ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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???9

あの日

 

 

あの日を忘れたことはないわ。

燃えるベルリンを空から見ているしかなかったあの無力感、助けられたかもしれない命が散っていくのを見るしかなかったあの悔しさ。

 

 

あの子はあの空をどういう思いで飛んでいたのかしら……

 

 

 

あの日の第一報は新人の教育をするため空に上がった直後に入った。

あの時はネウロイの攻撃が激しくて補充されるウィッチもたった二週間の簡易訓練のみで送られてくる新人にも満たないような少女ばかりだった。

だから私や手が少しでも空いている人でなんとか訓練をしていたのよ。

 

最初の無線は航空管制塔が受け取った不正確な情報だった。

ベルリンが空襲を受けた。詳細は不明のまま。

ほぼ同時に帝都防空隊の無線が微かに混ざった。

雑音の向こう側に混乱しているパイロット達の声が聞こえた気がした。

 

すぐに訓練を取りやめて上空待機を命じられたわ。

少しして基地からウィッチや戦闘機があるだけ上がってきた。

普段ローテーションを組んでいるはずの子たちが一斉に上がってきていたのよ。

その中にミーナ少佐の姿を見つけて、私は状況確認を行うために近づいた。

私の考えでは、基地から援軍を出すにしても基地防空にも何人か人手は必要な上に戦線のエアカバーもしなければならない。この基地に少しだけ余裕があったとはいえど、連れ出せるのは四人くらいだと思っていた。

だけれどそれでは焼け石に水なのは誰にも分かっていた。

ミーナの側には、ハルと僚機の子が一緒に飛んでいて、やっぱり指示を受けていた。

「ミーナ少佐。一体なにが……」

 

「ああ、ロスマンさんちょうど良かったわ。これより当基地を破棄。全航空隊はベルリン防衛にあたります」

同時に現在死守している防衛線もベルリンまで後退させ、帝都防衛隊と親衛隊をも導入して大規模な延滞戦を行うつもりらしい。

「それって……」

実質的に首都を捨てるということだ。たしかに首都機能はノイエ・カールスラントに移転が行われている最中だから障害も最小限で済むかもしれない。合理的に考えれば帝都を囮とする案は色々と都合が良い。

だけどそれは避難していない民間人が最も多い場所で堂々と戦いをするということだ。理論的に最適でも倫理的には愚策に過ぎない。

「……市街地戦ならネウロイの侵攻速度を抑えられる。軍令部の考えよ」

ミーナ少佐は重々しくそう言った。

「同時に逃げ遅れている民間人の援護を行うわ」

そうは言っていたが戦いながら民間人の避難を行うと言うのはなかなか難しい。

 

「了解しました」

それでもそれを出来ないと言うのは無理というものだった。

「それでこの二人もそちらに加えて貰えるかしら?」

それは意外な言葉だった。ハルと、その僚機、確かリーデルだったかしら。コールサインはシェパード2。地上でも基本コールサインそのまま呼びだったのよね。本人も名前呼びを嫌っていたみたいだし。

「ハル少尉をですか?」

 

「ええ、今他の小隊員は戦線のエアカバーに行っているらしくて二人だけみたいなの。そのかわりそっちの新人2人は私が面倒見るわ」

2人、そして私のところには僚機の新人(出撃回数4回)だけが残され、私の隊にハル達が加わることになった。

正直な話ミーナ少佐に彼女たちを預けたのは正解だったわ。戦いに出すにはまだ早すぎた。ミーナ少佐がそんな新人達をまとめて次の前線基地に送って来れたからこそエースが重しをといて空を飛ぶことができた。

多分上層部からは使える戦力は全部導入しろとか言われていたのでしょうね。それを押し切ってまで新米を後ろに下げる決断をしたのは凄いことなのよ。

 

「わかりました。ではこれよりベルリンへ向かいます」

ハルと私との合間で会話があったかですか?いえ、あまり話しはしていません。少し力の使い方を考えたらどうかとアドバイスをしたのですが、こればかりはどうしようもないと言って取り合ってくれなかったわ。

 

私の小隊は三番乗りだった。

「ストライダー1空戦領域に到着しました。これより戦闘を開始します」

 

