えっとだな……サーニャの話は幾らでもするけどアイツの話はあまりできないぞ。そんなに興味がなかったわけじゃない。軍機が厳しいからナ。
まあ話せはしないけど独り言だから誰にも喋ってないっていうなら別だけどなー。
アイツはそうだな、第一印象はバルクホルンみたいに堅物っぽい雰囲気。残念賞だったんだがその時の印象はエーリカみたいに何考えているのか分からないだったかな。
嫌がるわけでも抵抗するわけでもなくニヤって笑っていてさ。
不思議なヤツだったなー。
501の中ではあまりいないタイプ。
他人を放って置けないタイプかなって思ったけどそういうわけでもなくて無関心な時は徹底して無関心。
でも空に飛んだらすっごい強いんだ。
501が設立した直後の戦闘で私と一緒に飛んだ時は一回の戦闘で10体撃墜だ。
あの円卓の噂も頷けたよ。
でもどこか危なっかしいような、タロットカードはそう言っていた。
危ないってな。
よく目が死んでいるって言われてるけど別に最初から死んでいたわけじゃないんだな。
一時期501から引き抜かれていた時期があったけどその時に何かあったみたいでな。1944年に戻ってきたときには目が死んでた。
何があったのかはわからない。教えてくれなかったし、ミーナ中佐に調べてもらおうにも権限が足りないみたい。
マア501結成当時は私は501じゃ無かったんだけどナ。空戦エリアの関係で時々空で顔を合わせていたから知っているのさ。
「久しぶりダナ」
「久しぶりですエイラさん」
もうちょっと目に光があったはずなんだけどナア?
「なんでそんな辛気臭いんだ?胸も相変わらず残念賞だし」
胸を触っても反応が微妙なのは変わらなかった。揉み応えもやりごたえもなくてちょっと寂しかった。ただ無表情でも無感情でも無いから喋っていて楽しくないってことはないぞ。結構可愛いところあるしな。
「……エイラさんは約束守れる方ですか?」
「ん?当然ダロ」
「じゃあ墓まで持っていける約束は?」
「おやおやあ、そんなに私が信用できないかなーー?」
「サーニャさん絡むとヘタレになるみたいですし」
「ちょ⁈ナンダソレ‼︎サーニャは関係ないだろ」
「じゃあサーニャさんに耳元で秘密を教えてって迫られたら我慢できます?」
しかも声真似が上手くてさ。一瞬本当にサーニャに話しかけられているんじゃないかって錯覚した。
「それは……その、内容によるなあ」
「目が泳いでるじゃないですか」
頬を膨らませて抗議するアイツに対して私は何もいえなかった。
どんな秘密だって?それは言えない。アイツと約束したからな。墓場まで持っていくつもり……あ、でも忘れるのは嫌だから何かに書くかもしれないなあ。
え?だって秘密だけど秘密じゃなくなる日が来て欲しいからさ。
でもなんで私だったかは言えるぞ。
アイツ曰く一番口が硬そうだったからなんだとか。
エーリカがいるだろって言ったさ。だけどあれはあれで秘密を共有すると気負わせてしまうから嫌なんだとか。私に気負わせるつもりかよ。
「だって一番気負わないのはスオムスくらいですし」
「そういうものかねー」
「そういうものなんですよ」
空を飛ぶときのアイツか?そうだな……あまり思い出したくはないかな。
だってアイツが腕を失ったのも怪我をするのも全部空だからさ。
私は未来予知があるから絶対にネウロイの攻撃は当たらない。シールドを張らなくても回避ができる。
アイツもどこかそれに近い飛び方していたんだ。いわば同類みたいな感じ。
……初めてアイツと飛んだ時か。また妙なことを聞くもんだな。あ、いや、アイツを調べているってだけで相当変わっていると思うけどさ。
1942年も暮れだったな。
地上には暑いとか寒いとかあるけど空に上がれば年中寒い。息は相変わらず真っ白。そのかわり空気が澄んでいるから遠くまで見通しやすい。
『まもなく接敵。高度6000、そちらからは下方200の位置だ』
「了解。情報に感謝する」
扶桑の電子偵察機からネウロイの情報をもらった混成編成が上昇していく。
あの時は小型ネウロイ群だったから私とアイツ以外は普通の戦闘機での戦いさ。
私達は戦闘機の護衛。そういうのが気に入らないっていうウィッチも何人かいるのは知っているよ。でもだからって言って疎かにするような任務でもないし。
