ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
「雪は止まないわね」
激しく揺れていた機体は嘘のように静かに吹雪の中でも滑らかに飛んでいた。
「仕方がありませんこのまま着陸します」
雪に埋もれた滑走路は除雪が間に合わないのかはたまた除雪しようにも天候が悪いのか誘導灯の光すら見えない状態だった。それにも関わらず正確に彼女は機体を滑走路に着陸させた。場所を覚えているかのような正確な動き。雪の上でも全く滑らせる事のない速度調整。
まるでオラーシャの航空輸送のようだった。
機体を止めた彼女と共にラル中佐に報告をあげれば、訓練員の教官を務めているロスマン軍曹もやってきての会議となった。
問題は彼女が見たというその特殊なネウロイだった。
季節外れの吹雪の原因とも言えるそれが何を目的としているのか。ネウロイの行動原理、思考方法。その全てが謎のまま。それでも何をしようとしているのかを考えなければならない。
「ネウロイによるなんらかの軍事作戦の可能性はほぼ確実だ。早いうちにどうにかしないと……」
そうでもなければこのようなことをしてくるわけがない。
「でもストライカーはこれじゃ飛べそうにないし…」
天候に弱い空軍戦力の妨害を狙ったものなのかあるいは吹雪による軍事的揺動なのか。
だとすればすぐにでも地上戦力が押し寄せてくるはずだが吹雪はネウロイにとっても行軍の妨げになる。
そもそもあれはどのように戦略をとっているのか。あるいは何のために戦うのか?
いずれにしても本来なら飛行隊長である私の仕事ではない。それでも考えなければならない。味方を失わないようにするために……
「だが相手も無限に力を発揮できるわけではない。そのうちエネルギーを溜めるために一度天候の操作を止める可能性がある。そのタイミングで出撃を行う」
希望的観測に過ぎないが現状ではそれ以外に方法はない。
あの子が地点まで誘導することなども考えられるけれど視界不良ではレーダー未搭載機ではいささか危険すぎるし目標地点まで誘導するのが難しい。
その上さらに厄介な問題があった。
大型ネウロイを相手にする場合は装備はかなりの重装備が必要となる。しかし現状ではそのような武器はない。せいぜいが歩兵機関銃と呼ばれる7.76mmの分隊支援火器程度だった。無論ロケット砲などはあるが予備弾数の問題から現状では2発が限界だった。
ひかりさんと下原さん、菅野さんが使用する扶桑の20mm機関砲なら大火力ではある。だけれどその機銃は二人が使っている以外のものは故障整備のためすぐには使えそうになかった。
「彼女達がもしかしたら倒してくれるかもしれません。目をつけているのでしょう?」
そう言ってジークフリンデは口角を吊り上げて笑っていた。
「502にいる時点で伊達ではないわ……ただそれだけよ」
ロスマン軍曹はそう小さくつぶやいた。
現状私たちにできることは何もなく、その日の出撃と捜索は不可能との判断が下された。
少しの合間菅野さんを宥めていれば、格納庫から外に出て頭に雪を乗せながら外で立っている少女を見つけた。
案の定それはジークフリンデで、まるで人形のように無表情な顔で、それでも瞳は何かも見ているようだった。
「何しているのかしら?」
「待っている。それだけ」
不意に吹雪の勢いが落ちた。わずか数分で雪が止み、雲は晴れなかったものの天候は急速に回復した。自然気象ではやはりなかなか起こり得ない事だ。
「止んだようだな」
「ええ、止んだみたいですね」
「なら彼女達のおかげだ」
そう言い切ったジークフリンデ。心なしか安心しているようだった。
「信じているのですね」
「軍人として考えれば我々は失格なのかもしれないが……英雄としてなら合格だと私は思っているからね」
「それは私もですか?」
「統合戦闘航空団全体に言えることだよ」
そう言って彼女は用は済んだと言わんばかりに歩き出した。
空は完全の晴れ渡ったものの降り積もった雪と一時的に下がった気温は全く回復せず広範囲に冷気が残ったままだった。
そのため急遽越冬用の装備を引き出すこととなり基地は上から下まで大忙しとなっていた。
スリップ防止のタイヤチェーンに凍結防止の塩巻きと滑走路の除雪。そこに通常の業務が入る。
そんな中でもウィッチは比較的手が空いていた。
そんな中、ラル中佐は指令書を持ってきた。
内容は周辺状況の偵察。
飛行隊長の私にとっては頭の痛くなるものだった。
「偵察と言っても……」
今偵察として使えるのはジークフリンデしかいなかった。そんな彼女を珍しくクルピンスキーとロスマン軍曹は止めようとした。
たしかに彼女は怪我人だ。それは今も変わらない。一応医療魔法で治したとは言っていたがそれでも普通は安静にする必要がある。しかし実際にはそういうわけにもいかない理由があった。
「僕たちが見に行くじゃダメだったのかい?」
「偵察機の方がカメラの性能が良いし、現在出撃可能なユニットはトラブルもあり4機のみよ。直掩などを考慮したらとてもじゃないが偵察には出せないわ」
ただでさえエースの専用機として調整が施されているユニットが大半を占めている上に国もバラバラで部品の共通化も出来ていない。
そんなユニットは一度壊れればそれはもう悲惨だった。
定期修理として三機が離脱している中にさらにひかりら3人のユニットが緊急整備をすることとなった。パッキンからソケットから殆どが急激な温度低下と戦闘飛行で破損していた。ひどい場合には魔力伝達回路に亀裂ができている始末だ。特にオイルも凍結しかけた状態で動かしたせいか魔道エンジンそのものが焼け付きかけていた。
さらにニパが全損させた分と巻き込まれた地上の予備機。その結果稼働機は4機のみとある意味危機的状況となってしまっていた。
「私は全く構わないよ。まあ昨日使った機体は整備が必要だから出すことはできないけれど……手は打ってある」
一人静かに椅子に座っていたジークフリンデは、書類を何枚か机から持ち去り歩き出した。
Ju88は無理な飛行と急激な温度低下でフレームに歪みが発生し、外版に皺が出来ていた。しばらく飛行は無理だろう。なら手は打ってあるとはどういう事なのだろう?
