こんにちわ。貴女が手紙の方でよろしいかしら?
はじめまして、ピエレッテ=アンリエット・クロステルマン。ペリーヌと呼んでくださるかしら。
驚かれました?これでもブリタニア語はマスターしていますのよ。まあ、ガリア国民としては珍しい方かもしれませんけれど。
ピエレッテ=アンリエット・クロステルマン中尉
元501統合戦闘航空団所属。現在は自由フランス空軍第602飛行隊所属、また戦災孤児の養育などを行なっている。
通称ブループルミエ
私達軍人は常に死と隣り合わせ。
それゆえに精神に不調をきたす子は何人も見てきましたわ。私も自由フランス軍に入った直後は戦友が口数が少なくなって睡眠薬を常用する様になって行ったり乱用で医務室に送り込まれて行ったりするのを何度も見てきましたわ。
エースだからといえど十代の少女ですもの、その例外ではないわ。だからウィッチ各自で自分の気を正気に保つように色々と努力をしていますの。
ただ努力を怠ったり元からそれができない子もいるの。
それがあの子だったわ。まあ気持ちはわからなくも無いですけれど。私も一時期同じような状態でしたし。
1942年
「アントナー…アントナー・S・ハル」
「空に上がってからの挨拶で申し訳ありませんわ。ペリーヌ・クロステルマンですわ」
始めてあった時の彼女はどこか纏っている雰囲気が私に似ていて、同族ゆえの傷の舐め合いと言うのかしら。そういった慰め合いを心のどこかで望んでいたわ。
いまとなっては恥じるべき考え方ですけれど、身内を目の前で焼き殺された身としては復讐の炎を纏っているハルさんはどこか心惹かれる存在だったのですわ。
そういう方は何人もいて、時間もそれほど経っていないから尚更ですわ。
ただ、その代償は重かったと聞いていますわ。
味覚障害のことはエーリカから聞きました。私が医療に従事出来ていたらもしかしたら治せたかも……いいえそれはただの傲慢ですわ。医者という道を自らの手で捨てたこと、後悔しているのよ。
話が逸れましたわ。
ハルさんと話したのは着隊すぐの防空戦の最中だったのですわ。本来はエーリカさんが私とペアを組んでいたのですが、ユニット不調で彼女が飛べなくなってバックアップで待機していた彼女が出たというわけよ。
第一印象は……機械みたいだったわ。まあ一回だけ空で死線を潜りに向かっているときの印象なんてのはそんなものよ。
元々彼女は二日後に出向という形で北アフリカ戦線に向かう予定だった。だから私が彼女を理解するには時間が足りなかったわ。
それでもあの無茶苦茶な飛び方は一回だけでも印象に残りますわ。
対峙したネウロイはコアのない小型ネウロイを浮遊砲台のように使ってくる敵だった。
最初に接敵した戦闘機隊のスピットファイアは近づくこともできずにビームで焼き尽くされていたわ。
彼女はシールドと機動だけでビームを避けて母体のネウロイに張り付いていたわ。私を半分囮として使っていたみたいだったけれどあれをされたらこっちは囮に徹していた方が良いと言うのは本能的にも理論的にも正しい行為よ。
たしかにネウロイに取り付いて撃破する方法はありますけれどそんな事を進んで行うような子は後にも先にもあの子くらいなものです。まあ撃墜王や魔王とか呼ばれている方たちもたまにやると言っていましたけど。
だけれど当時の私は……いえ今もそうですけど常識はずれだったしカールスラント軍人らしからぬ振る舞いで驚かされました。
まあその後にもっと悪い意味で驚かされたのですけれど……
戦闘自体はこれと言って問題もなく終わりましたわ。ただ、戦闘が終わってから気づいたのですが、彼女は鼻から血を流していましたわ。
どこか怪我をしたのではないかと心配になりましたが、彼女は大丈夫だと言って聞きませんでした。
どこか機械的で他人との交流を最小限にしようとしている……そんな雰囲気がして当時の私もムキになってそっぽを向いてましたの。
まあ鼻血に関しては衛生兵にちょっと診てもらうよう引きずっていきましたけれど。