その時はまだ501じゃなかったんダ。でも丁度私の僚機をやる奴が怪我して飛べなくなってさ。代わりに新設された501から来たのがアイツだった。
だけど初めてのやつとペアを組んで飛んだ空は、ずっと静かだった。
あいつ何にも話さないんだな。私もお喋りじゃないから仕方がないんだけどさ。
敵が黒いゴマ粒のように見えた。
数はこちらと同等くらい。
一斉にダイブしていく戦闘機。扶桑のものやリベリオン、ブリタニアと国際色豊かだったな。落ちていくときはみんな等しく炎と黒煙を上げていたけれど。
それでも小型ネウロイ相手なら互角の勝負だった。実際ネウロイの方は最初の攻撃で多くが落とされていたから数の差で押し潰され始めていた。
『上空に中型ネウロイの反応。数は6、いや12。B42より接近』
「了解、迎撃に向かう」
子分がやられて黙っていられなかったらしく親玉が出てきた。だけど数が多かった。
それにその時出てきたネウロイは想定していたやつじゃなくて完全に戦闘タイプだった。
ビームの雨で12機が一斉に被弾。爆散して落ちていった。
「突撃する」
「了解」
中型ネウロイに突入する合間いくつものビームが降ってきていたけど私達を捉えることはできなかったな。当たらないビームなんてただの光の筋でしかない。
最初は予知系能力でも使っているのかって思った。
だけどアイツは固有魔法は予知じゃなくて重力に作用するものだってさ。つまりアイツの回避は未来予知じゃなくてビームの射線を読んで回避しているってわけなんだ。
たしかに普通のストライカーじゃできない、正気じゃない動きをすることが多々あった。
中型は私達をビームが包んで一分経たずに一体が落ちた。加速して先行したアイツがやったのさ。私も続いたんだけどいつものように数を落とすことはできなかった。私が落とすより早いんだ。どこかネウロイに鬼気迫るものがあった。
戦い自体も十分たらずに終わった。ネウロイの全滅を以てね。
アイツはあの空で私の二倍のスコアを叩き出した。数を争っているわけじゃないし嫉妬なんかしない。アイツもスコアを自慢に思っている様子はなくて、ただずっと地上を見ていた。私もそれを目で追っていた。
「敵ネウロイ確認できず、帰投する」
地上では未だに落ちた戦闘機が燻って黒煙の柱をいくつも上げていた。
なんだろうな、アイツと飛ぶと虚しさだけが残る気がしたんだ。
いつもの戦場と変わらない。誰かが死んで、誰かが生き残るそれだけ。不思議だったな。
1944年になってもそれはあまり変わらなかった。
アイツと飛ぶたびにネウロイを倒したって喜びとかより、勝者と敗者しか存在しない空が虚しく感じた。
それにアイツは目を離したらどこかに消えていってしまいそうなほど不安定に見えた。
タロットもなんだかアイツの時だけいろんな答えが出てこっちが混乱したよ。なんだアレ。あそこまで荒れることなんか普通ないんだけどなあ。
あいつがさ、腕を無くすほどの大怪我をしたって聞いた時についにそうなったかって最初思ったんだ。心配だったけどアイツはあんまり気にしていないような気がした。周りの心配なんて微風みたいなこと考えているようなやつだからな。どうせみんなからどう見られているのかも気にしていなかったんだろうな。
目が覚めた後にどうにか時間をとってサーニャと一緒に行ったんだ。アイツ普通の病人面してた。
腕を無くしたからもうちょっと取り乱していると思ってたんだけど……
普通に起きて林檎食べてる姿はただの風邪ひきさんみたいだったな。
私は呆れた。心配を返して欲しかった。
「ハル?」
「あ、サーニャさんとエイラさん」
「その、墜とされたって聞いて駆けつけたんだケド」
治癒魔法のおかげなのか目立つところに包帯を巻いているとかそういうことはなかった。それがどこかアンバランスな感じがしたなあ。
「皆さん心配性ばかりですね……」
たしかに腕は無かった。だけど四股を無くした兵士は沢山いるから珍しいものでもない。でもそれが知り合いとかだと結構胸が締め付けられる。
見ているのが辛くなったサーニャが最初に出て行った。気持ちの整理をつけさせてやるべきだったなって後で坂本少佐に言われた。
「私、ナースさんと話してくる」
「あ、サーニャ……」
「すぐ戻るわ」
「エスコート下手すぎません?」
「し、しょうがないダロ!」
「しょうがないって……ゲホゲホッ…」
