相棒の凄さを上げるとしたらそうだな……
たしかに卓越した技術があったのもそうだけど、それよりも殆ど撃墜されたことがないってことかな。
少なくとも私が一緒にいた頃は一回しか撃墜されていないしそれ以降も以前も撃墜されたって話は聞かなかった。
似たようなウィッチは何人もいるが戦果を上げつつ必ず戻るとなると数えるほどしかない。
それに、墜落した時だって彼女は地上で戦果を上げていた。
ロミルダの言う被撃墜に関する情報は確かに一回しか確認できなかった。
その時のことを詳しく聞こうと、私はその当時、地上で戦っていた生き残りに話を聞いた。
あまり人数はいなかったが、それでもその当時彼女と接触した陸戦ウィッチを見つけることに成功した。
ヨハンナ・ミュラー少佐
元帝政カールスラント陸軍第35装甲連隊第1中隊所属。
現在は第12装甲連隊第2大隊長をしている。
あの時の任務はそれはもう地獄のようなものだった。
撃っても撃ってもネウロイは湧き続ける上に数時間ずっと撃たれ続ける。それでも確実に交代ができて比較的安全なところで眠ることができるという安心感から戦線の兵の士気は高い方だった。それでも少しづつ疲弊しているのが目に見えていたけれど。
そこにきて後方との分断を狙ったネウロイの奇襲だ。まさしく悪夢だった。
無線機が騒がしくなったかと思えば、後方にいたはずの燃料輸送部隊が最初に攻撃を受けたと報告してきた。
その時点で現場指揮官は状況を悟って一斉後退の指示を出そうとしていた。
そこに運悪く攻撃が着弾してしまった。
指揮官は無事だったが無線機や伝令が巻き込まれて一時的に展開中の各隊への連絡が途絶えてしまった。
わずかな時間とはいえ敵が分断を図って後方を攻撃している場合その時間が致命傷となりかねない。
上空のウィッチに援護を要請しようにもすぐには無理だった。
陸空での支援要請を円滑にするために地上部隊には航空参謀が配属されていたがその航空参謀も吹き飛ばされていてね。なんとか即死は免れていたけどすぐに航空要請を出すことは不可能だった。
上空で黒い煙が上がった気がして、一瞬だけ空を見上げた。黒い煙の筋がネウロイの群れの方向へ伸びていた。
「ウィッチが落ちた!」
叫んだのは私の隣で目の前に迫るネウロイを砲撃で吹き飛ばした扶桑の戦車長だった。最初は扶桑語だったが(後から教えてもらった)その次にカタコトのブリタニア語。
『落ち着け!どこに落ちたって?』
「前線より約800m、敵の目と鼻の先であります!」
支給されていた双眼鏡で落下したと思われるところを覗いてみるが、戦車砲や野戦砲の着弾による土煙やネウロイのビームで姿を確認することはできなかった。
多分落ちて死んだのだろうと諦め、再度目の前のネウロイを撃破する任務に戻ろうとした時だった。
下ろす途中だった双眼鏡の端に動くものが見えた。それが気になってすぐに目線を戻すと、そこには小さな人影がネウロイの攻撃を受けながらもこちらへ走ってくる少女の姿が見えた。
軍服は茶色く汚れ、時々砲弾で空いた穴に姿を隠しながら必死に走り抜けていた。
「こちらに向かってくる人影あり!先程のウィッチと思われます!」
手元の37ミリ対ネウロイ砲を構え直し、対ネウロイ用徹甲弾を装填。少女を狙っていた戦車型を撃ち抜く。
『本当か!援護射撃を行う!』
隣にいた扶桑の戦車が私の次に動いた。
『煙幕弾装填!ネウロイの視界を遮れ‼︎』
砲身に俯角を付けながら戦車壕を少しだけ登った扶桑の戦車が発砲。衝撃波が戦車壕の土を巻き上げ、一瞬視界を奪う。
少女とネウロイの合間で砲弾が着弾し、白い煙があたりに飛び散った。
「こっちだ!そのまま走れ!」
シールドを張って足場としながら大きく飛び跳ねた少女の真後ろを赤いビームが通過していった。
私の隣に飛び込んできた少女がハル少尉だということを知ったのはその戦いの後だった。
とにかくその時は色々と余裕なんてなかった。
少女に向けていた意識を再びこちらに戻したネウロイが進撃を再開した。
「大丈夫だった?」
体についた土を払い落としながら起き上がった少女は、背負うようにして持ってきていた20ミリ機関砲を下ろして、そばに寄ってきた。
見たところ怪我は無さそうだった。
「助けていただいてありがとうございます!」
目はどこか濁っていたけれど、それでも信頼できそうな感じがした。多分彼女がまだ幼い方だったからかもしれない。私は一人っ子だけど歳が近い妹とかがいたらもっと慈愛の感情が入っただろう。
「どうって事ないよ。それより航空ウィッチだよね?」
「ええ、すぐに基地に戻りたいのですが……」
「それなんだけどね。やめておいたほうがいいよ。今後方の補給線がネウロイの別働隊にやられていてね。多分南側から私達防衛線の戦力を包囲しようとしているみたいなんだ」
彼女をここで送り返すとネウロイの別働隊と鉢合わせになる可能性が高いと思ったから、情報を与えた。
