ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
軍で共同生活を送るようになって分かったことに、共同生活を続けると一週間で性格は表に出るというものがあった。
お姉ちゃんもよく言っていたし多分間違ってはいない。特に502の仲間は癖の多い人が多かった。
その中でもあの人は、結構不思議な人だった。感情の起伏が激しいというか子供っぽいと思えるところがあったかと思えば普通に扶桑でお世話になった教官のような逞しさを見せたりする。
でも一つ言えるのは、人の努力を踏み躙ることが異様に大嫌いなんだなってこと。
「うわあああ!」
「おっと危ない…」
柱を手で登らないといけない試験。何度か登っては落下してを繰り返していると、時々危ないってところが何回も訪れた。
そのたびにこうして彼女は私を受け止めた。大抵頭や受身が取れない姿勢で落下した時限定だった。
普段声をかけることもなく、どこにいるのかもよくわからないけれど、なぜか助けてくれる時だけは出てくる。そんな変わった人の印象だった。
「頭から落ちたら危ないから気をつけてね」
サングラスをかけたままで表情はよくわからない。だけれど心配してくれているのはその声で何となくわかった。
「あ、ありがとうございます」
「流石に即死と後遺症は魔法じゃ治せないし」
物騒なことを口走る。ちょっと震えた。
「怖いこと言わないでくれません⁈」
彼女の片腕は金属特有の硬さと冷たさを持っている。それが何なのかは少し前に教えてもらった。
だからこそなのか、言葉の重みが違った。
それ以来しっかりと受け身は取るようにしている。
「壁をよじのぼるってのは結構難しいものだからね」
ある時、私が塔を登る中下で冷やかしていた菅野といつのまにかそこに加わって何かを話していた彼女の声がふと耳に入った。少しして体がいうことを聞かなくなり落下して、地面から痛い刺激をもらって少しだけ休んでいるところでアドバイスを聞いてみることにした。
「コツとかってあるんですか?」
「んー……それは壁をよじのぼるコツ?それとも上まで行くだけのコツ?」
不思議な答えだった。
「それってどっちも同じなのでは?」
「全然違うよ。よじのぼるってのは方法の一つ、上まで行くだけならたくさんの方法がある。例えば……」
そう言って彼女は飛び上がって空中に静止した。菅野も私も驚きを隠せなかった。
「こうやって足場を空中に作って登る方法もあるよ」
「うぇ⁈どうなってるんですか‼︎」
「空中に障壁を張ってその上に乗っかってるだけだけど」
さらりと言っているけれど……ああこの人もやっぱりロスマンさんと同じで凄い人だったんだな。
「障壁……シールドにそんな使い方が……というかよくユニット無しでシールドを出せますね」
ゆっくりと地上に降りてきた彼女は何事もなかったかのように他の方法もあるよと実践していった。壁に両手で張り付くところは同じでも、そのあと体を振り子のように左右に振って上に大きく飛翔したり壁を脚だけで登っていったり……
「後は魔力消費を抑えるために二足歩行で足裏だけで壁に張り付くとか、いっそのこと魔力を使わないでクライミングするとか」
「ですが、これは魔力の使い方を……」
「でもロスマン教官が言ったのはストライカーユニットを使わずとってこいでしょ?方法を指定していないってことは努力と工夫次第ってことだよ」
例えば手だけに魔力を流して魔力量の低さを補うとか。
「でも魔力なしのクライミングは……」
流石にこの壁に指や足を引っ掛ける隙間はない。
「まあ考え方は教えたわ。後は自分で考えなさい。魔力量なんて少なくてもコントロール次第でどうにでもカバー出来るわ」
結局それ以降彼女は私に声をかけることは無かった。
それでも、少ない魔力量をどうやってやりくりするかを考えるきっかけにはなったのかもしれない。