上空で様子を見ていた扶桑国のレーダー搭載大型機に無線を入れながら周囲の様子を確かめた。

ブリタニア供与のハリケーンMkⅢの小隊二つが既に戦局に加担していたけれど状況は芳しくなかった。

中型ネウロイに翻弄され、地上で暴れるネウロイになかなか手が出せないでいた。

駆けつけた時にはベルリンは炎に包まれていたわ。

至る所で火災旋風が起こっていて、そのそばを通過したハリケーンが乱流に飲まれてバランスを崩し、炎が機体に飛び移って炎上していた。

布張りの機体だから起こる悲劇だった。

それらの遥か上では超大型ネウロイ……そう呼称した方がいいような巨大な体が太陽を隠して、地上をビームで焼き払っていたわ。

 

地上で避難をしていた人達が、誘導をしていた警官がビームに巻き込まれてその姿を一瞬で溶かしていった。あの光景は今でも夢に出てくるのよ。

「……っ!目標左側の超大型!班ごとに分かれて左右から挟み込むわ!」

 

「了解!」

高度を一気にあげながら、隣にいた僚機が悪態をついた。

 

「なんてデカさなのっ!」

大型ネウロイはその大きさゆえに距離感が掴みづらい。

まだ射程に入っていない武器を撃とうとしていた隣の子を制止させていると無線が響いた。

 

『ハルッ!回避っ!』

 

見れば彼女は機関砲を発砲しながら大型ネウロイに突っ込んで行っていた。すでに彼女たちは高度をあげ切っていた。

 

曳光弾が吸い込まれるように伸びていき、返答と言わんばかりに彼女達を囲うようにビームが吹き荒れていた。

全てシールドで防いだようだったけれど、それでも火力を集中されたら押し返されてしまう。シェパード2が吹き飛ばされた。ハルは相変わらずだった。不規則かつ激しい動きでビームの殆どを回避しながらも、あくまで目標へ向かい撃ち続ける。

常人なら体の負担でとっくに落ちていてもおかしくないものだった。

 

「攻撃するわ。続いて!」

 

彼女達が注意を引いてくれたおかげなのか私達や避難民への攻撃も一時的に止んでいた。

その間に体勢を立て直しながら胴体中央。ビームを発射する魔法陣もどきが出現するあたりを攻撃で捻り潰す。

これでしばらくは攻撃ができなくなった。私たちの後を追いかけるビームはどれも小さいものばかり。この高度では地上に届くものではない。

そのままネウロイの上方へ抜けた時、すぐ隣をハルがすり抜けていった。

多分こっちの動きに合わせたのね。もうあの頃の彼女はエースウィッチの仲間だった。

 

そのあとこっちが反転して再攻撃をしようとしている合間に彼女によってその大型ネウロイは撃破されていたわ。

残る超大型ネウロイは三機。一つはエーリカ達が取りついていて、残るは二つ。

このまま順調にいけば一通りのネウロイは撃滅できる。そう考えていた。

 

 

そんな期待すらネウロイは許してくれなかった。

『新たな大型ネウロイ接近っ!これは……』

 

そのネウロイは異様に低い高度で飛んでいて、いきなり頭を下にして街に突っ込んだの。

建物をいくつも破壊し街に爪痕をつけていくかのように瓦礫と土を撒き散らして衝突したネウロイの後半分がいくつもの中型ネウロイに分裂した。

多分、空挺という概念をどこからか拾ってきていたのね。

どうもネウロイはウィッチや人間を洗脳して情報を得ていたみたい。

ブリタニアやスオムスはそれを知っていたみたいだけどカールスラントやガリアには伝えていなかったのよ。

 

だからネウロイの空挺による攻撃を想定していなかった。

 

比較的安全な場所を避難させていたつもりが、避難計画が完全に破綻した瞬間だった。

 

「あそこにはまだ市民が……」

 

ふと誰かが視界を遮るようにして急降下していった。

ハルの僚機、シェパード2だった。

それを追いかけるようにハルも急降下をしていた。

 

 

その先にいたのは、民間人とそれを殺戮しようとするネウロイだった。

気づけば私が一番にネウロイを射程に捉えていた。

 

