ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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完結


part0.3戦艦越後の最後3

越後の電探室は二つある。一つは艦橋基部の装甲に覆われた司令塔の後方に直結する形で。もう一つは先程破壊されたマスト直下。

 

残ったこの電探室は畳10畳ほどの広さを持ち、その多くを電探機器が占めている。中にいるのは四名の電測員、と同数の通信士。

そして開いたままの扉からは操舵員以下航海科の要員が司令塔内で操艦を担当していた。

電探室は同時に無線室を兼ねており各部署の情報も一同にこの場所に集約される。

 

後部格納庫から引き出された零式水上偵察機と水上観測機が着弾観測のために離艦していく。

 

総員第一種戦闘配備。空襲警戒と対地攻撃備えのラッパ高々に響く。

 

リバウ突入。

それと同時に対空電探がネウロイの巣とそこから溢れ出る航空ネウロイを捉えた。

数は増えていく。それらと前進したウィッチ隊が交戦になり乱戦模様が電探に映される。

夜空を睨む見張り員も空で何が起こっているのかを必死に見ていることだろう。

それとは別に地上からの砲撃。ビームが巻き起こす電波の乱反射を21号が捉えた。捉えたものの対処することはできず左舷中央部に被弾。

金属が融解し爆発で近くの二十五粍三連装機関砲が吹き飛んだ。

一度右舷に傾いた船体が再び左舷に傾斜。素早く右舷バラストタンクへの注水が行われるも傾斜復旧ならず。

右舷側居住区画への注水を開始せり。右舷防水区画の左舷浸水区画と対称となる部位に注水し左右均衡を図るものだ。

 

連続した被弾に応急科員の死傷が多く、防水遮防作業困難となる。防水区画の一部に浸水する。

区画は全艦千百五十箇所に細分されて浸水を最小限に抑えるが水圧は徐々に非浸水区画境界の鉄壁にかかり浸水を拡大していく。これを防ぐため非浸水区画の内側より太い円材と布を当てて鉄壁を支え決潰を遮防する。これが応急科員の任務であった。されど喫水下への被弾が連続し浸水が拡大し隔壁が決壊。応急科の人員を飲み込んでいく。

それでも反対側の防水区画の一部に注水を行い少しづつ傾斜が復旧していく。

しかしそれは浮力を犠牲としたものでしかなく、喫水線は下り速度は低下していた。

ネウロイの巣までの距離35000m、主砲が発砲を開始した。腹の底から轟く砲撃。振動が伝わってくるけど高く打ちあげられた四十六サンチ砲弾がスコープに映し出される。

最初の試射弾着は1発が港湾設備に着弾。ネウロイの巣より手前でコンクリートの残骸と設備の一部を高く巻き上げるにとどまる。

着弾観測機の情報より直ちに射角修正。

大きな振動。体が跳ねあげられ椅子から転げ落ちた。黒煙が立ち込める。

艦橋のすぐそばに着弾した模様。詳細は不明。

地上からの攻撃。その正体ようやく判明する。巣を防衛する大型タンクのネウロイによる攻撃であった。その威力、三十六サンチ砲に匹敵せり。

 

90000tの船体が軋みを上げ揺さぶられる。まるで缶に入れられて殴られたかのようであった。

「電探故障!」

対空電探が粉砕された。蔽い迫る敵、ただ肉眼を以て対応するのみ。

水上電探は連戦で調子が悪くなったのか反応が良くない。

 

外の様子はどうなっているのかが気になる反面、爆音と弾雨の応酬に恐怖して甲板に出る勇気なし。

「無線も故障!誰か艦長に伝令を!」

致し方がなし、気が進まないが手空きなのは私だけであった。

艦内のラッタルを駆け上がり、十階分を駆け上がる。途中何度か足場が揺れて、転びそうになる。

艦橋に到着。

状況を報告するも張り上げる声途切れかけ。

被弾相次ぐ。左舷側の高角砲全滅。火災鎮火不可能。

報告次早に舞い込む。

 