ですがそれ以降彼女と顔を合わせる事はしばらくありませんでした。
1944年
次に彼女とお会いしたのは1944年。そうですわ、宮藤芳佳が501に入隊した日ですわ。丁度戦線引き抜きから解放された彼女が戻ってくる日と重なっていたのよ。
飛び方は相変わらず危険極まりなくて見ていると危なっかしいものでしたわ。ただ、不思議と僚機として飛ぶと何故だか信頼できたのよ。エースってどこか人を引き寄せるカリスマがあるみたいですわ。
それでも戦うのは嫌いと言った宮藤さんに対しても少し柔和な表情をしていたし後輩……に当たる人にはそれなりに優しい。空と地上では性格が全く違うようでした。
そんな彼女が宮藤さんとリネットさんの教官をやることになったと聞いた時少しばかり心配になりましたわ。
いくらなんでもまだ飛び始めたばかりのひよっこではあの癖が強すぎる飛び方はどう考えても悪影響でしかないですわ。
まあ坂本少佐の手を煩わせるよりかはマシですけれど。
それでも一緒に飛んでいるリネットさんのことも気になったので帰りついでに様子を見ていたのですが、彼女は教育熱心だったようですわ。
口数も少ないし笑顔というものもない機械みたいなのは変わりませんでしたけれど、考えを改めましたわ。
ただ実際のところどうかはわからない。気は進まなかったけれど基地に戻ってから宮藤さんに一度だけ尋ねたわ。
「宮藤さん、ハルさんのことはどう思いますの?」
「どうって……」
「他人の事に疎くても噂くらいは知っているのでしょう?」
「えっと……まあ、宣伝映画のモデルになっていると坂本さんにも教えてもらいましたので。それとハルさんは優しいと思います。ただ、ネウロイのことになるとちょっと怖いです」
「……その怖さは少なくとも故郷を奪われた人にとっては共通の怒りなのよ。貴方が戦うのは嫌だというのは勝手だけれど、神経を逆撫ですることがあるということくらいは理解しておきなさい。多分ハルさんも怒っていらっしゃいますわ」
「……すいません」
「私に謝られても困りますわよ、それは本人に言ってください。それと後宣伝映画のことはハルさんの前では話題にしないように」
「どうしてですか?」
「本人がその映画を嫌っているからよ。よくできているし俳優も優秀だけど事実を思想誘導と綺麗事で塗り固め死を英雄と美化するだけの厠の落書きだってね」
「うわ……」
正直毒がすごいのよ。
意外だったかしら?ハルさんはブリタニア語とガリア語で話すと決まって毒舌になるの。面白いでしょう。
物資の調達にミーナ中佐がハルさんを連れて行った時も司令部の面々に対して対等に渡り合って論戦をしていたようですし。本当にあれが15歳だというのが恐ろしいですわ。ええそうよ宮藤さんと同世代…だけれど10歳からずっと空を飛んでいらしたようですわ。
「……英雄?」
「はい、空母の中でも扶桑でもハルさんやエーリカさんは人類の英雄だってみんな言っていたんですけど、隊に入ってからそういう事は聞かないなって」
その日私は宮藤さんとハルさんと共に哨戒飛行をしていた。本来の哨戒は2人で行うものですが、まだフラフラとした飛行で編隊を組むのが精一杯の宮藤さんがなるべく生き残れるようにという配慮だった。
「戦争に英雄なんていない。死に損ないか殺戮者だよ」
「え?」
「そもそも英雄なんて言葉は殺戮に勝った勝者を着飾る言葉でしかない。やってる事は人類同士でもネウロイ相手でも同じだよ」
「でも人類を救っているのは確かですよね?」
「その思考で固まっていたらいつか使い潰される。人類なんて立派なものでもないんだ。英雄と持ち上げてくる相手には警戒くらいはしておくべきだよ」
「2人とも話しているところ悪いですがネウロイ発見よ」
黒い点のように見えるそれはまだ遠くて見逃しそうではあったけれど運良く見つけることができた。
「こちらも見つけた。数は2、偵察かな」
「ど、どこですか?」
「2時の方向やや上方の黒い点‼︎」
「宮藤は私に続いて」
