ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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待たせたな(cv大塚)


???11

「え?えっと……移動ですか?」

もう空を飛ぶのはしばらく無いと思っていた。だけど空に上がるのは意外と早かった。

扶桑国海軍欧州派遣団の航空隊長をしているおじさんは私に転属命令書を突きつけてきた。

その隣にはブリタニア空軍の偉い人もいた。

猪と熊を組み合わせたような獰猛で毛深い顔だって言ったら航空隊長からめちゃめちゃ怒られたから印象によく残っている。

「そうだ。戦力の再編と再配置の結果だ」

そう言って転換地を伝えてきた航空隊長(名前が難しいからおっさん呼びしてたらすっかり名前を忘れた)に思わず聞き返す羽目になった。

なんで僕が激戦地に……

「その〜理由を聞いても?」

 

 

「君が空母の生き残りで最も腕が上だからだ」

あの海戦で2機撃墜しただけだよね?いや記念すべき初戦果を評価してくれたのは嬉しいけどさ。

まだ入隊して1年経ってないよ?6ヶ月の短期訓練とさっき士官教育をさっと受けただけなんだけど……

扶桑国の人事は能無しなのかな?あるいは蟹味噌が入ってるんじゃないかな。

「いやそれは僕より上手い人が……」

 

「残念だがカールスラント空軍からも国籍を問わず『早急に』ウィッチの増援を要請されていてね。本国からの補給船も希望峰経由では時間がかかる」

どうやら拒否権はないみたいだ。

「わかりました……ああ病みそう」

 

「胃薬くらいは仕送りしてやろう」

なんだい偉そうに。いや実際えらいんだけどそうじゃない。

「要らないよ。せめて林檎だよ」

元々僕は国防に焦がれて入ったはずなのにどうして欧州に派遣されたんだっけ。扶桑食が恋しい。

「諦めてくれ」

 

ブリタニアから取り寄せてやる。そう思ったけどブリタニアの林檎の多くはもともと食用じゃないやつだったから食べるのには向かないらしい。

 

ロンドンの郊外に設けられた扶桑海軍作戦指揮所を出ると、天気は珍しく晴れになっていた。曇っているか雨が降っているかの二択ばかりだった天気にも気まぐれに微笑むことがあるようだ。

 

 

 

 

 

 

数日後僕は海峡を渡って欧州本土の土を踏んでいた。

避難する人を乗せるために本土方面に回送されていた輸送船に便乗してやってきた港は避難する人たちで溢れかえっていた。

そこからトラックに乗り換えて揺られること2時間。かなり沿岸から近い位置にその飛行場はあった。いや見た目にはただの丘のようにしか見えない。木に偽装した無線アンテナ群とレーダーユニットが小さく纏まっているところを見れば小さなレーダー監視設備のようにも見えなくはないけど。

決められた位置にトラックを止めていると、トラックの周囲の地面ごと地下に向かって降り始めた。貨物エレベーターもこうして偽装されていると本当にわからない。

「なんかモグラになった気分……」

 

滑走路の先端以外を地下に埋没させた巨大な基地は、まるでモグラか、昔やっていたリベリオンの映画に出てくる悪の組織の秘密基地のようなものに思えた。

エレベーターが降下をやめてトラックは再び動き出した。

少し走って幾つかの隔壁を通り過ぎて、格納庫のような区画にトラックは止まった。

 

どこか閑散としていて、でもストライカーユニットや戦闘機、各種部品はたくさん揃っていた。

それはガリアだけでなく扶桑のものやオストマルク、珍しいところではダキアの国籍マークをつけているものもあった。

 

 

 

空襲警報が鳴り響いた。

同時に格納庫区画に整備員やウィッチ達が駆けつけてきてはさっきまでのどこか閑散とした雰囲気を全部吹き飛ばした。

到着したトラックの運転手はともかく飛び降りて待避壕に駆け出していた。

「うわわっ‼︎」

トラックのそばでどうしたらいいか悩んでいると、航空隊長の腕章をつけた人が出てきた。すぐにそばに駆けつけて事情を説明するも何にも聞いてもらえない。とりあえず扶桑からの援軍としか聞いてもらえなかった。いやまあそれだけわかってくれればいいんだろうけどさ。

「えっと……僕はどうすれば……」

 

「時間がない!格納庫で待ってろ!」

 

「はいい‼︎」

勢いに押されて返事をしてしまったけど本当にどうすればいいんだ‼︎

 

