ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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???2

えっと、これってもう回ってるの?

あ、回ってるんだね。りょーかい。

 

えっと?トゥルーデの予定が合わないから少し飛ばして私に取材って事でいいのかな?

せっかくだから私も取材して欲しかったなあ。

え?私の取材もあり?ラッキー!

 

 

それじゃああの子の事だね?

うんうん、じゃあどこから話そうかな……

 

 

 

 

 

1940年1月1日

「あ、また走ってる」

 

クルピンスキーとの会話が途切れ、少しの合間視線を窓越しに部屋の外に向けたエーリカ・ハルトマンは、数日前から時々外を走る少女を見つけた。

「お、年初めから立派な子だね」

 

「誰だっけ?」

女には目がない話し相手が、目を細めながら走る少女の情報を教えた。

「確かアントナー・S・ハル軍曹って言ったかな?3回目の出撃でネウロイを合計7機撃墜した新米エース」

そういえばトゥルーデがそんなことを言っていたと同時に受けた説教までプラスして思い出してしまいエーリカは少し顔を顰めた。それでもその実力に、なんとなく興味があった。

「ふーん……」

 

「興味出たかな?」

なるべく表情に出さないようにしていた彼女だったが、隣にいるクルピンスキーには全てお見通しだった。横目でエーリカが彼女を見ると、面白そうなものを見たと言わんばかりの表情。そっぽを向いて視界から外す。

「そんなんじゃないけどさー」

 

「僕は興味湧いた。ちょっと引っ掛けてくる」

ナンパしてくると言わないあたり格好はつけている彼女は、いつのまにか外を走るのに適した格好に着替えていた。

「あ、待ってよー」

 

 

2人が外に回ると、丁度半周してきたハルと遭遇することが出来た。

一周ほどしているはずの彼女は、しかし息が上がっているようには見えず自然体に近い状態だった。

隣に並んだクルピンスキーが真っ先に話しかけた。

「やあ、そこの努力家な少女、一緒に走らない?」

女誑し故にどうしたら女心をゲットできるかに精通しているクルピンスキー。しかし、ハルは年齢が幼すぎた。

「……えっと、その……」

困惑し始めるハルを、少し気の毒に思ったエーリカが割って入る。

「警戒されてるよ。私はエーリカ。こっちはヴァルトルート。いつも走ってるよね。あ、階級は気にしないでいいよ」

身長がまだ近いエーリカに、ハルもようやく落ち着いた。

「私はアントナー・S・ハル軍曹です」

 

「そっか、じゃあハルって呼ぶね。ところでさ、一緒に走ってもいいかな?」

 

「私は構いません」

今度はあっさりと承諾した。困惑していた表情も嘘のように消えている。

 

「あー……やっぱりそっちに靡いちゃったか」

クルピンスキーは頭を掻きながら苦笑するしか無かった。対するエーリカはそんな彼女にジト目を向けた。

「やっぱりってなにさー」

 

「いや?やっぱりエーリカは子供に好かれやすいなって」

 

「そんなんじゃないよ」

だがなんだかんだ年下がとっつき易いのはエーリカの方であった。

 

ただ立ち止まっていると、一月の冷気が押し寄せてきた。身震いをしたクルピンスキーとハルが走り出すのを、一歩遅れてエーリカが追いかける。

ランニングなのでそこまで飛ばすわけではないがそれでも彼女のペースは少し早い。エーリカはそう思った。

 

「いつも走ってるけど、走るのが好きなの?」

 

「そういうわけではないです。ただ、体を動かしている方が色々忘れられるんです」

 

「ふーん……なんだかトゥルーデみたい」

だが口には出したもののどうも違和感があると思った。

「ルームメイトにもそれを言われました。教官みたいに馬鹿真面目っぽいって」

たしかにそうかもしれないとエーリカは1人納得していた。昔の自分も真面目な方だったと自負しているが自分よりかはロスマン教官やラル少尉の方が近い。そんな考えが頭をよぎった。

 

「けど今日もこんなところで走ってて良いのかい?一応年初めの今日くらいは親元に帰ってゆっくりしたって良いんだぞ」

クルピンスキーの言うことはもっともだった。

実際ウィッチといえど10代前半どころか12歳以下も多数いる。

いくら人類のためとはいえど彼女達に無理を強いるのは軍上層部のプライドも多少は良い方向に機能したようで、年末の一日か年初めの一日くらいは家族の元に帰って良いと直直に発布されている。

