ戦闘に支障が出てもおかしくない。
だけれど待ってはくれない。
すぐ真後ろからビームが追い縋ってきた。
狙いは甘く全く当たる気配のないものだったけれど、狙われていると理解させられるのには十分だった。
一瞬、彼女の姿が消えた。私はあっさりとパニックになった。
真後ろから追いかけられている時に長機が消えてしまったのだ。無理はない。
ネウロイから逃げようと、咄嗟に教え込まれていたシザース機動をしながら必死に逃げ回っていた。
「ねえ、もう追われてないよ?」
彼女の声がインカムから聞こえて、ふと横を見るとそこには彼女がいた。
いつのまにか後ろにいたネウロイの姿は消えていた。
「あれ…えっと…」
急に恥ずかしくなった。
「逃げなくていい。それに弾薬が切れそうだから一旦戻る」
「奇遇だな、私達も補給だ」
気がつけば、私たちの反対側にバルクホルンさん達がいた。
「なら、一緒に……」
彼女の表情は変わらなかったけれど、どこか嬉しそうだった。
基地は、先に帰ってきていたウィッチが弾薬の補充を行なっていたり離陸をしようとしていたりする光景で何処も騒がしかった。
その中を担架が駆け抜け、衛生兵が包帯を持ってとまさにカオスな空間と化していた。
着陸をした私は、彼女と一緒にエプロンの一角に止められた。隣には、一緒に降りたバルクホルンさん達もいた。
「対地攻撃に換装」
「了解しました!」
主翼の端に大型の機関砲ポッドが搭載されていく。その光景を見ながら、なんだかアメコミのロボット漫画のようだなと思った。
問題が起こったのは、もうすぐ換装が終わると言った時だった。
「クソッ!ネウロイが入ってきた!出せるウィッチは上げろ!」
「四番高射砲が吹っ飛んだ‼︎迎撃機を上げろ!」
滑走路の端っこに設けられていた高射砲がネウロイのビームで消し飛んだ。焼け残った砲身が爆炎とともに空に舞う。
「ダメだ!こいつら速いっ!」
空を通過していった黒い影を追いかけるように曳光弾が空に上がっている。
「救援のウィッチはいないか⁈まだ基地を失うわけにはッ‼︎」
オンにしていた無線から怒号と悲鳴が上がる。
すぐにでも空に上がって敵を倒したかった。だけどその時の兵装は対地爆装にしていた。その上まだ武装の安全装置などの解除に2分かかる予定だった。
「おい!後どのくらいだ!」
「後2分待ってください!」
隣で整備士とバルクホルンさんの怒鳴り声が聞こえた。
「こちらバルクホルン!制空装備に換装中、後2分で出せる」
長い2分だった。
エプロンで武装を換装している私たちを格好の目標と判断したのか、ビームがいくつも降り注いだ。
近くにあった高射機関砲が吹き飛び、咄嗟に張ったシールドにもビームが直撃した。
「準備完了!出せます!」
隣で兵装補充をしていたバルクホルンさんが、離陸態勢に入った。
ほぼ同時に私達も離陸準備が整った。
「こちら鬼、離陸準備が整った。サイファーと同時に上がる」
彼女はそう言って、エンジンをかけた。
重たくなったユニットが、必死に地上を動き出した。
すぐ近くをネウロイのビームが駆け抜けて、土が舞い上がり、対空戦闘を行っていた自走高射砲が融解して吹き飛んだ。
「急げ!もたもたしてたら地上でやられる!」
「まずい!輸送機が落ちてくるぞ!」
バルクホルンさんの声。
こちらが滑走を始めようとした直後、後ろにエンジンから火を吹いている輸送機が迫ってきているのが見えた。慌てて滑走路から逃げようとした。だけど、3人は逆に離陸するつもりだった。
ユニットが奏でるエンジンの音が大きくなった。
バルクホルンさん達が先に浮き上がった。こっちは重武装だから滑走距離が必要だった。
ようやく離陸。すぐに高度を取った。燃え盛る鉄の鳥が滑走路を横滑りして土手に飛び込んで爆発大破した。
「危機一髪ね」
先に上がったバルクホルンさん達が、すぐに基地上空のネウロイを攻撃していた。見えただけでも二人で四機を落としていた。
「行くわよ」
