ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
「敵襲‼︎」
いくつものビームが機体の側を通過した。気づけば機体が大きく左右に揺れ、私は副操縦士席に座り込んでいた。
エンジンが大きく唸り、黒い影が窓の向こうに見えた。機体の中から切り取られた小さな空だけでは戦場を見ることは叶わなかった。
「メーデー!メーデー!メーデー!こちら第502JFW第一航空輸送隊!現在ネウロイの襲撃を受けています!」
幸い後席にいたロスマン曹長が無線機で救援を呼んでいた。
「基地が攻撃を受けています!現在こちらに回せる戦力は無いとのことです」
ストライカーがあれば私達が護衛に行けたが、無いものは仕方がない。悔しいが今この場では……
「……ッ‼︎」
大きく急旋回した直後、小さな呻き声が聞こえた。脇腹を抑えるハルの姿が視界の横に映って、戦闘中にも関わらずそちらを見つめた。
「どうしたジークフリンデ中尉?」
「なんでもありません……」
脂汗を浮かべながらも操縦桿を操作するハルが大丈夫はなずはなかったが、この場では強く言えなかった。いや、何かできるはずだ。
「武器は?」
「医療品の箱の側にMG43があります」
片手で指を差した先には、一丁だけだったが機関銃が置かれていた。弾丸は小さいが相手は小型ネウロイ。勝算は十分。ならば後は……
荒い息遣いが聞こえてきた。彼女に何か異常が起こっているのは確かだった。だがここで私が彼女につきっきりになるのは無理だ。まずはこの場を乗り越える。
「中尉、操縦桿を借りるぞ」
「ラル中佐⁈」
「任せたまえ、これでも操縦免許は持ってる」
このデカブツを飛ばしたことは無いのだがな。まあ基本は同じなはずだ。
「……分かりました。ユーハブ」
流石に観念したのか操縦桿から彼女は手を離した。
「アイハブ。ロスマン、敵の位置は?」
「方位090!真後ろから来ます!」
敵は2体。貨物を積んだ鈍足の輸送機ではなかなか困る相手だ。ラダーを踏んで横滑りをさせたいが大型機はバランスが崩れやすい。
急に機内に冷たい風が吹き荒れた。後ろでロスマンが側面の乗降扉を開けて身を乗り出したのだ。
「狙いが定めきれない‼︎」
揺れる機体から銃座無しで狙いを定めるのだ。当然そうなる。
回避のために上昇。ビームが主翼の真後ろを通過したのがバックミラーに映った。
まずいな……ジリ貧だ。
体にかかるGと死と隣り合わせの緊張で呼吸が荒くなる。それでも、たとえ脳に十分な酸素が送られていなくとも、血が頭に上がらず視界がブラックアウトを起こしかけても私の頭は異常に冷静だった。
「水平飛行を維持、右に旋回方位062」
隣から声がした。ひどく落ち着いた声だ。ああ、下の階級の者に指示を受けるなんて指揮官として失格だなちくしょう。
「了解した!」
それでも体は機体を動かす。久しぶりではあるが中々覚えているものなのだな。
後ろでMG 43の独特な射撃音が聞こえた。1連射。1秒にも満たないその音と共に、爆発音が聞こえた。
「ネウロイ撃破!もう一体上から来ます!」
機体をロールさせて上からの攻撃を避ける。翼が軋みを上げ、重たい機体を支える。主桁が今にも折れそうだ。
「左旋回290!同時に機首上げ20度!」
再びの指示。同時に体にかかるGが強くなった。自分の腕が定められた動きをしただけだと気づいた時には、後ろから再び発砲音が響いた。
「ドンピシャ‼︎」
同時に赤い光が翼を掠めた。
高熱で表面のジュラルミン板が融解した。
「周囲に敵影無し。ネウロイ殲滅です」
だけれど結局被害らしい被害はそれだけだった。
「全く、冷や汗物だよ」
ハルは操縦席で蹲るようにして体を抑えていた。
「大丈夫なの⁈」
操縦席を覗き込んだロスマンが記者と共に彼女をコックピットから引き摺り出した。
操縦に手を取られ彼女がどうなっていたのかは定かではなかった。
機体はもうすぐ基地に着く。医務室が無事であれば良いのだが……
結果から言えば彼女は肋骨の骨折と打撲を起こしていた。
どうやら荷物を積み込んでいる最中にトラックに撥ねられたそうだ。
その場でどうして言わなかったのだと問い詰めたが、任務の方が優先だと言われてしまった。軍人としてはそうなのかもしれないがハルを失うのは大きな損失だ。すぐにでも病院に送りたいがそうも言っていられない。ともかく医務室で安静にさせるしかできなかった。
しかして私達は別の基地に移動しなければならない。彼女の代わりとして輸送機は私が操縦することとなった。
予備のストライカーと弾薬を載せられるだけ載せた可燃物と化した機体は運の良いことにネウロイの襲撃を受けることなく基地へ持っていくことができた。しかし輸送の滞りが私たちに与えていた影響は計り知れないものだった。
