ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
基地の復旧は想像以上の速さで行われていった。
穴だらけになった滑走路も熱線により吹き飛ばされた防空陣地も1日後には何事もなかったかのように穴が埋め戻され、どこからか運ばれてきた機銃が再び取り付けられた。
それでも基地に残った被害の爪痕は消えるわけではない。
滑走路の端っこに積み上げられた残骸、基地の医務室だけでは病床が足りず天幕が張られ負傷者と死体がいくつも担ぎ込まれた救護所の光景。
わずか数時間のうちに破壊と構築が繰り返されていく。
死者45名、負傷者32名。それがこの基地の負った人的損害だった。
数字で言うのは簡単だが一人ひとりの人生があったのだと思えば、数字で語って良いものではない。だがわたしには彼ら彼女らの事を知る術は残っていなかった。
だから出来るだけ写真を撮った。その地で起こった事を出来るだけ残そうとした。
負傷者からも話を聞けるだけ聞いた。
しかしそれもすぐにできなくなった。
戦いが終わって10時間。ふと立ち寄った指揮所の近くで、ラル中佐と基地司令のマッキンレー少将が話しているのが聞こえた。
盗み聞きをするわけではなかったが、つい気になって使い魔の力で聞き耳を立てた。
「受け入れ不可能とはどういうことですか?」
「先ほどの攻撃で基地のレーダーシステムと無線システムに不調が出ている。どうやら故障したらしい。それに基地の弾薬庫と食糧庫もやられている。正直この基地では君たちを置いておくことは出来そうにない」
マッキンレー少将の声はどこか悔しそうだった。
「しかし基地戦力は壊滅状態です。このままでは……」
2回目の攻撃があったら耐えられない。そう言いたかったのだろうか。
しかしラル中佐のその言葉は遮られることとなった。
「君達502にここの基地の護りまでさせるわけにはいかんよ。ラドガ湖のすぐ近くに前線基地がある。規模は小さいが、無線設備もここより幾分かましだ。司令部に掛け合ってそっちに行けるように手配する。なに自分たちの身は自分たちで守るさ」
「でしたら基地移動までの間、輸送隊をお貸しします。飛行機での輸送ですので重量物は運べませんが食料と衣料品、弾薬輸送ならお力になれるはずです」
「忙しくなった……」
荷物輸送とはいえど一度後方に行くには変わりがない。だから私も準備と荷物を整えるために一度機上の人になろうとした。
ややしぶられたものの写真フィルムの補充の必要もあるといえばジークフリンデは許可を下ろしてくれた。
数時間のうちに大量のフィルムを消費しており、またいくつもの取材メモも会社の方に送っておきたかった。
しかし意外なことに輸送機には私とジークフリンデ以外にも2人の乗客がいた。
「勝手にストライカーを履いて出撃した罰よ。営倉送りにならなかっただけマシだと思いなさい」
ロスマン曹長と502のトップであるラル少佐。
格納された補助席を降ろして堂々とした態度で座る2人に対しても、少女は顔色ひとつ変えず機体を飛ばす準備をしていた。
「貴女方も輸送に同行するのですね」
少し意外だった。
「物資調達なら得意分野だ。それに少し向こうに行く用事ができてね。パウラは付き添いだ」
ロスマン曹長はよくパウラというあだ名で呼ばれている。だけれどジークフリンデはそのあだ名で彼女を呼んだことはない。
一線を常に引いている。そう捉える事もできるが、そのような雰囲気は特にない。
「後方基地に用事ですか?」
「まあ色々あるのだよ」
ラル少佐は肝心なことは答えてはくれない。ただ、それを深く聞こうとは思わない。
そうしているとエンジンシリンダーが動き出しプロペラが回る音が聞こえてきた。四つあるエンジンが全て動き出すと騒音で周囲の音は聞こえづらくなる。
「なら乗客三人、快適な空の旅をお楽しみください」
その中でも凛としたでもどこか無機質に寄っている少女の声が響いて、エンジンの音が一際大きくなった。
体が座席に押しつけられる感覚が強くなる。
離陸してから少しして機体が安定を始めた。その頃になれば私もシートベルトを外してハルのそばに寄っていた。あの記者は飛び立って早々に寝息を立て始めた。元軍人とは言っても何十時間もずっと駆け回っていたのだから仕方がない。それに今はそっちの方が好都合だった。
「……いいかしら。ハル」
空白の副操縦士席に入り込み、横目で彼女を見れば、眉ひとつ動かさず人形のように前だけを見つめている顔が映った。
普段いろんな表情をしているだけあってこうして無表情のような、無機質のような表情というのは珍しい。いや、もしかしたらこれが素なのかもしれない。