「はい‼︎」
ハルさんと宮藤さんが上昇していく。私は相手への囮として高度を上げずにエンジンを吹かした。
こちらに気づいているのかネウロイが進路を変えた。
だけれど私に接近して熱線を撃つ前に、上から降下して飛び込んだ宮藤さんとハルさんによってネウロイは撃破された。
両方とも宮藤さんの射撃だったらしいわ。
「周辺に敵影無し。哨戒に戻る」
ハルさんの様子はその時からどこかおかしいような気がしていたのですわ。いいえ、私が気づいていなかっただけで本当は超音速で突っ込んでくるネウロイを宮藤さんとリネットさんで撃墜した時からずっと様子が変だった。
これはその当時の戦績記録よ。ハルさんの分は『公式に残っている』のはこれだけなのだけれど、異様に撃破数が減っているでしょう?ヘタをすると一回の出撃で一度も撃破していないわ。
逆にこの時の他の人、特に後輩に当たるウィッチを見ればわかると思うけど撃破数が真逆のように伸びているわ。宮藤さんやルッキーニさんなどの後輩に手柄を譲っているのよ。
多分ハルさんはご自分の体がそう長くないと思って後輩を成長させようとしていたのでしょうね。
バルクホルンさんが負傷した時の戦いでついに破綻したわ。
あの戦いのネウロイは強かったわ。あの時自暴自棄になっていたとはいえバルクホルンさんを撃破したほどの相手ですもの。
それを一時的にとはいえ負担を押し付けたのが仇となったみたい。
完全復活したバルクホルンさんとは裏腹に彼女は基地に戻る合間かなり飛行がふらついていたわ。
着陸にも失敗して進入角度を誤ってそのままストライカーを自損させたときには流石に全員青くなっていたわ。
すぐ後に続いて着陸した宮藤さんが無理矢理ハルさんを医療室に連行するくらいにはね。
一応の上官であり教官相手でも容赦せず怒鳴りつけて連れて行った姿は普段のあの子からは想像できないわ。まあバルクホルンさん相手にもやってるのだけれど。
何があったのか?
あの子の味覚障害は知っているのでしょう?
最初に言ったように戦争では精神に不調をきたす人が多いわ。大抵の場合は精神的なものだけれど僅かに体の神経や動きに障害が出る場合があるの。彼女の場合は身体的なものだったわ。
エーリカさんによれば42年の段階で味覚障害。それから2年の合間に視界の色彩障害と軽度の感覚麻痺が発生していたのよ。
思えば食事の時にも調味料を取り間違えたりしていた……もっと早くに気づくべきだったわね。
もう、遅いのだけれど。それに、その後も何度も……
医療の道を諦めた今の私には少なくとも空を離れたであろう彼女の体が回復していることを祈るしかないわ。
映画
『リバウの咆哮』
カールスラント、ブリタニア、扶桑国の共同で製作された宣伝映画
扶桑国では『扶桑海の閃光』についで人気が高い
大元のストーリーはリバウ突入を敢行した戦艦越後とその護衛を全うしたカールスラントと扶桑のウィッチの話となっているが史実と違い扶桑、カールスラント、ブリタニアのウィッチは各一名づつ架空のエースとされており若干の脚色が付け加えられている。
また特撮映画として後年高い評価を得ている。
扶桑、ブリタニア海軍監修による1/50の撮影用艦船模型は現在でも海軍博物館に保存されている。
撮影協力
カールスラント空軍
扶桑海軍航空隊
扶桑海軍連合艦隊第二艦隊
ブリタニア空軍
ブリタニア海軍
ハルちゃんが次に走るルート
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ブレイブ
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ストライク2
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アフリカ(1943)
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RtB