なになに?トゥルーデのところに行ってきて説教かまされたって?記者さんもまた何をやったのさ。
え?1941年……
1941年の事なら覚えているよ。
あーそれをトゥルーデに聞いちゃったかあ。
あの年は色々重いことがあったからあんまり聞かない方がいいんだよ。
なんなら私が教えてあげるよ。もちろん取材料は取るからね。
1941年
「統合戦闘団?」
「ええ、各国のエース級ウィッチを集めて集中運用するための師団クラスの編成よ」
ミーナに呼び出されたから来てみれば、何だか面白い事をしているようだった。欧州戦ですら連携することができなかった各国の軍を国連軍として運用するつもりか。
たしかにウィッチ同士なら多少はハードルも低いかな?
「人員は決まっているの?」
「そのうち辞令が行くわ。だけど、貴女達には先に聞いていこうと思ってね」
それは彼女の采配だったのかもしれない。
「それは勧誘?」
「希望と命令では後からの引き抜きに影響があるから」
ああそういう……
ふーん、まあいいかな。どうせここで燻っているってわけにもいかないんだし。
二日後に転属辞令書がやってきた。
だけど基地はまだ完成していなくて、私達の自己紹介は青空の下行われた。
結成といってもすぐに何かをするわけでもなかった。
501結成時の主任務はブリタニアの防空。ネウロイが来てくれないと出撃することができないからしばらくは訓練ばっかりだった。
それでも何度かネウロイの襲撃はあった。だけどそれは欧州にいた頃よりもかなり数が少なかった。
「ネウロイは動かないか」
空襲待機で私とトゥルーデとハルが珍しく一つの部屋にいた時にトゥルーデがそう漏らした。その声は地獄に引き摺り込もうとする死神の様な呪詛の念が含まれているようだった。
その2ヶ月前に妹を乗せた船がネウロイの襲撃にあって、大破させられたんだけどその時に妹は意識不明。1ヶ月の合間はすごい荒れていたけど、腕の骨折が治ってからはネウロイ絶殺状態だったね。いやあこわいこわい。
「流石に向こうも疲れたんじゃないの?」
だからなるべく気を立たせないように少し軽めに返す。意外かもしれないけどふざけていない程度なら軽く返した方がトゥルーデは気が落ち着くみたいなんだ。
「そういうものなのか……ハルはどう思う?」
あの時のトゥルーデをハルは苦手だったようで、彼女は私を挟んで座っていた。それは薄々トゥルーデもわかっていたようだった。だけどこの……待機中会話がないのは少し嫌だったのかこうやって話題を振っていた。
「さあ?私達はあまりにも敵を知らなさすぎる。ネウロイの生態、構造、社会構成の有無。思考パターン。全部わからない。だから結論を言えるわけじゃないけど……」
ハルはどこか冷めた調子でそう言った。欧州での戦い以降どこか彼女もすり減ってしまっているようだった。どこか冷めたような、だけどネウロイに対する敵意だけは健在で、それだけで生きているようだった。
「まあね、でもそれはお偉いさんが調べることだからねえ」
「でもネウロイ側の進化は早い。こちらの戦術も技術も精々が1ヶ月で真似される。多分……ドーバーを超えて来るのに時間はかからないんじゃないかな」
「そうか……確かにそうかもしれないな。アレが空を飛び始めてからそう時間もたっていないがもう高度10000に迫っているわけだからな」
「そういえばFw190の高高度迎撃戦闘機の計画凍結されたってさ」
彼女のユニット、fw190c-1は計画の無期延期で予備部品の供給が途絶えていた。だけど計画凍結で供給が再開する希望はなくなった。
「聞きました。まあ……当てがないわけではないですから」
「大丈夫か?一応こっちのつてでユニット一つくらいは手配できるが……」
「ロミルダの分もあるのでそのうち何かしら送られてきますよ。ブリタニアが余計な手を入れてこなければですけど」
「あーそれは確かにあるかもね……でもそんな警戒することかな?」
他国のユニットに口を出すような暴挙はしないと思うけどそれでも前例が幾つかあった。
「ブリタニアですよ。いっぺんネウロイに政治体制を破壊されて仕舞えば良い」
流石にドン引きだった。それも冗談じゃなくて本気でそう思っているようだったからなおさらだった。トゥルーデもこれには引いてた。だけど心あたりがあるような表情をしていたのは見逃さなかった。
「ブリタニアになんかされたの?」
私の言葉で我に返ったハルがハッとした表情で何でもないと繰り返した。
「……なんでもないです。こっちの事情なので」
エースの違和感が何か隠していることを教えてくれたけど、探りを入れてもはぐらかされてしまった。何だったんだろう?
