こんばんは、夜遅くにごめんなさい。
私もエイラも同じ意見にたどり着いていたのだけれど、ハルは戦いには精神面で致命的に向いていないわ。
意外だったかしら。そうでもないわよ。月のように見えて実はただの石ころだったなんていうのは意外とよくあるの。
多分彼女は戦う時だけ心を殺していたのね。だからあそこまで非情になれる。
意外と地上でのあの子は世話焼きな普通の少女。
私のためにエイラと一緒に夜食を作ってくれたり飛行中に食べて欲しいってチョコを持ってきてくれたり、他にも色々とあるけれどどれも世話焼きって印象を植え付ける事にしかつながらないわ。
それに彼女が負った代償を考えればもう飛んでほしくはなかった。あの時の501からももうそこまでして無理をしなくてもという声はあったわ。体が保たないから休ませようって。でもそれはことごとく上層部が却下していたみたいだけれど。
ハルと一緒に飛んだ回数はそんなに多くはない。私がナイトウィッチだってこともある。そしてハル自身がナイトウィッチとしても飛ぶことが一応可能だったっていう事情もあるの。
魔導機械の擬似魔導針は固有魔法を魔導機械で再現するために作られた装置。だけれどそれはウィッチの適正によって性能が大きく変化する。適正があったハルは501部隊では私の予備人員でもあったの。
私にもしものことがあって飛べなくなった場合は彼女が代わりに飛ぶ。だからあまりフライトスケジュールは重ならない。意図的にそうなっているの。
思い返してみれば夜間でも人間離れした動きをしていた。
本人は固有魔法を使っているからできることだって、エーリカさん達となんら変わりはないって言っていた。だけれどその動きは尋常ではなかった。
一撃離脱が基本の戦いに変化していった中で、その動きは格闘戦に特化しているように思えた。
それを見ることが出来たのは彼女が後遺症の治癒期間を終えてすぐの空だった。
後遺症は知っているのね。
その、私はナイトウィッチで彼女と基地で会うことが殆どなくて……異変に気づけていなかったの。味覚障害はエーリカさんと飛んだ時に彼女が話してくれたから知っていたけれどそれがもっとひどくなっていたなんて。
ごめんなさい……気づいてあげられなくて……
あ、ごめんなさい。話を戻しましょう。本当は一週間治癒に専念して欲しかったのだけれど……上層部にそんな余裕はないって言われちゃって、宮藤さんが回復魔法の練習と称して結構な頻度で体の回復を手伝っていたから多少はマシだったんだけど……
だからあまり戦闘の危険性とかが低くて負担が少ない夜間飛行になるべく当てる事にしたの。
一応見張り兼衛生兵として宮藤さんも一緒にね。
それでも神様という存在が実在するなら文句の山ほどを言ってあげたいわ。
「ハルさんっていろんなユニット使っていますよね」
普段は静かに飛んでいるハルも、宮藤さんがいるとどこかお喋りになっていた。
普段の静かな空とは違う賑やかな空。
「試験機だったり中古機だけどね」
元々統合戦闘隊は各国のウィッチが集まってできた部隊。それゆえに各国のプライドがありそれはストライカーユニットにも影響していた。
各国様々なユニットとそれを整備する整備員も各国からの派遣よ。
だから格納庫では規格が違うネジやボルトで溢れかえっていて整備性は最悪。
それもあって専用機を持たない私たちは整備が終わって使える機体をとりあえず使うことが多かったの。意外だった?
