ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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こんにちは。いやーこんなカフェによばれるなんて久しぶりだね。

502に入隊してからどうもロスマン少尉が他の女性と外に出るのを止めたがってね。

 

それで、この後はあそこのホテルにでも行かないかい?……もちろん冗談さ。ハルの事を知りたいんだろう。でもここじゃ人目が多いからね。どこか誰にも邪魔されないところに行こうじゃないか。

うん、やっぱりあそこのホテルがいいな。時間的にも丁度チェックインは始まっているからね。

 

 

 

 

 

 

まあ大体は彼女のことは他の人から聞いているんだろうね。

僕もそれなりにハルとは関わったけど、実は空ではそんなに一緒ではないんだ。むしろ彼女とは地上で何度か出かける仲だったよ。

彼女が501に入ってからはエーリカからの手紙でしか状況を知ることはできなかったけどね。

彼女は手紙とかを書かない子なんだ。

まあそれでもよければ話すよ。

 

 

 

1940年

 

 

「ふーん……あの子も年頃の女の子っぽいところあったんだね」

酒保から出てきたハルは、チョコレートを齧っていた。普段から訓練くらいしかしていないように見える彼女から見ればちょっとだけ意外な一面だった。

ああ、あの時の彼女は殆ど訓練しているところか食堂にいるか空で無線越しに話す程度しか会えない子が多くて妖精とか存在があやふやな子って言われていたんだ。まあ、実際には生き急いでいると言ったほうがいいのかな……少なくとも心構えはそんな感じだった。

そんな感じだったから、エーリカと僕がそれを見かけたのは運が良かった。その時はそう思っていた。

「そうっぽい。そういえば今度の勲章授与、ハルも一緒だったよね?」

エーリカはチョコを頬張っている彼女の姿を見て、もしかしたら戦う以外のことを教えてあげる糸口になるんじゃないかって思っていたらしい。

「あ、せっかくだしお菓子くらい持っていきますか」

その日は勲章授与式の二日前。折角だからベルリンに向かう汽車の中で色々とお菓子を食べさせてみたらどうだろうかってことになってね。

それ以前にも何度か似たようなことをして地上での趣味を見つけて欲しかったんだけど…悉く失敗していてね。

「カールスラント名物…今から買ってきて間に合うかな?」

「手作りはダメなのか?」

エーリカの顔が渋くなった。いやまあ、料理の腕が多少悪いのは僕も認めているけどそこまでの顔しなくてもいいと思う。それは今でも根に持ってるよ。

「私もあんたも料理できないでしょ。いいんだよ酒保で売ってたお菓子くらいで」

「……女の子に渡すお菓子くらい自分で作ったほうがいいと思ったんだけど」

 

 

 

 

 

授賞式に向かうからと言って専用列車が出るわけではない。

あの基地は鉄道駅からも少し離れていて、貨物列車は倉庫の方に引き込み線が伸びていたけど客車に乗るには町の駅に向かう必要があったんだ。

その上乗る列車も軍用と言えどただの客車でね。三等車と車両前後に防空機銃を積んだ無蓋車が連結されただけのものさ。

まあそんな室内だから基本は軍紀なんてあってないようなもの。一般の乗客と交ざっていたわけじゃないから特に身内には甘くなりがちなところもあった。

ハルはそんな中でもデッキと座席を行ったり来たりしながら誰と話すわけでもなくずっと外の景色を見ていた。

僕たちはちょっとミーナにお小言を言われていてハルと合流するのは少し遅くなった。

デッキで流れる景色をぼぅっと見ていた彼女に真っ先にエーリカが声をかけた。

「ねえハル、お菓子食べない?」

 

「お菓子ですか?」

不思議そうな表情をしていた。だけれど、他の人が言うように戦闘マシーンとかそんな感じではなく、普通の年頃の女の子だった。

「そうそう、ちょっと色々仕入れたんだよね」

 

「折角だからどうかな?」

 

「ええ、構いません」

少し悩んで、彼女は了承した。遠目でそれを見ていたロスマンもいつのまにか交ざって4人がけボックス席は埋まってしまっていた。

「なんでロスマン教官が」

 

「そこの伯爵の見張りです」

 

