ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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雪は相変わらず地上を白く染め上げていた。それでも天候だけは快晴の状態だった。

地上での訓練を行う予定だったけれど急遽変更となり私はジークフリンデさんと共に空に上がっていた。

珍しくストライカーユニットを履いているジークフリンデさんの姿はどこか歴戦のものだけが持つ強い殺気と、独特の気力の無さが漂っていた。

 

それでも私のストライカーと比べたら彼女が装備しているのは旧式となったBf-109のB型だった。出力も紫電改の半分くらいだ。

 

「空戦の掟?」

 

「そう、空戦の掟……まあ教範に良く書いてある基本のようなものだけれどね。今日はそれを教えようと思う」

そう言いながら練習空域まで進んだジークフリンデさんは地上でのブリーフィング通りに高度を上げ始めた。今回はシールドの使用は禁止。純粋に空戦技術のみを見るものだ。

元々ニパさんが空戦指導を行う予定だったけれど彼女が直前になってストライカーを破損させてしまったため急遽空いていた彼女が教官を務める事になった。

「原則としてネウロイはウィッチとの空戦を得意としない個体が殆どだ。だがそれは相手が今までこちらを圧倒するビームと強力な再生機能を持っているからだ」

 

「それは確かにそうです……」

姉もそう言っていた。だからか最近では大馬力の機体でも空戦能力を求められることが増えていた。特にリベリオンのストライカーの特性である高速と加速性だけでは戦術面での不利が増えていた。

「だが現状のネウロイはウィッチとの空戦に特化し始めた。今までの対ネウロイ戦術は更新が余儀なくされるだろうな」

 

そう言いつつ距離を取ったジークフリンデさんが旋回してこちらに向かってきた。教練空中戦は互いがすれ違ったら始まりとなる。

「相手もまた進化をし続けている。装甲を厚くし、機動性を上げ、人類から知恵を模倣しつつある。それでも戦い続けるしかないんだ。逃げ場なんてどこにもないのだから」

頭で分かっていても緊張する。手に持っている銃が汗で滑りそうになる。

 

すれ違った。空戦開始!

一気に体を回し反対を向いたところで最大出力。旋回で方向が変わった運動ベクトルを切り替えて追尾に入る。

パワーはこっちが上。すぐに背後まで追いついた。出力を絞って追い越したりしないようにしつつ背後に回り込む。

ジークフリンデさんは左右に旋回を繰り返して射線を確保させないように動く。不規則なフェイントも入って最小限の動きで逃げ回られる。

それでも水平飛行での旋回は速度を失う。いずれこっちが……

 

目の前から彼女が消えた。

左旋回に入った途端だった。

 

「パワーダイブ⁈いやあれは…垂直落下‼︎」

それはどこかで見たことある戦術。零式ストライカーが最も得意とする扶桑ウィッチの熟練者が使う技。

Bf-109でそれをやってくるなんて想定外だった。

こちらも垂直降下。重力加速度に体を押すストライカーの力が合わさり急激に速度が上がっていく。

目標を定めようとして、目の前のジークフリンデさんが見えなくなった。それどころか眩しくて目を閉じてしまった。

「雪原が太陽の光を反射して目眩しにッ‼︎」

 

「周囲の状況をもっと確認することだ。あの場合は無理にパワーダイブをせず一度距離を取って仕切り直しのが良い。出力上はそちらが上なのだから高度と速度の優位性を確保するんだ」

横で声が聞こえた。咄嗟にそっちに向けて弾をばら撒く。反撃を許してはならない。当たらなくても撃たれている状況は嫌なもの。

 

降下をやめると少し上に彼女が飛んでいた。上?ああ‼︎最低高度きってる‼︎

もともと決められていた最低高度は350m今はそれよりも下だった。

 

「大目に見るから上がってこい」

そう言いながらも上空から急降下でこっちを狙ってきていた。

咄嗟に銃を向け模擬弾をばら撒く。今度は命中する弾丸があったのか攻撃をやめて右旋回で回避を始めていた。

そのせいで放った弾丸は全てが宙を切った。

その間にこっちは急上昇で逃げる。

「ぐうううッ‼︎」

体にかかる負荷で視界が暗くなっていく。思考が鈍って何をしているのかわからなくなる。

機体を大きく旋回させて背面飛行に移る。パワー勝負なら向こうよりこっちが……

「そこでその機動を行うのは良い判断だが、背中がガラ空きだ」

背中に銃口が突きつけられた。完全に負けた。やっぱりまだまだ敵わない。

息を整えつつ元の高度に戻るとそこで評価が言い渡された。

「まあ筋は悪くないがやはり魔力量不足からくる絶対出力の低下は難しいな。紫電改の性能は上手く出せているが、肝心なところで動きが鈍っている」

 