「トゥルーデは?」
「いや、そこまでのことではないんだが……」
「なになに、親友にもいえない事かな?」
そんなもの気になるじゃないか。
「言ってしまえばそんなものだ。いや確証がないうちは言えるものじゃないからな」
「……まあそう言うなら」
その日は偶然にも何もなく終わった。
だけどそれは一日が終わったってわけじゃない。午後からは結局空を飛ぶことになった。
2時間後にはストライカーユニットを履いた私達は滑走路端で待機しながらミーナの説明を受けていた。
他国のウィッチと合同で戦うことになるから、そのために各国のウィッチ同士をペアとして模擬戦を行うと言ったものだった。
その1回目は、私とガリアのペリーヌ、ハルとオストマルク出身のラウラ。
「一応僚機らしいのでよろしくお願いします」
ハルはいつもと変わらないようだった。
「……」
あーラウラはさっきトゥルーデと喧嘩してたからすっごい不機嫌なんだよなあ。
空戦のことで突っ込みすぎだって言われたくらいでなんなんだかなあ……二人とも子供だなあ。
「よろしくね〜ペリーヌ」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますわ」
対照的にペリーヌはすっごい上品だった。ただ、周りへの当たりが弱いってだけでものすごく推しが強いし静かに我を推すタイプだね。
そういうのは少し飛べばわかるよ。
空は快晴。空気は澄んでいた。ユニットの調子も良好。ただ、性能をある程度寄せるために私とハルはBf-109Eシリーズ。
ペリーヌはVG.33、レッジアーネRe2000。
高度3000、ヘッドオンで通過してからが模擬戦開始。ブリタニア発祥の模擬戦の作法のようなものさ。
最初はどっちも腹の探り合いで何度か後ろを取ったり取られたりを繰り返していた。
ただ、途中から見極めたつもりになったのかラウラが突っ込んできては攻めた攻撃をするようになった。ハルは徹底して援護に徹している。そのせいで何度も攻撃の機会があったけれど悉く潰された。
それが気に入らなかったのかだんだんペリーヌの動きが荒っぽいものになっていった。私はフォローに徹することにしていた。
合わせたり口出しすると連携が乱れやすいからってのもあったし、模擬戦が終わった後の反省会で指摘すれば良いことをわざわざ空で言う必要はないからね。
ただ、二人揃って突っ込んでは旋回して相手のいないところに弾をばら撒いていくから戦闘終了は近づいていた。
「弾切れですわ!」
真っ先にペリーヌの銃の弾が切れた。調子に乗って消費するからだ。まあそれは向こうも同じみたいだけど……
「弾切れっ!」
ほぼ同時にラウラも弾切れを起こした。あれだけばら撒けばそうなるよ。
映像が残っているんだけど結構撃ってるでしょ。牽制も兼ねているんだけどあまりエース相手に通じる手じゃないよ。
戦闘力を有しているのは結局私とハルだけ……なんだか締まらない。
だけど実を言うと彼女と空で模擬戦をしたことはなかったんだ。
「それじゃあここからは、私達で決着をつけようか!」
小隊を解き、単騎戦闘に移る。
「そうですねっ!」
こっちが急制動と旋回でオーバーシュートさせても強引な旋回で後ろに張り付いてくる。
だけど射撃までの合間に今度はこっちが体の向きを変えて正面からヘッドオンをする。
なかなか勝負は決まらない。牽制射撃をものともしないで突っ込んでくる。彼女にはフェイントは効かない。私だってハルの考えはある程度読める。だからコブラのような宙返りをしてもなんとかフラットスピンで射線から逃げ出すことができた。
そうしているうちにユニットの燃料が先に尽きてしまって引き分けとなった。
互いに射撃機会は必中と思った時にしかやらないから結構弾が余っちゃったよ。
「おつかれさま。いやーやっぱ強いね」
「エーリカこそ。ユニットが壊れる限界だったのに全然ダメでした」
かなり強引な旋回や回避をしてたけどアレは予測ができていればある程度は対応できるからね。
視界の端っこでハルの事をラウラが見つめているのに気がついたけど、それをわざわざ言うほど私はお人好しでもお節介焼きでもなかった。
だけど無関心になれるかといえばそんなことはないよ。
悪くなるようだったら少しは合間を持つつもりだったさ。
ただ、ラウラとハルの関係はそこまで悪化することはなかったなあ。むしろあの後少しだけ改善したんだよ。
それはどうしてって?