「へえ、でもカールスラントの皆さんって機体が全然統一されていないですよね制空ストライカーでもBf109とFw190って二種類ありますし」
Bf109は私も使っていた。使い勝手は良かったけれど航続距離が致命的に無いのは哨戒任務がメインのわたしにはあまり合わなかった。その辺りはスピットも似たようなものみたいだけれど。
「基本はみんなチューニングの関係で専用機でそれ一筋ってことが殆どだけど私は別に個人に合わせてチューニングしたことは無いからね」
「そうなんですか?」
エースは能力を最大限に引き出すために専用のチューニングをしている。だけれど私やハル、それにまだ新米だった当時の宮藤さんやリネットさんの使う機体はチューニングは行われていなかった。
「ええ、私は任務に合わせて用途を変えて使ったりの方がしっくりくる。それにメーカーからの実戦試験でデータを取ったりする事も多いし。その辺りはサーニャさんも同じでしょ」
「ええそうよ」
「そのユニットのデータ?」
オラーシャ初の宮藤式ストライカーユニット。祖国防衛の切り札とされているユニットだけに試験は複数のウィッチで行われていた。
「いくら試験してもそれは試験でしかない。実戦のデータの方がなんだかんだ重要なのよ」
「そうだったんですね……あまり詳しくなくて」
「坂本少佐が言ってたけれど扶桑は大陸から飛来するネウロイ相手にデータを取っているらしいよ」
ハルやバルクホルンさんは詳しいけれど、私は他国の事情には疎かった。だから聞き流している事にしていた。
静かな空を見上げながらどこか賑やかな飛行がその時は続いていた。
「全然知らなかった。そういえば陸軍の試験飛行隊なら横須賀を出港するときに飛んでいたような……」
「私からしたらどうして扶桑もリベリオンも陸軍と海軍で似たような機体ばかり導入するのかわからない。リベリオンはそれに戦略空軍も入るし」
今でもそう言われている。ハルの言っていることもわからなくは無かった。
501が解散してからもきっとそうなっているのでしょう。私は俗世の事はあまり詳しくないけれど。
「扶桑の陸軍と海軍は仲が悪いんです。元々陸軍長州、海軍薩摩でしたし」
わたしにはよくわからなかったけれどハルはどこか納得していた。
「非常時にまでそんなことしているのか……」
「何かあったんですか?」
「この前扶桑海軍の夜間ストライカーユニットと陸軍の夜間ストライカーユニットを見せられてさ。なんで同じ用途の似たような機体がそれぞれあるんだろうって。それも部品の共通化がされてないし」
「あー……えっと?」
「確か海軍の方が月光、陸軍は屠龍だったかな?」
「あはは……あれはちょっとわたしにもわからないです」
雑談を挟みながらの飛行も折り返しになった。
「何?」
私の魔導針が反応したのはその時だった。夜間ストライカーユニットに搭載されている擬似魔導針は固有魔法より能力が劣る。だから真っ先に探知する事になるのは私の方よ。
「どうしたの?」
「不明……いえ捕まえたわ」
「A2sより接近する飛行体あり……これはウィッチ?120秒後に交差」
「こっちも捉えた。上昇して回避します」
「了解よ。高度7300、右旋回」
擬似魔導針も目標を捉えたようだった。このまままっすぐ飛んでいると衝突の危険性があった。
「向こうも上昇?」
「やる気?」
「待って、味方よ。応答がないけど……」
魔導針の反応では明らかに人型。ネウロイのようには見えなかった。
「どうして味方と言い切れる」
「あの、ハルさん?」
ハルの雰囲気はその時点で変わっていた。いつもの戦いの雰囲気。無線機から聞こえる声が冷たく張り詰める。
少しして私達のすぐ隣をウィッチが通過していった。
一瞬だけ暗闇の中で見えた姿は、輪郭も曖昧なものだったけれどあの時の私達にはネウロイであるようには思えなかった。
「見たでしょハル、味方よ敵じゃないわ」
通過したウィッチが反転して来ようとしていた。それに合わせてハルも隊列を離れて旋回に移っていた。
「ならコンタクトを取れ」
「やっているわ。応答がないの無線を切っているわ」
「なら、敵だ」
彼女がそう言った瞬間だった。
敵という単語に反応したかのように反転してきたウィッチから曳光弾の光が飛んできた。
そばにいた宮藤さんを抱き込むようにして手繰り寄せ、シールドを張っていた。こっちは距離があったから旋回で十分回避できた。
「待ってくださいあれはネウロイじゃ…」
「死にたくなかったらサーニャと一緒にいろ!」
銃撃の隙間を狙ってハルからロケットが放たれた。魔導針では直撃コースをとっていない完全な陽動。
だけれどハルに意識を向け続けていることは出来なかった。
直ぐ近くにもう一人、ウィッチが来ていた。