後部航空機甲板付近に被弾。副舵故障。主舵だけでは船体の動きが緩慢となる。

「艦首バウスラスター始動!転舵0-1-0‼︎」

越後は湾内や港内での操舵性を上げるために艦首に貫通式のバウスラスターを搭載している。航行中はその効果は薄れてしまうが、副舵の代わりにはなる。

「予備無線室に切り替え!中継引き継げ!」

 

「対空砲各個の指示で攻撃!」

次々に指示が出される。しかし指示よりも入ってくる被害報告の方が多い。

後部艦載機格納庫にも被弾した。着弾観測機として飛び出した機体、帰る場所を失ってしまった。

 

艦長の指示が飛ぶ。

操舵員が操舵をしているのだろう。しばらくして艦橋から見える風景がずれた。

船体が大きく震える。

 

主砲再び咆哮。されど命中弾無し。

爆風被害で甲板から逃げ遅れた兵が吹き飛ばされ海に落ちた。構う者あらず、反撃と言わんばかりの砲撃。

陸地で小爆発が相次ぐ。航空ウィッチ達が地上砲火を幾ばくか破壊したようだった。

一部はウィッチを狙い空にビームを放つ。

ウィッチ隊の必死の攻撃は越後への被弾を幾ばくか軽減させ、応急処置の時間を与えてくれた。その中でも無線は一人の少女の戦果を伝え続けた。

 

しかしそれを聞いている余裕はすぐに消え去った。

ネウロイの砲撃が着弾。直線を描き飛んできたビームが水飛沫を上げ左舷側の視界を遮った。

 

 

 

遅れて衝撃が走る。艦橋の床が左右に大きくずれた感覚。聴力が一時的に喪失した。被弾は二発。一つは艦橋下方に命中、夜戦艦橋を破壊した。もう一つは艦橋基部に命中した模様詳細不明。元から残骸となった高角砲と機銃がいくつか吹き飛び赤く焼け爛れた金属が続く破壊の爪痕が艦橋窓からちらりと見えた。

 

同時にウィッチ達の防護をすり抜け飛んできた中型飛行ネウロイが水面下へ攻撃をしようと右舷より接近する。

 

雷撃機の如く少しの合間直進態勢を保つその間、目標の変化は上下だけに限られる。照準発射は容易ではあったが左右に稲妻型に反転突っ込みをかけてきていた。

これでは目標は上下だけでなく左右変化も大幅で、機銃のような単純な兵器の照準能力を超えてしまっていた。

無論高角砲や機銃指揮所の方で対処はしていたが、それでも夜間であり視界が限られて弾着状況は頗る不良だった。

五発の発砲毎に一発入る曳光弾で赤茶色の弾道と目標との交叉状況から誤差を確認、発射距離、角度を修正するも追尾できる角速度を超過してしまっており至近の弾着すら難儀状況だった。

当時搭載されていた九四式高射指揮装置は優秀なものであったが旋回速度が追いつけておらず始終照準が定まらなかったと生存した高射指揮装置の操縦員は言っていた。

 

また高角砲も八九式であり旧式化が既に始まっているものであった。

近接戦として搭載された二十五粍機銃弾の初速は毎秒千メートル以下。ネウロイの平均速力の僅か五乃至六倍に過ぎない。

斯くも遅速の兵器をもって行う曳光修正恰は素手で飛ぶ蝶を追っているようだった。

 

右舷側にビームが放たれるのと危険を冒して飛び込んできたウィッチの攻撃がネウロイを殲滅するのは同時だった。

ビームが右舷甲板に着弾し、二十五粍機銃の三連装砲塔が直撃、至近弾相次ぎ空中に飛散。最も高いもので三十メートルほど上に吹き飛ばされ、部品と銃身を撒き散らしつつ数回転して轟々落下。

身を置く場所としては修羅場であり 機銃員の死傷者数甚大。

喫水線に被害無し。されど機銃群に甚大な被害あり。

右舷側防衛火器半減。

機銃要員がのたうち回る。それらが波で洗われ紅く甲板を染め上げる。

「電探室、司令塔応答なし」

 

「操艦切り替え!第一艦橋にて操艦する!」

 

「ヨーソロー!操舵輪頂きました!」

 