それを尻目に私達は、戦場に向かって方向転換した。ネウロイの意識がそれているうちにという事なのだろう。
幸いこちらを追撃してくるネウロイはいなかった。
戦場に戻ってみると、すでに空に残っているネウロイはほとんどいなかった。そのかわり、地上を埋め尽くすかのような黒い津波が押し寄せていた。それらの中に一際大きな…まるで陸上戦艦のようなものがいた。
そいつの起こす強大なビームで地上も空も燃えていた。
胴体中央の塔のようなものと、その左右にある小型の浮遊球体のようなものがビームの発射点だった。
「……脅威度が高い大型を倒す。ついてきて」
なんのことはないという雰囲気で彼女はそんなことを言い出した。
目の前であの大型に挑んだ小隊が近寄れずに退避しているのを見ながらだ。
「ついて…正気ですか⁈」
「どっちにしろあれを倒さないと戦線が突破される」
正気なのかと言いたかったけれど、誰かが倒さないといけないというのはわかっていた。その力を持っているのは私たちだけ……
「私はまだ初陣です!」
「関係ない。無理なら退避していいと言った」
ざっくり言い切った事にムキになった私はその時つい言ってしまった。
「……分かりました!ついていきます」
私は後になって知ったけれど、丁度私達が突入したタイミングは、一箇所だけネウロイの数が大きく減っていて、迎撃が薄くなっている場所だったらしい。だけれどあの時はそうは思えなかった。
地上からの攻撃が私たちの周りの視界を赤く染め上げた。一番密度が薄いところを狙って飛び込んだというのにそれでもかなりの威圧だった。
目の前をいくつものビームが通過していく。危機感を頼りに張ったシールドが時々大きく衝撃を受けた。同時にシールドが割れた音がして、目の前が真っ赤に染まった。落ちる。
そう思った。
だけれど次の瞬間には熱いという感覚が体を走り、間一髪でビームを回避したのだと悟った。
冷や汗が吹き出した。
「ついて来れているね」
変わらない口調。顔色ひとつ変えずに、彼女はあのビームの中を通り抜けたのだ。
異常だった。私は咄嗟に別のシールドを張る余裕が無かっただけ。でも、彼女はシールドを使わなかった。
直撃すれば死ぬのは確実。それも爆弾に、大口径機関砲を搭載しているせいでろくに回避運動すらままならない状態でだ。
それでも、あの時は溢れ出るアドレナリンと目の前に迫るネウロイの体にそんなことは考えていられなかった。迎撃の第二弾も来ていた。最初に見たウィッチたちがもらったのと同じ濃密な弾幕対空。だけれど、彼女に言われたとおりに回避を行い、彼女の後ろを追いかけ続けていると、不思議なことにそれらの弾幕は直撃をする事はなかった。時々シールドを展開したりすぐそばをビームが通り抜けていったけれど。それでも直撃をする事はなかった。
投下と言われて、爆弾を投下した。
軽くなった体が真上に浮き上がるのを利用して、一気に離脱。後方で爆発音がして、ネウロイの呻き声が聞こえた。
振り返ると、あの大型ネウロイの姿が大きく変わっていた。
体の前半分が抉られたかのように消失し、キャタピラのような足が再生を行うために止められた。
その足の構造は、どこか戦車を台座にしているように見えた。
まるで取り込んでいるみたいだ。
再度反転、あまり距離をとってしまうと周りのネウロイから攻撃を受けかねない。
急反転で意識が飛びそうになった。
彼女のユニットに装備された37ミリ砲が火を吹いた。あそこまで大きな弾丸だと、曳光弾がなくてもある程度見る事はできる。
弾丸が当たったところが大きくえぐれた。私もその場所目掛けて引き金を引いた。いくつ当たったのかはわからない。多分多くは外れたかもしれない。だけれど確実にコアに近づいている。そんな気がした。
別の場所からのビーム。そっちの方に意識を向けると。巨大ネウロイの後部から、小型の地上ネウロイが排出されていた。ネウロイを生み出すネウロイ…小型の巣の機能を持っている存在だった。そいつらが大破している母体を守ろうとして、その体によじ登ってこちらに攻撃をしていたよ。咄嗟にそれらに向けて引き金を……