「そんな……」

 

「でもまあ、技量でカバーが利くからそこはやり方次第だ」

 

「少なくとも出力だけならこちらの方が低い。最後のパワー勝負へ持ち込むのは良い判断だ」

そう言って履いているストライカーを指差すジークフリンデさん。機械の指と機械の脚がぶつかって金属の甲高い音が響いた。人でないようで、でもやっぱり人なんだなっていう不思議な感じだった。

「だがこちらが空力という科学の法則によって縛られているのに対し向こうはそのような縛りはほとんど存在しない。だからあまり定石に囚われる必要もない」

確かにそうだ。でもそうするとさっきのは……

「有効でないネウロイがいたら君は上昇中にシールドを張って動きを封じられシールドが破壊されるまでタコ殴りに合うだろう。私がネウロイならそうする」

 

課題が見つかったのだから帰ろうと彼女が言いかけたところで緊急通信の呼び出しを始めていた。ラジオ電波の軍用国際緊急周波数だ。

 

『周辺を飛行している部隊、こちら基地通信所。たった今ペテルブルク基地に攻撃があった。状況確認のため直ちに急行せよ』

 

「ペテルブルクが⁈」

衝撃…とまではいかないけれどそれでもいざ来るとなったら驚いてしまう。それでも周囲に敵影はないし空襲の警告は無かった。哨戒から漏れたのかな?

「グリフィス1了解した。これより上空警戒に向かう」

 

「グリフィス2、了解しました!」

 

 

ペテルブルク基地から上がる黒煙は2本だった。

 

「破壊されたのは西側と東側監視塔か……」

ペテルブルクの基地は元々城壁で囲われた城下街を丸々徴収し大型の基地としている。

後から追加された設備と元からある古い建物の混在した新旧モザイクな基地。

その中で、古い街並みとは裏腹に後から造られた監視塔は遠くからでも目立つ。四つあったうちの二つが今黒煙と共に瓦礫となっていた。

近くには軍の救急車が何台か来ていて、真っ黒に焦げた人のようなものや怪我をした兵士が収容されようとしていた。思わず吐き気が込み上げてくる。それを無理やり抑えるのに少しだけ時間がかかった。

その間襲撃があったら大変な事態になっていただろうけれど、周囲にネウロイはいなさそうだった。

侵攻に伴う前段階攻撃というわけではないみたいだった。だとすればこれは……

 

周辺警戒の交代ウィッチが来た。任務を引き継いでもらって地上に降りると、ラル中佐が基地司令と話していた。

「攻撃はどのようなものだ?」

 

「ビーム反応は無かった。周囲からもネウロイの持つ固有波は出ていない」

 

「だとすれば超長距離狙撃…この破壊のされ方から言って実体弾のようなものか?」

 

「ならば結果待ちか……」

 

 

結局肝心なことは分からなかった。だけれど破壊の跡だけが確かにそこにあった。

 

 

「そろそろ燃料が切れる。帰るぞグリフィス2」

気がつけば燃料計はかなり下の方に針があった。このままだと途中で燃料切れになる。

「分かりました。ところでこれって……」

悔しい思いがあったけれど今の私たちではどうすることもできなかった。

 

「……ネウロイも進化しているということだ」

ただ一言。それだけが重たく言い放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

帰投した私達と入れ替わりで出撃していったサーシャ隊長達が街の外でネウロイを発見したのは日没直前だった。

だけれどその時にはさらに攻撃を加えられて基地の航空弾薬庫が破壊された。

内部に置かれていたウィッチ用、航空機用の弾薬、爆弾が一斉に誘爆し、周囲100mは全てが吹き飛ばされていた。幸い周囲は盛り土で囲ってあり被害は最小限だった。

 

詳細な情報がようやく出たのは次の日になってからだった。基地は夜の合間もずっと警戒体制でその間ほとんど寝ることは出来なかった。

眠い目を擦りながらブリーフィングルームに向かうと、いつ寝ているのか分からないラル中佐とジークフリンデさん。まだ寝起きで機嫌が良くなさそうな502の面々がいた。

だけれど部屋自体が普段よりも狭い。何かの荷物が布をかぶって部屋の三分の一を占領していた。

「総合的な情報収集の結果が出た。監視塔を破壊したネウロイは超長距離狙撃型と判明した。これは体の一部を分離させ砲弾のように飛ばすものだ」

 

