ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
その少女と出会ったのは12月も終わりの雪が降る日だった。
新しくJG 52に配属になったということで挨拶回りをしていたんだ。
その時点で彼女はいくつかの空戦をすでに体験していたようでね。彼女の初陣は知っているけれどそれは私が直接体験したことではなく、当時の小隊長だったウィッチに教えてもらったんだ。
JG52第二飛行隊第六中隊の第2飛行小隊で小隊長を務めるヴェカミ・フーベルク少尉はその日新入りを迎えに基地近くまで伸ばされた臨時駅までやってきていた。
「……あ、珍しく定着だ」
駅とは呼ばれているがプラットホームがあるわけではなく、荷物の積み替えをスムーズにできるよう少しばかり線路を地面より低い位置に設置しただけの簡素なものであり、素人目には駅ではなく信号場で停車をしているようにしか見えない状態だった。
だけれどそこに到着した列車からは次々と人が荷物が降りてくる。
送られてきた物資はどれも出発先がバラバラで、木箱やパレッドに書かれた文字もカールスラント語やブリタニア語、扶桑語とバラバラで統一感のかけらもなかった。
全てがごった返したかのような喧騒にどこかインドのような雰囲気を感じつつ、目的の人物を探すことに専念した。
軍人や荷物を運び出す男達に混ざって何人かのウィッチを見つけることはできた。だが目的の人物はなかなか見つからなかった。
書類に書かれていた年齢は10歳。年齢的に身長の事を考えれば見つけられないというのも仕方がないことだった。
「あの、もしかしてヴェカミ・フーベルク少尉でしょうか?」
だが、カールスラントの軍服の上から裏側が白、表が灰色のコートを着ている彼女は相当目だったらしい。
探していた人物の方からフーベルク少尉に会いに来た。
「ええそうよ。それで貴女が…」
「はい、アントナー・S・ハル軍曹です!本日付で第52戦闘航空団に配属になりました」
7歳下の彼女は、サイズが合わない軍服を無理やり着ているせいか腕などがぶかぶかになってしまっている、それでも精一杯の敬礼をしていた。
彼女は最低限の訓練を施されただけの徴用組、その第一陣なのだ。
9月にネウロイとの戦いが始まってから、本来防衛を行うはずであったダキアやヨーロッパ平原の国は僅か1ヶ月も経たずにほぼ壊滅。
現状では山脈と川に防衛線を引いて水際作戦と言った状態であるが、それゆえに撤退や退却ができず被害は積み上がっていた。
特に最前線のウィッチはそれが顕著であり、当初はカールスラントの西部に配備されていたJG52飛行隊も今年11月から東部の防衛戦にかき立てられていたのだ。
それでも各防衛戦では兵の消耗が激しく補充は必要だった。問題はその補充が想定していたものよりも多く、特にウィッチは数を揃えるのが平時からでも困難でどの部隊も定数割れが常態化していた。その結果生まれたのがウィッチの徴用組であった。
ネウロイの侵攻による時間的な制約で訓練過程と座学を一部削った結果最短2ヶ月で戦場に送られる彼女たちは、一通り問題ないと判断された者が補充要員として送られてくるが、それでも訓練学校で教育を受けた者達と比べてしまえば徴用組は戦力としてはどうあっても劣ってしまうのではないかというのが現場での噂だった。
だが軍は良くも悪くも現実主義者達の集まりである。いくら訓練の成績が、学校の成績がよくとも実戦で使えなければ何の意味もなさない。
逆に訓練課程に多少問題があっても実戦で有用と分かればそれなりに重宝されるものなのだ。
その点JG52はその事例が多いこともあり比較的マシな方だった。
だけれどまだ10歳の少女を戦場に送り出してくるなどどうかしているとフーベルク少尉は内心上層部に文句を言っていた。
自身が入隊したのは12歳といえど部隊配備は14歳だ。
それを入隊からたったの2ヶ月で部隊配備など非常識でしかない。これでは育つ逸材を種のうちから取り除いてしまうのと同じだ。
しかし同時に圧倒的な人員不足とそれによる戦力低下も理解していた。
「……?」
「どうしたの?戦場が怖い?」
「いえ……大丈夫です」
「あー、今のうちに言っておくけど、戦場ではそれなりにフォローするよ。ただ、戦場で最後に身を守れるのは貴女自身だからね。戦場は弱い奴からみんな死んでいくそれだけは忘れないで」
アントナー軍曹の表情が少しだけ強張った。だけれど軍に志願した時から覚悟はできています。その目は筋が通っていて、少なくともメンタルは大丈夫そうだとフーベルクは微笑んだ。
彼女の技術面がはかれるようになったのはその次の日の早朝だった。
その日の夜に降った雪を退かそうと滑走路に積もった雪を扶桑国から送られてきた小さな機械がコトコトと外に押し出していた。
扶桑国にあるリヤカーという人力の荷物車を六つ並べて繋げたような車体に、運転席とエンジンを乗せワイヤーで排土板を動かす子供の工作機械のようなものだったが、人力で行うよりも何倍もの速さで雪をどかしていくそれは見た目に反して意外にも頼もしい存在だった。
それが動くのを尻目にフーベルク少尉は朝のコーヒーを飲もうとしていた。
後1時間ほどでスクランブル待機が交代するというタイミングでそれは鳴り響いた。
空襲警報。同時にスクランブルを表す赤いランプが光った。
飛び跳ねるように愛機が止められている格納庫に駆け出した。
エンジンはすでに暖められていて、すぐにでも発進できる状態になっていた。
小隊は配属転換したばかりでまだ顔を合わせてから日が浅い。