結局私達は彼女の力がなければ継戦能力を維持できなくなり始めていた。
それほどまでに軍部の圧力と利害関係、対立は私達を飲み込んでいたのだが……
機体の整備は待ってくれない。
軍用機は機械的に無理をして作られて少し動かすだけ、いや動かさずにおいておくだけでもどこかしらが壊れる。
ストライカーユニットも例外ではない。必ずどこかが壊れるし部品は摩耗する。オイルだって基本的には一回の飛行ごとに追加で注油しないといけない。
整備班に任せておけば良いと言われるけれど、自分達が命を預けるものだから私は自分で手入れを行う。
たまに手伝いにくるあの不思議な少女以外、そういう時は静かだったけれど、その日は朝から妙に騒がしかった。
ジークフリンデ中尉が格納庫内にきたかと思えば凍結に強いオイルを持ってきたから置き場を確保したいと言い出し、かと思えば機体の整備を一緒になって始め、それが終われば今度は輸送機を格納庫から引き出しエプロンで作業をしていた。
かと思えばラル中佐とクルピンスキーがやってきてはジークフリンデ中尉をどこかへ連行しようと簀巻きにしていた。
多分医務室から抜け出してきたのね……
飛行隊長としての業務もあるから私はその光景を尻目に臨時の哨戒任務の人選のため事務所に戻ったけれど、ジークフリンデ中尉ってどこかで見たことがあるなとふと思い出した。
だけれど記憶を辿る前に目の前の仕事に忙殺されそのことはすっかり忘れてしまっていた。
臨時で組み込まれた哨戒任務についたひかりさん達が飛んでから1時間ほどして雪が降り始めた。まだ冬には早い季節。だけれど午後を回ってから急激に気温が下がった。ネウロイの瘴気で環境や気候に影響があるというのは聞いていたけれどここまで悪化するなんて……
さっき格納庫で多少話した程度だけれどあの三人のことが気にかかる。新人のひかりさんはこのような悪天候の飛行は経験が少ないしジョゼさんと下原さんもやはり悪天候の飛行は苦手なはずだ。
仲間なのだからというのもあるけれど二、三軽く話した程度の会話が最後の会話になってほしくない。
だけれど状況は刻一刻と悪化していた。
「行方不明?」
レーダー室を兼ねた発令所に私が到着した時、真っ先に無線手から告げられた報告はそれだった。
数分前に三人との通信が途絶えたのだ。
彼女達が飛行していた空域は吹雪が強くなっていて、基地周辺も雪と風が強くなっていた。
季節は確かに冬に向かってはいたが、急に吹雪が発生するなど想定外。その上無線機の調子も悪くなり始めた。
滑走路も積雪が発生して除雪車を引き出す始末。発令所と飛行場の管制室は大忙しになった。
「もう一度コンタクトを取って。全周波数で呼びかけるのよ。緊急回線も使用して」
レーダーでは探知不可能な距離を偵察していたためレーダーで捜索することはできない。頼りの無線機をどうにか修理しつつ指示を出していると軍靴の奏でる乾いた音が部屋に響いた。
「やっているようだな」
「ラル中佐!」
「消息を絶った三人についてだが、墜落した可能性が高いと判断する。現在時より捜索班を編成する。人選はサーシャに任せた」
「わかりました」
だけれどそうしている合間にも天候は悪化していき吹雪が吹き始めた。
気温も急激に下がり、オイル凍結と路面の凍結が多発していた。
私にとっては懐かしい、でもどこか思い出したくないと頭が否定する光景。
幸いストライカー用のオイルは寒冷地用のものをジークフリンデ中尉が運んできていたおかげで動かすことはできそうだった。
細部の凍結防止もそこそこに皆の準備も中頃となったところで無線が鳴った。
『こちらジークフリンデ中尉。離陸準備完了。いつでもどうぞ』
「待て。まだ療養中だろう。離陸は中止だ」
ラル中佐が制止をかけた。彼女に命令を下す権限を持っているのはラル中佐だけ。こちらとしても普通の大型機での捜索は会敵時のリスクが高すぎる。
『天候が悪化しています。このまま悪くなればウィッチでは飛行に支障が出ます。大型の飛行機なら多少天候が悪化しても問題はありません』
「だが……いや、許可をする。ただし無理はするな。準備が出来次第こちらも空に上がる。だから逐一報告を回せ」
一刻を争う状況、それも人命がかかっている状況でラル中佐は『中佐』としての判断をとった。
『了解』
「なら私も行きます」
「アレクサンドラ大尉?」
普段のサーシャ呼びではない。指揮官としての反応だ。
「ここは私の故郷。雪の中での行動なら私が最も優れている自負があります」
実際吹雪の中での飛行は何度も経験した。それに飛行隊長でもある。部下の安否を確認するもの上官の義務だ。
「……わかった。それ以外の者は即応待機だ」
『ストライカーの積み込みは時間がない。幸いこっちは武装した機体だから何かあっても気にしないで』