地上の目標は空と違って動きが二次元的だから狙いやすい。お陰で私でも簡単に掃討することができた。だけれど私のユニットと引き換えだった。
ビームが左脚のユニットを直撃して、唸りを上げていたエンジンをダメにしていた。
「エンジン損傷!」
「離脱しなさい。まっすぐ基地に行くのよ」
「そっちは⁈」
「これを倒してからにするわ」
一人でやる気なのかと言いたかったけれど、それは中断するしかなかった。もちろん私の悲鳴でだ。
大型ネウロイの塔のようなところが復活して、そこからビームが放たれた。
ロールで回避。正面や後方からのビームは、直線的であるがゆえにロールで回避することで狙いを外す効果がある。そう訓練校では教わった。
実践してみてもその通りなように感じられたけれど、すぐ近くをビームが通過する恐怖は計り知れない。
そんなビームを気にもせず、離脱する私とは対照的に、彼女はまっすぐ向かっていった。一瞬彼女のユニットがビームに擦ったような気がした。
だけれど、それを確認する前に、37ミリ砲が火を吹いて、硝煙がその箇所を隠してしまった。
距離もすでに遠くなっていた。
そして彼女の心配をするよりも、私は片肺のユニットで着陸するという無理難題に対処することになってしまった。
幸いにも、基地に補給で降りていたバルクホルンさんとエーリカさんが無線で緊急着陸の方法を教えてくれたおかげで、私は滑走路横の土手に突っ込むだけで済んだ。
基地に私が戻ってから1時間後、彼女が戻ってきた。
鼻血の跡と溢れた血で服が真っ赤に染まっていた。ユニットも一部が融解して、変形してしまっていた。
巨大ネウロイはどうなったのか……後で聞いたら、あっさりと教えてくれた。
16発の弾丸が命中し、そのうちの一発がコアが吹き飛ばした。後部からネウロイを輩出していた胴体が崩れ去って消えていったらしい。
現在は残りのネウロイを掃討しているらしい。そこに彼女は必要ないらしい。
それを聞いて少し安心した。
その後バルクホルンさんに医務室へ連れて行かれていった彼女は、どこか釈然としていない顔だった。
彼女を世間は英雄という。
だけれど、それは人間が作り出した偶像崇拝に過ぎない。彼女は、いや、エースと言われる存在はもとよりどこか異常なんだ。
私も、戦場の空気に中てられておかしくなってしまったのだろう。
だけれど今になってもあの時の感覚ははっきり覚えていて、私がエースと言われる存在に近づいていくたびに、むしろ彼女の異常性が際立っているっていうのがよくわかるようになっていった。
知っている?エースって三種類に分けられるの。強さを求めるもの、プライドに生きるもの、戦局を読めるもの。
だけれど彼女はそのどれにも当てはまらない。そんな子……。
貴女も元ウィッチなら分かるでしょう?
ごつい機関車
カールスラント帝鉄51型機関車
1937年に製造された大型蒸気機関車
1939年からは各種構造を簡略化した戦時設計型が製造されていた。
構造はマレー式を採用する機関車。走り装置は3つあり、カールラント版トリプレックス。
足回りは2-D-D-D-6。
戦時設計型はランボードを廃止、除煙板を木造にしている他炭水車の構造も簡素化している。
ただし欧州撤退によって製造工場が疎開をしたため総生産数はあまり多くない。
戦後改良型の52型が登場。
ハルちゃんが次に走るルート
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ブレイブ
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ストライク2
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アフリカ(1943)
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