ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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あの子のことか?もちろん知っている。

 

臆病な子だった。いや良い意味での臆病だ。

戦場という狂気が支配する世界では臆病な方が良い。危機意識が高く常に危険を取り除こうとする能力が育ちやすいからだ。

 

統合戦闘団結成時には是非とも502にほしくて引っ張ってこようとしたのだが、ミーナに取られてしまっていたし今になってもまだ別格だ。まあその見返りにいくつか物資の融通を利かせてくれたようだが……あの程度で彼女が釣り合うと思っているのだろうかな。

 

おっと、今のはオフレコで頼むよ。

あまり知らない方が身のためだ。

 

それで彼女のことだろう?言ってはあれだがあまり好かれてはいなかったな。それに私はバルバロッサ、彼女はタイフーン。それ以降は会っていない。……その話はミーナに聞いた方がいいさ。

船?空母グラーフか……いや知っているさ。忘れたくてもあれは忘れられそうにない。

それに、彼女をようやく知ることができた時だからな。

 

 

 

 

1940年末

 

私達はキール港からノイエカールスラントへ避難をする一般人を守るためにキース港に設けられた臨時飛行場にいた。

既にキール港と前線までの距離は40kmを切っていた。

その上投入できる航空機はほぼ尽きていた。正直言ってジリ貧に近い状態だった。

自国の船では到底間に合わないからリベリオンや扶桑からも客船や貨物船を回してもらってなんとか一般人だけは脱出が間に合いそうだった。

ウィッチに関しては……私を含めて10人。そのうち6人は徴兵でとりあえずまっすぐ飛ばすことができる程度でしかない状態で回されてきていた新米も良いところだった。

彼女と会ったのはそんな時だった。

前線で取り残された部隊を随伴しつつ、キール港にやってきた。

久しぶりに見た彼女はすでにやつれていた。それでも目に宿る闘志だけは健在だった。

だがタイミングが悪かったとしか言いようがなかった。

 

「船団護衛⁈何を馬鹿な事を……」

真っ先に怒鳴ったのはロミルダだった。ハルは終始黙って私の話を聞いていた。

「上からの命令だ。民間人を乗せた最後の船団。それを安全圏まで脱出させた後はブリタニア経由でダイナモ作戦の支援に当たるのだそうだ」

キールにはもう戻らない。それは航空ウィッチによる制空支援が無くなることを意味していた。

「そんなッ……なら前線にいる兵士は……」

残念だが彼女達が連れてきた兵も戦線死守のために駆り出されることになった。例外は負傷者くらいだろう。

「戦艦を中心とした部隊が沿岸付近からネウロイの増援を叩く。おそらく数日も保たないだろうがネウロイの攻撃が薄くなるその隙に脱出させるそうだ。方法は……聞かされていない」

そのためになるべく多くの武器と弾薬、食料は残していくつもりのようだ。

「そんな希望的観測……いくら陸戦ウィッチがいると言っても制空権は」

一番食い下がってきたのはロミルダだったな。

「……分かりました」

 

「ハル⁈」

 

「ネウロイは傾向として人が密集している場所を優先して攻撃する習性がある。もしかしたら前線じゃなくて艦隊や輸送船団に注意が引くかもしれない」

 

「そうだけど……」

 

「そうですよね。ラル中尉」

彼女は笑っていた。それが妙に印象に残っている。多忙でその時に何を考えていたかは忘れてしまったがな。

「……そう願っている」

正直反論されると思っていた私は肩透かしを食らった。あの判断もまた臆病ゆえのものなのかもしれない。

 

 

 

 

輸送艦隊は空母2隻を基幹としていたが実際に航空隊が配備され戦力としてカウントできる存在というのは結局のところ空母エッケナーのみ。

その上航空隊に関しても空母で訓練をしていたのは一週間ほどの者が多く機体の脚が着艦時に折れる事故が頻発していたから着艦訓練もまともにやっていない人達ばかりだった。

つまり一度の戦闘でほぼ艦載機は使い捨てに近い。頼みの綱はウィッチのみだった。そのウィッチも半分以上がまともに戦えない新米と来た。

本来であれば扶桑から派遣された空母がいたがそれも海軍の作戦に組み込まれていた。

当然ウィッチもそっちに引き抜かれていたさ。

今でこそあの作戦は囮と言われているが、どうやら第二次大戦序盤の陸空軍の活動に焦った各国の海軍……艦隊派と呼ばれる奴らが企画したものでね。

ああここもオフレコで頼むよ。

カールスラントは艦隊派が海軍では幅を利かせているからね。

あいつらビスマルク級以降の戦艦建造が白紙になった事を未だに根に持っているんだ。H級の建造が始動したのだからもう十分だと思うのだがな……

 

 

 

 

