ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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おまけという名の休憩

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part 0.1戦艦越後の最後1

昭和一七年。私は電測士として戦艦越後に勤務をすることとなった。

戦艦越後が戦乱の続く欧州へ派遣される1ヶ月前のことであった。

 

 

総排水量90000tに迫る巨大な鉄の城はその姿を呉のドライドックに横たえ、いくつもの部品や配管に包まれ静かに鎮座していた。

この巨大な戦艦が生まれたのは昭和10年。海軍内部で行われた派閥闘争を発端としている。

 

当時幅を利かせていた大砲屋と呼ばれる戦艦を主とする派閥と航空機こそ戦争の主力であるとする航空屋の争いは熾烈を極めていた。互いの勢力を削ろうとする動きにより、戦艦比叡、扶桑、山城が廃艦となってしまう。

これらは表向きの理由こそ同型艦が居なくなってしまい戦隊を組むのに支障が出る。直進性と要求速力を満たせない。そもそも廃艦にした方が安いほどの損傷を負っているという理由ではあったが明らかに航空屋の横槍である。

しかしなまじ数が多く一大勢力であった大砲屋はそれら3隻を失う代わりにと代用艦の建造計画を押し通してしまった。

3隻合計で90000t。順当に行けば45000t前後の戦艦2隻が妥当と思われていた。しかしワシントン軍縮会議で一隻当たりの艦のサイズを規定していなかった事がここで建造計画を歪ませることとなった。

 

 

当時海軍航空隊で教導隊に所属していた私は又聞きでしかなかったが、当初45000t級2隻の建造のはずが一週間もしないうちに90000t級一隻の建造計画となって行った。

当時それほどの巨大戦艦を作る船台もドックも無かった。それら港湾施設の整備は将来への投資として国交省が、そして2隻より1隻の方が建造予算も必要人員も減るという理屈から大蔵省がそれぞれ説得され、議会にて予算が通ってしまった。

 

その後はあれよあれよと言う間にこの巨大な鋼鉄の城は扶桑国の威厳として生まれることとなった。それが昭和14年のことだった。

 

 

 

対空火器の増設や電探の増築などで姿形は多少変われど、わたしには教導訓練時に焼き付けられた就役直後の姿のままであった。

 

 

ドライドックから越後がその姿を現したのは私が配属となった二週間後であった。

化粧直しをされ真新しいペンキの匂いが鼻を突く艦内を迷ってしまわないよう経路を覚える作業をしていた時であった。

 

突如艦内スピーカーが声を上げた。

「〇八一〇ヨリ出港準備作業ヲ行ウ。出港ハ一六〇〇」

かかる不時の出港。

欧州派遣は一週間後であると聞いていた。それが前倒しとなったのだ。こうなってしまってはとてもじゃないが悠長にしていられない。成熟訓練は航海をしながら行うこととなる。元からの乗組員は問題ないが増設された機銃群、高角砲群の要員や電探員、そして艦内構造が変化したことで応急処置要員までもがてんやわんやであった。

同時に前例のない出撃。されば出撃か。

 

 

私が配属された電探室は従来まであった艦橋内部のものではなく煙突後部の三脚マスト直下に増設された小屋のようなところであった。

 

越後には建造当初から艦橋トップの射撃指揮所上部に大型の21号対空電探を、昼戦艦橋横の見張り台スポソンに11号水上電探を搭載していた。

しかし今回の改装でそれらに加え煙突と後部艦橋の合間に設けられていた傾斜した三脚マストから垂直に枝分かれする形で増設された電探マストに43式電探を搭載していた。

この電探は高度情報を索敵することができる優れもので電探自体も旋回しつつ全方位を監視できる画期的なものであった。

それまでの21号や11号と比べ探知距離が上がり死角が随分と減ったものだった。しかしスコープなどの監視装置を元の電探室に置くことができなかった。

仕方がなしに設けられた私の配置場所は装甲が施されているわけでもない為常に死の恐怖が付き纏うこととなった。

尤もネウロイのビーム相手には装甲厚など気休めにしかならず、装甲不要論すら巻き起こっていたほどだった。

実際対ビーム防御塗料が生まれてからはそれに拍車がかかった。

 

 

何はともあれ、欧州へ移動する合間航行とともに行われた訓練は疲労と不眠を蓄積させる猛訓練であった。

大型の戦艦といえど外洋のうねりには逆らえず、時には嵐の中を突っ切っり右へ左へ振り回された。

 

ようやく到着したブリタニアでも上陸などする間もなく出撃が待っていた。

しかし私達の士気は高かった。

 

私と同じ電測員として配属された少年が残した日記からの引用だ。

『我ラ如何ニコノ時ヲ期シテ待チシカ。我ラ前線ノ将士トシテ合戦願望スルナリ。相手ニ不足ナシ』

厳しい訓練から解放されるという喜びもどこかにあったのだろう。しかし扶桑海事変を知る者としては素直に喜べなかった。

どれほどの船が生きて次の戦場へ出れるのか。どれほどの将兵が生き残り次の大戦の糧となれるのか。そのことばかりが頭を掠めた。

 