ただの咳かと思った。だけどあまりにも咽せる勢いが強くて様子がおかしくって。大丈夫かと思って顔を近づけたら血の匂いがしたんだ。
口を押さえている手を見たら血が溢れていた。
「おいそれ‼︎」
「誰にも言わないでください」
サーニャがいなくて良かったと思った。サーニャには刺激が強すぎるからな。今思えばアイツ我慢してたんだろうな。
「いやどうみたって……」
「能力の反作用で揺り戻しが来るんです。治癒魔法で治せる部分はどうにかなっていますけど、柔らかい臓器はダメージが溜まっているみたいで」
治癒魔法を自分にかけて誤魔化していたようだったが食道とか一部の臓器はもうズタズタだったらしい。それをさらに誤魔化していたんだよ。
秘密でもなんでもないさ。アイツ自身言わなかっただけで秘密にしていたわけじゃないって言ってたしな。
「医者はなんて言ってた?」
「ぱっと見では健康だって……」
「それ絶対ダメなやつダロ!」
医者の言うことが一番信用できない瞬間だったなあ。
「ええ、このまま飛んでいれば10年保つかどうか」
そんなボロボロになるまで飛んでいたのかってショックだった。だけれどアイツに飛ぶなって言えるわけないじゃないか。アイツを無理に止めても絶対飛ぶに決まっているさ。エースって言うやつはみんなそんなやつばかりだからな。
「ミーナに知らせる」
だけどそれでも飛ばしたくはないからな。
「!やめてください、それだけは……」
「……いつまでなら飛んでも大丈夫ダ?」
「……飛べて後一年」
「一年か……」
「わかった。じゃあ約束だ。一年飛んだら後は精一杯生きるんだ」
嘘ついたら高度8000でシュールストレミングの缶を服の中で開封させるって言ったら顔真っ青にして首振ってたよ。いやーしてやったりだね。
「わかりました」
それだけってそれだけさ。私をなんだと思ってるんだ。
人並みの心配をすることしか私はできないよ。それにアイツも人並みの心配で十分だって顔していたし。だけど約束は守るやつだからな。
この約束もまだ有効なのさ。だからアイツが今どこで何をしているのかはわからないけど、あまり心配はしていないよ。まあ、どこかで楽しく過ごしているんじゃないかな。
たまには顔出してほしいって思うんだけどさ。
エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉は取材の後ある乗船チケットを差し出した。それは扶桑行きの船のものだった。
「タロットカードが言っていたんだ。隣の客室の少佐に話を聞いたらどうだ」
良いのかと聞けばちょっとしたツテで取ってもらったから財布は痛んでいないと返ってきた。
「アンタが欲しい答え見つかるといいな」
エセックス級航空母艦エセックス
全長270.7m
全幅35m
基準排水量29000t
機関
バブコック&ウィルコックス社製ボイラーx9基
パーソンズ式蒸気タービン 4基4軸推進
出力39400hp
最大戦速32kt/h
航空艤装
エレベーター2基
油圧式カタパルトH-2
最大搭載機数91機
武装
38口径5インチ連装砲4基
38口径5インチ単装砲6基
ボフォース40mm四連装機関砲8基
エリコン20mm単走機関砲40基
リベリオン海軍が建造した戦時急造の航空母艦。
船体設計はヨークタウン級をベースに拡張したものを基礎としている。建造にあたっては帝政カールスラントの設計者も参加しているため艦首のエンクローズド化がなされているほかエレベーターは2基ともサイドエレベーターとされている。
一番艦のエセックスは1943年に就役。その後北大西洋方面での活動を主にしていたがアイスランド沖で座礁。
機関は無事だったため航空基地として使用されていたが1944年6月ネウロイの攻撃で甲板を破壊され放棄された。
ハルちゃんが次に走るルート
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ブレイブ
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ストライク2
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アフリカ(1943)
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RtB