ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
冬の嵐が近づいていた。
基地の上で派手な飛び方をしていた輸送機が地上に降りた。
どのようなパイロットが乗っているのか気になりカメラを構えたまま近くに行けば、コックピットから降りてきたのはひとりの少女だった。
日の光が彼女を祝福しているようで、私は思わずシャッターを切った。
ファインダー越しに彼女は少し微笑んでいた。
その写真は隣にいたラル中佐にカメラごと取り上げられて、歴史の闇に葬られた。
カメラが返ってきたのはその少し後で、同時に私は第502戦闘航空団専属の従軍記者となるように言われた。
私としては願っても無い幸運だった。
そう思えたのはほんの一瞬で、攻勢部隊であるが故に固定の基地を持たず直ぐに移動する部隊に随伴するのは流石の元ウィッチでも辛いものがあった。
常に余所者であると言う感覚から解放されず、基地の中で厄介になり続ける。
記者になって日が浅い今だから私は大丈夫だが隊員には目に見えないストレスが溜まっているはずだ。
しかしその事を訴えるにしても報告するにしても従軍記者は準軍属の立場となり自由が一部制限される。
1944年
私は部隊専属の輸送隊に同伴して移動している。
ある意味では私を502に縛り付けることになった元凶のようなものだったが、現役ウィッチにして輸送機を操る彼女と話しているうちにそのような被害者意識などはどこかに消えていた。
気さくにブリタニア語を操る少女と私だけの輸送機の中は、広いのかと思っていたが大して広くはなかった。私が座っている航法士席の後方、貨物室は武器と弾薬を満載しており足の踏み場もなかった。
目の前の操縦席に座り重たい輸送機を操る少女は時々故郷ブリタニアの事を聞いてきた。
実のところ生まれも育ちもロンドンである私はあまりブリタニアの他の地域の事情に詳しくはない。取材のために全国を渡り歩いたことはあったがあくまでも取材の一環であった。
その上ロンドン空襲で新聞社の本社が破壊されてしまいこうして戦地に近いところで取材をし続けることになっている。
気づけばそのような愚痴を漏らしていた。
「随分と揺れますね」
「乱気流の近くを飛んでいますから。もう少しで抜けるはずです」
コックピットの窓に目線を向けると、左側に大量の雲が浮かんでいた。それが乱気流というものだった。その乱気流の中に赤く輝くものが一瞬見えた。
少しして無線が騒がしくなった。それと同時に少女がエンジンのスロットルを押し込んだ。
機内に響くエンジンの轟音と振動の四重奏が一際大きくなった。
「どうかしたのですか?」
「ネウロイ接近。戦闘に移ります」
「ネウロイ⁈」
さも当然のようにネウロイと言うが、それと戦う術を持たない機上とあっては恐怖の象徴のようなものだった。だけれど当のパイロットは全く動じることもなく、その恐怖も幾分か和らいだ。
「写真撮りますか?それならそこの屋根に観測窓がありますよ」
「気楽に言ってくれるじゃない」
それでもネウロイの今の姿を見るチャンスでもあり、恐怖を押し殺し航法士席にある観測窓から外を覗いた。
上空にはいくつもの白い線が浮かんでおり、それらが交差してはネウロイの爆発が小さく見えた。
カメラを構えていると、扶桑のウィッチに追いかけられたネウロイが真上を通過した。
咄嗟にカメラのシャッターを押し続ける。機体が激しく揺れて白い模様が描かれた景色が大きくずれていく。
大きく揺れ動く機体、ネウロイの姿が観測窓から見えた。
背後に回り込もうと旋回をしているようだった。小さなエイのような見た目をした個体だった。その後尾には垂直尾翼のようなものも作られていた。
「後ろにつかれた。回避する」
旋回していた機体が大きく跳ね飛ぶような動きで横に動いた。立っていられなくなり転倒しかけてしまう。
「座席に座って!」
「わ、わかった‼︎」
世界がひっくり返る。
コクピットには真っ赤な閃光が見える。だけれど不思議と機体に被弾した振動は聞こえてこない。
後ろから攻撃されているのにそれを見切っているようだった。ビームの熱がここまで伝わってくるようだった。
直掩が割って入ったのか急に攻撃が止んだ。機体の大きな揺れもおさまった。
戦いは急速に終息していった。
不思議なもので時間の感覚を忘れていた。
少しして基地が見えてきた。あまり大きくはない前線基地。しかしそこには他の部隊も到着しているようで滑走路の周囲は騒がしいように見えた。
整備中の戦闘機やストライカーユニットがそのように見せたのだろう。
一本の滑走路の左右に並ぶいくつもの航空機とユニット。基地全体が意志を持つ戦闘兵のようだった。
502の中で最も最初に降りるのがこの機体だ。非武装で荷物を乗せた輸送機などいつまでも空にいるわけにはいかない。
未舗装の滑走路に降り立った機体が砂を巻き上げ小刻みに揺れるのを感じながら、死の恐怖に纏わりつかれていた事にようやく気がついた。膝が震えていた。
「エンジンのチェックをしておくから先に降りていて構わないよ」
そう言いながら計器に視線をむけ続ける少女を、私は何枚か撮っていた。
輸送機を操りネウロイの攻撃を回避し続ける少女。ウィッチだからというのもあるだろうがそれでも神業染みている。
しかしそれは彼女にとっては日常のようなものであり、いつのまにか私も慣れてしまっていた。アレはそういうものなのだと思えるようになるほど、彼女はネウロイ相手に輸送機で優位に立っていた。時には単独での撃墜記録すらあると言う。
