ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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「はあ……」

 

坂本少佐の合図で訓練を終えてから気分は沈んだままだった。

 

あ、申し遅れましたリネット・ビショップです。

みんなからはリーネって呼ばれてます。

 

私には最近になって大きな悩みができました。

 

それは扶桑から坂本少佐が連れてきた新人のウィッチ。宮藤芳佳ちゃんです。

 

芳佳ちゃんはストライカーユニットを二回目で早くも飛ばしてしまい、不完全ながらも飛行することができてしまっています。

飛行ができるようになるまで一週間かかった私とは大違いで才能の差を見せつけられた気分です。

これで芳佳ちゃんが最低の人だったら私も悩みなくたくさん妬んで恨んで陰口を叩いてどこかスッキリしながら自己嫌悪に浸れたのかもしれない。でも芳佳ちゃんは優しかった。だからマイナスの感情で鬱憤を晴らすこともできずその優しさで心を勝手に痛めていました。

 

 

もう一つの悩みは、これは悩みと言えるのかは分かりませんが飛行訓練をすることになった少女の方です。

アントナー・S・ハルさん。

エーリカさんに並ぶとも言われるスーパーエースです。エーリカさんとは違って新聞など表にはほとんど出てこないけれど私達ウィッチや軍の合間では色々と噂になっている少女です。

私より幼い子がそんなエースになっているというのも少し劣等感を刺激されたのですが差が空き過ぎているため最早比べるのも無理な話です。

あ、ルッキーニちゃんは別です。あそこまで無邪気だと毒気が抜けます。ある意味心のオアシスです。

 

 

今日の訓練も、最初はフラフラだった芳佳ちゃんはハルさんの指導で少なくとも誰かについていくということはできるようになった。スゴイ飲み込みの速さ。

 

今回は二回目の飛行訓練。同時に空中での射撃訓練も行うことになっていた。

 

「宮藤さん、まず銃を構えてみて」

 

「こうですか?」

 

「そのまま……リネットさん、指摘してみて」

自分よりも年下の子に教えを乞うと言うよくわからない状況。その上指摘を頼まれた。

「わ、私ですか?……脇が開きすぎているのと……引き金に指がかかってます。銃身も下に向いちゃっている……そんなところでしょうか?」

どうやら私の答えはハルさんの想定通りだったみたい。

こうやって指摘を緩和しようと言うやり方みたいだった。別に芳佳ちゃんは気にしてないと思うけどなあ……

ただそんな光がない目線で見られると少し怖い。

軍は上層部は違うけど現場は実力社会だし。

「銃の指導はされなかった?」

 

「えっと、もともと戦闘に参加する予定がなくって」

銃を持ったのはこれが初めてだったらしい。

「うん、わかった。それじゃあ正しい銃の持ち方としてまず引き金に指をかけるのは撃つ時だけ。それ以外は構えの姿勢でも引き金に指はかけない。いくらペイント弾と言っても痛いからね」

 

あとできれば人に銃口は向けちゃダメだよ。これが普通の訓練隊だったら鉄拳飛んでたんだろうなあ。

 

そんな感じで青空の中、代わり映えしない景色と銃声で訓練は終わるはずだった。

「あら、宮藤さんじゃない」

 

「やっほーハル!新人教育中だった?」

哨戒に出ていたペリーヌさんとエーリカさんの2人と出会したのは訓練を終えて帰投をしようとしていた時だった。

 

 

『ふうん……貴女も誰かにものを教える事が出来たのですね。貴女の飛行スタイルは独特ですので』

 

『まあ、普通に飛ぶこともできるけど普通に飛んでたら私は今頃死んでいるだろうし』

 

『ご謙遜なさって、宮藤さんの様子はどんなものですか?坂本少佐が連れてきた子なので少しは気になっていますが』

 

『原石。磨き方次第で化けるかどうかは決まる』

ガリア語でいきなり会話を始めたハルさんに私と宮藤さんは困惑するしかなかった。

「……ハルさんはなんて言っているの?」

 

「ごめん私もガリア語はさっぱり」

宮藤さんの問いには私も答えられそうになかった。

「あー2人ともただの世間話してるみたいだよ」

唯一分かったのはエーリカさんだけだった。

「エーリカさんわかるんですか?」

 

「私はこれでもスーパーエースだからね。ガリア語とオラーシャ語、ブリタニア語は話せるよ」

 