次の日、私は帽子を回収する事に成功した。土砂降りだったし天候大荒れだったけど。
「あんた……あいつに何教えてるんだよ」
「元々諦めさせるための無茶振りなのだから向こうだってそれなりに無茶振りしてもらわないとフェアじゃないでしょ」
「チッ、お人好しめ」
「一応教官補佐だからね。それに菅野さん、貴女もほぼ毎日見ているって事は心配しているのでしょう」
「……違う。単純にいつ諦めるか賭けをしてるだけだ」
次に彼女と喋る機会があったのはその数日後。
大量のネウロイの迎撃の時だった。
ブレイブウィッチーズは攻勢部隊で、基本的にどこかの基地に所属しているわけではない。遊撃隊として常に前線を移動し続ける。そういう部隊だった。その日も最前線の活発化に合わせて訪れた基地で大規模な空襲を受ける事になった。
迎撃に上がったのは502だけじゃなく基地のウィッチや戦闘機も沢山いた。
それほど大規模な空襲。この頃、ネウロイの多くはまず超低空で最前線に配備した警戒レーダーを破壊して基地や街に攻撃を仕掛けていた。
だから大抵離陸から迎撃までの時間的余裕はあまり無かった。
戦う事自体は初めてではない。だけれどあそこまで大勢で迎撃をしたのはあの時が初めてだった。
乱戦になって、周りでは黒煙を上げて落ちていく機体や破壊されたネウロイの白い結晶が撒き散らされ目が回りそうになる。情報量が多い。初めて経験する乱戦だった。
今日のバディはロスマンさんだった。
「回避‼︎」
「え?……うわわ‼︎」
炎上する戦闘機が私達の真上から進路に飛び込んできた。
反応が遅れた私は回避方向を間違えて、ロスマンさんとはぐれてしまった。
黒煙が消えた時には周囲は乱戦になっていた。
背後からネウロイ⁈
チドリの性能で引き離そうとするけれど向こうも食らいついてくる。上昇合戦では空冷式のチドリのエンジンではすぐに出力が出なくなってしまう。
左右にシザースをしようとするけれど全く撒くことができない。このままじゃジリ貧だった。
さらに私に気づいたネウロイが前方に逆さ落としで割り込んできた。
やられる‼︎そう思って目を閉じてシールドを張ったけれど、いつまで経ってもシールドに衝撃はこなかった。
「全く、背後につかれたらオーバーシュートで前に出せと言っただろ」
気がつけば周囲にいたネウロイは一体残らず消失していた。
「えっと…ジークフリンデさん?」
あっという間だった。
私が一丁持つのがやっとな大きな機関砲を二丁持ち、さらに予備弾薬を大量に携帯していながら、全く重たそうに見えない軽快な動きで私の隣に並んだ。
「流石に基地がやられるかどうかの時に上に上がれないのは我慢ならない。ロスマン曹長はどうした?」
「えっと……逸れました」
「なら私のバディにする。ついてこい」
彼女の戦闘は、私が新型を使っているにも関わらず追いつくので精一杯だった。
聞けば使っていた機体はチドリと大して性能差はない。高高度戦闘がしやすいというだけで中高度での出力ではチドリの方が優っていた。
それなのに圧倒的な戦闘を繰り広げていた。
機銃弾があっさりと2体のネウロイを絡め取って、粉々にした。たった1連射。それだけでネウロイは落ちていく。まるで手品みたいだった。
さらに背後上空から逆さ落としを仕掛けてきたネウロイにすら素早く火線を伸ばす。
私が振り返った時には既にネウロイは破壊されていた。
「ぼさっとするな!まだいるぞ!」
「はい!」
視野が狭くなっていた。すぐ近くをネウロイが通過しようとしていた。それに向かって銃を振り回す。だけど弾丸はネウロイの後ろを通過していく。
「もっと前を狙え……そこだ!」
言われるがままに引き金を引いた。数発がネウロイの黒い胴体を貫いて、空中に四散させた。
その時にはその周りにいたネウロイもいつの間にか消えていた。ジークフリンデさんが倒してしまっていたらしい。
「今のであらかた撃破した…みたいだ」