そんな少女は、ここに来るまでの経歴が全くの謎だった。元ウィッチであることに変わりはないのだがアレほどの動きができるのはエースウィッチくらいだ。そう何人もいるものではない。
少女のことが知りたくなり話を直接聞いてみることにしたのは、ロスマン曹長に少女の事を尋ねた後になってからだ。どうにも少女の話をすると悲しげな顔をする。
その理由を知りたかった。
「私のことが知りたい?502のメンバーじゃなくて?」
他のウィッチの子たち同様にその少女にも個室が与えられていた。
部屋に響く少女の声はどこか悩んでいる様子だった。
「ええ、是非とも教えてほしい」
「……軍機もあるからしゃべれないことが多いと思うけど……多少なら」
そう言って彼女は小さなレコードプレイヤーを持ってきて音楽をかけ始めた。それは私もよく知っているクラッシックの曲だった。
「最近音楽も好きになってきてね、お気に入りの曲も出来てきたんだ。特にこの人のは気持ちが落ち着くんだ」
「それで私の何を知りたいのかな?もちろん謎は謎のままの方が良い事もあるかもしれないけれどね」
それもそうだろう。記者として働き始めてから公開しない方が人々は幸せでいられる情報というのがたくさんあると言うことを知った。だけれどそれでも好奇心は刺激されてしまうのだ。
だから私は彼女に尋ねようとした。そのタイミングを測ったかのように基地にサイレンの音が鳴り響いた。
「ああもう‼︎空襲警報だ」
少女が走り出した。
外を見ると戦闘機とウィッチ達が一斉に滑走路に向かっていた。
その中には502のメンバーもいた。あのラル中佐も空に上がろうとしていた。
その時に離陸したのは基地所属のカールスラント空軍第312航空隊ウィッチ一個中隊。そしてブリタニア、リベリオン混成の連合軍第108戦闘機隊一個中隊。連合軍第502統合戦闘航空団の6人だった。
空襲は今まで502と共に移動してきた中で最も熾烈なものとなった。
冬将軍到来を前にして持てる戦力の大半をネウロイは投入してきたらしい。
非戦闘員として退避した防空壕の中では司令部と直通する緊急電話がずっと怒鳴り声を上げていた。
そのうちに基地全体が騒がしくなり銃声と爆発音が基地に響き始めた。
地上基地での空襲は2回体験したことがあったがその時とは比べ物にならないほどの激しい音と揺れが襲い掛かった。
爆発音が遠いうちに防空壕から出て外の様子を見れば、滑走路の端っこでビームと機銃が交差していた。
何度目か防空壕から出て空戦の写真を撮っていると、爆炎と黒煙が半分以上覆っている滑走路にウィッチの影が見えた。
直後後方の私がいた塹壕付近にビームが着弾した。土がめくり上がり、爆風で体が飛ばされた。
幸いにも土の上を転がっただけで済んだ私は、誰かに首根っこを掴まれて別の防空壕に連れ込まれた。そこは対空戦闘時に航空管制を行う半地下構造の施設だった。
『こちらレイブン1、離陸します』
聞き慣れた声。あの少女の声だった。ストライカーユニットを履いた彼女は飛び出そうとしていた。
「ダメだ。ラル中佐に止められている。離陸は許可できない」
無線機を持つ航空管制官の声に、怒鳴り声が重なった。
『そんな悠長なことしてたら基地が吹っ飛ぶぞ‼︎基地上空で迎撃するだけだ‼︎』
既に構えた重機関銃を空に向けて撃っていた。
「……離陸を、許可する。だが基地上空での迎撃に専念しろ」
了解とカールスラント語が聴こえて、防弾式の窓ガラスから見えていた彼女の体が動き出した。ストライカーユニットの爆音が戦闘音に負けないくらい大きく響いた。
空に上がった少女は、防衛線を突破し、滑走路を破壊しようとしていたネウロイを撃破し急上昇に転じた。
そのまま基地に迫っていたネウロイがいくつも空に白い破片をばら撒いて消えていく。
少しして基地を襲う振動がピタリと止まった。
塹壕から飛び出すと、上空ではたった一人の軌跡が空にいくつもの飛行機雲を作っていた。
未来が見えているのかのようにビームを避け、黒い体を赤く光らせるネウロイを火線が絡めとる。まるでサーカス、あるいは曲芸飛行でも見ているようだった。それほどまでに彼女の姿は美しかった。
ネウロイの攻撃はそれっきり基地に来ることはなく、十分の短い合間に司令部は戦闘が終了した事を宣言し空襲警報は解除された。
しかし被害は甚大だった。
あの戦闘で数十機の戦闘機がビームで消し飛ばされ、パイロットたちは全滅し迎撃に上がったウィッチ達も四人が戦死した。
介錯した方がマシな重傷を負った者も多く、数時間の内に死者の数は増えていく。
地獄の一端を私はただただ撮り続けた。その中にはあの少女の姿もあった。
MG151/20Umbau
MG151機関銃を20mmに拡大したモデルの改良型。主に1944年から量産が始まったためMG151/20 1944とも呼ばれる。
特徴的な変更点として給弾機構が金属製分離式弾帯となり元のMG151/20のように撃ち終わった弾帯を巻き取る機械やぶら下げたままとする必要がなくなった。
このためウィッチであれば保有弾数が増加し継戦能力が向上した。
またベルト給弾機構のため理論上はリロードの必要性はないが当時の分離式弾帯は5発の非分離弾帯を連結した構造で、250発以上は連結ピンの強度が足りず接続する事ができなかった。
なおウィッチ用として新たにスコープなどを搭載するためのレールが追加されハンドグリップと銃床が金属から木製に変更されている。
ハルちゃんの三走目
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ストパン2期
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