「え⁈凄いですね!」

 

「ハルはもっとすごいんだからね。どこで習ったのかは本人言わないけど扶桑語、ガリア語、ブリタニア語、オラーシャ語、ロマーニャ語、スオムス語はしゃべってたよ」

 

「……んん⁈」

 

流石に変な声が出た。それを不審に思ったハルさんが会話を切り上げてこっちを向いた。

 

「……なんですか?」

 

「いや、ハルがたくさん言葉を喋れるよねって話してただけ」

 

「あら、言葉くらいなら私もカールスラント語とブリタニア語は喋れますわ」

 

「もしかしてここの部隊の人達って……」

 

「いえ、カールスラント組がおかしいだけで普通はブリタニア語程度ですわ。まあ国によっては公用語が複数ある場合もあるので一概にとは言えませんけど。スオムスがまさしくそれですからエイラさんはスオムス語とオラーシャ語、ブリタニア語は話せるようですわ」

 

「だってブリタニア語だけじゃ意思疎通できないんだもん」

 

「同じく、言語の壁で情報漏れが起これば戦場では死に直結しますから」

戦場を知っている目だった。

それを見ていた宮藤さんはどこか目を伏せていた。あまり戦争の話題を出してほしくないみたいだった。

 

 

 

『501司令のミーナよ。たった今基地のレーダーが複数のネウロイ反応を探知したわ。哨戒の2人はすぐに現場へ、訓練隊は可能なら離脱して』

 

「エーリカ了解。ネウロイ撃破に向かうよ」

 

「そちらは早めに離脱しなさい」

 

2人がエンジンを全開にして飛んでいった。

私達はハルさんに続く形で基地へ向かう。だけれどネウロイは賢かった。

 

『訓練隊、こちらアンダーシーカー。鬼、聞こえているか?別方向からネウロイの集団を発見。そちらの西側にいる。包囲されるぞ』

今度はミーナさんではない男の声が無線から流れた。それと同時に青空の彼方にポツポツと黒い塊が見え始めた。

「了解した。離脱不能と判断し攻撃に移る」

 

 

「でも私達の銃は……」

 

訓練のみだったから持ってきているのはペイント弾だけだった。戦えるような装備ではない。

ハルさんは実弾を持っていたはずだけれど数は多くないしそれに私達という足手纏いがいる状態では……

 

「私が予備でマガジン一つ分、後はナイフと予備でワルサーを持っている。ここで2人を放置するのはもっと危険。それに……戦場の空気には慣れておいた方がいいから」

私の心を見透かしたかのように、光のない濁った目が私の思考を掻き乱した。

 

「リネット、宮藤。貴女達は私だけを見てついてきて。意識は常に私」

 

「大丈夫、準備はしているから死神は来ないよ」

 

 

 

ただただ振り回され続けた。丸腰の私達は反撃ができないから挑発以外は逃げに徹する。それ自体は良かったけどあまりにも動きが激しすぎて基地に戻った時には少しの合間立ち上がれなかった。シールドを張る暇もなく、周囲をいくつものビームが通過していてもそれらが私達に当たることはなかった。それほどの高機動飛行は尋常じゃない。途中で芳佳ちゃんは吐いていた。

私も銃を持つ手がこれほど重かったことはない。ユニットもどこか重りのように感じた。

 

それでも生き残った。

途中からミーナさんとバルクホルンさんが応援に来てくれたおかげというのもあるけれど、アレはハルさんがすごいからだった。

私の自信のようなものも、宮藤さんに対する嫉妬のような心も全て吹き飛ばされてしまった。美しくも力強く飛ぶハルさんの姿がそうさせたのかあるいは才能に魅せられたのか。

だけれど彼女の人となりが、狂信や信仰という類の感情が芽生えるのを阻止してくれた。

 

格納庫で少し落ち込んでいたの。そしたら、いつのまにか彼女がいたのよ。

 

「戦わなくてもいいんじゃない?戦う理由を見出せないなら無理に戦えなんて誰もいってないし」

 

「それ貴女が言う?」

 

「復讐心……だから。義務とか矜持とか、理想論で命かけて戦えるのはただの狂信者よ」

本当に子供なのだろうかと思ってしまうほどの毒舌だった。思わず目を見開いて凝視してしまう。

「国のプロパガンダで煽動された使命感なんて続くわけないわ。信念がない状態で戦ってもそうなるだけ……気分転換と言ってはアレだけれど、出かけない?」

 