実際私の小隊でも1人その日は帰っていた。

「他のルームメイトがそれをしているので誰か1人くらい部屋番をしないといけません。それに、私には両親はいないですから」

その言葉に三人の合間の空気が重たくなった。

「すまない。嫌なこと思い出させてしまったな」

 

「気にしないでください。戦争孤児なんて今時珍しいものでもないですから。それに私はたまたま魔力適性があって軍に行く道が残っていたから良いですが、そうじゃない子達なんて世の中には沢山います」

 

まるで足に重しがついたのではないかとエーリカは錯覚した。

「失礼なこと聞くと思うけど…生まれは?」

空気読んでくれとクルピンスキーを睨むが、時すでに遅しだった。

「生まれはカールスラントです。ですが去年の9月、家族で黒海の方に旅行に行ってて……」

 

「なんか…ほんとごめん」

 

「いいんです。普段聞かれないだけで秘密にしているわけではないですし」

いつのまにか横に並んでいたハルの表情をそっと覗いたエーリカは、少しだけ絶句しそうになった。

両親のことを話しているにもかかわらず、その表情はつらいというものより何処か諦めたような、悟ったものだった。少なくともまだ10歳の子供がするような物ではないというのはエーリカにもなんとなく理解できた。

「あ、気にしないでください。って言っても気にしちゃいますよね。でも、もう折り合いはつけたので大丈夫です」

 

「君が気にしてないと言うなら良いんだけど…辛くなったらいつでもおいで。話し相手くらいにはなるよ」

 

「絶対ついていっちゃダメだよ。ついていくなら自衛できるようにね」

 

「あはは……善処します」

 

 

しばらくは、たあいもない話をしながら走っていた3人だったが、途中でラルにクルピンスキーが呼ばれて離脱することになり、2人だけで走っていた。

五周ほど基地の周りを走っただろうか。そろそろ息が完全に上がったところで今日は終わりにしようとハルが言い出した。

 

 

走り終わったハルが部屋に戻るのをエーリカが見届けていると、丁度彼女のルームメイトが部屋から出てきた。

そういえば30分前くらいに汽車が駅に到着しているのが見えたなとぼんやりエーリカは考えていた。

 

ルームメイト達と何やら会話が弾んでいた。

悪いとは思いつつも聞き耳を立ててみると、ハル自身はあまり全員と顔を合わせたことがないらしく、今度歓迎会を兼ねて少し外出をしようという計画を立てているという内容が聞こえてきた。

「なーんだ、1人じゃないじゃん」

 

少しだけ過剰に心配していた自身が恥ずかしくなったエーリカだった。

 

 

 

 

それが私の初顔合わせかな。

第一印象はねえ……どこかまだ完成されていないエースかな。あの時からなんだかトゥルーデとか教官に近い雰囲気があったんだ。

でも飛び方を見た感じじゃまだ完成されてるとは言い難かった。

 

ああ、彼女の飛び方を見たのは大規模空襲の時でね。

丁度1月の2日、次の日だったんだ。

 

最初の異常は前線監視部隊からの通信が途絶えたところから始まったんだ。

そのあと緊急発進した偵察機が川を越えて基地に向かってくる大量のネウロイを見つけて大騒ぎさ。

 

数は基地に配属されていたウィッチと同じくらいだったんだけどあの時はローテーションで使えるユニットの数が限られていてね。

配備数の三分の一はオーバーホールしてたんだ。

しかも実際に飛ばせたのはその四分の三でしかなかったんだ。

たとえ組み上がっているストライカーだったとしても暖機運転をしたり各部にオイルを循環させたりする必要があるから離陸可能まで20分はかかる。しかも冬場はオイルが凍結しやすくてさ。結局オイル温める用のボイラーが一度に出せるオイル量を超えて一斉に発進させる事はできなかったのさ。

一応扶桑から送られてくるオイルはあの時から凍結しないしサラサラだったらしいけどそれは扶桑陸海軍の方に優先的に回っていたからね。

結局今と同じでその場にあるもので対応しないといけなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

1940年1月2日

 