近くでは医療ウィッチが包帯を巻かれた幼いウィッチを手当てしていた。

聞こえてくる言語はカールスラント語。何を言っているのかさっぱりわからない。だけど僕よりも二、三歳年下でまだ11歳とかそのくらいのように見えた。

 

 

「貴女、扶桑の?」

ふと手当てが終わったその子と目があった。少女が近づいてくる。肩に付けられた階級章は少尉。僕と一応同じ階級だった。

「えっと……待ってろって言われてさ。きたばかりなのにあの天パなんなんだよもう」

必死に覚えたブリタニア語で現状を説明していくとどこか納得した表情の少女がブリタニア語で返してくれた。

「ちょうど良かった。ユニットはある?」

 

「そこの車両に載せたままだけど……」

到着した時のまま未だ荷下ろしされない僕のユニットを指差し。一応自力で下ろすこともできるけど勝手に下ろしたら怒られる。

「各種準備は?」

 

「最前線に行くからって出発前に戦闘が可能なように整備はしてはあるけど……あ、燃料は入れてないよ」

そもそも陸送時に燃料を入れっぱなしにしてたら万が一の時危ないじゃん。

「ならそこに燃料給油ホースがあるからそれを使って。一緒に出るよ」

 

「出るって…さっき怪我治してもらってたんじゃないの⁈」

怪我直後に再び出るなんてどんな神経をしているんだ!

「治したから出るよ。僚機がちょうど居ないからさ」

そういう問題じゃないんだけど。っていうかまだ着いたばかり……いやまあ戦いにきたのは確かなんだけど……でもここまできてこんな穴で待っているのも嫌だなあ。ああ病む。

「うう、わかったよ」

 

「なら準備!」

 

幸い武器弾薬も一緒に持ってきていたから二、三回の出撃程度なら弾切れの心配はない。ユニットの予備部品が少なかったけどまあ大丈夫なはず。

そんなわけだったから僕は無断で装備を引き出すことに抵抗が弱かった。

 

 

まるでハンガー格納庫をいくつもつなげたかのようなドーム状の薄暗い天井を持つ滑走路端に出ると、管制室からの無線がうるさくなった。

だけど何を言っているのかいまいち聞き取れない。

「なんて言っているの?」

 

「発進許可が下りてないって」

 

 

「え⁈出てないの⁈どうするのさ!」

てっきり出ているのかと思っていたのに。じゃあ僕たち軍務規定に反してる⁈無断出撃ってそれはそれで服務規程違反なんじゃ…どうしよう!

「落ち着いて。貴女の名前は?」

 

「僕は烏李芽 真由美」

思わず答えちゃった。

それを聞いた少女は管制官と何かやりとりしたのちに、急にこっちに話を振ってきた。

「後の通信はお願い」

 

「……は?」

 

『…… Roger that。Ms.URIME Runway 45R, Line up and Wait.』

 

「あ、えっとラインアップアンドウェイト」

これでいいんだよ?なんかよくわからないんだけど……たしかに私の名前だったから反応しちゃったけど。

『Ms.URIME.Wind 120at 6Cleared for take-off. Runway 45R』

またきた。だからなんなんだこれ。えっと確か離陸オッケーってことだっけ?

「くりあーどふぉーでいくおふ!」

とりあえず復唱する。少し遅れて少女のユニット音が大きくなった。僕もそれに続いた。

「……最初から思ってたけどすごくカタコト」

 

「仕方がないじゃん!ブリタニア語なんてこっちに来るまでの間に船でやっただけだもん!」

そもそも僕はオラーシャ語の方が得意だ‼︎

祖母がオラーシャの出身だから。

「それに管制は基本扶桑語だった…」

まあ管制を受けたのは空母祥鳳と訓練空母鳳翔と扶桑国の航空管制だけなんだけど。

「じゃあ私も扶桑語で話す?」

その時には既に少女は流暢な扶桑語で話していた。喋れたのか。

「できるなら最初に言ってよ!」

 

「だって頑張ってブリタニア語で会話してたから」

ひどい話だ‼︎まあいいや気持ちを切り替えよう。もうすぐ空戦領域なんだし……

「そういえば名前を聞いていなかった……君は?」

 

「私は…ハル。アントナー・S・ハル。よろしくウリリメさん」

 

「リが一個多い」

 

「失礼噛みました」

 

「わざとでしょ」

 

「失礼かみまみた」

 

「わざとじゃない‼︎」

軽快な笑い声が無線越しに響いた。釣られて僕も笑っていた。

「気は解れたかな」

「解れたと思うよ美味しくないマシュポテト並みには」

 

 

 