 

「ネウロイの体の一部を…だとすれば着弾一周辺はかなりの瘴気が舞っているのでは?」

 

「その通りだ。現在速やかに除染作業をおこなっている。だがこのまま砲撃が続くようでは基地機能は一週間で麻痺する」

ビームと違って本体を直接ぶつけてくる。

ネウロイの本体も巣ほどではないにしろ瘴気を放っている。直ちに環境や人体に影響が出るというわけではないが除染は必須であるしその間その場所の修復は行えない。

「ダーティボムか。厄介だ」

 

「しかし実体弾を曲射でピンポイント攻撃を放つとなると精密な観測情報か終末誘導が必要となる。もしかしてだが観測のネウロイが潜んでいるのではないか?」

そう聞いたのはジークフリンデさん。

確かに普通の榴弾砲だったら前線に観測班を置いて正確な情報を収集する。ネウロイも目視が不可能な距離を正確に狙うのはいくらなんでも単体では不可能なはず……

「あたりだ。おそらく攻撃を行うネウロイとは別に街の中に潜伏しているネウロイがいる可能性が高い。砲撃を行うネウロイとマーカーのネウロイ。これら二つが今回我々に与えられた目標となる」

 

 

「でも基地の弾薬庫は……」

昨日吹き飛ばされたせいで弾薬の不足が……

一会戦分は残っているらしいけれど地上のネウロイを攻撃する武器は全く残っていなかった。

だけれどその点は問題ないと声が上がった。一斉にみんなが振り返る。

「武器の手配ならもう既に済ませている。好きに使うといい」

そう言って部屋の隅に置かれていた布を被った大量の荷物を指差すジークフリンデさん。その手が布を引っ張ると、下から大量の重火器が出てきた。

20mm以上の大口径砲にロケット兵器。さらになぜか巨大なハンマーのようなものまであった。

 

「これ……ロケット?」

 

「オラーシャで開発されたロケット兵器。弾頭部はパンツァーファウストのものを使いコルダイトの推進剤で発射後4秒間加速される。地上制圧には最適な武器だ」

 

「37mm機関砲まで……」

 

「弾丸もセットだ」

 

一体どうやってこれだけの武器を集めたのか。それでも確かにそれは私達にはありがたいものだった。

「物資を融通してもらうのに苦労したが、持っていけ」

 

 

「これは責任重大ですわね」

武器の心配は無くなった。つまり全力で戦えと言うことだろう。少しだけ背筋に緊張が走る。いつまで経っても実戦は慣れない。

「当然タダではないがな」

 

「また金を取るんですか⁈」

やっぱりタダではなかった。

「個人物資の融通はあまり誉められたものではないからな。公正な取引だ。勿論割引はしておく」

 

この前ものすごく安い焼夷榴弾を買ったら思いっきり不発ばかりして使い物にならなかったって菅野が怒っていたけれど……そう言った類じゃないか心配になってきた。多分大丈夫だよね?

サーシャ隊長がすごく怖い顔をしているのだけれど……うん大丈夫。

「対ネウロイ警戒レーダーを積んだ哨戒機をこちらに回してある。長距離攻撃のネウロイはそちらで捜索するがマーカーネウロイの方はそうはいかない。なので君達の中で何名かが目視で捜索してもらう事になる」

 

 

その捜索班に私とサーシャ隊長とニパさんが選ばれたのは何かの縁だったのだろうか?

いや、今更そんな事考えても仕方がない事なのかも。




Bf-109B-1

運用国
帝政カールスラント他

開発会社
メッサーシャルク社
エンジン
Jumo 210 A(出力680hp)

到達最高高度5400m


カールスラントを代表するストライカーユニット。
第二次ネウロイ大戦全期間を通し、性能と生産数の双方で世界最高峰に立ちつづけ、同大戦を象徴する名ユニットとして世界的に知られた。
「小型の機体に強力なエンジンを搭載する」という理念を徹底し、かつ最新技術を大々的に取り入れている。

Bf-109B(ベルタ Berta)は、背負式の試作機V-4号機を宮藤理論を採用し脚部収納を採用し新開発のJumo 210 A魔道エンジンを搭載した改造機が原型となっている先行量産型であり合計で24機2個中隊分が量産された。
1936年のヒスパニア戦役に送り込まれ実戦試験を行ったのちC型、D型と同様に量産機のE型にデータを引き継ぎ、用途終了となっている。一部は現役にとどまり現在でも運用されている。

ハルちゃんの三走目

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