「エンジンがかかったやつから離陸急げ!戦闘機以外は塹壕へ退避!」

ネウロイが到着するまでそう時間はなかった。

しかし地上にはまだ離陸できていないウィッチが残っていた。また爆撃機や輸送機、連絡機なども、一部が塹壕へ押し込まれようとしていてバンカーやランディングゾーンは蜂の巣を突いたような騒ぎだった。

エーリカはそれを横目に滑走路を駆け抜ける。

離陸直後の空はどんより雲で体感的にも視覚的にも寒く、防寒用に断熱魔法をかけていなければ数分で凍えてしまう空だった。

彼女の小隊以外にも周囲にはいくつもの小隊が急上昇を始めていた。

 

上昇して数分とたたずにネウロイの一団が遠くの空に見えるようになった。

エーリカは高度を取りながら狙えそうなネウロイを品定めしていく。

 

「最初は……よし決めた。チョッパーは一緒に突入。エッジとオメガは反対に回って。同時に突入するよ」

 

各員に指示を出しながら、二手に分かれてダイブをした。

高度が一気に下がり、体が後ろに引っ張られる感覚が強くなっていく。

前に突き出した機関銃の震えを手で押さえつけ、射程に入ったネウロイに銃弾を浴びせていく。

近くのウィッチを狙おうとしていたネウロイにとってはエーリカ達は死角だったのだろう。

行動に移る前にエーリカ達の射撃がネウロイの一群を撃破していた。

 

だが数が多く、そしてエーリカ達のようにうまくいっているウィッチだけではなかった。

 

シールドを張って身を守っていたウィッチの背後から、別のネウロイがビームを浴びせた。

ほぼ一緒に空に上がった戦闘機隊が、ネウロイの変則的なビームに絡め取られて爆散していく。

そんな光景がどこでも繰り広げられていた。

それでも中型一体を小型数体が取り囲むように守った群をバラバラに突入させてきているおかげかまだ防衛線は破綻していなかった。

 

しかし破局は近かった。

次の目標を探していたエーリカの勘が警鐘を鳴らした。

上空から何かが近づいている。そんな気配がして、まずいとエーリカが思った時には体は回避行動をとっていた。

続く僚機も回避を行なった。その直後さっきまでの飛行進路をビームが突き抜けた。それはエーリカ達に限ったことではなく、周囲を飛ぶ機体全般に言えることだった。

それは低く垂れ込めた雲の鱗片を纏うようにして降下してきた。

小型ネウロイよりもさらに大型の中型と分類されるネウロイ。

 

近づこうとする存在を各個体が庇い合うようにビームで応戦し、近づけさせない。

そんな敵の新たな戦術に混乱が広がる。

特に戦闘機の被害が拡大していく。

ビームが空を焼くたびにいくつもの爆発が空中で巻き起こる。

 

その隙をついて、防衛線を突破した存在がいた。単機で飛行していた中型ネウロイだった。

 

その中型が一体防衛線をすり抜けて基地上空に入り込んだ。

高角砲が、機銃が基地を守ろうと必死に応戦する。それを嘲笑うかのようにネウロイのビームが高角砲陣地を吹き飛ばし、周囲にあった機銃陣地を巻き込んだ。

すぐにエーリカは小隊を基地に戻す。

対地攻撃に夢中になっている中型なら隙は大きい。

燃料タンクが直撃を受け、吹き飛んだ。内蔵されていた燃料が炎の塊となって巨大な球体を作り出した。

巻き起こる煙と炎をシールドを使って防ぎ、死角となっていた正面にエーリカ達が飛び出た。

ネウロイが一瞬慌てたかのような動きを見せたが、次の瞬間四丁の機関銃によって、中型の体は大きく削られた。いくつかの弾丸がむき出しになったコアに当たったのかネウロイはその場で消失した。

だけれど安心はできなかった。

すでに高度を失い速度も低下していた。すぐに上昇を指示しようとして、エーリカ達の上に影ができた。

上から覆いかぶさるように中型ネウロイが飛び込んできたのだ。

防衛線が次々に突破されていたのだ。

 

シールドを張ったエーリカはまだマシだった。

若干遅れた僚機の左脚ユニットが煙を上げた。同時に高度が下がる。

残り2人はなんとか回避に成功したようだったがエーリカ達を援護する事は不可能な位置にいた。

エーリカだけならネウロイの攻撃範囲から逃げることはできただろうが損傷している僚機を置いていくことはできない。

ビームを防ぐシールドが限界を迎えた。

それでも1射分は防ぎ切ることができた。

 