幸か不幸か出港して1時間ほどでネウロイが現れた。

その時私達はすでに空の上にいた。いつ襲ってくるかわからない相手だ。常に空にはウィッチを上げておくことになっていてね。

大型ネウロイは含まれていなかったがそれでも数で押されたらたまったものじゃないよ。いくらなんでも一度に相手にできる数には限界がある。

 

それでも私とハルはよくやった方だと思いたいね。自慢じゃないけど。

それでも被害を防ぐことはできなかった。

何度もネウロイを叩き落とし続けたが、40体近いネウロイを相手するのは不可能だった。とりこぼれたうちの2体が輪形陣に入り込んだ。

『ヘルマン・キュネン大破!戦列を離れる!』

『Z31、被弾!航行不能!』

 

ビームの直撃を受けた2隻の駆逐艦が海上で松明となって燃えていた。ネウロイはそのまま突き進もうとする。先に追いついたのはハルだった。

リベリオン国籍の客船にまっすぐ向かっていたネウロイ2体をあっさりと撃破、速度を乗せたまま急上昇で戻ってきた。簡単なことのように思えるがそれを僅か数秒の合間にできるというのはなかなか居ない。

一歩間違えれば船に衝突していたかも知れないものだからな。

だけれど素直に感心している場合ではなかった。

 

第二波が接近して来ていた。

輪形陣の左側を担当していた駆逐艦2隻が被害を受け一隻は既に甲板が海面に沈みつつあった。その分だけ輪形陣には穴が空き、そこを狙われると最後の砦である艦隊防御すら突破されることになる。特に船団の真ん中にいるのは非武装の旅客船や貨物船だ。

「ボスコート3、4を連れて艦隊右舷へ回れ。こちらはこのまま左舷側を受け持つ。ボスコート2、私に続け」

 

『ボスコート3、了解』

厳しい戦いだったな。それでも向こうは二手に分かれてくれていたから穴の空いた輪形陣を突破されるということにはならなかった。

 

 

ハルの方がどのような戦いをしていたのかは見れなかったが、話を聞く限りまた無茶な動きをしたらしい。鼻血は相変わらずだった。

 

だが新たに軽巡一隻が中破し、駆逐艦1隻がマストを破損した。

戦果?ハルが中型10体撃破で通算100機撃墜を達成したというくらいだ。ちなみに私は8体192体目だ。

 

だが戦闘はその2回で終わった。

日が傾くと奴らは現れなくなり、私達は空母に降りた。

その後格納庫で一悶着あったおかげか、戦闘後の反省会を開くことはできず、ハルの容体を気にしておけとだいぶ前に言われていたことを思い出した頃にはハルの姿は格納庫になかった。

 

 

まあその後少しだけ顔を合わせはしたが少々あってね。ああ気にしないでくれ。ちょっとお使いを手伝ってもらっただけさ。

どうもユニットや武装の調子が悪くなるようでね。代用品を飛行隊長から譲り受けたのさ。

 

そんな感じでてんやわんやしているうちに夜になってしまってね。ハルと話をすることができたのは大体20時少し過ぎだったな。

赤い蛍光灯と揺れる船内の空気が嫌だったから船外に出ていた。

 

キャットウォークに彼女は立っていた。

灯火管制をしているせいか真っ暗だった。それでも彼女の様子がどこかおかしいのはすぐにわかった。

 

「ハル、どうした?」

彼女の顔は真っ青だった。息もどこか上がっていた。

 

「作戦行動中だった連合海軍が壊滅したって……」

 

「……そう、か」

頭を殴られたような衝撃だった。だがそれをどこか納得してしまって、冷めた感情を抱いている私もいた。

「あまり言いふらさない方がいい。士気に関わる」

「わかってますけど、港であったリベリオンの戦艦の人たちやお菓子をくれた扶桑海軍ウィッチの人達は……」

「言うだけ辛くなるだけだ。それに……無事で……」

空気を切り裂く音がして床が左右にスライドした。

不意のことで踏ん張りが利かず、私もハルもキャットウォークの床に叩きつけられた。

不意に闇が明るくなった。

 

「左舷に被弾‼︎」

頭の上の方で声が聞こえて、見上げると艦橋要員が何人も見張りデッキに出ていた。

「ダメコン急げ!」

 

確かあの時のダメージは艦後方の格納庫外壁が溶解したんだったな。格納庫火災で機体とユニットが六機全損したのが最も深刻な被害だ。

 

「一体何が……」

 

昼間のように周囲が明るくなっていた。夜に慣れた目には眩しいくらいだ。

キャットウォークから見えたそれはエッケナーの後方に位置するグラーフが炎上しているものだった。

私達が見ている目の前でさらに赤いビームがグラーフの船体に吸い込まれ、爆発を起こしているのが見えた。明らかにネウロイの攻撃だったさ。だがどこからきているのかまでは分からなかった。

