ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
「基地の状況はかなり深刻になっています」
長距離砲撃を行うネウロイが排除されて一週間。ようやく落ち着きを取り戻しつつあった基地に再びの忙しさがやってきていた。だけれど私達は蚊帳の外に置かれていた。
ここの基地に502が入ってからてんてこ舞いだったけれどここのところ目立った出撃はない。
それどころか今まで行っていた飛行訓練も頻度が減っていて、地上での体力と魔力の錬成が増えていた。
そんな中で与えられた自由な時間を基地の散策に充てていたら、格納庫の中でラル中佐の声が聞こえた。
「ただでさえ兵站が難しい地形なのにこのままでは冬を越すのも難しいときたか」
話を盗み聞きする気は無かったけれどそれでも聞こえてくる内容を無視するわけにはいかない。
やっぱりあの時の攻撃は相当に深刻だったみたいだ。
「そのため基地司令から航空輸送隊の応援要請が入っています」
会話の相手はサーシャさんだった。
「却下だ。あれはこっちの隊の分の輸送でギリギリな上に一機しかない」
たった一機で基地の活動を維持できるほどの戦略資源を用意するなど無理だ。
珍しくラル中佐は声を荒げていた。
それでも結果が良くなるなんてことはなくて、気候としてももう川が凍りつき雪が降り積もる極寒の大地に変わりつつあった。
地上の輸送網も天候と気候で滞りが発生していた。そうじゃなくても最近は戦車型ネウロイや装甲ネウロイによる輸送隊への少数奇襲戦が多発しているらしい。
ゲリラ戦って言われる手法なんだとか。
そのせいもあってこの基地は燃料も食料も弾薬も全てが不足していた。
それは末端の兵士でしかない私のところまで聴こえてくる。そうであるからなのか基地の人達の士気は日に日に下がって来ているように感じた。
「どうかしたのかな?」
真後ろから声をかけられて思わず心臓が飛び出しそうになった。
「ジークさん?」
「ちょっとラル中佐に呼ばれていてね……まあ物資不足は今に始まった事ではない。君が気にすることでもないよ。今まで通り普通に生活する事を心がけるんだ」
「それで…状況は打破できるんですか?」
「信じて待つしか今はないね。さあ君も行った行った。あまり盗み聞きするような事でもないからね」
そう言って彼女は部屋に入って行った。
私とラル中佐が物資のことで頭を悩ませていると、目的の人物がやってきた。
型にはまった綺麗な敬礼をしつつ、少女はやや不機嫌そうな声色をしていた。
「今日呼んだのは他でもない。君の休息についてだ」
「休息ですか?通常の規定時間は休んでいると認識していましたが」
「それはあくまで通常のでしょう。私達ウィッチと飛行機乗りは規定時間飛行したらその分特別休暇が入るのよ。貴女の場合未消化だけで後半月は休んでいられるのよ」
というよりも休ませないといけない規定になっている。ただでさえウィッチは数が少ない上に彼女は貴重な輸送機パイロットだった。
「そうは言っても今は戦時ですから」
彼女は今のところ休暇を取るつもりはない。とキッパリ言い切った。
「戦時でも規則は規則よ」
むしろ戦時だからこそ規則を正しくしなければならない。そうでなければ戦争という狂気に人はあっさりと飲み込まれてしまう。
彼女にはそれがわかっているのだろうか……
命令で強制的に休みを取らせようとラル中佐が話し始めた途端、基地の直通電話が鳴った。タイミングの悪いものだ。
会話の内容が不穏なものになっていく。
「中規模な輸送?しかしですね……分かりました」
基地の有線電話を切ったラル中佐が紅茶に砂糖を大量導入しているジークに向き直った。
「残念だが君に仕事だ。基地司令よりももっと上からのものだそうだ。拒否権はなさそうだが大丈夫か?」
完全に上層部が規律ガン無視をしてきた。更に書面での通達までしてきた。タイミングを測っていたとでもいうのだろうか。伝令が命令書を持ってきたのはそれから1分後だった。
中身を確認したジークは一言だけ呟いた。
「問題ありませんラル中佐」
「ですが規定の飛行時間はとっくに超えています。疲労の事も考えたら……」
「問題ないですよサーシャさん。輸送機ニ機と護衛にガンシップとウィッチですよね?空中輸送ではなかなか見られない重護衛です」
どのようなものを輸送するのですか?ここまでくると要人あたりしか思い浮かびませんけれど?
「人員輸送だ。なんでもカールスラントの企業が開発している最新鋭のストライカーユニットだそうだ」
なるほど確かにそれは護衛も厳重にならざる終えませんわ。しかしどうしてそれをこちらに回してくるのかしら……確かにストライカーも使えると言う点では非常時には適任かもしれませんけれど。
それを伝えるとやや困った顔でラル中佐は向こうのご指名だよと教えてくださった。
相手のご指名……つまり今回の輸送を担当するどこかにジークの事を知っている人がいる?
