ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
「いやあ、まさか僕まで巻き込まれるなんてね」
大破したストライカーを脚から外し最後に木から降りてきたクルピンスキーさんに頭を下げる。
こうなってしまったのも私のストライカートラブルと被弾が重なった結果予想外の方向へ体が吹っ飛んでしまったことによるものだった。
ネウロイの追撃態勢に移っていたクルピンスキーさんも反応が遅れ、無事私と接触。二人揃って墜落した。
「本当にごめんなさいクルピンスキーさん‼︎」
その上不時着した衝撃で私達のストライカーユニットは完全にお釈迦になってしまった。
整備工具も何もないこの場所ではどうすることもできない。
黒煙を吹いて機能を停止しているユニットを鹵獲されないように破棄。燃料タンクを破壊して燃やす。
外装のアルミはあっさりと溶けてエンジンと頑丈な骨格だけになった燃えるユニットが四つ。
「気にしないでいいよ。たまにはピクニックというのも悪くはない」
幸いにも私もクルピンスキーさんも運良く擦り傷で済んだ。落下地点が木の上だったからクッションになってくれた。
そのかわりストライカーは今目の前で燃やす羽目となった。
直撃を受けている私のストライカーは爆発で吹っ飛ばなかったのが不思議なくらいだ。吹っ飛んでいたら脚を失っていただろうなあ。
「一応墜落は向こうもわかっているだろうしともかく基地まで戻ろう。コンパスは無事だからなんとか迷わなくて済みそうだ」
私もよく森の中を歩いたことがあるけれどどうしても森というのは迷いやすい。道が整備されているならともかく木々によって視界が狭められて似たような景色ばかり続くと人間は方向感覚を失いやすい。
その上足場は人が歩くには不向きすぎる。こちらはストライカーを履く関係でブーツや登山靴のようなものは履けない。裸足なのだ。
「うわ、ここからは少し草原か」
木々と言う天然のカモフラージュが無くなる。時々森の中にはこうしてそこだけ剥げているかのようにポッカリと草原が現れることがある。大抵そこの土地の瘴気の量に左右されるからだけれど今はあまり好ましくない。ここらへんの空域はまだネウロイの制圧圏だ。
「上空警戒」
「了解。上空警戒」
残された武器……護身用の拳銃のセーフティを外して身構える。空から丸見えになっている状態は非常に危険だった。
そして案の定その危険はやってきてしまった。
風切り音が聞こえ、次の瞬間クルピンスキーが叫んだ。
「やっばい‼︎走れ走れ!」
「……ッ‼︎ネウロイ‼︎」
駆け出した直後上から嫌な音がした。自然の風とは違う荒い、切り裂くような風が吹いた。
草原までの距離と後ろから迫るネウロイの気配。素早く計算をしてネウロイの攻撃が地上を耕す方が先だとわかってしまう。
武器は拳銃とコンバットナイフのみ。射程にすら入れない。
死の恐怖が背中から迫ってくる、喉に死神が鎌をかけてきた気分だった。シールドで防ごうにも展開速度が間に合わない。
轟音、それと共に大型の機影がネウロイの上にかぶさった。
それに気がついたネウロイが攻撃を中止して急上昇に転じていく。
何があったのか私もクルピンスキーさんも後ろを振り返った。森まで後3mの距離だった。
その直後ジュラルミンの破片がそばに落下した。
ランカスター爆撃機……だけれど非武装。輸送機モデルだった。その左の翼端の外板がいくつか外れている。どうやらネウロイを翼で叩いたらしい。
左旋回してその輸送機は空域を離脱しようとしていく。
それをネウロイが追いかける。
執拗に攻撃していたのが嘘のようにネウロイはそれに引き寄せられていった。
「あれって!」
「間違いない大尉の!」
再び私達は走り出した。彼女は囮になってくれている。ならば早くこちらが逃げないと彼女が落とされてしまう。
いくつものビームが空中に線を描き、だけれどそのどれもが輸送機を捉えることはなかった。
機体をまるで避けるようにビームが飛んでいく。
大きくバンクをしつつ急激に機体が垂直になった。急激な失速でネウロイと輸送機との合間が急激に縮まった。
最後に見えたのは追い越そうとしたネウロイが不意に持ち上がった左の翼の端っこと接触した瞬間だった。
ジュラルミンが太陽の光を反射して空に輝いていた。
やや遅れてネウロイがバランスを失い地上に墜落した音が聞こえた。
だけれど輸送機の方も無事では済まないはずだった。
「……ッ‼︎前‼︎陸戦ネウロイ!」
木々の合間に潜むようにして黒い体と赤いハニカムの構造体が鎮座していた。
直前まで茂みで、それもやや明るい草原から森に飛び込んだから視界が対応するまで発見が遅れた。
それらが正面をこちらに向けようと動き出すのと、上から液体が降り注がれるのは同時だった。
森の中に撒き散らされる燃料につけられた独特の刺激臭。
上空を通過していく輸送機の両翼から、白くスモークのように燃料が漏れていた。
「ええい!」
咄嗟に手に握っていた拳銃を気化した燃料の雲に向かって発砲した。