「酷いな。食べたいなら食べたいって言えばいいじゃないか」

 

「そ、そんなことありませんわよ!」

とか言いながらお菓子を頬張っているロスマンは見た目も相まってハルの姉妹なんじゃないかって思えたよ。

まあ、それは口には出さなかったけど……

 

「美味しいです」

一方のハルは、私達の会話には交ざらず、お菓子を食べては外を見るの繰り返しだった。

どこか絵になる。そんな感じがした。

それくらい可愛らしいんだ。

「味は気に入った?」

 

「ええ、結構酸っぱいんですね」

味の感想のはずが、齟齬が出た。手に持っているそれは辛いスナック菓子だった。けっして酸っぱいなんて感想が出てくるものでは無いしそもそも酸っぱいお菓子など持ってきてはいなかった。

「あれ?それ辛いやつだよね?」

 

「……え?」

 

空気が凍りついた。

「あ、すいません。そうでした」

必死に誤魔化そうと笑ってたけれど、不穏な気分は晴れなかった。

「まさかと思うけど……」

ロスマンが味覚に異常が発生しているのではないかと問い詰めたけれど、彼女は苦笑いでその追求をかわした。

「大丈夫です。まだ味覚はありますから」

まだってなんだ。ますます不安が大きくなっていくじゃないか。

気まずい雰囲気になってしまったのに耐えきれなくなったのか、彼女は意識を景色に戻してしまった。

詳しく聞ける雰囲気でも無かった。本人もあまりして欲しくはなかったのか、別の話題を持ち出して話をしていた。

だけれど、私達の心にはどこか不安が残った。

「お菓子……気に入ってくれたんだよね?」

列車から降りてしばらくしてから、エーリカがつぶやいた。

「多分……でも僕にもわからないな……」

 

「……」

「……」

味を楽しむことすらできなくなってしまうなんて想像したくないな……

 

 

 

 

 

 

 

授与式の後に意を決してその事を聞こうとしたけれど、帰りの列車では席が変わってしまっていたし、乗るタイミングがバラけてしまったため彼女を捕まえることはできなかった。帰りの列車の中で彼女はどこに座っていたのだろうか……

そのあとは…授与式から少ししてからかな。

私がユニットを全損させて少しの合間出撃不可になっている時だった。

ちょうどハルもユニットのオーバーホールを行なっていて出撃が無いタイミングが重なってね。せっかくだから誘ったんだよデートに。

ちなみにもう一人同じタイミングで休みだった人がいてね。……バルクホルンさ。

これは本人には言わないでくれよ。

僕がデートに誘ったところを偶然聞いていたらしくてすぐに外出許可を取り付けて後をつけていたらしい。

でも尾行が下手だね。僕もハルもすぐ気づいていたよ。

なにせ駅まで車を出したんだが真後ろピッタリを車で尾けてくるんだ。バレないと思う方がおかしいよ。

 

 

 

 

1940年

「ねえハル」

彼女を見かけたのはやっぱり訓練場。ずっと訓練ばっかりしていてなんだか、つまらなさそうに見えた。似てるとしたら…入隊したばかりのエーリカみたいな感じだね。それで、放っておけなくて咄嗟に声をかけていた。

「どうしたんですか?クルピンスキーさん」

 

「ちょっとデートしない?」

 

「……はい?」

 

「この前ベルリンは初めてだって言ってたでしょ。あの後は時間が無かったから無理だったけど、ベルリン、案内してあげるよ」

自分でもちょっと強引だと思ってたけれど、でも彼女を外に連れ出すにはこれくらいしか口実が思い浮かばなかった。

「別に良いですけど……」

断られる可能性が高いのは承知していたけど、結構あっさりと彼女は許諾をしてくれた。

「それじゃあ外に車を回しておくよ」

 

 

 

やはりベルリンに向かう列車に人は少なくて、どこか寂しい雰囲気だった。

すでに国境周辺の住民は避難を終えていたし、あの時はこれからベルリンの方も一般市民は避難せよって言う国家方針が発表されていたからね。

だけど国境側から避難してきた人もいて全員が避難できるにはまだ相当な時間がかかるだろうって言われていた。すでにベルリン周辺には難民のキャンプまで出来ていて、それら全てを移動させるには交通網の能力が足りなさすぎたんだ。