「確認に戻ります」

敬礼をし再びラッタルを駆け降りる。

艦内のラッタルは夜戦艦橋の被弾とともに破壊され下は滅茶苦茶になっていた。仕方なしに艦橋外のラッタルで降りてゆく。火災煙をもろに被り喉が痛かった。火災の熱を受けて手摺熱せられし、掌を火傷する。

しかし飛び込んできた光景に手の痛みを忘れ呆然としてしまう。

 

 

電探室も司令塔も重装甲で守られた場所であった。しかし先程勤めていた時とは別の場所かのように変貌してしまっていた。

装甲はとけ、爆風と熱線が吹き荒れた室内は機材も人も焼け爛れ、爆風で叩きつけられた人とも呼べぬ塊が壁に押し付けられていた。それは司令塔の方も同じであり、圧死した人間の骸が転がっているに過ぎなかった。僅かに二名息のあるものが司令塔の方にいた。しかし彼らを救助する衛生兵の姿は見当たらない。

大丈夫かと声をかけるも肋骨と脚を骨折し自力での脱出は不可能であった。

 

被弾による断線が相次ぎ僅かに被害を逃れていた電球が切れた。

電源断絶相次ぎ必死の復旧作業が展開されるも主砲並びに主砲射撃を行う電源以外の復旧は放棄。電動兵器は逐次無用の長物と化する。

被弾の衝撃途端に増える。火災煙広がりどこで何が起こっているのかの把握困難。

状況を報告するため再び艦橋へ戻ろうとするも艦橋外のラッタル破損につき使用不能。上部との連絡通路絶たれる。

仕方なしに再び戻り負傷者を救護室へ連れて行こうとするもその頃には既に事切れていた。

艦橋横の見張り台へ出て戦闘の様子を眺めるもブザーが鳴り響き慌てて艦内へ戻る。

 

電源が回復した主砲が斉射を行った。

今までの砲撃とは全く違う腹を叩く衝撃と通り抜ける轟音。全てを吹き飛ばさんとする衝撃波で火災が吹き飛んだ。一斉に鎮火する炎。

陸地に今までの分をまとめて返すかのような爆発が生まれる。ネウロイの巣は未だ健在。越後全力砲撃。四十秒後に再びの斉射。巨艦越後の本気である。見たかネウロイと歓声が上がる。

徹甲弾、そして通常弾を交ぜた砲撃が巣を周囲ごと更地としていく。

 

反撃のビームが3本命中。煙突が破壊されるも越後は止まらない。手摺を掴む私の手も震えを隠せない。

一際大きい衝撃。体がついに投げ飛ばされ水飛沫が体を包んだ。

海面に叩きつけられた際息を吐いてしまい苦しみが大きくなる。

 

上下がわからなくなりもがき苦しむ。

やがて意識が遠のき死を覚悟した。死に方用意。しかしてこのような結末は望みたくなかった。

 

 

「気が付いたか中尉」

私はどういうわけか駆逐艦磯風に救助されていた。

海水を含んで重たくなった毛布が体に巻き付いていた。

 

 

あの時の衝撃は越後が座礁したものであった。体を支えていた手摺が折れ、放り投げ出されたわけだ。

私はその後漂流しているところをウィッチが見つけ磯風に連れて行かれたのだそうだ。

その他にも何十人かが磯風の甲板にいた。

遠くには燃え上がり崩壊したネウロイの巣とそのそばで炎上する戦艦の姿が親指大の大きさで宵闇に浮かび上がっていた。

その空ではいくつもの爆発が生まれ、いまだにウィッチ達が戦っている姿が見えた。

艦内スピーカー艦全体に通信を開く。

「最後の斉射を行し。ネウロイの巣壊滅せり、しかして越後は艦橋に被弾。通信途絶せり。戦闘終了、磯風は当海域を全力で離脱せよ」

ウィッチ隊の声であった。

「ウィッチならびに残る生存者は陸路を通りバルバロッサ本隊と合流を試みる。我に構うな、我に構うな」

 

それが実はアントナーからのものであった事を知ったのはブリタニアの港に帰港してからのことだった。

 




なお越後は戦後観光スポットとなる

ハルちゃんの三走目

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