耳に取り付けたインカムから届く声は単調だったけれどどこか自信に溢れていた。あるいは強がりなのかもしれない。
「了解していますわ」
指揮所から格納庫へ向かい普段使っている武器を引き出して滑走路に向かうと、レシプロ機特有の爆音を響かせた機体が滑走路の隅っこに止まっていた。
そこにいたのは中型の機体。一体どこから持ってきたのかそれはカールスラントの爆撃機Ju88だった。確か格納庫に何機かあった機体であるのは覚えている。機体番号を見ると別の基地へ移動となった爆撃隊が置いて行った機体であるのは間違いなかった。
しかし乗っているのは一人だけ。なんとも贅沢な乗り方だった。
「爆撃機で捜索ですの?」
コックピットにいるであろうジークフリンデ中尉と無線越しに話をしつつハッチを開けて機内に体を滑り込ませた。
「航続距離も長いしこの機体は下の方の視界が広いから下手な機体より捜索能力は高いよ」
なるほどそう言われれば理にかなっている。であればコックピットから一段下の全面ガラス張りとなっている場所が最も見えやすい操縦手席の隣に移動するべきね。
乗り込んですぐに体が後ろに引っ張られるような感覚と共に機体が動き出した。プロペラの回転で雪が舞っているのが見える。
「問題は季節外れの吹雪と日没。日没まで4時間あるけどこの天候じゃすぐに暗くなっちゃう」
「そうね。なら急ぎましょう」
「吹雪いてきた。視界不良、高度を下げる」
「ダメ。高度はこれ以上下げると木にぶつかる。高度そのまま」
風に煽られ機体が大きく揺れる。天候は大きく悪化し強風と大量に打ち付ける雪で周囲の視界は殆どなくなってしまった。
湖を越えてペトロザボーツクという街の上空をフライパスしたが既に避難の終わったその街は雪の中に隠れていて何も見えなかった。
周囲の林間部まで捜索を広げたけれどこれまで2時間全く手がかりはなくただただ悪化する天候によって発見確率だけが落ちて行った。
「……わかった。高度はこのまま。あと1時間粘る」
「わかったわ。あと1時間が限度ね」
「……‼︎」
「前方の地面!緑色のストライカーを見つけたわ!」
「あった!紫電改ね……」
だけれどその直後、機体が大きく下がった。下面が木々に擦れる音がして翼が枝を叩いたのかバリバリと引き裂かれる音が響いた。
「吹雪が激しい。機体が持っていかれる!旋回不可能!」
操縦桿をめいっぱい引いたジークフリンデ中尉。機体が一瞬上を向くけれど、次の瞬間左下に叩きつけられるように揺れた。
「乱気流⁈」
左を見れば翼にいくつもの氷が張り付いていた。似たようなことが起こるのは乱気流に飛び込んだ時と昔読んだ本に書いてあった。
「いやこれは……」
ふとジークフリンデ中尉の顔を見た。その怒りに満ちた表情にようやく彼女をどこで見たのか思い出した。
リバウから来て墜落しネウロイと戦っていたあの少女。アントナー・S・ハル。でもそのことを考える余裕はなかった。
「あれは……」
彼女は何かを見つけたらしい。だけれど私がそれを見る前に機体は大きく横を向き、翼端を木々に擦りながら気流から離脱していた。
ただ、一瞬だけ黒い何かが空にいたような気がした。
DP28V軽機関銃
製造国オラーシャ連邦
口径7.62mm 使用弾薬7.62x54mmR弾 装弾数47発
作動方式ガス圧作動方式
発射速度500-600発/分 銃口初速840m/s 有効射程800m
1927年に設計されたオラーシャ連邦の主力軽機関銃。
整備性と耐久性を重視して設計された機関銃であり初期型は部品点数が少なくやたら頑丈であった。
その反面リコイルスプリングがガスピストン近くに収められており射撃に伴ったガス管の過熱の影響を受け、熱膨張による変形が作動不良を引き起こすことが多かった。
アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉が運用するDP28はウィッチが航空戦で使用する事を前提に改良されたモデルであり通常型のDP-28との違いは二脚式の脚がなくなり銃床部を短くしているほか減音器の形状の違い。取り回しをしやすくするため銃身部をやや短くしている。
そのため散布界が通常型より広がっているがウィッチの平均交戦距離が500m以内であることから問題ないとされた。
ハルちゃんの三走目
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ストパン2期
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RtB
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アフリカ