ネウロイに洗脳され操られるという事例があるというのは知っていた。1944年の時にはすでに警戒するようにと連合軍からも指示が来ていた。
だけれど実際に対峙して分かったのは、味方を、人間を撃つ事になる恐ろしさ。
自分自身が殺人をしてしまうのではないかという嫌悪感だった。
幸いあの時は宮藤さんもいたから気絶させて保護することができた。
何度か巴戦に持ち込んで私が囮になって相手をしているうちに宮藤さんが首筋に峰打ちをして強引に。坂本少佐に教わったのですって。
だけれど二対二だったらどうなっていたか……
私達の方が片付いた時、ハルは容赦なくロケット砲でウィッチのユニットを破壊していた。
破片でユニットだけを破壊する。そのために安全距離圏内でロケットを誘爆すらさせていた。
破片の直撃で二人のユニットから煙が出ていた。
最初に落下して行ったのは洗脳されていたウィッチ。すぐにハルが受け止めていたけれどハルのユニットも片方から煙が上がっていた。
「まずい!」
気絶させたウィッチを宮藤さんに預けてハルの救助に向かった。二人の首根っこを引っ張り上げるようにして落下軌道から離脱。久しぶりにユニットが軋みを上げた。
「大丈夫?」
「猫の鳴き声がはっきり聞こえるくらいには」
ハルもウィッチも体はズタズタに引き裂かれていた。だけれど致命傷というものでも無さそうで、かすり傷だと言っていた。
宮藤さんもかすり傷程度だから治癒魔法でどうにかできると言っていた。実際基地に戻る途中で既に二人の傷は塞がっていた。
「どうして……あの時撃ったんですか?」
「敵だったから」
「でもウィッチですよ。もしあそこで敵じゃなかったとしたら」
「戦場で
彼女の過去がどれくらい悲惨だったのかは私には想像がつかない。自身が下した判断で多くの人が傷つき倒れていった。話してくれることはあってもそれを理解することは難しかった。理解できたとしたらその時、私はハルのように振る舞うことは出来そうにない。
「……わたしにはわかりません。敵ってなんなのですか」
「撃ってきたら、敵さ」
「そんなの……撃って撃ち返して、また撃ち返されて終わらないじゃないですか」
「そういう考えは軍に入ったからには甘いと切り捨てられる。だけれど貴女はそれでいい。でなければ私のように殺戮兵器になるしかなくなる」
「殺戮者には戦いを終わらせる事は不可能なのよ。貴女が戦いを終わらせたかったら……その考えは捨てないことね」
彼女は自分を殺戮兵器と言っていた。地上にいるときの彼女からは考えられない事だった。
襲ってきたウィッチ?ブリタニア本土の病院に送られた後リベリオンへ向かったって聞いたけれど詳しいことはわからないわ。ただ一度だけ手紙が来たわ。
ハルのことは恨んでいないってね。
あ、スクランブル……行かないと。
話の続きは帰ってきてからね。
「サーニャ!サーニャ!東からお客さんダ!すぐに上がれってさ」
「わかった、ありがとう」
「ナンダ?お客さんがいたのか」
「ええ、ハルの事を聞いているみたいなの」
「ふーん、ハルかあ。…今何してるんだろうなア」
「生きていれば会えるわよ。空はひとつだから」
リベリオン戦略空軍(RSAF)
上部組織
国防総省
下部組織
リベリオン陸軍支援航空軍団RSAAC)
リベリオン海兵隊支援航空軍団(RSMAC)
リベリオン戦略航空軍団(RSSAC)
1941年リベリオン軍に設立された新たな軍。通称リベリオン空軍。
この組織はリベリオン陸軍航空隊を前進としており設立時に海軍所属の海兵隊支援航空隊を取り込んでいる。
しかしこの組織の名前にもあるように戦略攻撃こそが本来の目的でありその運用も重爆撃機とそれらを護衛する戦闘機で構成されている戦略航空軍団が戦力の7割を占めている。
現在はブリタニアに前線基地があり欧州本土のネウロイへの戦略爆撃を行なっている。
一度に平均300機から600機の大編隊で飛び立つため見た目には派手である。
現在XB-36と言った本土から欧州や太平洋の前線基地から大陸への渡洋爆撃が可能な機体を開発中
また長距離爆撃機をエスコートするために長距離飛行が可能な護衛戦闘機やストライカーユニットを開発している。
ハルちゃんが次に走るルート
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ブレイブ
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ストライク2
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アフリカ(1943)
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RtB