小さく息を呑む音が聞こえた気がしたけど、それを確認する前に私の体は目の前のネウロイを撃破する任務に戻ってしまっていた。
「航空支援は……」
「航空士官が伸びちゃってるからしばらくは無理」
「助かりたいならなるべく纏まっていて。多分脱出するにしても何にしても一点突破で突っ切るだろうからさ」
実際包囲されかけている場合や包囲された場合でも突破の方法がないわけではない。包囲戦はその性質上戦力が薄く広がる性質があり、戦力を一箇所に集中し短期的に進む一点突破に弱い。
だから彼女もその時にと思っていたけれど、彼女の口から出たのは全く異なるものだった。
「分かりました。では自力で突破します!」
流石にその時は後ろを振り返って彼女を見た。ありえないとしか言いようがない感じだった。
まだ10代前半の少女が言い出すようなことではないから。
「言ってる意味わかってるの⁈」
「分かってます。ですがユニットもない航空ウィッチなんてお荷物同然です。それに策はあります」
策がある。そういう彼女の目には、光が宿っていた。
でまかせで言っているわけでも自暴自棄になっているわけでも無いようだった。
「指揮系統が違うから止める権限はないし……好きにして」
「わかりました……ところでそのマシンガンとこれ交換できます?」
「交換⁇交換って……まあいいけど」
交換として出されたのは20ミリ航空機関銃。設計はFF20ミリだから対空機関砲として使用しているやつと同じだったし問題はそこまでなかった。だけど最初は言っている意味が分からなかったよ。
わざわざ火力が下がるような事をするんだなって。
こっちは常に火力不足で扶桑とブリタニアの10センチ砲をウィッチに載せられないかってやっていたのにさ。
「これって地上で使うと重くて取り回しが……」
体格に合っていないのは確かだった。小柄な少女ではあの銃は重しにしかならない。
「わかった。持っていっていいよ」
「ありがとうございます」
「だけどどうするの?」
「まだ包囲は終わっていません。包囲中の敵は上手くやれば分断し各個撃破することが出来ます」
手慣れた手つきでサブアームだったMG34を準備して撃てるようにしながら少女はそう言った。
「そりゃ理論上はそうだけど……」
ただし理論上の話な上に一人では到底不可能なものだった。
「ともかく私は基地に戻ります。ではお達者で!」
そう言って少女は、戦車壕から飛び出した。追いかけるように少しの合間ビームが飛んできていたが、それもやがて止まり、再び前線の塹壕に向かって放たれるようになった。
少しして無線が騒がしくなった。それも後方の補給部隊からのものばかりだった。
補給線が寸断され始めてからあまり音沙汰が少なかった彼らになにがあったのか……それを知るのは無事に基地に戻れてからだったけれど、それでもなんとなく私は彼女がやったのだろうという確信があった。理由はわからないけれど……
『後方のネウロイが乱れた‼︎』
『今だそこをこじ開けろ!退路を塞がれるな!』
『航空支援を要請……』
結果として私達は彼女に助けられた。あの後包囲しようとしていたネウロイの別働隊が逆に分断された結果逆包囲でネウロイを各個撃破する事に成功。退路はしっかり確保できた。そのきっかけを作ったのは間違いなく彼女。会って礼をしたかったけど、その時以来私はついに彼女に会うことは出来なかった。
シャーロット・H・クローリー大尉
元ブリタニア陸軍第二派遣軍第一中隊
現在は戦線を退き教育隊隊長としてブリタニア本土で陸戦ウィッチの指導に当たっている。
僕達陸戦ウィッチは航空ウィッチと違って魔力を移動に取られる事があまりないから、その分を防御シールドの強化に当てやすいんだ。
だからどこで戦っていても大抵の場合は盾として兵士を守る仕事をしていることが多いんだ。
1940年代は特にそれが顕著で、僕なんかは補給線の防衛に充てられる事が多かったかな。
まあそれだけ補給線への圧力が強かったって事なんだけどね。なにせ輸送車列が壊滅したなんていうのは日常茶飯時だったし。あれでよく補給が出来ていたなって今なら思うよ。
まだリベリオンは戦時体制に移行してないしガリアやカールスラントは工場疎開で一時的に生産力が激減していた。特にトラックの生産が滞っていたのはかなり致命傷でね。
ブリタニアの生産能力だけじゃ少しの損害でも輸送戦線では致命傷になりかねなかった。
船で欧州本土に上げられた物資の多くが港でそのままになっているって言ったら分かるでしょ。
船一隻が運び込む物資を鉄道で前線近くまで送り込んでも、そこから先のトラックが足りない。
一回の列車で1500t。トラック一台が1tから2t弱の輸送能力だったとしても700台以上必要になる。
だからトラックとかは戦車に次いで最重要防御目標に指定されていたんだ。
それでウィッチも車列の護衛に入ったわけ。
あの日ネウロイの第一波を最初に受けたのは僕の後方にいた第三中隊だった。