 

 

「ところでどうして軍服のままなんだい?」

まあ、人が少ない車内だからこそ、軍服を着たウィッチは目立った。僕だってオフのお出かけの時はちゃんと私服でおめかしする。だけれど彼女はおめかしはしていても服はそのまま。

デートに誘ったはずなんだけどなあと思ったけれど、返ってきた言葉は意外なものだった。

「実は…持っていた私服のほとんどをこの前の撤退の時に基地に残してきてしまって……形見だった服もあったんですけど」

それはデート…デートという口実で連れ出しておいてなんだったけど、重すぎて聞いたこっちの罪悪感がね。

あの基地からの撤退。僕は諸事情で元の基地に荷物を置き去りにしてあの基地にいたからそこまで問題ではなかった。

「なるほど、じゃあ服屋もまわり道に入れておくことにしよう」

それでも顔に出してはいけない。顔に出したら彼女だって悲しくなるから。

思い出くらい楽しいものでいてほしいからさ。

 

 

 

途中で列車がトンネルで止まって、ベルリンに到着したのは昼少し前だった。

予定は細かく決めていなかったから、先にお昼を取ることにした。

ベルリンからの避難が始まっても、ベルリンにギリギリまで残る人達はそこそこいる。彼ら彼女らを支えるためにもお店はいくつかがまだ開いていた。

その中の一つに僕が気に入っているお店はあった。多分ベルリンでも指折りの美味しさだったんじゃないかな。

 

人が少なくなってきていても、そこそこの人で店は賑わっていた。

 

「味は気に入ったかな?」

運ばれてきた料理を食べているハルは、側から見れば普通に食事をしていて味覚がおかしくなっているなんて思えなかった。それでも、少しだけ困惑しているようだった。

「……え、ええ」

ちょっと意地悪な質問だった。

「ところで、君の味覚はどこまで残っているんだい?」

味覚に異常が出ているのは知っていて、あえて試してみた。結果としてはまあ…返答としては大丈夫だった。でもそれは料理の風味からある程度味が想定できる場合だ。

「……少しだけ甘みを感じるくらい……」

驚くことはなかった。なんとなくそんな感じはしていたから。

「そっか…いつからなんだい?」

 

「……一週間前から。医者が言うには体の負担が原因の一時的なものらしいです」

 

「……なるほど。一時的なんだね?」

黙って頷いた彼女のそれが本当のことなのかどうかは今となってはわからないけど、多分あれは私たちを落ち着かせるための嘘だったんじゃないかな。

ハルの後ろの席に座って尾行しているバルクホルンをも落ち着かせるためのね。

「ハルは強いんだね」

彼女を責めることは僕には出来そうにない。いや、この狂った世界では誰一人として誰かを責める事なんてできない。こう言う時は切り替えるしかないんだ。事実は事実なんだってね。僕たちに出来るのは……いやなんでもない忘れてくれ。

「そんなこと……」

でも味覚のことはロスマンやエーリカに報告しておかないとね。

 

 

 

ああ、なんか重い話になってしまったねすまない。

それじゃあ楽しい思い出も話すとしようか。

 

 

食事を終えて少しばかりベルリンの市内を歩いていると、ハルの足が急に止まった。

「ここって……」

それは、雑貨屋のようなお店だった。

看板や目印になるであろうものは撤去されていて名前はわからないけれど、店自体は開いているようだった。僕も知らない店だった。

「雑貨屋みたいだね」

中に入れば雑貨屋という雰囲気は強くなった。だけれど置いてあるものが貴金属品、或いはアンティークなウィッチの装備などもありなんだか不思議な雰囲気があった。

「似たようなお店に行ったことがあるんです」

店中で商品を手に取りながら彼女はそう答えた。

「おや、お嬢さんもしかしてカールスルーエの店に行ったことがあるのかな?」

ふと店の奥から声がした。店主さんだった。

軽く会釈すると、なかなか良いボーイフレンドを連れているじゃないかと茶化された。いや僕女なんだけどなあ……

「多分そうだと思います。私、バーデン=ヴュルテンベルク州のウルムって街の生まれなので」

ボーイフレンドのところ否定して欲しかった。

 