「エンゲージ!」

同時にエンジン出力が一段上がった。

斜め前にいるハルについていくために無意識に出力を上げていた。

「敵の数は6、少ないけど格闘戦型だから注意」

正面からまっすぐ突っ込んでくる黒いゴマ粒のようなものが見えた。

真っ赤な熱線が飛んでくるのを予期してしまってシールドを展開した。少し遅れてシールドにいくつもの衝撃と熱が走った。なんとかシールドは持ち堪えてくれて、ネウロイの群れを通過していた。

ハルはその間にも何体かのネウロイを撃破していた。

反転する彼女に合わせて僕も旋回すれば、ちょうどネウロイの後ろに来ていた。何体かは密集から離れて反転しようとしていたけれどまだ時間がかかるようだ。

「了解!」

やばいやばい緊張してきた。どうしようこれで落とせなかったら基地に向かっちゃうよね?また祥鳳みたいに……いやいや考えるな!今はそんなこと考えちゃダメだ‼︎

「落ち着いて狙って。落とせなくてもプレッシャーを与えればいい」

 

「わ、わかった!」

照準の先にネウロイの黒い姿が入り込んだ。

思わず引き金を引いた。反動で銃自体が暴れて狙いがうまく定まっているようには思えなかった。だけれど目の前にいたネウロイの姿が爆散した。

 

「お、落とした?やった!」

 

「喜ぶ前に次!」

 

「はい!」

弾倉には少しだけ弾が残っていたけれどすぐに換装する。

自分より小さいハルに指図されるのは最初こそ少しだけ気になったけど戦場の空気に触れているうちに気にならなくなっていった。

 

「距離が遠い!もっと間合いを詰めて。扶桑の20ミリはそんな距離じゃ当たらないよ」

 

「使ったことあるの?」

 

「一回だけ。こっちの20ミリと同じでかなり下に落ちるけど」

 

返事をする前に再びネウロイのビームが迫ってきた。今度は背後だった。

慌ててロールで回避していたけれど、ハルの姿が見えなくなって慌てて横を見ると、彼女はネウロイをオーバーシュートさせていた。

僕も追従できずにネウロイと一緒に前に出てしまう。射線が重なった気がして咄嗟に左下方へ反転降下。直後に僕がさっきまでいた位置を曳光弾がすり抜けていった。

文句を言おうとしたけれど、それより先に下からハルに向かってくるネウロイとバッタリ出くわしてしまって咄嗟に銃で殴り倒していた。記念すべき4機目だったけれど全く喜んでいる場合ではなかった。

「危ないじゃないか!」

 

「回避してくれると信じていたから」

ニヤリと笑っているけれどそんなに急に信頼されても……

「僕病むよ⁈」

残ったネウロイを追撃しながらも、いつのまにか軽口の応酬戦になっていた。

対空砲の間合いにネウロイを誘導して砲撃するのを繰り返していると、生き残っていたネウロイが基地から離れていく。その合間に失った高度と速度を回復しながら、周囲を警戒していると基地の滑走路から輸送機や爆撃機が何機も出てきた。

「何かあったのかな?」

 

無線はブリタニア語だけでなくカールスラント語やオラーシャ語、ロマーニャ語まで混ざって大混線になっていた。もう聞き取れやしない。それでも彼女は情報を正確に聞き出していた。ただ、すごく嫌な予感がした。こういう時だけそういう勘は当たるのだ。祥鳳の時だってそうだった。

「……ただいまの時刻をもって基地を放棄する。私達で最後の上空警戒をしてだって」

 

「え…それって殿?」

 

「そうだよ」

やけにあっさり言われた。

「むりむり!新米にいきなり殿って何考えているのさ!」

 

「でもまともに飛べるウィッチは今のところ私達だけだからやるんだよ!」

 

「でもっ…」

 

「文句言う前に手を動かせ!ここは戦場‼︎泣き言なんか死んでから言って!」

 

「死んだら言えないじゃん!ああもういいよ!やってやるよどうなっても知らないから!」

そもそも無断で出撃しているんだけどね‼︎やっぱり泣き言言いたいよ‼︎

 

 

「ネウロイ接近!左手!」

言ってる側から来た!前線を突破されているのか大量のネウロイが迫ってきていた。

 

無理に落とさないように弾幕を張ってと言われて咄嗟に弾幕を張るようにマガジンを一つ使い切った。20ミリの弾数はそんなに多くない。それでも彼女の指示は的確で、僕が展開した弾幕に突っ込んだネウロイが四散した。