格納庫から牽引車によって引き出されてきたのは前に乗っていた機体ではない。全く別の機体だった。
一切の塗装を施されていない超々ジュラルミンの外板が雪で反射した光を浴び、明るく輝いていた。
鋭い機首と両翼の大型エンジン。双発の偵察機では世界有数の高速性を持つ非武装機。私も何度かお世話になったことがあるそれは扶桑国陸軍100式司令部偵察機だった。
どこから持ってきたのか分からないけれどその機体は機体番号の部分が削られていた。
「どうやってこれを?」
「調達くらい朝飯前だよ」
そういうものなのだろうか?
国籍マークの代わりに連合軍を示すマークをつけた無塗装の100式司令部偵察機二型の後部席に乗り込めば、少しして機体は動き出した。どうやったら扶桑の偵察機などが手に入るのかは知らないけれど、その事を聞き出そうと言う気にはならなかった。
偵察機と言っても502にはウィッチ以外の航空要員は一人しかない。必然的に偵察機のカメラ撮影を行うのは待機組のうちの一人、飛行隊長の私となった。
後席と前席は距離が離れている。そのため会話も機内の有線電話を利用することになる。あまり視界が開けていない後席の窓からでは周りの状況は確認しづらい。
それでも地上の様子は備え付けられた偵察カメラのファインダー越しに見ることができた。
木々がある一線を境になくなった。その下には雪を被った大地とは違う、波打つ水が光を反射する途中で動きを止められたような歪な氷の面を持つ湖があった。
「湖…凍っていますね」
本来であればこの湖が凍結するのは後一ヶ月半ほどかかる予定だった。その想定は脆くも崩れ去ってしまった。
「もしかしてこれが目的だったのかしら?」
カメラで凍った湖を撮りつつあのネウロイの目的を探ることにした。
天候を操れる特殊なネウロイ。戦闘機や兵器をモデルにした存在ではない、人類の想像の模倣からある意味解放されたような存在。
そこまで独自に進化しているということはそれによって人類が想定していないような戦略を取る。それでも大元の考え方は同じ。いかに自軍を送り込めるかだ。
ならあれが冷気を出していたのはこれが理由だったのかもしれない。
「だとすると相当厄介なことになりそうだ。ネウロイの侵攻が始まれば準備不足を突かれて戦線が崩壊するぞ」
特にこの近くの大隊本部があるペテルブルク基地は補給路の確保が難しい地形となっている。その分防衛戦では無類の強さを発揮するが物資の搬入が終わりきっていない現状ではその強さはほとんど活かせない。
ふと氷の上に黒く動く胡麻粒が見えた。
「戦車型ネウロイ、湖の上を移動中。数は3。その後ろに小型の地上ネウロイが続いている」
「え……」
既に進撃は始まっていた。数からして本体ではない。戦闘偵察隊のようなものなのだろう。移動速度こそ遅いが機甲戦力があるとそれだけで脅威となる。
「既に進撃中。写真を撮るから無線を頼む」
流石に非武装機のこちらは攻撃することはできない。そのかわり敵発見の報告と写真を撮って情報を集める事が最大の攻撃になる。
「分かりました!」
撮影を開始した直後、背筋に悪寒が走った。一瞬だけ後ろを向けばそこには黒い点が青空に浮いていた。徐々に近くなっていくそれは黒い体と赤色のラインを入れた敵だった。
「後方よりネウロイ!」
「撮影は終わっているね。高度を上げる」
機体が大きく揺れ、体がシートに押さえつけられた。
さらに左右に体が打ち付けられ、視界が黒くなり思考力が低下した。典型的なブラックアウト。機体が上昇中でも左右に揺れエンジンの音が耳の奥で微かに反射する。
それは不意に終わりを告げた。気を失うのでは無いかと思っていたが今度は頭に強制的に血が昇る。マイナスGがかかった証拠だった。
何が起きているのか理解をする間もなく、何度も左右に上下に体が大きく跳ねやがてそれは収まった。
どうやら振り切ったらしい。こんな無茶な機動をされたら身体が保たない。
基地に戻ったら注意をしないと……このままでは彼女は飛行機すらまともに飛ばせなくなってしまいそうだった。
今時珍しい青色の塗装を纏った大型のセダン車が基地からやや離れた位置に止まっていた。
かなり年季の入った車ではあったが所有者は愛車として気に入っているようだった。
その車に軍用の外套を着た一人の少女が乗り込んだ。