第三中隊はMk.Ⅳ巡航戦車で構成された機動戦車隊でね。
真っ先にネウロイに対して陽動戦を展開したんだ。
だけどネウロイは彼らには目もくれず、真っ直ぐに輸送隊にビームを向けてきた。
最初の直射で2台が消失。第二斉射はなんとか間に合った僕の同期が防いだ。
僕達だってネウロイを撃破しつつ輸送隊を安全なところまで退避させる為に行動をしていたけど、気づけば僕たちはネウロイを挟んで分断されてしまっていた。
シールドで車列を守ることに集中していた結果だった。
後方遮断。包囲殲滅をネウロイがしようとしているのだと気づいた時にはすでに何十体もの地上制圧型と戦車型が背後を固めてしまっていた。
中隊長は状況が逼迫している事を伝えようとしていた。
すでに輸送部隊の護衛でしかない僕達だけでは対処できる量ではなくなっていた。
絶望が少しづつ伝播していく感じがした。
そんな時だった。無線が一瞬混線し、ノイズが流れた。
「ーーーーsheit, das eine vom anderen zu unterscheiden.Niebuhr」
「なんだ?」
「カールスラント語?」
僕がわかったのはそれだけだった。
「はああっ‼︎」
飛び出した人影が、ネウロイの体に乗っかった。
少し遅れて金属がひしゃげるような、ガラスが砕け散るようななんとも言えない音がして、ネウロイの姿が消失した。
なにがあったのかを理解した時にはすでに次のネウロイの頭部が爆ぜ、胴体に少女が飛びついていた。
「Erzengel St. Michael, der herrliche General der himmlischen Armee,
Als eine große ーー」
また声が聞こえた気がした。ネウロイが消えた分、包囲が弱まった。
「列が乱れた!」
その隙を逃すほどあの時は余裕があったわけじゃない。後先考えず僕と、100mほど戦線側にいたロンドベル軍曹で空いた穴に飛び込んだ。
使っていたのがクルセイダー戦闘脚で良かった。火力は少し不満だったけど近づいてしまえば問題はないからね。
弾幕も撃破されたネウロイがいたところは薄くなっていた。
一時的なものでも押し込めば絶対的な致命傷になってくれる。
「Hoffentlich helfen Sie uns im spirituellen Krieg und entlassen Sie den Teufel‼︎」
目の前でさらに一機が撃破され。入り込んだ僕たちがさらに穴をこじ開け力技で道を切り拓いた。
どれくらいそうしていたか……
戦闘がいち段落した頃には僕とロンドベル軍曹の残弾はゼロ。砲身が焼ける寸前の状態だった。
気がつけば少女は消えていた。
あの戦闘での僕らの損失は輸送車両5台、48人が死亡。比較的少ないものだった。だけど彼女が割って入り突破口を開かなければさらに被害は広がっていただろうね。
あの少女がハル少尉だって知ったのは戦闘から二日経った頃だった。新聞の写真でね。
まさか空軍のウィッチだったなんてね。驚きだよ。あんな非現実かつめちゃめちゃな闘い方でネウロイを突破しちゃうなんてさ。
僕?無理無理、背中に目でもついてないと……
でも背中に目をつけないといけない時が来るなんて思いたくなかったよ。
あの時も彼女は多分僕たちの上空を飛んでいたんだろうね。
彼女の名は既に戦線によく知られていた。
もう一つの名も主にこの戦闘の後の記録から多用されている。
扶桑の戦車
Nさん「九七が出るだけと言っていたからブリキが来ると思ってたのに第二世代と第三世代の合間みたいな戦車が出たんですが」
A「だって君たちBET◯なみの強さじゃん」
トラック
正式名称GMC CCKW 8輪ロングホイールベース型(レンドリースモデル)
リベリオン製
全長7m
重量 4.9t
積載重量2.5t
リベリオン陸軍が採用しているロングホイールベース6輪型よりも長いシャーシを採用し重量分散を図ったモデル。
最前部の軸は非動力のため8輪ではあるが駆動系は6輪モデルをそのまま流用している。
CCKWの積載量2.5トンという数値は、あくまでもオフロードの劣悪環境下での余裕を持った数値であり舗装道路では4.5トンの積載能力を持っていた。
最高時速は72kmと、当時の軍用トラックとしては優れた性能を持っていた。
ハルちゃんが次に走るルート
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ブレイブ
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ストライク2
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アフリカ(1943)
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RtB