よしこれで5機目‼︎

ゾワっと背中に悪寒が走った。少しだけ左に体を逸らした。同時にすぐ近くを通ったレーザーが予備弾倉一個を削り取った。少しずれていたら直撃していた……怖い。

 

あ、ハルは……

「うらああああッ‼︎」

完全に目を離している隙に彼女は何体もの群れを撃滅していた。

それはすごいというより無謀だった。だけれどそれをやってのける……そこに英雄を見た。

 

それでも攻勢は止められない。二人だけで戦っているせいで戦線の穴を突かれては基地の外壁に爆炎が上がる。

地下の巨大塹壕は少しなら持ち堪えられるだろうけれどそれも限度がある。

既に無人となった高射砲群が吹き飛び、レーダー塔が切断され瓦礫となって崩れていく。

滑走路先端は何発ものビームで削られていた。

 

「撤退は⁈」

 

「あと5分だって!」

 

「5分とかもう無理!病んでいいかな⁈」

弾も後弾倉一個だけ。正直もう無理‼︎

「弾がないなら剣があるでしょ‼︎」

確かに腰に刀をぶら下げてるけど刀の使い方なんて二日だけ剣道やっただけだもん‼︎

「こんなのただの飾りだよ!いやまあ使っているようなヤバい奴もいるけど……」

扶桑国のエース組は刀さえあればなんとかなるとか言ってるけどあれは例外だから。例外が多い気がするけど……

「なら使って!私のナイフは両方折れちゃってるから!」

 

シールドでビームを防いだ彼女が反撃で懐から出した拳銃まで使っていた。一瞬彼女の死角に潜り込んだネウロイと目があった気がした。そいつの顔みたいな模様が嗤ったきがした。

「ああもう!神様でも邪神でも祟り神でもいいから見捨てないで!」

彼女の真下に潜り込み刀を抜いた。

 

ネウロイが粉砕される感触は覚えていたけれどそれから先は無我夢中で覚えていない。

刀も途中で折れちゃっていて、気づけば半分ほどになったそれでネウロイを破壊していた。いや破壊はできてなかったかな。ちょっと行動不能な傷をつけただけだった。

 

ダンケルクに設けられた臨時飛行場に降り立った時には武装も燃料も尽きていた。

「お、終わった。生きてる!」

 

「生き残れたよ……」

 

やったねと言いたくて後ろにいたはずの彼女を抱きしめようとして、彼女の体に傷がいくつも出来ているのを見た。

まるで傷が治っていくのを逆再生にしているかのようだった。

「あ……まさか」

 

「応急処置だけじゃダメだったか……」

 

「担架!持ってきて……」

 

「そんな気にしなくていいのに」

ちなみに僕は盛大に吐いた。血はやっぱり無理。慣れるはずがないじゃん。

それで、違反行為も全部記事にしちゃうの?

うーんやめて欲しいんだけどなあ……いやさ、上官に怒られるから……

え?怒られるの嫌なのかって?当たり前じゃないか胃が痛いんだよ!

だからせめて匿名にしてほしいなあ。

 




航空母艦祥鳳

祥鳳型航空母艦一番艦
扶桑国海軍

全長204m全幅19m基準排水量14053t
機関出力52000shp
最大戦速28kt

兵装
八九式12.7センチ連装高角砲2基
九六式二十五粍機銃6基同連装機銃4機

航空兵力
ストライカーユニット20機 +補用7機
零式艦上戦闘機6機2個小隊 +補用2機、分解状態でさらに4機分

剣埼型潜水母艦剣埼として建造されのちに航空母艦へ改造された。
ワシントン海軍軍縮条約の影響を避けるため戦時体制で容易に空母への改装が可能なよう設計、建造された船舶のうち潜水母船であった剣崎が第二次ネウロイ大戦の勃発とともに改装され誕生したのが本艦である。
1939年7月準戦時工事が発令された事に伴い空母として改装が始まる。翌年1940年6月に航空母艦への改造工事が完了。祥鳳と改名され第三航空戦隊に編入された。
その後訓練を行いつつもすぐに欧州派遣艦隊に組み込まれる。
その際高角砲を2基おろし対空機銃を増設しているほか魚雷、航空爆弾の搭載室を撤去し格納庫内部を防火シャッターで区切る、ウィッチ含む女性士官の長期派遣を可能とするため男女別のシャワー室、トイレ、ストライカーユニット専用の整備設備を追加するなどの改装が加えられた。

バルト海海戦にて大型ネウロイの攻撃を受け艦首を損失。
第二射を艦中央に被弾し浸水による蒸気爆発により轟沈。
生存者23名他航空隊生存者若干名

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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