少しして車は統制で入手が難しくなったガソリンを消費して動き出した。
「ご機嫌よう。ミス・ジークフリンデ。ハルと言った方がよろしいかしら?」
運転席の黒髪の女性は助手席に座る少女に気品のある態度で臨んだ。
「ご機嫌よう。それで貴女は……」
興味無さそうな返事をしつつも態度だけはきちんとしている少女。だが2人の目は相手の真意を探ろうとする不信感によって作られていた。
「エドヴァルナ・フォン・シュレイナ元カールスラント空軍のウィッチですわ」
「ああ……黒騎士か」
記憶をたどりつつ、第一次ネウロイ大戦のエースウィッチにその名前があったことを思い出した。今でこそアガリを迎えた彼女だったが、元が貴族であった事とその政治的才能で現在でも将校として軍をやっている女性だった。
「今回は貴女を直々に招待しに参りましたわ」
「招待?」
「ええ、ネウロイと名付けられた厄災から人々を守る我々ウィッチは今でこそ英雄として扱われていますが何度もその力を恐れた人間から迫害され魔女裁判と称して虐殺が行われてきました」
「そんなウィッチを守る為に私達は派閥を組み軍の中で勢力を伸ばしてきたのですわ」
「ああ……ウィッチ過激派か」
「そのような俗称があるのは知っていますがこれは正当な権利ですわ。それに人類はウィッチに護られるべきなのです。そうすれば今まで払ってきた犠牲もかなり減らすことが出来ましたわ」
「……傲慢。私はそんなところには興味はない」
心底興味がないのか少女の瞳には失望と無感情の二つの感情が浮かんでいた。
「ネウロイの巣を破壊する作戦の準備が進められていますわ」
「だからなんだというの?」
人類の一大反抗作戦。元々はガリアにあった巣を破壊する為に集められていた戦力が巣の消失と共に浮いた為丸々転用する事となったものだ。公然の秘密として囁かれているそれを今更なぜと少女は首を傾げた。
「私達もその作戦に一枚噛んでいるのですわ。秘密兵器と共にね。これがあれば人類とウィッチの関係は対等になるわ」
無論ネウロイの殲滅もそれにかかる人類の損耗も大幅に軽減できるそう彼女は付け加えた。
「今でも十分対等……」
それでも少女は女性の考えには首を縦には振らなかった。
「意見が合いませんわね。まあ、あのプレゼントも有効に使っているようですし同意するとみなしてよろしいかしら?」
「100式のことは感謝している。文句は言わないし好きにすればいい」
「貴女も貴族なのですからもう少し口調には気をつけたらどうです?」
「カールスラント語はどうしてもこうなるの。『ガリア語でしたら貴族の言い回しも可能ですわ』」
「『あら、でしたら今度からガリア語にいたしますわ』」
「『詳細は後日連絡いたします。それまではいつも通りに』」
車が停車した。基地から少し離れたところにあるレストランの前だった。少女は何でここと思いつつも店の入り口に向かって歩き出した。
「では、ご機嫌よう」
背後で車が動き出す音がして、周囲の音はレストランの中から漏れる陽気な声だけになった。
100式司令部偵察機二型
開発国
扶桑
運用
扶桑陸軍/海軍
全長11.00m 全幅14.70m 全高3.88m
自重3,2t 全備重量5,05t
最高速度630km/h
航続距離2,474km/4,000km(落下タンク装備)
発動機 ハ112-II(1350hp)
扶桑国陸軍が運用する高速偵察機。
高速性を追求したゆえの細身で流線型の胴体と、空気力学に基づいた新設計のエンジンカウル、特徴的な尾翼といった従来の扶桑機とは異なるスマートな外見を持ち、性能面でもネウロイの迎撃を振り切る高速性、優秀な高空性能および上昇限度、長大な航続距離を有していた。
二型は一型からエンジンをより強力なハ-112Ⅱに換装しより最高速度と加速性を高めた機体となっている。
元の計画では2000馬力級エンジンを搭載する予定であったが2000馬力級エンジンの寿命の短さゆえに偵察機には向いていないことから従来のエンジンを金属ガスケットの使用やシリンダーのスリーブ化など小改造で高出力化したエンジンを搭載する事となった。
また高速化に伴い武装を撤去し非武装の機体となっている。
ハルちゃんの三走目
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