「人違いですけど……まあいいです、どうかしましたか?」
「どうして飛び出したりしたの?無茶をしたらどうなるかわかっているでしょう。それとも英雄気取り?」
「そんな崇高なものじゃないです。あの時、誰かを護りたいって想いとは別に戦いたいって願望が体を支配していました」
それでも口に出したことは本当です。
嘘をついているようには思えなかった。
「それは……」
「闘争、復讐心とは違うただの……戦いたいというどうしようもない感情です」
復讐心で飛んでいる子は多い。彼女だって最初に出会った時はそうだった。だけれど戦いたいという本能から戦いに身を投じるなんてあまりにも狂っている。
「気付きました。結局私は戦いの中でしか己を見出すことしかできないんです」
「……なら、戦わない方法で存在意義を見つけ出す訓練が必要ね」
「協力してくれますか?」
正直なところ心理学は専門外だけれど、それでも教え子のことを放って置けるわけではない。
「ええ、可能な限りね」
「積み込み完了です。怪我人を乗せてまた戻ってきますのでそれまでには戻ってきてください」
滑走路脇で荷物の積み込みが終わった輸送機に戻りつつハルはそう言った。
急ぐようにして機体が動き出し、暖機運転もそこそこに空に飛び立った。物資の多くは医療品と弾薬で、それが積載量ギリギリまで積み込まれていた。
「今更だが……彼女を戦場に連れ戻したのは間違いだったかもしれないな」
ラル少佐がつぶやいた。
「本当、今更ですね」
「だが、彼女の力が必要なのも事実だ。現状我々は個々の犠牲を躊躇できるほどの余裕はない」
部隊を指揮する者にとっては、人は数とみなすしかない。死んだ者一人一人の顔を思い浮かべてしまっていたら戦闘指揮など出来ない。
それは私も戦場で部下を持つようになって実感するようになった。
地上で吹き飛ばされた戦友、掌握下に入れた若いウィッチが落とされる光景。
それでも意志力で全てを黙殺するしかない。
だけれど時々我に返るとその時ただの数字と見做した人達の事を思い出す。
「分かっています。ですが戦場には極力出さないようにしないといつか失ってしまいます」
笑えるほど甘い気持ちだった。自己満足の域に入るのかもしれない。それでもそう言いたかった。不思議なものだ。戦場に出すために教育をしたのにも関わらず今度は戦場に出したくないだ。
一方的な気持ちの押し付け。だけれど不思議とその気持ちの押し付けを許してしまう。魔性なのだろうか?
「分かっている。ここにきた目的も半分ほどそっちだからな」
「それで、アントナー・S・ハルは死亡したと?」
私達502JFWはその性質上指揮系統が複雑化しやすい。
防衛部隊として結成されたわけではなく攻勢部隊として常に戦場を移動する関係上どこの国の指揮系統にも一時的に編入される。そのため実際の大元である国連軍東部方面軍の最高指揮官の指令以外でも動く事がある。
今目の前にいる元帥も本来であるなら502の直接上官に当たる人物ではない。
ただハルの捜索を依頼していた人物に過ぎない。それでも作戦立案などに深く関わっている他、彼自身がハルを狙う派閥の一人であるからこそこの報告を上げる事にしたわけだ。
これでどれほど奴らが乗ってくれるかはわからない。それでも時間は稼げるはずだ。特に戦時中なら。
「ええ、先日行方不明になっていたストライカーユニットを発見しました。機体の番号からハルのもので間違いはないでしょう。その近くにはネウロイとの戦闘の形跡もわずかに残っていました」
「しかし最後の出撃の際彼女は西へ向かったのではなかったのかね?」
流石に不審に思われたが向こうとしても死んだという最も欲しい事実を無視することはできない。
「途中で方向変換をしたと考えられます。燃料においても偏西風を利用すれば飛行することは可能です」
実際に彼女が使っていたユニットは彼女経由で私たちが確保している。元々壊れていたものだ。証拠を求められても問題はない。案の定彼はストライカーの引き渡しを迫った。
快く快諾すれば拍子抜けした様子でこちらが何も知らずにただ事実を上げているのかもしれないという憶測を強くしていたようだった。
「……承知した。報告書は受け取る。これ以降の調査はこちらで行う。貴官は通常の任務に戻ってくれ」
憶測をいくつも浮かべていたけれど彼は不備を突っ込むことは出来なかった。内心としても最も欲しい事実だから否定はしたくないのだろう。人というのはそういうものだ。
「了解しました」
部屋を出るときにそっと振り返ると彼はどこかに電話をかけていた。
おそらくハルの事はすぐに伝わるだろう。これで良かったの……良かったよのね?