「あそこは私の姉がやっているとこだよ」

 

 

 

それにしても雑貨というよりいろんなものがあって……やっぱり雑貨なのかな?でも宝石の隣に帽子とかよくわからない中東土産みたいなものもあるのって…

「これ……」

雑貨が頭の中でぐるぐるしていると、ハルが何かを見つけた。それは売り物ではなく、カウンターに置かれた小さな看板。

「ロケットペンダント?それもオーダーメイドで一点ものか…」

形やデザインも自由に決められるらしい。

ふうん……それなら…こんな感じのデザインでっと。

「それじゃあ4つお願いします」

 

店主さんが、奥へ行ってしばらくの合間金属を加工する音が響いた。

「お待たせ。出来たよ」

 

「すごい…もうできたのかい」

待っていた時間は5分にも満たないくらいだった。出来上がったペンダントを見てハルはどこか嬉しそうだった。

「私の固有魔法は特定の金属を変形させるものでね」

聞けば彼女は元カールスラント陸軍のウィッチだったらしい。あがりを迎えて退役してからは姉の店をベルリンにも出そうとして退職金を使い店を立てたらしい。

 

 

 

 

その店を出た後はほぼ忘れかけていたけれど彼女の服を選ぶことにしてね。見かけた服屋に入ってみたんだよ。

「すいません。流行とかよくわからないのでクルピンスキーさんが選んでくれませんか?」

「僕が?わかった」

服を選んでと言われたらちょっとだけ遊びたくもなるものさ。

ちょうどその店は普通の服以外にもアンティークなものとかも揃えていてそう言った方向の集客もしていたみたいでさ。

いくつかあったんだ。ゴシックロリータって呼ばれるドレスがね。

「これとかどうかな?」

 

「もしかして18世紀のゴシック服ですか⁈」

物凄く食いついた。

「お、もしかして気に入った?」

 

「こう言うの好きです!」

ちょっとふざけたつもりだったんだけどかなり喜ばれた。こう言う趣味があったんだなって思ったよ。うん、良かったなって安心した。彼女にも趣味があったんだなってね。

「……うんやっぱりその体型ならこれが一番だよ」

ちょっとふざけてみたけどハルはどうやら気に入ったらしい。お出かけとかで着る服を買いに行ったはずだったんだけどまあいいよね。

 

帰りの列車もずっと濃紺のゴスロリドレスを着ていて少し驚いたよ。

多分基地のみんなも驚いていたんじゃないかな……

ちなみにロスマンの分も買ってみたんだけど断られた。代わりにエーリカかハルに着せると言ったら渋々着てくれた。

似合ってると思うんだけどなあ……

 

 

 

 

とまあ…デートの話はこれくらいかな。一応地上では何度か会話もしたけど…結局あのあとはもう撤退作戦が本格化して地上でどこかに出かけるなんてできなくなっちゃったし、その後も色々あって彼女とは会わないうちに501に行っちゃったし。

空で戦っているところは少しだけ見たことはあるけど相変わらずだったみたい。

ロケットペンダント?ああ、これだよ。

彼女と僕、一応エーリカにも渡したんだ。後一つは…ハルが誰かに渡して欲しいって言って彼女に渡した。

それがどうなったかはわからない。

 

そうそう、ペンダントを作ってくれたお店なんだけど……

もう無いんだ。

うん、店主さんの名前も脱出した名簿にはなかったらしい。




九七式中戦車改

全長4.5全幅3.1m重量35t
最高速度45km/h
エンジン
ハ101空冷星形14気筒エンジン1410馬力
扶桑国陸軍革命兵器と呼ばれた戦車。
九七式中戦車と共通する部品が全くない。Ⅳ号F型と似ているが計画して行われたわけではない。
車体全長が大幅に伸び、大型化したエンジンのため後部が車体全体より一段高くなっている。
対ネウロイ用に開発されたため
車体に装甲はほぼ施されておらず、最大でも35ミリしかない。
車体は基本溶接接合。砲塔は四角く車体と同じ幅。
主砲105ミリ砲は砲身を海軍の九八式高射砲より流用している新規設計の戦車砲である。
無線を標準装備しているため集団での戦闘を念頭に設計され、戦後第一世代MBTの先駆けと言われている。

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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