ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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エイリーヌとエイラーニャの二つに揺れてました


???18

空が綺麗だと思ったのは何年ぶりだっただろうか。

ネウロイとの戦いの中で私はふとそんな感想を抱いていた。原因はエーリカを従えて飛行する一人の少女。

 

 

ネウロイを倒す。いつのまにか空を飛ぶ理由を戦いにしてしまっていた。その事が空に対する憧れを歪めて貶めている気がしてならなかった。

だから空を飛ぶことを目指した理由は忘れることにした。

 

1944年、私は欧州にいた。

 

 

 

1944年のブリタニアの戦闘は一週間のうちの決まった時間に襲来する定期便とそれ以外の時に仕掛けてくる臨時便の大きく分けて二つがある。

 

「超大型ネウロイ発見!数は四!無理に倒さなくても良いわ」

 

「扶桑海軍より増援のウィッチが二分後に到着する」

その日飛んできていたのは臨時便だった。

私達の他にも何人かのウィッチが上がっているようだったが海軍のウィッチ二人しか見えなかった。

「えっと、お久しぶりです坂本少佐」

そのうちの一人は私が扶桑にいた時に一時期部下だった奴だ。まさかハルと一時期僚機を組んでいたとはな。世界は狭いものだ。

「烏李芽中尉か。久しぶりだな」

 

「ハルは相変わらずで?」

 

「ああ、相変わらずだな。だが流石に今回はエーリカとペアを組ませてある。そうだな……宮藤の僚機を頼めるか?」

 

「わ、分かりました」

 

「かなり大きいな……それに数も多い」

 

「一体ずつコアの位置をお願い。まず先頭から」

 

ミーナ中佐は全体指揮と私の護衛。魔眼を使用している最中は突発的なことに弱くなってしまうしもうすでに20歳だった私はシールドの出力も時々不安定だった。

コアの位置を無線で伝えると、ネウロイの真上に陣取ったハルトマンとハルが逆さ落としでネウロイに迫った。

だが凄まじい弾幕ですぐに攻撃は出来なくなった。

常にビームが途切れることなく襲ってくる。あれでは普通にシールドを展開しても数秒が限度だ。

 

『大型ネウロイ撃破‼︎』

だが彼女は非常識の塊だった。

 

真上からの攻撃を諦めながらも、ビームを放つ部分を破壊し、ネウロイの横を通過しながら攻撃をしていた。

やれと言われたら出来なくはない。だがネウロイのビームに捕捉される危険が高くハイリスクだ。

もう一体はハルとの距離が離れすぎてしまったハルトマンが共同で撃墜した。

その頃にはブリタニアのウィッチも集まってきていて数の差でどうにか出来そうだという油断が広がっていた。

『新たな反応!早い!501の基地を狙ったやつと同じだ‼︎』

 

「厄介だ」

前線に一瞬だけ広がった動揺。そこを突かれて瞬く間に二人のウィッチがユニットを破壊された。

空戦領域から逃げようとする二人をビームが絡めとろうとしていた。

私が合間に入り刀でビームの方向をずらした。それで一人は助かった。

もう一人は割って入った宮藤のシールドが間一髪で防いだ。だが宮藤のあの規格外のシールドも数秒で穴が空いていた。

『あのネウロイは、どうやら複数のビームを一点に集中させたりすることができるようです』

砲門数は最低でも50、照射時間を短くしてビーム威力を減衰させないようにしているというわけか。

「とんだ化け物だ」

 

未だその化け物は二体残っていた。そしてそこに飛び込んでくるように、高速で飛ぶネウロイが現れた。今度は囮などを使わず、その姿も分離した状態のあまり大きくない歪な飛行機のような見た目だった。それが戦場の空を駆け抜けようとする。

私とミーナで抑えに入った。以前の報告から20ミリでも十分に攻撃は通用する。

見越し射撃で二回、引き金を引いた。

20ミリは翼のように飛び出た部分を抉り取り、その軌道を大きく乱れさせることに成功した。

「ネウロイが‼︎」

 

「危ないっ‼︎」

 

ネウロイの進路上に突っ込んでしまったウィッチが一人、空中で衝突していた。音速に近い速度で突っ込んだネウロイは胴体がひしゃげて瞬く間に消失。衝突の瞬間にシールドを展開したため直接的なダメージはある程度軽減されていた。

