ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
牛乳配達の馬車が動き出す。そっと体を転がして馬車の下から出て庭の草むらに隠れる。
士官学校での新隊員教育以来だ。幸いあの時と違って地面は乾いているから服が汚れる心配はあまりしていない。
彼女が家に入る前にこちらも開け放たれている窓から部屋に入り込む。
そこはダイニングのようなところで小さな丸い机が置かれていた。
少しして彼女が部屋に入ってきた。銃を片手にそっと扉を開けて……
「軍は抜けても軍人はやめられないか、私はラル。覚えているか?」
こちらに敵意がない事を示してから彼女の様子を伺うと、警戒をあっさりと解いていた。たしかに私と彼女は知り合いだしなんなら私が率いている隊へスカウトしようとしたこともあった。
「ええ、覚えていますよラル少佐」
銃を下ろしてくれた彼女だがよく見るとその銃は弾が入っていなかった。単なるコケ脅しのようだ。
「今は中佐だ」
「でしたらラル中佐、よくここがわかりましたね」
「それなりにつてはあるつもりなんだ」
大半が民間の伝手だったがな。よく政府の目を掻い潜って1ヶ月もの合間身を隠していたものだ。まあ軍が本気で探していないという証拠でもあるのだが……
「それと、もう一人お前に会いたいって奴が来ている」
今の今までずっと笑みを変えなかった少女の顔が、驚愕に染まった。
窓から入ってきたのは金髪、そして人類最強の撃墜王。
「……こんにちは。久しぶりだね」
「エーリカ……」
村の入り口あたりでウロウロしていたから首根っこを捕まえて引き連れてきた。どうやら独力であそこまで調べ上げていたらしいその根性を気に入ってというのが表向き彼女を巻き込んだ理由だが軍服を着ていなくても彼女の面は多くの人が知っている。あまり騒ぎを起こされると何があるかわからないというのが本来の理由だ。
「待て待てどうして逃げようとする」
何故か逃げようとするハルを制止させるとどこかばつの悪そうな、悪戯がバレた悪ガキのような顔をしていた。
「いいよ。別に怒ってないから」
「怒ってない?本当ですか?」
「まあ、あそこで急に逃げ出したのは色々言いたいけどでも許す」
エーリカはやけに真剣だった。
「他にもハルが生きているってこと知りたい人は沢山いるけど……」
だがあまり教えられそうにはない。情報のコントロールができなくなるのはこういう些細なことからだ。
「生憎だが君は今狙われている立場に立っている」
私が変装をしてそこら辺の馬車でやってきたのもカモフラージュが目的だ。牛乳配達の馬車なら近づいても怪しまれない。無論基地からずっと尾行されていたのなら仕方がないがそのような気配は無かった。
彼女がこうして潜伏しているのはおそらく向こうも探ればすぐにわかる。私だってこうしてすぐに居場所を突き止めることができたのだからな。今までしてこなかったのはその必要が薄かっただけ。しかし今は情勢が変化した。
「ウォーロックの件ですか?」
「ああ、特に反応兵器の方だな」
「あれらは今までの組織の、国家としてのパワーバランスを大きく変えかねないものという認識だった。だが兵器の脅威というのは実戦で使用されてこそのものだ」
「なるほど、それで……」
ゴタゴタが収まりつつある今その原因を作った本人を標的とするのはまあわかりきっている事だ。特に彼女はウィッチだ。復讐心から抹消までは行かなくともおそらくウィッチ至上主義と絡めて謀略の道具にするに違いない。
「くだらない報復と思うな。奴等も必死なのだよ。面子の問題でな」
正直人の主義思想にとやかく言うつもりはないが実害が出るようでは口を挟むのも仕方がない。
「面子か……それで向こうがそれなりの行動に出ると」
「単純な話だな。それに今のお前さんは軍から見ても逃亡者と変わらない状況だ。軍に君の味方がいても表立って動けない。状況は悪いんだ」
「……そういうものですか」
「そもそも今のご時世じゃ人並みの生活をする場合すぐに足はつくさ。特にお前は目立つからな」
「目立つものでしょうか?」
いくら髪を帽子などで隠してもハルの纏う雰囲気は見る人が見ればわかる。そういう独特の空気を纏っているのだ。
「自覚がないのが恐ろしい」
「それで貴女の用件は?」
「そうだな、私が来た理由は……」
水上機から荷物を運び終えて全てのチェックを終えたハルは、どこか落ち着かない様子で視線を動かしていた。
「ははは、まさか飛行艇でネウロイを撃破するとはな」
少しくらいねぎらいの言葉をかけてやるべきだと思ってそう言ってみたが、ピンと来ている様子がなかった。
「地上への攻撃は機動が読みやすいですからね。雷撃機みたいに水平攻撃をするわけでもないですし」
さらりと恐ろしいことを言う。そういえばルーデルもそんなことを言っていたな。目標の方が勝手に照準に入ってくれるのだとか。
「そう言えるのは大エースくらいさ」
言わんとすることはわかるがそれは理屈の上での話だ。実際にそれを冷静に対処して回避、反撃を行えるなんていうのはなかなかいない。少なくとも私クラスのエースあたりだろうか。扶桑の軍艦は降下を見切って回避をするというがあれは例外だ。
それにしても飛行艇の方はあのような動きをさせて大丈夫だったのだろうか。外版にシワが寄っているように見えるのだが……どう見ても無理な動きで機体が撓んだ証拠だ。これは一度本格整備をしないとまずいな。