しかしネウロイはすぐさま2射目のビームを放つ。

だけれどビームがエーリカ達を捉えることはなかった。

気づけば目の前の中型ネウロイはコアを破壊されて消失していて、その空いた空間を彼女が通り過ぎて行った。

先端が銀色になった茶色い髪。使い魔の証である小さな雷鳥の翼が頭に小さく生えた彼女は、鳥とは思えない変則機動で次のネウロイのところに飛んでいった。

彼女の僚機は見当たらない。逸れたのだろうか。

だが彼女は単機でネウロイを次々と狩っていった。

しかしそれ以上エーリカが考える事はできなかった。戦いは続いている。防衛線が突破されている以上少しでも敵を排除しないといけない。そうしなければ基地は消失してしまう。損傷した僚機に待避を命じて、再び空に駆け上がった。

 

 

 

基地に戻って来られたのはそれから30分後で、その時には基地は様変わりしていた。

高射砲陣地はいくつかが吹き飛び、負傷者が次々に運ばれていく。血と硝煙の匂いが格納庫にも、宿舎にも立ち込めていた。

燃料タンクの一つが燃えているせいか、あたりは真っ赤に染まっていた。

火災が収まる気配はなさそうだった。

 

小隊は全員生存。だけれど他の戦友の事が気になって、エーリカは医務室の方に足を運んでいた。

(戦場で見えただけでもかなりの数が落ちていた。知り合いの顔が無いといいんだけど…)

 

「あ、ハル……」

 

ハルの後ろ姿を見つけて声をかけようとしたエーリカだったが、その言葉が止まった。

それほどまでに彼女はショックを受けていた。

感じ取れたのはエースゆえの勘だった。

今の状態で下手に声をかけるのはやめておこう。それに昨日話しただけの少女だ。深入りするつもりもその時は無かった。

 

1時間後に、ヴェカミ・フーベルクから話を聞いたエーリカはひどく後悔することになった。

 

 

 

後で聞いた話だと、彼女のその時のルームメイトは1人を残して死亡、その1人も全身火傷で二日後に死んじゃったみたいなんだ。

小隊の方も2人落ちたみたいで1人は地面に叩きつけられて即死。もう1人は片足を切断しちゃって後方に送られたんだけど欧州脱出時の記録に残ってなくてね。

まあそれもほんの一角でしかなくて、あの時はウィッチだけでも20人が落ちて18人が戦闘継続不可能な傷を負ったか死亡。

そのほとんどが10代前半、経験が浅い子か新入りばかりだったんだ。

迎撃に上がった戦闘機も42機中30機が撃墜。ほとんどビームでやられたからパイロットの損耗が深刻でね。

 

 

なんか辛気臭い話になっちゃったね。ごめんごめん。

でもそれ以降だったのかな?彼女の戦闘スタイルが変化していったのは。

えっと…それ以前はまだエースとして完成されていない感じだったんだけど、それ以降の動きはどんどん完成されていったね。

迷いがなくなったというか、結構割りきって戦うようになった感じかな。

幼さってのがやっぱりまだ残っていたんだけどそれすら無くなって、なんだか年齢越されちゃった気がしたんだ。

 

あ、そろそろ時間だった。それじゃあ今度は私の取材もしてよね。




九八式多目的排土車

扶桑国が開発し、欧州や本国で運用された工作機械
当時リベリオンやブリタニアなどから送られてきていたブルトーザーに紛れてかなりの数が欧州各国で運用され、実質的に主力となっている。

構造はパイプフレームとベニア板によって構成された車体にエンジンとウェイト、運転席を取り付けた簡素な物
8つある車輪は自転車のものを使用し駆動は同じく自転車のチェーンによって伝達される全駆動式。それもそのはず製造会社は自転車やリヤカーを作っている会社。そのためサスペンションもリヤカーのもの。
排土板はワイヤーによって上下する。
見た目がかなりしょぼいせいかベニヤの玩具と言われていたが見た目相応に能力はそこそこあり、構造が簡素で軽量なため輸送に適しており故障が少なく自転車の部品が流用されているため修理も簡単ということから前線ではリベリオンやブリタニアの重機を差し置いてよく使われた。
アタッチメントを交換することでホイルローダーにもロードローラーにもできる。

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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