十分空気と混ざり危険水準まで薄まった燃料の雲に、発砲時の高温を纏ったままの弾丸が飛び込んだ。
たちまち燃料が引火し、体積を何倍にも高速で膨張させていく。
爆風で体が吹き飛ばされ、クルピンスキーと一緒に木の合間を何回も転がった。
体が吹き飛ばされてから起き上がるまでにかかった時間は数秒だった。
幸い直ぐ近くにいたニパはかすり傷ひとつ負っていなかった。かく言う僕も特に怪我という怪我はしなかった。膝小僧を擦りむいたくらいだ。
陸戦ネウロイはその姿を半分ほど破壊されてはいたがそれでもコアは無事だったらしく木々を燃料として燃える炎の中で怪しく蠢いていた。
回復し切る前に直ぐその場から離れる。
幸いにして救助隊と合流できたのは十分後だった。
僕たちが毎度のように救助隊に回収されて基地に戻ると、ちょうど輸送機が着陸した直後だった。
ニパが顔を青くしながらその機体に駆け寄っていく。僕は……多分大丈夫だなっていう確証があった。誰かに不幸が訪れる時は首筋に少しだけ痛みのようなものが出る。だけれど今はそんな痛みのようなものはない。なら大丈夫なのだろうというわけだ。
「ひどい……」
一見無事に見える機体は左翼の端が吹き飛び、右側のエンジンも一機が黒煙をあげていた。
煙を噴き出すエンジンには既に消火剤が吹き付けられていて煙は細く薄くなり始めていた。
コクピット周りにも何かにぶつかった跡があるのか右側が押しつぶされたかのように破損していた。
それでも、案の定何事もなかったかのように降りてくるハル。その姿はラルに連行されるようにして司令部の建物に連れて行かれた。
機体は大破としか言えないほど壊れていたけれど、機内は驚くほど無傷だった。押し潰された操縦席を除くけれど。
機内から次々と下ろされていく武器弾薬に食糧、娯楽品。これほどの荷物を積載しながらもネウロイ相手に奮闘するなんて……
僕もできないことはないだろうけれど保って3分だろう。これほどの操縦能力にウィッチとしての才能まであるまさしく天才。
軍部もラル中佐も手元に残したいわけだ。
だけれどそれは命を削り続けるという代償をもたらす。頭が痛くなってくる。
操縦席に僅かに残った血痕。数滴ではあるけれど彼女は出血していた。でもさっきは外傷はなかった。なら……やはり無理な機動で体が壊れているのか。あれだけ無茶をすれば当たり前か。
「……やっぱりどうにかするしかないか」
だけれど彼女が素直にやめてくれるとも限らない。こちらの勝手な思い込みを押し付けるのは僕のポリシーにも反する。まずは彼女と話すべきだ。
ハルは15分ほどして飛行隊長室から出てきた。
「また絞られたのかい」
萎れた様子もなく、サングラスで目元を隠したままの彼女は小さく頷きながら苦笑した。
「説教は受けたけど五分くらいだった」
そのまま鼻を押さえて廊下を早足で歩く。鼻を抑える手の隙間から赤黒い液体が見えた。
「トイレかい?鼻、血が出ているよ」
ハンカチを渡せば慌てて鼻を押さえた。布に赤いシミが浮かび上がった。
「あはは……ちょっと無茶しちゃったから」
「そこまでしてどうして、戦場で暴れるんだい?僕が言ってもあれだけどもう戦うのを止めるべきだと思う。たしかに戦況は苦しいけどでも確実にネウロイは追い詰められているはずだ」
流石にボロボロの体のまま放っておくわけにはいかない。
「一時、戦うのを辞めました。気持ちを整理させたかったから」
「ならどうして……」
「戦うのを辞めてからずっと悪夢を見るようになったんです」
「悪夢……」
「夢の中で、私が助けられなかった人達が、私が手をかけて殺した人達がネウロイと一緒に襲ってくるんです」
「ブリタニア空軍のジェシィって子……アフリカ前線で僚機として一緒に飛ぶことが多くて、兵役が終わったら故郷で絵描きになるんだってよく絵を描いてもらっていました。私も絵が描けたから色々教えてもらってたんです」
彼女の話は終わらない。
「いつも通りの空襲で終わるはずだった。だけど大型ネウロイが強襲をかけてきて、彼女、格納庫で緊急発進の準備をしていたんです。そこにビームが直撃して……」
「でもまだ生きていました。下手にシールドを貼ったみたいで手足がなくなって白い肌が真っ黒に焦げていたのに…それでも生きていたんです」
「彼女、なんて言ってきたと思います?殺してって……」
「それで楽にしてあげたのかい」
手のひらが汗で濡れていた。
「ええ……その子もよく悪夢に出るんです。でもこっちに戻ってからそれが一切なくなったんです。だから、その点ではラルさんには感謝しています」
「君は……」
「多分終わらないんですよ。ネウロイを駆逐し終わるまでずっと……だから私は戦場にいるんです」
勝手に勘違いしていた。あれ以降行方をくらませたからきっともう戦いたくないのだろうって思い込んでいた。
彼女の戦いはまだ終わっていなかった。
「無茶は……無茶だけはしないで」
「分かってますよ。このままじゃ死んでも死に切れません」
多分続く
ハルちゃんの三走目
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