ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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まだ続くよ


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こんにちは。取材って実は初めてなのですごく緊張しています。

何を話せば良いのでしょうか?

「そんなに固くならなくていい」

 

は、はあ……

えっとハルさんの事ですよね?手紙にはそれが知りたいって。どこまで話していいかって……本当は全部話したいですけど流石に軍機を話すわけにはいかないですよね。

 

「私が後で検閲をする。だから全部話して良い」

 

わかりました。

 

 

 

 

 

「アントナー・S・ハル。只今より連合軍第501統合戦闘航空団に復帰。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の指揮下に入ります」

空を飛んでいた時とは全然違うなあ、軍人さんだ。

 

「復帰受諾しました。こちらでも誠心誠意軍務に努めることを期待しているわ」

それがただの定型文だって教えてもらったのは一週間くらいしてからだった。

それ以降彼女が軍人らしくきっちりしているところは地上では見たことがなかった。

バルクホルンさんの方が軍人らしい。

 

 

だけど空に上がるとその態度は一変した。

雰囲気から何から体が纏っているオーラみたいなものが違ったんです。同じ年齢なのに歴戦の兵士って感じがして実力を測る試験飛行中ずっと緊張してました。

「どうだ?宮藤は」

恥ずかしいですけれど最初は飛行すら覚束なかった。私でも分かっていることだったのでかなり言われるかと思いました。

「……ど素人ですね。一週間ください」

だけれどハルさんは面白いって顔していました。

「一週間で良いのか?」

 

「ええ、二日有れば最低限。一週間あったらマシな新兵程度までなら」

 

実際私は四日で新兵と呼ばれました。訓練?地獄でした。魔力が枯渇寸前まで追い詰められては何度も回復させられて追いかけ回されました。

銃も持ちましたけど普段使う20ミリじゃなくてハルさんが使ってるひと周り大きな30ミリでした。重さも二倍くらい違っていて振り回すのも大変でした。

 

流石に地上では普通の筋トレばかりでした。

 

 

 

 

印象深い事……

軍機だと思うんですけど……坂本さん大丈夫ですか?

あ、大丈夫。わかりました。

 

私はある時人型ネウロイを見ました。それは普段の殺意を持ったネウロイじゃなくて、こちらと交渉の意思を見せてきました。

ただその時は無断出撃ということもあってその場は有耶無耶になってしまいました。

「おそらくあれは鹵獲していたネウロイのコアを返せという意思表示だった可能性が高い」

坂本少佐はそう言ってますけど私は別の意図もあったんじゃないかって思うんです。

 

「自室謹慎で済んだのか。運が良かったな」

声がした。気がつけば部屋にハルさんがいた。

「ハルさん⁈どうして……」

 

「宮藤の代わりだよ。話は聞かせてもらった」

私のせいで義手になってしまった腕を動かすたびに機械の駆動音が響いた。

 

「ハルさん……ハルさんはあの人型のネウロイをどう思うんですか?やっぱりネウロイは敵だから殲滅するべきですか?」

つい聞いてしまった。カールスラントやガリア出身の人達にとってデリケートすぎるからあまり話すなと坂本少佐には言われていました。だけれど聞いてみたかったんです。一番ネウロイを憎んで一番自身を顧みない行動をするあの人に。

「我々は敵を知らなさすぎた。それだけだよ」

少し笑っていた。

「私は親も兄弟も家も…全てを失った。残されたのは滅んだ家督を継ぐ名前だけ」

 

「……」

 

「正直戦争なんてものはただの復讐の舞台装置でしかないの。もし敵に意思があり自己決定権があり生物となんら変わりない存在だとしても私は全力を以てそれらに復讐するわ」

紡がれる言葉には怒気が含まれていた。だけれどそれもすぐに拡散して普段の優しい雰囲気に戻った。

 

「だけど宮藤、貴女がネウロイと対話することが可能と思うのなら貴女を信じるわ」

 

「それって……でもネウロイが憎いんじゃ」

 

「憎いと言うことと対話可能かどうかと言うのは別問題よ。まあ、対話可能だとなってしまうと困る勢力は上層部にたくさんいるし人類の多くがネウロイによって悲しみと憎しみを植え付けられたと言うことは覚えておいて」

 

「……はい」

 

「その上でネウロイが戦いを望んでいないというのであれば、それを貴女が確かめてみたいというのなら私は応援するわ。その結果がどうであれ受け止めるのは貴女よ」

 

「……わかりました」

それだけ言うとハルさんは部屋から出て行った。

 

 

そのあとハルさんと会ったのは空の上でした。

居ても立っても居られなくなって覚悟を決めて飛び出したんです。

重罪だっていうのはわかっていました。だけれど確かめたかったんです。なぜか他のみんなはついてきていませんでしたけれど。

「実はな、あの時出撃可能だったストライカーが軒並みエンジンに細工されていてな。おそらくハルがやったんだろう」

 

 