滑走路はほぼ無事で、基地への被害は最小限で済んでいた。だけれどそのかわり基地の周囲は地上からいくつもの黒煙が立ち上っていた。それら全てが戦友だった者達が残した……空の墓標。
その一つにジークフリンデさんは降りて行った。
木々の枝にストライカーユニットの残骸がばら撒かれ、その下で激しく炎上しているストライカーユニット。それを履いていたウィッチは、変わり果てていた。
ついさっき基地にきた私達を出迎えてくれた基地所属のカールスラント空軍飛行隊の隊長だった人だ。もうすぐアガリが近いと言っていた女性はお腹を上下に分断され、僅かに無事だった骨と内臓がかろうじて下半身を繋いでいる状態だった。
上半身もビームが直撃したのか左腕から胸の辺りまでごっそりと削られていた。
それでもまだ息はあった。光の無くなりかけていた瞳が少しだけこちらを向いた。
少しでも楽にしようと回復魔法をかけようとして、それより早く乾いた音が1発。そして瀕死の女性は動かなくなった。
「……」
「そ、その人はまだ生きて……」
「もう助からないわ。このまま苦しむよりこうしてやるのがせめてものやすらぎよ」
見ればそんなのはわかる。いくら回復魔法があっても治せる限度というものがある。お腹から体が上下に轢断していたら……
それでもそれを良しとしてしまったら何かが壊れてしまいそうな気がした。
「私が上がってすぐ、目の前でネウロイにやられたのよ。私の銃じゃ間に合わなかった」
「それは……」
「責めるのなら、強くなりなさい」
顔を見せることなくジークフリンデさんは飛び上がった。私は何もいえなかった。
「ごめんなさい。頭に血が上った……頭冷やしてくる。貴女も気分が悪くならないうちに戻りなさい」
少ししてロスマンさんと合流できた。ロスマンさんはストライカーユニットを半損させていて低空を飛ぶのがやっとだった。
ことの顛末を説明したら、どこか寂しそうな表情をしていた。
「あの子は……ごめんなさいね。色々複雑なのよ」
最終的に基地には戻って来れたのは私達ブレイブウィッチーズを除いて戦闘機36機中12機、ウィッチ10人中6人だった。
24機の戦闘機のパイロットもウィッチも全員戻らなかった。
「もう今更、私の手はとっくの昔に同胞の血で汚れているのよ。今更1人2人増えたところで何も変わらないわ」
「ならなおさら貴女は戦場にいるべきじゃないわ。ラル中佐には話しておくから……」
「また悪夢に悩まされる日々に戻れって?私はもう戦場に頭から浸かってるのよ今更日常になんか戻れないわ」
「そんなこと……」
「あると思う?道をゆく車の音でも、日常の些細な音でも強いトラウマを思い起こしてしまうの。でもここなら……そんな事はない。だからどうなろうと私はここにしがみつく」
零式多目的排土車
製造国
扶桑
製造会社
大松製作所
八九式多目的排土車があまりにも陳腐な見た目であり単車としてのスペックにおいても他の国の排土車よりも劣っていたことから扶桑国陸軍が製造を依頼した新型車。
車体はトラックの台枠に鉄板をボルト止めしたオープントップの車体を被せたものとなっている。
エンジンとしてトラックに使われるガソリンエンジンを流用し現地での整備性を確保しつつ、やはり足回りもトラックのものを流用しているためキャタピラではなくタイヤとなっている。
それでもベニヤの八九式よりかは随分と立派なものとなり性能もさることながら車輪駆動のため市街地や基地などでは機動性が高かった。
ただし車体サイズの割に重量が足りず死重を乗せるのは相変わらずだった。
あだ名は鉄板の玩具
しかし名前のわりに整備性は良好な上に舗装されている場所では無双の機動性があったため都市復興に大いに役に立った。
たまに鉄板を外してベニヤとした軽量化個体もあったが本土では気候の関係で木造の耐久性が悪く早々に鉄板に戻された。
ハルちゃんの三走目
-
ストパン2期
-
RtB
-
アフリカ