「外出ですか?」

 

「ええ、ミーナさんが扶桑から持ってきた味噌と醤油を全部使ったらしくて坂本少佐が入手してくれって」

 

「あちゃ、なんというか……」

扶桑の人にとって味噌と醤油は死活問題らしい。私を心配してくれているのはわかるけれど、それでもどこか打ち解けるのは無理そうだった。

なんで私がここにいるのだろうか。今はそれが疑問だった。

 

「……」

「リネットも一緒か。よしよし、トラクション掛けたいから2人は荷台な」

全力で断りたくなった。

シャーリーさんの運転でトラックは道を跳ねたり片輪走行したりと缶詰に入れられてラグビーをされているみたいだった。

乙女がしていい声じゃないものも出してたし正直言いたくない。

 

「……死ぬかと思った」

 

「でもタイムはあまり伸びてないなあ」

ハルさんも流石に疲れた表情をしていたけれどそんなに気にしている様子はなかった。

私が揺れが収まったと思って頭をトラックから出せば、磯の匂いが鼻をついた。

ポーツマスの港だった。

ただ、停泊している軍艦の大半は扶桑海軍の軍艦だった。

 

 

 

ハルさんが扶桑語で海軍士官と話し始め、シャーリーさんは基地の外にストライカーユニットの部品調達で行ってしまい、私だけがただ残された。

散歩でもしていようかなと港をフラフラ歩いていると、焼け焦げた独特の匂いがしてきた。

鼻を刺激する匂いの元は、ボロボロに破壊された駆逐艦だった。

祖国の駆逐艦と扶桑海軍のものと幾つかがまるで人類の敗北を見せつけるかのようにそこに係留されていた。

 

「これが現実なのさ」

一体いつからそこにいたのだろうか。振り返るとハルさんが静かに立っていた。

扶桑海軍の人との交渉は終わったらしい。私のそばを通り過ぎて前に出た彼女はボロボロになった駆逐艦の船体に手を触れた。それを見る目は、どこか悲しそうで、その瞳の奥に炎が揺らいでいるようだった。

「……欧州の殆どがこの駆逐艦みたいにされた。女子供も見境なくね……」

 

「祖国を……人類をこんな風にしたくはありません」

思い出した。訓練を受けて、実戦でなかなか結果が出せなくて忘れていた動機。母から聞いていた第一次ネウロイ大戦、そしてロンドン大空襲。

「……それは使命感から?それとも英雄になりたいから?」

 

「守りたいものを守る……それだけです」

 

「そっか、なら後は訓練の通りの手順を実践で確実にこなせるかどうかだ」

 

「う……まあそうですけど」

 

「ようは気の持ち様だよ。訓練だと思えばいいのさ」

そう言うものなのだろうか?だけれど私達がやられたら、私達の後ろにいるのは……

「どうせ個人の技量の差なんて大勢に影響するなんてことはほぼない。それは一騎当千のエースウィッチを集めた戦闘団をもってしてもね。だけれど逆に言えば凡人でも活躍することはできるのさ。近代戦になってからその傾向は強くなっている」

 

「どうしてそれを」

 

「気負いすぎているからだよ」

そう言って彼女は街にいくと歩き出した。

もうあの炎は瞳になくて、ただただ濁った目が私をのぞいていた。




P-51D Charlotte special purpose machinery

製造国リベリオン合衆国

製造会社 ノースリベリオン社

エンジン
ネイピア セイバーⅤ水冷魔導エンジンカスタム(離昇出力推定3100馬力)
最高速度未計測

1940年代欧州戦線で不足するストライカーユニットの生産を補うため、ブリタニアはリベリオンのノースリベリオン社にユニット生産を打診した。
ブリタニア側はリベリオンのメーカーの機体をライセンス生産することを持ちかけるも敢えて自社開発の道を選び、計画立案からわずか9ヶ月で試作機を完成させた。

当該機は大量に生産されたP-51、その中でもシャーロット専用のカスタム機である。
元になった機体はP-51D型
エンジンは本来マーリン61系エンジンをライセンス生産したものだがエンジンスワップを行いネイピア セイバーⅤエンジンを搭載している。また速度を上げるためとして機体は珍しく無塗装に小さく国籍マークとパーソナルマークが描かれている。
最高速度と加速度に出力を使えるようにしているため高高度性能はD型より低下している。

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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