えっとハルさんでしたね。飛び立ってからしばらくしてハルさんが進路に被さるように降下してきたんです。

……後で聞いたらハルさんは私が飛び出したのを知って無断出撃をしていたそうです。

 

「覚悟を示して」

重武装で私の前に現れた彼女は一言そう言いました。

「そんなッ」

 

「ルールは簡単。背後を取れたら勝ちよ」

 

一方的に始まった戦い。だけれど重武装をしている彼女に全くと言っていいほど追いつけませんでした。

後ろを取れたと思ったらいつのまにか目の前から消えていて上や下に現れる。

神出鬼没。どこに出てくるかもわからない。

だけれど捕まえようという雰囲気は無かった。

多分あれは試験をしていたんだと思います。不思議とそう思えたんです。

 

それで一か八かで背後を取った時に見えた癖のような動きを追って木の葉落としをしたんです。

そしたらハルさんの背中がずっと目の前にあって、声が聞こえたんです。

「まあ、合格ね。行きなさい。彼女達が追いついてくるわ」

 

「ハルさんは?どうするつもりですか」

 

「ちょっと私も反抗してみようと思ってね」

 

そう言って義手を隠していた手袋を私に押し付けてきた。

帰ってくるまで預かっていて欲しいと言ってそのまま去ってしまった。

実はこの手袋、私がミーナさんに作り方を教えたんですよ。坂本少佐も途中で加わってたっぽいですけど。

 

「なんだ、妙に作り方が上手いと思ったら宮藤が教えていたのか」

 

 

 

 

 

 

 

「坂本少佐に呼び出されたかと思ったらまた貴女か……」

 

「話すことは残っているのだろう。特にあの出撃のこととかな」

うげえ、あまり知られたくないのに。給料減俸されると困るんだよ。

「睨まないでくださいよ。仕方がないじゃないですか……ああ病みそう」

 

本当は言いたくなかったんです。だってあれで私は昇進遅れてるんですよ?ひどい話だ。銃殺刑とか降格処分じゃないだけマシって言うけど僕は危険飛行手当とか出てないんですからね⁈

そりゃまあ、ハルの口車に乗ったのは不味いと思ったんだけどあそこで断ってたらその場で撃ち落とされてたからね?僕悪くないからね。

 

 

宮藤さんが命令違反で飛び出したって聞いてしばらくしてから緊急出動がかけられた。最初は宮藤さんを止めるものかと思ってたけれどそうじゃない。

聞けばハルまで無断で空母から武装して飛び出してしまったらしい。エーリカのユニットまで破壊して追跡妨害をかけていたのだとか。

お陰で僕がまた飛ぶハメになった。

しかもユニットの調整が遅れて僕が追いついた時には宮藤さんとのゴタゴタは片付いていたみたいだし?

その時に言われたんだよ。

「奴らが動き出す。人類が自滅の道を選ぶことになるかもしれない」

 

「なにそれ?」

 

「これを、見たら焼いて破棄して」

 

「ちょ、これ機密文書じゃん!なんでこんなのッ‼︎無理無理!」

正直その場で吐いた。緊張とか色々と……盛大にゲロったんだよ!

「いいから読んで!それで私を追うか味方になるか考えて!」

 

「うう、胃が痛くなってきた」

 

 

その文書の内容は……あー忘れた。うん、忘れたことにしておいて。

思い出したらトイレ行きたくなってきそうだし。

 

結局僕はハルの逃げ場として座礁していたエセックスを教えた。

僕は悪くないからね。あそこで軍に彼女を引き渡したらもっとひどいことになるんじゃないかって気がしたから……うん。それにお咎めなしだし。

 

その後?ちょっと色々怒られちゃって地上転属だよ。お陰で赤城沈没からは助かったんだけどさ。空中哨戒中にハルに拉致られた。

いや知らないよ。マロニー大将が無茶しているから止めに行くよってほぼ無理やりだよ。訳分からなかったよ。

 

そのまま引っ張られてみればウォーロックって言うコアを流用した兵器がいるわそれの護衛のウィッチに襲われるわでろくなことなかったよ。

 

僕? 僕はただ付いて飛んでただけだよ。

スコアだって、僕一機墜とす間にあの人は五機墜としてますし。もちろん殺してないよ。ハルに殺すなって厳命されたからユニットだけ破壊したんだよ。

でもそれなりに足手纏いにならないようにしてたんだから。

そのせいで変なクセができてるっぽいんだけど。

まあ、結局僕落とされたんだけど。うん、勝ったと思ってたし実際ウォーロックは落としちゃってたし。

ハルも僕も油断してた。

誰だろうね……僕は知らない。ハルとはそれっきり会ってないよ。

 

そもそもハルと飛んでいるってだけで軍規違反もいいところだし反逆罪とされたっておかしくないんだからね?一応上層部が責任逃れで暴れたからこっちも不問にされたんだけど。

 

今何しているんだろうね……

 