しかし気絶をしてしまったのか少女が落下していく。

 

落ちる彼女を一番近くにいた烏李芽が捉えた。

『待って待って重いんだけど!都姫中尉昼食べ過ぎだよ!あー病みそう……』

「もうすぐ第二迎撃隊が来るわ。到着まで三分!」

「烏李芽、そいつを連れて撤退だ。宮藤、二人のエスコートを」

『了解しました‼︎』

 

『大型ネウロイ加速‼︎』

 

「なんだと⁈」

高度を下げながら加速するその大型ネウロイは、爆撃機型と呼ばれていたはずだった。だがそれは翼を大きく反転させ、形をみるみるうちに変化させていった。黒にハニカム構造が浮かび上がっていた体も赤い発光パターンが幾何学模様を形成しながら変化する異様な姿になっていた。

「ネウロイが進化した……」

 

「少佐、調べるのは後よ撃破しないとコアの位置は?」

 

 

私がコアの位置を調べようとした途端それはすぐ近くの少女達に襲いかかった。

一瞬で一人が蒸発した。確かブリタニアから来た増援だった。

その姿を直接見たわけではなかった。だけれど無線から聞こえる悲鳴と怒号で何があったのかは察した。

コアの位置は簡単に見つかった。

ネウロイが目標を変えて後退中の宮藤達を狙ったのはその直後だった。

ミーナ中佐は小型のネウロイへの対処に追われていた。

気づけば体を動かしていたがコアを探るためにやや高度を上げていたのがまずかった。

警告を出したが既にビームが幾千と伸びていき、宮藤と烏李芽中尉を覆い隠そうとしていた。

 

私とミーナでは間に合わない。

そこに飛び込んでくる二つの影があった。

一人は宮藤を守るように飛び込みもう一人はビームの発射源を銃で撃ち抜こうとしていた。

宮藤のシールドすら数秒しか持たないビームを複数受けるなど無茶だ。

私が到着するまで数秒。その数秒の差がもどかしかった。

展開されていたシールドに真っ先にネウロイのビームと接触。拡散したビームを撒き散らしていた。だがそれも一秒に満たないもので、黒と赤の爆発が周囲を覆った。

だが威力が減衰していたこととハルトマン中尉がビームの発射点を破壊してくれていたことでどうにか宮藤達のシールドは耐え切ることができた。

 

彼女の姿が一瞬確認できた。

反射的にそれを目で追い、次の瞬間には追いかけていた。

 

 

大破して炎上するユニットが体から分離され木の葉のように舞いながら分解していった。

高度200でようやくハルを捕らえた。

 

彼女は腕を失っていた。

降下中にすぐそばを手の部分だけが落下していくのが見えていた。残念だが手首から先はビームで灰になってしまっていたらしい。回収することもできなかった。

彼女の腕も出血はしていなかった。ビームで焼き切れたせいで傷口が塞がっていたからだ。いや炭化していたんだ。

他にも銃弾の暴発やストライカーの破片で体はズタズタだった。

宮藤がすぐに治癒魔法をしていなければ傷は増えていただろう。

 

正直生きているのが不思議なくらいだった。

 

残りのネウロイは中佐とハルトマン中尉が激昂して殲滅していた。あそこまで二人が感情をむき出しにするのも珍しいくらいに……

 

 

 

 

連絡を受けて待機していた緊急車両が既に滑走路に待機していた。彼らにボロボロになってしまった彼女の体を預けると、すぐに緊急車両の中に連れ込まれていった。少しの合間止まっていたその車はサイレンの音を鳴らして走り出した。

基地の設備ではどうすることもできなかったため病院まで連れて行くことになったらしい。

私の手は彼女を離した時から少しだけ震えていた。

血も傷も嫌というほど扶桑の海で見てきたはずだった。自分ではもう慣れたと思っていたがどうやらまだ感性は残っているようだった。それでも指揮者として動揺したところを見せるわけにもいかなかった。それはミーナ中佐も同じだった。

 

格納庫に戻ったミーナ中佐は報告書をまとめるため司令室に戻ろうとしていた。だがその足取りはどこかおぼつかなかった。

「五分、外すわ……」

 

「え?あ、わかった」

 