作戦が始まる頃になり艦内は噂で持ちきりであった。どこに行くのかどのような艦編成なのか。欧州の軍艦は見えるのかなどなど。

それらを圧するようにして凛とした声が艦内スピーカーから相次いで伝令を出した。

「各分隊、可燃物を上甲板に出せ」 「各員、身の回りのものを整理し、私物を吃水線下に格納せよ」

 

一度陸へ向かう内火艇の指揮を取ることになった。

異国の大地に到着した内火艇を降りると、挨拶をしにきた少女達に声をかけられた。それに思わず振り向いたのはそれが扶桑語であったからだった。

護衛任務に就くウィッチ隊の少女達だった。

扶桑の少女もいたが、それは一人だけで他はカールスラント人が二名ブリタニア人六名だった。

声はたった一人の扶桑の少女から出されたものだった。

ピンク色の髪が朝凪に揺れていた。

「えーっと……リバウまでの航空支援を担当するフォーミダブル第二航空隊です。臨時編成カールスラント空軍と扶桑海軍より僕が派遣されています。……ねえこれ必要?」

 

「必要必要」

驚いたことにカールスラントの少女は扶桑語が話せるようだった。毛先が銀色の茶髪を左右に振るようににやけ顔を晒しながらその少女は扶桑の少女をからかっていた。

「扶桑語話せるんだからハルがやれば良かったじゃん」

 

「そんなこと言わないで」

 

「まあリバウまでの空は任せて。なんとしても主力は守り通す」

 

「国は違えど軍人は皆同じ。空の守りは任せました。期待しています」

 

「期待されました。アントナー・S・ハル精一杯の努力をします」

どこか砕けた口調だったが流暢な扶桑語でありチグハグな雰囲気であった。

それ以前に私は彼女の名前に驚きを隠せなかった。

空を飛ぶものとして知らぬものはいない大エースウィッチであったのだ。カールスラントではエーリカ・ハルトマン、ゲルトルート・バルクホルンらと並んで名前が上がる事すらある。

彼女たちは随伴する航空母艦フォーミダブルを母艦とし艦隊の空を守り通すのが役目だった。

 

 

 

 

慌ただしさの割にゆっくりとした出港であった。

先行するはブリタニアの空母二隻と護衛の巡洋艦、駆逐艦。

それに続くように我が越後は動き出した。90000tの巨体は艦首に菊の御紋章を朝日に輝かせ、周りを圧して不動盤石の姿だった。他に随伴する艦は戦艦加賀、巡洋艦利根、駆逐艦が多数。扶桑海軍の精鋭が集っていた。

 

その中でもやはり越後の姿は目立っていた。

主防御区画を縮めるため四十六サンチ三連装砲を艦首側にまとめて三基搭載した姿は他のどの国にも無く、港で見送る人々は皆越後の姿に気を取られていた。

 

 

私の持ち場には通信士二名と電測員二名が常時入ることとなっている。二交代制のシフトを組み大抵は決まったペアで電探監視を行う。

私のペアは佐々木中尉であった。江田島を卒業してすぐここに配備された新米であったが、海軍学校で新型電探の構造は熟知していた。私より扱いに慣れていると言える。

「この越後に搭載された新型が他のどの艦よりも高い位置にあるおかげで艦隊の目として機能しているのだ」

まるで息子を自慢げに紹介する父親のような存在であった。年齢は私の方が数年上であったから年が少し離れた弟というべきだったが、年齢以上に老け顔だった彼は弟というより兄に近い存在だった。

 

ブリタニアを出港して1日が経つと、艦内を駆け巡っていた噂や囁きも鳴りを顰め、代わりに戦地特有の緊張感が流れてきた。

各電探兵器の動作を確かめ、昼頃は戦闘配備のまま昼食となった。それは夜になっても変わらず、毛布や布団が無くなった仮眠用のベッドで体を痛めながら寝ることとなった。

ふと今朝方に会ったあのカールスラントのウィッチのことを思い出した。

彼女達もこのような硬いベッド擬きの上で寝ているのだろうかと。

 

 

日が昇るのと同時に戦闘配備が発令された。既にここはネウロイの勢力下に入っていた。遠くに見える空母からひっきりなしに戦闘機が上がっているのが見えた。

その日の朝食も戦闘配食。おむすび二つと沢庵だった。

 

 

一〇一二電探が編隊らしきものを捉えた。

21号電探が早くに目標を探知。私達の電探もそれに続いた。

通信士にその旨を達すると、艦内はすぐに静寂に包まれた。

電探、目標追尾のまま刻々と情報を伝声していく。

「……300、包囲1-6-0度高度…」

 