だが声をかけた理由はそれが主なものだからではない。
「ところでこのストライカーなんだが……」
格納庫の中に止められているそれはロスマンがさっきまで使っていたユニットだった。冷却液がパネルの隙間から溢れコンクリートに水溜りを作っている。幸い冷却液切れで部品が熱破損するということはなかった。さすがロスマンだ。教導隊にいるだけあって腕はトップエース級だ。
「……?」
「冷却液のパッキン。不良品という説明をしているが、実の所これらは細工されたんだ」
まだバラしていないが同時期にここに搬入された部品を先ほど調べたところよく見るとなんらかの不良が発生していた。小さいものだが出荷時に検品すればすぐにわかる不良だ。
材質による不良とは訳が違うのだ。
「細工ですか?」
あの部品は別の隊に向かう予定だったものの一部をくすねてきたものだ。その時の検品では確証はないがこんな傷は無かった筈だ。そもそも見てわかるような傷見逃すはずがないだろ。だがそれらがここに到着した頃には細工されていたというわけだ。
整備記録を確認すると整備したのはまだ経験がない整備士なのだろう。部品の欠損に気がつかず取り付けてしまっていたようだ。
「ああ、おそらくマロニー派の一部……反ウィッチ派の工作だろう」
心当たりがないわけではない。軍部の裏側もある程度把握していると自然とそういう情報は入ってくる。
特にマロニーを頭に担ぎ上げ、人間主導の戦力をという存在は飾り頭が無くなっても未だ大部分が顕在だった。むしろ頭がなくなって地下に潜り始めてしまったというべきだろうか。
まあ似たようなものにウィッチを主体としたウィッチ至上主義の一派もあるからどちらが正しいとは言えないがな。
「501がガリア解放を成し遂げたからですか……」
勘がいい。説明の手間が省ける。
「現在大規模な奪還作戦が計画されているのはここだからな」
ウィッチに活躍をこれ以上されると困るのだろう。こんな時に何を足の引っ張り合いをと思うがそれもまた人間らしい。全員が右向け右でも困るからな。
「……やれやれ、また面倒な」
だが同時にこの面倒なことは大昔から変わらずあった政争のようなものだ。
「まあ、貴様は気にするな。こちらでどうにかする」
「ところで、あの新入りはどうだ?」
そう、ハルをわざわざ呼んだ理由だ。
実は彼女の軍役はまだ有効な状態になっているのだ。本来なら不名誉除隊をするべきだが現状上層部のゴタゴタで罪自体が不問とされてしまったために休養中という扱いになっている。だがそれでは他の誰かが見つけてはまた戦場に戻されるかもしれない。ならばなるべく教官職に送り込みたいが教官は現在ポストが空いていない。暫定的に私の下で教育係をしてもらうことでなるべく戦火を遠ざけたかった。
それに教育が必要な子が偶然にも一人入ってきているからな。
502のメンバーが常時いれば彼女に負担を背負わせるということもないはずだ。
「根性はありますけどそれ以外は全然、後半年くらいは訓練させておきたいって感じです」
「それでどこまでいける?」
「半年あれば原石からダイヤモンドくらいには」
「大きく出たな」
「だが本人の意思でここに残っているんだ」
彼女が残りたいと言い出したことだ。その言葉に込められた強い意志を感じ取ったから私は彼女を戦場に残した。その判断を間違っていたとは未だ思っていない。いや、まだ判断はわからない。
「ならロスマン教官で十分ですよ」
「……ロスマンだけじゃ間に合わないかもしれないからな」
というより不安だからな。彼女は教導隊ではあったが今は実戦部隊だ彼女に何かあればひかりの訓練はできなくなる可能性が高い。その可能性を潰すためにも彼女の持つ技術と能力は必要だ。
「なるほど……なら一週間。基礎はなんとかなっているようですし魔力量が少ないというのはこっちの工夫でなんとかして見せます」
「それだけでいいのか?」
「本人の意思が固いならどんな過酷な訓練でもできますよね」
「違いないがあまり急ぎ過ぎるなよ。君が教育をすると変な癖ができるってミーナが言っていたからな」
それがどこまで真実なのかは解らないが……
「……善処します」
まあ変な癖と言ってもあまり気になるようなものではないらしいが。
失礼しますと一言言い放ち格納庫を後にする彼女は、どこか纏う雰囲気に変化が出ているように思えた。気にしすぎだろうか……確かに軽い変装で誤魔化しておいて欲しいとは言ったが……
一昨日まではあそこまでドライな空気じゃなかった。
「もしかして彼女……多重人格者か?」
試製紫電改2
開発国
扶桑皇国
開発会社
山西飛行機
紫電シリーズにおける21型改良の31型を艦上搭載能力付随型としたタイプの試作機
正式名称は試製紫電31型甲、通称はチドリ。
元々空母艦載機用としては紫電21型乙が製造されていたが、欧州での戦訓を元に自動消火装置並びに簡易夜間飛行補助器具、IFF敵味方識別装置などを搭載しエンジンのトルク配分を見直した31型が開発されていた。本機体はその31型を空母へ搭載できるようにした試作機である。主だった改装は21型乙と同じである。
また31型系列では部品の規格を欧州と共通させておることで外版以外のネジ部品や欧州製のエンジンなどを積載する事が可能となっており欧州派遣における整備性の向上を図っている。本機もその流れを汲むが艦載機用の構造は本機のみの固有のものであり共通化はされていない。
ハルちゃんの三走目
-
ストパン2期
-
RtB
-
アフリカ