「ハルトマン中尉、後を頼んだ」

 

「え⁈坂本少佐も⁈」

 

あれは放って置けなかった。

 

 

 

やはり中佐は手洗い場で顔を洗っていた。勢いよく蛇口から溢れ出る水の音だけがその場を支配していた。

 

「私はあの子が十歳の頃から飛んでいるのを見てきた……」

 

「あんな事になるなら意地でも止めておけばよかった。それなのに……あの子を信じすぎた。盲目的に、あの子なら大丈夫だろうってどこか楽観視していた」

 

「私達にもしものことがあったらまた数万という人名が失われる。私は、いつも部下の命と守るべく人の人数を天秤にかけていた。今回も……あの子が今日どこか不調そうだったのを感じ取っていたのに天秤にかけたのよ」

 

「それであの子は……私が命令で強制的に止めていればこんなことにはならなかった!それなのに……防衛に成功した、作戦は成功しましたと、平然と……当然という私は、なんなのよ‼︎」

 

激昂した彼女は私の体に掴みかかった。

体格上はやや彼女の方が大柄だ。私の体が鏡とぶつかり、やや高い不協和音が響いた。

 

しばらくの合間肩で息をしていた彼女は落ち着きを取り戻したのかごめんなさいと小さく謝った。

「落ち着いたか?」

 

「ええ、落ち着いたわ」

 

「そうか……」

 

「ごめんなさい取り乱してしまって」

 

「構わないさ。そうでもしなければ指揮者など務まらないよ」

 

 

 

 

 

手洗い場を出ると格納庫の方が俄に騒がしくなっていた。喧嘩でも発生しているのかと様子を確認するとどうやらハルが撃墜された事を聞き出そうとハルトマン中尉と宮藤をルッキーニやシャーロットが取り囲んでいた。

「どうしたんだ?」

 

「あ、バルクホルンさん。実は……」

 

待て宮藤彼女に話すのは……

ああ…バルクホルンの目が死んでいくのがはっきり見える。

 

「……すまない。少し肩を貸してくれ」

「肩?トゥルーデどうしたのさ……」

「自己嫌悪と後悔でな……」

 

「わわ!肩で泣かないで!泣くなら部屋まで連れて行くからほら行くよ」

 

アントナー中尉め。置土産がすぎるぞ。体を治して帰ってこい……

 

 

 

 

 

付き添いで病院にいた烏李芽中尉から涙声の電話が入ってきたのは夜も白くなってきた頃だった。

確認のためにミーナ中佐を起こして様子を見に行ったら見事に平然としていた。

いや平然としていようと心を閉ざしているようだった。時々左手を使おうとして左腕が宙を行ったり来たりしていた。その度にハルはまだ慣れなくてと少し悲しげに苦笑していた。

無機質な白い布の上に落とされた袖は途中からしか膨らみを持っていなくてそれが現実を知らしめていた。

 

「ハルさん、もう起きて大丈夫なの?」

 

「ええ、腕以外は特になんとも、宮藤さんが治癒魔法かけてくれていたのでしょう?」

そうだと答えた。だが治癒魔法でも失った腕を治すなんて事は出来そうになかった。

「ハル中尉…その、腕は」

 

「気にしないでくだい。自業自得ですし、戦争では珍しくもないですし」

 

「だけど……」

 

「利き手じゃないから平気ですってば」

 

 

 

片腕を失いながらも、彼女の戦意は全く失われていなかった。

だが私としては後方勤務にさせるのが得策だろうと考えていた。少なくともアグレッサーや教導隊あたりが良いのではないかとな。

まあ彼女の復帰は通常より早められてしまったのだがな……それも戦線復帰だ。

原因は上層部の権力争いなど色々あったがとどめを刺してしまったのが宮藤が自室謹慎になったことだ。理由は軍機だ。私からはいえないさ。

人数不足を補うために退院が早められたんだ。

 

あまり言いたくはないのだが、ミーナは泣いていた。喜べるものか。まだ病人のような子を再び最前線に放り投げるなど狂気の沙汰だ。

だがその狂気がまかり通ってしまうのが戦争なんだ。私達が戦争をしているというのをつくづく思い出させられたよ。

 

「何そんな悲しそうな顔しているんですか?」

司令室にやってきた彼女は定型文通りの挨拶をした後ミーナ中佐にそう言った。

「だって……そんな体でまた飛ぶなんて」

 