それらはすぐに僚艦の空母にも伝えられ、空母の航空士官が上空に上がったウィッチと戦闘機隊に情報を伝えた。

ネウロイの集団に導かれるようにウィッチと戦闘機の混成隊が吸い寄せられていった。

艦隊からかなり離れた位置で行われた防空戦は、二十分足らずで決着がついた。

 

 

「第一波ネウロイ襲来ナレド航空隊ニヨリ全滅。引キ続キ対空警戒厳トナセ」

 

通信士が艦橋から送られてきた通信を読み上げる合間、私は電探スコープを食い入るように覗き込んでいた。

変化はすぐにきた。本艦より右前方の位置に白い点がいくつも現れた。スコープ画面の横に設置された方位版と照らし合わせて方位を、その横で佐々木中尉が高度情報を読み上げた。

「新たな目標右舷前方!方位0-3-6、高度4500m。速度200ノット」

 

「もう一つ出てきた。包囲3-0-0、左右からのハサミうちだ!」

 

情報は21号でも捉えられていた。すぐに防空隊が二手に分かれていくのがスコープの上で確認できた。

少しして乱戦の中を抜けてくる反応が現れた。その数十を数えるか数えないか。

先程の戦闘で弾薬切れや燃料が足りなくなる機体もそろそろ出てくる頃合いだった。

「敵機は十、突込んでくる!」 

 

ネウロイの攻撃は巨大で目立つ本艦へ集中は必至だった。艦長下命「射撃始め」 が下る。

最初に巨大な閃光と振動が轟き、振動と轟音で耳が壊れそうになった。

四十六サンチ砲が三式対空弾を放ったのだ。

遅れて高角砲二十四門、機銃百門以上が一瞬砲火を開いた。 護衛駆逐艦の主砲も一斉に閃光を放つ。

室内でも外で聞こえる轟音が響き渡り怒鳴り声すら時々聞こえなくなった。

スコープに映る敵の数が減っていき、すぐにその数は消えた。

それと同時に射撃も止む。

 

 

 

第三波の襲来でついに駆逐艦が被弾した。

弾薬切れのウィッチが空母に戻り補給をしている合間の防空隊の密度が低くなる時に襲来したため防空体制に穴が空いたのだ。

ブリタニア海軍の駆逐艦ヴァンパイアが炎に包まれた。

 

戦いは第六波まで続いた。

しかし戦力の消耗極めて甚大。第五波で被弾、落伍した駆逐艦初雪の穴を埋めるべく駆逐艦が陣形を変更していた。そこに複数のネウロイが飛び込んできた。

猛烈極まりない防空砲の攻撃の中、一際目立つ振動と轟音が響いた。ついに被弾した。

 

被弾は後ろの方から聞こえていた。

「四番副砲被弾!応答なしの模様」

四番副砲がビームの直撃を受けて融解した。

内部で発射を待っていた弾薬が誘爆し、爆発の熱と衝撃が決して硬くない外版を内側から風船のように押し広げて砲塔が破裂した。

幸い誘爆は砲塔内部だけで済んだが砲塔内部は全滅だった。

その瞬間は電探室からは見えなかった。ただ轟音がして灯り取りのために設けられた扉窓の外を破片が飛んでいくのが遠目に見えた。

 

元々八基積み込まれていた六十口径十五糎五連装砲のうち艦橋横のものは高角砲を四基、三連装機銃四基の増設と引き換えに撤去していた。

残る四基のうちの一基が使えなくなったのだ。

 

電探室の側に設けられた増設機銃座の音がやかましく唸り、少しして歓声が聞こえた。

ネウロイを撃墜したのだろう。

しかし同時に艦首の方からも爆発と振動が響いた。

今度は窓から見える外の光景に変化が生まれていた。

広い甲板の先に少しばかり見える海面の色が虹色に光る黒いもので覆われようとしていた。

燃料タンクがやられたのだと悟った。

 

 

「さらにネウロイ十接近……いや待て!その背後にウィッチだ!射撃中止!同士討ちになる!」

 

佐々木中尉がスコープを除き血相を変えた。

扉を開けて外に上半身を乗り出すと、対空砲が炸裂し黒くなっている空を器用にネウロイだけを落としていくウィッチの姿が見えた。アントナー・S・ハルであった。瞬く間に全てのネウロイを落としていった。

圧巻と表現するしかなく、その光景を見ていた機銃要員も歓声を上げていた。

 

しかし破綻は既に起こっていた。

 

 

 




『戦艦越後とウィッチ達』
畜生書房
1943年出版
戦艦越後最後の出撃となったリバウ突入作戦を生存者の一人である元ウィッチ隊美咲明乃少佐が綴った作品。
またのちに有名になるある少女の事が書かれた最初の作品でもある。

ハルちゃんの三走目

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