 

 

ロミルダ・リーデル。

元カールスラント空軍第3航空団所属。

アントナーの相棒であり、敵だった少女。

 

 

 

あの日私は死ぬはずだった。だけれど死ねなかった。

ネウロイの支配から解放された直後の欧州に墜ちた。

瓦礫となり瘴気によって荒廃した大地が続いていた。

虚しくなった。だけれど、植物が、木がその中でも僅かに生きていた。まだ欧州は死んでいなかった。

反応兵器はそれすら吹き飛ばし全てを無に返すものだと後になって聞かされた。

落とされたことでスッキリしたのかな。でも心に残る感情はまだ健在だ。

だが私ですら落とせなかったあいつを誰が落とせるんだろうな。

 

 

私はまだ戦場にいる。

見つけたいんだ。あいつが守ろうとしたものを……あいつがいう人の信じる力ってやつを。

人間同士信じ合えれば無益な足の引っ張り合いなんて無い。憎悪も生まれない。あの兵器だってうまく使ってくれる。ハルもそれは賛成していた。人が信じる力を本当に理解できた時、それは日の目を見るべきだって。だけれどそれができないのもまた人間なんだ。

答えなんて無いのかもしれない。だけど探したいんだ。

今はそう思う、それでいいと思う。

この記事はあいつも見るのか?なら、会ったら伝えておいてほしいな。

相棒まだ生きているか?またな戦友。

 

 

 

 

 

アントナー・S・ハル

第二次ネウロイ大戦を駆け抜け、畏怖と敬意の狭間で生きた少女。

彼女は数年の合間空にいた。その後の消息は不明。

今回、彼女の人間性まではついに迫ることは出来なかった。

だけれど彼女の話をする時、皆どこか嬉しそうにしていた。それが答えなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解放されたばかりのダンケルクの街は、廃墟からの復興を既に始めていた。

崩れた瓦礫が至る所に残りながらも、新たな建物を作る足場が組み上げられ、至る所にモノリスのように立っていた。

 

1944年も終わりを迎え雪がモノリスを白く彩り私の吐く息も白く空気に溶けていった。

書き終わった原稿は会社に提出するためのもの。本来の原稿は軍の検閲を突破できない可能性が高い。

だけれど10年、20年後なら突破できるかもしれない。その時まで取っておくつもりだった。

 

「お隣よろしいですか?」

営業を再開したカフェのテラス席は他にも空いていた。だけれどその女の子は私のところにまっすぐやってきた。

 

流暢なガリア語だった。

やや赤みがかった紺色のケープ付きコートを羽織り同じ色のオラーシャ帽を被った少女はぱっと見はオラーシャ出身のように見えた。

「ええ構いません」

 

「ありがとう。貴女は記者なの?」

 

「ええ、よく分かりましたね。ガリア中央新聞の記者よ」

 

「へえ、でしたらその原稿はコラム記事か連載記事のものですわね。本になる予定がありましたら買わせていただきますわ」

鋭い少女だ。だけれど悪意があるわけではないようだった。少女は私が見つめているのに気づいてごめんなさいと一言謝って人を観察するのが好きなのだと言った。

よく見れば顔の左頬に線のような火傷跡があった。

「ああこの傷。少し前にヘマをしましてね。気にしなくていいですわ」

 

紅茶を飲みながら少女は元々軍にいたと言うことを話してくれた。

空を駆ける楽しさと、広大な空の中に放り出される喪失感。元ウィッチだったわたしにもわかる感情だった。

話が弾んでいた。少女がそろそろ行かないといけないわと席を立った。

 

今日行われる元501のメンバーによる展示飛行を特等席から見にいくつもりなのだとか。

 

 

机の上にはロケットペンダントが置かれていた。どこかで見た模様。ふと机に広げた資料に目が落ちた。

そのペンダントと瓜二つのペンダントをエーリカがロミルダが見せてくれた。

 

「あら、いけませんわ。うっかりしていました」

ペンダントを落としたことに気がついた少女がそれを持ち上げた。その手は左手。少しだけズレた手袋から金属の輝きが見えた気がした。

「あ、ちょっと待ってください。もしかして……」

反射的に顔を上げた。そこにはいたずらが成功した少女の笑顔があった。

「ようやく気づいてくださいましたわね。改めましてわたくし……」

 

 




ボーイング247F

開発国
リベリオン合衆国
開発会社
ボーイング
全長15.7 m全幅22.6 m全高 3.8 m
空虚重量4t
エンジン
エンジン プラット・アンド・ホイットニーS1H1-G ワスプ 2基
出力550 hp
巡航速度300km/h
元リベリオン国内の旅客輸送に使用されていた機体。
DC-3に置き換えられ早期に姿を消したが中古として多くが第二の人生を歩んでいる。
そのうちの一機は一部座席を取り払い下方と上方に大型の窓を設けた遊覧飛行機としてある個人によって使用されている。

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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