一緒に駆け出していた仲間の中にアントナー軍曹はいなかった。だけれどそれに関して誰も文句は言わなかった。
ニュルンベルク郊外からここまで鮨詰めの列車を乗り継いて来たのだ。まだ幼い彼女の事を考えれば寝かせておく方が賢明だった。
だがフーベルクが武器のチェックを行なっていると、彼女が格納庫に転がり込んできた。
「遅い!配属初日だからと言って敵は待ってくれないぞ‼︎」
本当は叱りたくはなかった少尉だったが格納庫に遅れて来たという事実は変えられない。特に1秒でも惜しいと考えている周りの兵の非難がましい目線を吹き飛ばす為彼女は怒鳴った。
「すいませんッ!」
謝りながらもアントナーは手早く準備を整えていった。その手際は2ヶ月程度しか訓練をしていない者には思えないほど素早いものだった。その上迷いもない。まさしく自身と同じだと少尉は感じた。
すぐに準備を終えた彼女を四番機として、フーベルク少尉は滑走路に向かって動き出した。
滑走路端に向かっていくと、滑走路の除雪をしていた排土車が逃げるように滑走路から出てくるのとすれ違った。運転手達が帽子を振り回して檄を飛ばす。
「タワータワー、こちら迎撃部隊、全機出撃準備完了。これより滑走路手前で待機する」
全員が滑走路端に到着し、準備完了の合図を少尉に送った。
小隊長である少尉が管制塔に準備完了の報告を入れた。ほぼ同時に返答が返ってくる。
『了解。タワーより迎撃部隊、滑走路クリア。離陸を許可します。離陸後はすぐ高度制限を解除。バンクして方位0-6-0へ。西から1ノットの風』
「了解。出撃する」
空に上がってからも、何度か少尉は新入りの彼女を確認し続けた。
(飛行姿勢も安定している……随分と慣れたように飛ぶのね)
「敵機発見!下方200!」
2番機が下を通過しようとしている黒い点々を見つけた。素早く少尉は指示を出す。
最初に二番機と三番機のペアが上空から攻撃を仕掛け、ネウロイが攻撃に転じる前に一番機と四番機が追撃を浴びせる。
高度有利を取れたのを最大限に生かす方法だった。
「新入りは私の後をついてきて。結構振り回すけど見失わないでね」
「Jawohl」
動き出した少尉の後ろをピッタリとついてくるアントナー。
(ぴったり合わせてきている。それに軸線のブレも無さそう。もしかしたら掘り出しものかもしれない)
最初の攻撃で混乱したネウロイに少尉が機銃を浴びせた。
射程に捕らえていた時間は3秒足らず。その合間に二機のネウロイを撃破している。結果残りは二機だけとなった。
「さて新入り。貴女がどう戦うのか見せて」
ここで少尉は彼女の技量が気になり、試してみることにした。
「Jawohl!」
アントナーは少尉に返事を返しながら、残る二機のネウロイに飛び込んだ。
(ヘッドオン?怖くないのか⁈)
たしかにヘッドオンなら偏差射撃もあまりしなくて良い分効率は良くなる。だけれど当然ネウロイも反撃をする。放たれたビームをロールする事であっさりと回避し、目の前のネウロイに機銃弾を浴びせた。
最初の数発の着弾でコアがむき出しになり、そこに直撃弾が飛び込みコアを貫いた。
「よし一機撃墜だ」
同時に後ろをついてきていた少尉もネウロイを撃破する。
「なかなか肝が据わっているのね。それに射撃の腕も良い……貴女どこかで銃を使ってた?」
「え?いえ……銃を使ったのは訓練以外ではじめてです」
「初めて?」
(それにしては妙に扱いに慣れている。出撃前の準備も手慣れていたようだけど……やっぱり天性の才能ってやつかしら?実例は…ああ、あの子がいたわね)
最近ストライカーユニットの先端を黒い模様で飾り始めた子の事を考えながら、少女達は帰路についた。
次に彼女を語るとすれば、爆撃機の護衛任務についてだと少尉は言っていた。
確か3回目の出撃だったみたいでね。
その頃になると積もった雪や氷が川にも薄く張り始めていて川幅が狭まってきているところがいくつかあったんだ。
そういうところにタンク型や地上制圧型ネウロイが集まって川を渡ろうとしていたんだ。それを阻止するために爆撃機で空爆をすることになってね。
まだJu87のような純正爆撃型のストライカーは無いからJu88爆撃機とBf-109の爆撃機型を装備したウィッチとそれを護衛する方法を取ったのさ。
私はその時彼女たちよりももう少し南の方で爆撃機の護衛をしていたんだ。
護衛自体はうまく行ったらしいんだけど……
あ、もうこんな時間か。すまない、これからクリスの見舞いに行かないといけなくてね。
それじゃあ失礼するよ。
その時のことは今度話す。
MG34
開戦当初のカールスラントのウィッチは、空を飛ぶことが可能な歩兵という思想によって運用されていた。そのため武装においても一般的に歩兵が運用していた武装を使用していたが、攻撃可能時間が短く、目まぐるしく変わる空戦では歩兵銃などの武器では十分な攻撃を行うことができないと開戦してまもなく問題となった。
MG34は歩兵銃では空戦に役に立たないという理由から急遽ウィッチに配備が行われた汎用機関銃である。
カールスラント初の汎用機関銃であったMG34は、空冷式で7.92ミリ×57ミリモーゼル弾を毎分900発の速度で撃ち出すことが可能である。
これにより当初の問題であった火力不足は一応は解決したかに思えたが、使用弾が小口径であり、進化し続けるネウロイ相手には早い段階で火力不足となっていった。
それでも小型相手には十分な火力と小口径ゆえに弾薬搭載量が多かった為、戦争後期でも好んで使う者が多かった。
ハルちゃんの三走目
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