気づけば自然と声が出ていた。
「これで良かったのですよね……」
最初こそ確保したハルを隠し通す算段だったけれど、彼女に伸びる手は相当に早かったらしい。ラル少佐は詳しいことは言わなかったけれど相当焦っていた。そのため急遽ハルの軍籍を抹消する事にした。それが正しいのかどうかはわからない。
この事を知っているのは私とラル中佐だけ。
「本人の承諾は取っていないが、軍部から身を守るためにはこれしかないさ。幸い他人になりすますのは難しいわけじゃない」
戦争が残した負の側面。その一つを利用する。正直褒められた事ではない。だけれどそうする以外に私達は彼女を魔の手から逃す方法はなかった。
「全く柄にもない……後で本人に伝えてくださいね」
「分かっているさ」
この事を知ってハルはどう思うだろうか……怒るだろうか泣くだろうか?それとも、苦笑いをして気にせずにいつも通りの生き方をするのだろうか。
多分そうだろう、そんな気がしていた。
輸送機が戻ってきたのは1時間ほど経ってからだった。
機体の昇降口から重傷者が担架で運び出されては建物に運び込まれていった。
その光景を押さえ込み、感情を殺す。同情するのも哀れむのも今ではない。この戦争が終わって数字で覚える必要が無くなってからだ。
「……忘れません」
「そうだな……絶対に忘れるわけにはいかないな」
荷物と共にどこからか戻ってきた記者と共に輸送機に乗り込めば、ハルはずっとコックピットにいた。
「燃料給油完了まで後10分。フライト前チェック」
淡々とした口調で読み上げられていくチェックリスト。
輸送機が離陸するまで機内は負傷者が残した特有の血の匂いと澱んだ空気にどこか無言だった。
薄暗い室内はどこか不気味だった。帰りもまた食料などの輸送をするため貨物室には荷物が満載されていたがその荷物の隙間から視線を感じるような気がした。
それでも空に飛び立つ。輸送機の動きに狂いはない。それを操るハルは相変わらず人形だった。
「なあ、隣良いか?」
ラル少佐が動いた。少しして複数の言語による会話が始まった。
言語の変換についていけず蚊帳の外に追い出された私は、少しだけハルの表情を見ていたけれど結局その表情は苦笑だった。やっぱり予想通りというか、なんだか少し悲しくなる。
私は自分達の行った一人の少女の抹消という事実から目を背けたくて、外を見ようと上部に設けられた観測窓から暇潰しに周囲を見ていた。
双眼鏡があればと思ったがこの窓は天体観測用の窓だから双眼鏡はついていない。
高度5000を巡航速度で飛行する輸送機は普段ストライカーを履いて飛ぶよりも静かで、エンジンの騒音と外気の寒さが体に染みた。
座席に戻ろうとしてふと、視界の隅に違和感を感じた。思わず降りかけていた腰を再び椅子に戻して空を見た。
夕焼けになり始めた空の向こう側、黒い粒のようなものが前方上空に現れて、そこから複数の赤色の光が伸びてくるのが見えた。
超大型指定厄災国連識別番号八番
通称「アルケオプテリクス」
武装
対空用小型ビーム照射装置100門
地上攻撃用ビーム発射口4門
最高速度
推定100km/h
最大飛翔高度
推定6000m
ベルリン大空襲時に始めて観測された超大型ネウロイ。大型ネウロイの中では8番目に確認されたものでありほかの大型ネウロイよりも一回り以上大きい。
外見の特徴は船の船体を上下逆さまにして二つ横並びにさせたものに台形の翼が左右についた構造。垂直尾翼のようなものはなくエンジンと思われるものは胴体中央部分にエンジンのような丸い筒状のものがある。
兵装は胴体中央部分と上部、下部にそれぞれ小型の半球体のような突起物がありそこから小型の砲身のようなものが飛び出して対空ビームを発射する。
胴体下部二箇所、上部二箇所に口径12インチの単装砲を備えており主に地上を薙ぎ払うのに使用されている。
ハルちゃんの三走目
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ストパン2期
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RtB
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アフリカ