えっとねえ……
しばらくしてラウラとトゥルーデが買い出しのシフトで重なっているのに気がづいた。
流石にあの二人を一緒にさせたら今は不味かった。だけど手空きのメンバーはなかなか見当たらない。
ミーナに相談したら一応代役を手配するって言っていた。それがハルだったと知ったのは彼女たちが出かける直前だった。
うーんやっぱり私ってお節介なのかな?
まあどっちにしても501の爆弾とか言われていたラウラに安全ピンが生まれたとあの時は思ったよ。
哨戒飛行の合間はそんなこと全く思わなかったけれどね。それでも買い出しの時に何かがあったみたいでハルに対しては結構態度が和らいでいたよ。自暴自棄なのは相変わらずみたいだったけど。
哨戒が終わって地上に戻ってきて少ししていると、ロミルダが私を尋ねに来ていた。また珍しいと思ったけど、一応同じ小隊だったから少しは話相手にはなるかなって気まぐれを起こしてさ。部屋に招き入れた。
え?いや今より物は少なかったよ。散らかっているんじゃないよ取りやすい位置にちゃんとあるから。
「えっと、確かハルの……」
「相談って良いですか?」
「私に?適切なアドバイスが出来るとは思えないけどなあ」
いや私が相談に乗るとかあり得ると思う?あり得ちゃうんだよなー。まあスーパーエースウィッチだからね。でも対人関係はなかなか難しいんだよ。
「実は最近ペアになった子と上手くいかないんです」
「それって扶桑から来たあのピンクの?」
アレで地毛なんだとか。
私達が抜けた後の人事がどうなっているのかは分からないけど、どうもハルが拾ってエースに仕立てた扶桑の子を引き継いだらしい。それで何がダメだったのか?尋ねてみると、どうも思想が合わないらしい。
「ネウロイを倒すという結果は同じなんですけどその過程が……」
「それは一生分かり合えるようにはならないよ」
今でも思うよ。一生分かり合えるものではないってね……
人が犠牲にならない戦争なんて戦争とは呼べないし、だからと言って人が簡単に死んで良いってわけでもない。何のことかわからない?ごめんね。ただの独り言だよ。忘れて。
そもそも人類が全員分かり合えたら国は一つになってるだろうし人類同士で争うなんて事はないから。
「そもそも無理に合わせなくても良いんじゃない?話を聞いた限りだとそんなに致命的に合わないってわけじゃないみたいだし」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものだよ。結局人は人、何かで仕切られていないと生きていけないんだから」
「……」
結局納得したのかしなかったのかはわからないけれど、すぐに帰ったから用事は終わったんだと思う。そう思いたいな……
「ハルの意見も聞いてみるかなあ」
だけどそれを聞く前に、買い出しから帰ってきたばかりのハルは司令室に呼び出されていた。
私はハルに元僚機の相談のことを言う機会を逃してしまった。
それから数日後、ハルが配置転換になった。
それはバルバロッサ作戦の一週間前だった。
VG.33
ガリア空軍
エンジン
イスパノ・スイザ12Y-31液冷魔導エンジンV型12気筒 860馬力
最大速度558 km/h
航続距離
最大1200km
VG.33は、ガリアのアルスナル国営航空工廠にて開発されたガリア国第二世代ストライカーユニットである。
はBf-109Dシリーズと同等の戦闘力を有しているといわれ、飛行性能も特出した点はないが汎用性に優れており非常に扱いやすいものであった。
しかし開発の遅延により量産機がロールアウトした時にはすでに性能は陳腐化し始めており、改良型のVG.33bis、後継機としてVG.39が計画されていた。
ガリア空軍からの発注によって200機の製作が予定されていたが、ガリアの工場疎開までに完成していたのは僅かに20機だけであり、さらに実際に空軍に引き渡されたのは5機に過ぎなかった。
疎開先の工場でもVG.39の開発が優先されたためVG.33はごく少数しか存在しない珍しい機体となった。
ペリーヌが使用するVG.33はエンジン出力を1121馬力へ拡大しフラップの性能を向上させると言ったbisに準ずる改造を施した改造機である。
ハルちゃんが次に走るルート
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ブレイブ
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ストライク2
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アフリカ(1943)
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RtB