マガジンを使い果たす必要もなく、ネウロイはその姿を消していた。

だけれどそれが直前に放ったビームは避難民の列を引き裂き、建物を瓦礫の山に変えていた。

 

「お母さん!お母さんっ!」

 

「っ……」

泣き叫ぶ声が聞こえて、下を見下ろすと、瓦礫のそばで泣き叫ぶ少女二人が見えた。

すでにハルとシェパード2がそばに降りていた。

瓦礫の下から女性の足が少しだけはみ出していた。

この姉妹の母親だったのだろう。守れなかった現実が胸を刺す痛みに変わる。

「ハル、二人を連れて行ける?」

気づけば、私はそう命令していた。ここにもネウロイの影が迫っている。生き残った避難民の多くはすでに走って逃げてしまっているのだろう。その場所に姿はなかった。

警官などがついているからそちらは大丈夫だろう。だけれどここに取り残された子供は放っておけば戦火に巻き込まれる可能性が高かった。

「……分かりました。避難列車まで連れて行きます」

少しハルは不満そうな顔をしていたけれど軍人にとって命令は絶対だ。

「シェパード2、ストライダー2貴女達は私と来なさい」

 

「「了解しました!」」

 

ハルを後ろに下がらせた理由?あの子が鼻血を垂らしていたから。

あの時にはもうすでに固有魔法で体を酷使していて……あまり負担をかけさせたくなかったのよ。

だけどそれが彼女にトラウマを植え付けてしまったのもまた事実。こんなはずじゃなかったのに。

 

あの後民間人二人を退避する列車に乗せた後、戦車型ネウロイが駅に飛び込んできて……

ツォー駅の悲劇、そう呼ぶ人もいるわね。

 

死者はわかっているだけでも1023人、行方不明者531人。重傷者322人うち数時間以内に死亡したのが184人。

駅舎と、出発待ちだった列車、それと駅構内で作業していた帝鉄職員40人。

大勢が犠牲になったわ。

直後に発車した避難列車を守るために彼女は無茶をしすぎたの。

私が駆けつけた頃には力の使い過ぎで吐血。一部血が肺にまで入り込んでいたわ。

あら聞いていないの?

彼女の固有魔法は行使直後に振り戻しが来るデメリットがあるの。特に内臓がダメージを受けやすいのとあまりにも強すぎると脳に障害が残る。

軍医はそう言っていた。

吐血まで行っていたのは気管支か胃に近いところが出血していたから。そこまでしなくてもと思いたかった。

でも戦争は人間の命なんて簡単に飲み込んでいくものよ。

 

 

 

 

 

 

当時彼女に助けられた姉妹はすぐに見つかった。

カールスラント空軍ではかなり有名な姉妹だったからだ。

姉のハンナ・ベヤス少尉と妹のアンネ・ベヤス軍医。

現在ガリアに進駐し、奪還したガリアの防衛に当たっている。

 

インタビューをする機会は得られなかったが、当時のことを詳細に記録した日記のページを複写したものを送ってくれた。

それには火災旋風とネウロイの攻撃を避けながら少女二人を無事に後方へ送ったことがこと細やかに記されていた。

 

彼女はこの後もベルリン防衛戦で戦い続け、エーリカ達がガリアへ脱出する中、避難民の殿としてキール港より脱出しシェパード2と共にブリタニアに向かう。

 

 




扶桑の大型機。

キ49 一〇〇式電子偵察機 「電龍」

全長16.9m全幅20.4m全高 5.2m
重量10.21t
発動機火星二三型×2
出力1,820馬力 x2
最大時速480km/h(高度5,000m)
航続距離1980km
乗員6名(操縦士2名、機関士1名、電探員3名)

扶桑国が製造した広域偵察機。
キ49重爆撃機をベースにエンジンを強力な火星二三型へ変更。
爆弾倉にブリタニア製の電探設備を搭載。
アンテナ送受信機は爆弾倉真下と胴体上部の出っ張りカバーの内部に収められている。
最大探知距離は高度5000mで580kmまでを見ることができる。
電探自体が360°回転が可能なため機体を回さなくとも全方位の索敵が可能である。

ハルちゃんの三走目

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