「グラーフがっ!」

 

「格納庫へ行け!私は飛行隊長を連れてくる」

 

 

 

 

 

整備中のユニットなども火災によって引き出すことができない状態だったが、なんとか警戒体制で準備されていたユニットは無事だった。

武装を飛行甲板で受け取り空に上がったが、その頃にはネウロイの姿は闇に紛れて消えていた。時間にして6分。だが遅すぎたのさ。

 

「ネウロイはっ⁈」

後から上がってきたハルとロミルダが合流するが、すでに戦う相手はネウロイから変わっていた。

「もういないらしい」

 

「グラーフはどうなっている?」

 

「右舷に傾斜。甲板は火の海だ。最後の通信では持って後30分と…」

行き足が止まったグラーフの船体は闇夜の海で不気味に赤く燃え上がっていた。

空にいるのに熱気が伝わってきたくらいだ。

「民間人救助にあたる……」

 

『こちらカールスラント海軍Z32。近隣の部隊並びに基地へ、当海域にて多数の民間人負傷者を確認、受け入れを求む』

近づいていた駆逐艦からボートと救命具が下ろされていく。

『こちらブリタニア空軍第3海上救難隊、我が基地に民間人の受け入れ準備あり。現在水上機を出した。到着まで40分』

 

『こちら扶桑海軍遣欧艦隊所属、第21輸送船団直掩空母龍驤。現在当該海域に向け艦載機を展開中。負傷者はこちらでも引き受ける』

 

何人かが傾斜が始まった甲板から海に飛び込んでいたが、それでも乗っている人数にしては異様に少なかった。

 

それに海に飛び込んだ者もかなりの数が再び浮いてくることはなかった。

冬の海の温度は1桁台だ。ネウロイの瘴気もごく微量ながら周囲に漂っている。

人間なんて10分もしないうちに低体温症か、水に入った時点で心臓発作を起こす可能性すらある。

一分一分が容赦なく人々の命を奪っていく。この空域にいるウィッチは数人。

人数も、時間も足りるものではなかった。

 

近くに駆逐艦がいたにもかかわらず救助できたのは民間人32名、乗組員15名。一万人近くが犠牲になった。

原因はネウロイの攻撃が格納庫を直撃したことだ。

避難民の大多数がいたところを直撃されたのだからどうしようも無い。その上30分という短時間のうちに沈没したこともある。早々に発電機がやられ電力が落ちたことで排水ポンプも消火装備も動かず必要な灯すら保てない……想像したくなかったな。

最初のうちは甲板に逃げ延びた人達を直接回収していたが、それも炎と煙で不可能になった。

ああ、ハルは最後の方は遺体を引き連れてきていたな……

さっきまでまだ生きていたって。……諦めろと言えるはずないだろう?

さっきまで生きていたはずの人達が物言わぬ存在になってしまうのを黙って受け入れろなんて。

 

結局、いつのまにか遺体回収になっていたがそれも沈没から1時間で中断。足早にその場を立ち去ったのさ。

その後も行方不明者リストを見ては黙って泣いている姿を見かけたよ。

だけどそんなの珍しくもなんともない。

欧州からの撤退での民間犠牲者は3100万人に上る。

あれも結局は氷山の一角なのさ。

 

 

あの時のことを引きずっていたのか、ブリタニアで少し気を休めさせようとしてロンドン観光に引き連れたんだが食事をするまであまり乗り気ではなかったな。

だがフィッシュアンドチップスやウナギゼリーが好きだなんて知らなかった。

あまり美味しいとは思えないぞあれ。

油でベトベトだしなんかふやふやしてたし。

 

 




H43型戦艦

ノイエカールスラントにおいて建造中の超弩級戦艦。
改ビスマルク級と呼ばれているが実際はシャルンホルスト級を大型化させた船体に15インチ三連装砲を三基乗せる改シャルンホルストとも呼べる船である。
諸元は一切不明であり1943年の就役までその姿は秘匿され続けていた。

ブリタニア海軍第3海上救難隊

扶桑国の二式飛行艇をライセンス生産したショート サンダーバードを有する海上救難隊。
飛行艇の他足の速い捜索機として水上偵察機が多数配備されている。


扶桑国海軍第21輸送船団

輸送船4隻、貨物船1隻、駆逐艦8隻、軽巡洋艦2隻、軽空母1隻で構成された臨時輸送船団。
欧州本土より極秘貨物を積載し扶桑国への帰路についていた。
旗艦龍驤には艦載機として海軍仕様のヘリコプターが搭載されていた。
救助に出たのはこの機体。

ハルちゃんの三走目

  • ストパン2期
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