「せっかく復帰したのに、笑ってくださいよ」

 

片方になってしまった手でミーナの頬を触っていた。

 

「そう……ね。でもその手は目立つから、これをつけていなさい」

それは彼女が手編みで作った手袋だ。ちなみに私も手伝った。半分くらいだがな……

「手袋ですか。頂戴します」

 

 

 

その日早速彼女は空に上がっていた。

中佐はお腹を押さえていたし私としてもどうして彼女がシフトに入ったタイミングでネウロイがくるのか恨めしかった。

 

 

 

部屋に戻ると言った彼女だったが彼女の部屋はネウロイ襲撃で壁に穴が空いていた。同室のペリーヌも場所を移動するほどである。新たにあてがわれた部屋には私が案内をすることになった。

 

「復讐心で飛び続けるか……」

 

「坂本少佐……なんですか?」

 

「いや、復讐の鬼になるなとは言わないが、戦って戦って戦えなくなった時どうするつもりなんだと思ってな」

既に腕を失い、人類トップクラスのネウロイキラーとなり、それでもまだ飛ぼうとする少女に、どこか破滅願望を感じてしまっていた。

「その時はその時です。旅客機でも飛ばしてみるのもいいかもしれませんね。あるいは……絵でも描こうかなって」

 

「そういえば絵が得意だったな」

 

「得意ってほどじゃ無いですけど、好きでした」

西日が逆光として彼女の顔に影を落としていた。まるで彼女の表情が記憶から消えて彼女という偶像だけが残るような考えが働いた。

「なら、せっかくだから自画像をお願いできないか」

彼女をこちら側に繋ぎ止めておかないとふとした拍子にどこかへ消えてしまいそうな、漠然とした不安が頭を横切った。

 

「自画像ですか?ええ良いですよ」

 

 

 

 

 

「こんな感じで……」

自画像自体は2時間ほどで完成した。画材道具は無かったから鉛筆だけだったが、それでも鉛筆でここまで表現できるのかと感心した。

「これは、ずいぶんと上手いな。芸術は素人だがすごいということはわかる」

 

「一芸くらいあった方がいいだろうって母が指導してくれたんです」

 

「そうだったのか。なら生き延びなければな」

 

「今はまだ死ぬ気は無いですよ。死にたがりって思われているみたいですけど」

 

「覚えがあるなら善処しろ」

 

「時間があれば……」

私の言葉に苦笑いを返すだけだった。

「時間?」

 

「なんでもないです。気にしないでください」

 

 

 

 

さて、扶桑までの長旅だがこのくらいで良いのか?

そうだろうな、足りるはずがないか。良いさ、時間はまだある。それに私も退屈だったからな。

 

だが夜風を浴びるのは少し厳しくなってきた。続きは部屋でどうだ。

一応これでも元扶桑郵船が持っていた北太平洋航路の定期旅客船だ。部屋はそこそこ期待できるよ。

 




零式艦上戦闘脚二二甲型

運用国 扶桑皇国、ブリタニア連合王国、ロマーニャ公国

開発会社

宮菱重工/中島飛行機

発動機
栄(マ)二一型 

離昇出力1400馬力


扶桑皇国海軍の代表的なストライカーユニットである零式艦上戦闘脚の派生機。
欧州での零式二一型の戦訓を取り入れ、魔導エンジンを出力を向上した栄(マ)二一型に強化した三二型をベースに航続距離増大を図るため燃料タンクを大型化し艦上戦闘脚としたのが二二型である。

坂本美緒少佐が使用する二二甲型はエンジンと機体各部に大規模な強化改良を行った強化モデルでありその改良は金属ガスケットやシリンダーのスリーブ化インタークーラー追加、ブローオフバルブと言ったエンジン系の改造から不燃性燃料タンク、構造各部強化など多岐にわたる。
そのため急降下時の限界速度の向上と上昇性能が大きく向上しつつ航続距離を二一型据え置きとしている。
坂本少佐の愛機尾翼No.V-103
坂本美緒少佐が急降下した際に翼に皺がよりフレームも大きく歪んでしまった為修理不可能とされ部品取りとなる。
その後赤城飛行隊よりAI-152を受理している。

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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