「しかし機体はどうするの?今使っているのは物資輸送で酷使しているから整備ローテを考えても使えないわ」
そもそもあの機体すら実際にはここの基地の余剰機を借りているだけで定期輸送任務以外での使用は原則禁止だった。
「向こうが用意をしてくれているらしい。後はパイロットだけだそうだ」
自前でパイロットを用意できなかったのかしら?それはそれでおかしな話だけれど……
そこまで思考したところでラル中佐は咳払いをして私の意識を引き戻した。
ともかく既に決まっている事。それを覆す権限はこちらにはないのだった。
それでも護衛はこちらから出すことにした。ウィッチ2名。決して多いとは言えないけれど現状出せるウィッチは2人だけだった。向こうも2人ウィッチを出してくれるはずだから問題はないと思いたい。
それが二日前のこと。
輸送機が荷物を乗せて待機している基地までの移動はハルと言えどもストライカーを使用する事となり、そのストライカーを持ち帰るために輸送機に積み込む作業に時間がかかり離陸時間は少し超えていた。
そのため元のフライトプランよりもかなりの遅れが発生していた。
嫌なことというのは連続してやってくる。
護衛のウィッチ4名はしかし実際には離陸直後にエンジン故障が発生した子と離陸前から既に故障で上がれず復路の護衛はこちらが送ったクルピンスキーとロスマンのウィッチ2名…それもこっちの戦闘航空団のメンバーだけとなってしまった。
だから既に私は心配していた。だけれど同時に彼女だったらなんだかんだと戻ってくるのではないかと根拠の無い安堵感もあった。
「まあ護衛はあの二人だし……なんとかしてくれるわ」
こちらの基地に大きな危機が迫っているとも知らずに……
「ネウロイの大群。同高度より接近。120秒後に交差します!」
行きは良い良い帰りは怖い。そんな声が聞こえてきそうな状況だった。それでも相方はロスマンだから大丈夫。そんな安心感があった。
「こちらマギア1戦闘に入ります。マギア2はスターボートに、輸送機はAngel20。フォーメーションは崩さないで。こっちで押さえつけておくからその合間に…」
的確な指示だった。追加の情報が入ってこなければ……
「だめだ。右下方よりネウロイ10体。上昇中!」
「さらに大型のネウロイ反応!電子偵察機より入電!大型ネウロイが基地に向かって進撃中との事です!」
「そんなッ‼︎」
どうやら大戦闘の中に迷い込んでしまったらしい。一瞬ロスマンも動揺したけれど直ぐに気持ちを切り替えた。
「これより延滞戦闘に移ります。マギア2、散会。第二群へ向かって」
「チェスター1はチェスター2、3の護衛に入る‼︎」
チェスター1、輸送機隊の隊長機で、その任務は部隊の対空防御。そのために積荷を乗せず代わりに大量の防護武装を搭載している。元々重武装なB-17のうち左右一箇所と下部二箇所、に20mm機関砲、そして12.7mm機銃も4丁を追加したまさしく空中戦艦だ。
それがネウロイに向けて搭載している武装を最も効率的に投射できる位置に移動していた。
流石に数が多くて一度に対処できる相手を超えていた。
四体のネウロイが抜けた。それに対して輸送機達から指向可能な全ての武装が火を吹いた。
たちまち鉄のシャワーに飲まれた二体が爆散し、二体が降下して離脱していった。
それでも上から、下からと散開したネウロイが五月雨式に襲ってくる。こちらもウィッチが二人だけ。それで40体近いネウロイを抑え続けるのは手が足りなかった。
それでもなんとかなっているのはガンシップの弾幕があったから。
ネウロイに感情があるのかは分からないけれど、狙いがガンシップ一機に集中した。
「チェスター1主翼に被弾!制御不能!」
弾幕を突破したネウロイの光線が重武装のB-17の主翼を吹き飛ばした。
それまで砲火を上げていた機体が業火に包まれ、スピンしながら高度を下げていった。あれはもう助けられない。諦めるしかなかった。
同時に輸送隊があっさりと丸裸になった。輸送機に向かうネウロイを撃破するけれど焼け石に水だった。
彼女が操縦するチェスター2にもネウロイが殺到していく。
胴体の数箇所に魔法陣が生まれてシールドが張られた。だけれどビームを弾いた際の衝撃で大きく揺さぶられていた。
「私も操縦します!」
「出来るの?」
「当然ですよ。科学者とも有れば自前で飛行機くらい飛ばせないと」
なんだか頭のねじが飛んでいるような会話が無線機から聞こえた気がするけれど構っている暇はなかった。エスコートはまだ時間がかかる。それどころか基地にも攻撃が行われているから中々離陸ができない状態だと魔導無線は伝えてきていた。
左右にシザースしながらネウロイの攻撃を躱していたチェスター2……一式陸攻に新たなネウロイが迫っていた。
それを追いかけて、後ろから銃撃を浴びせるも全く怯む様子はない。それどころか回避すらせず体を削られ、コアを破壊され爆散した。その直前に放った光線が陸攻の翼端に偶然当たってしまった。
「右翼端被弾!」
燃料が噴き出る。それが空に虹色の霧を生み出した。
「くッ…15番の燃料コックを閉じて」
無線機からは機内での格闘の様子が手に取るようにわかるほど鮮明に声が聞こえていた。
二ヶ所、それも間を空けずにネウロイが飛び込んできた。たった二人じゃすぐに前衛がパンクしてしまう。今度からはもっと護衛を増やすべきだって進言しておこう。援護に入ろうとしたところで上から来たネウロイに背後から襲われた。そのせいで一体だけ撃ち落とし損ねた。
「また来る!」
僕が撃ち損じた方のネウロイが輸送機の防護機銃に絡め取られて爆散するのとネウロイのビームが輸送機に命中するのは同時だった。
「左エンジン火災!」
「消火装置故障!作動しません!」
翼から火を噴いた。
「左エンジン、燃料カット。主翼内部の燃料も全部投棄!」
それでもまだ機体は飛んでいた。
滑走路まではもう少し、基地外縁の高射砲が既に射程圏内に入っているのかあたりには黒い爆発、高射砲の援護射撃が撃ち上げられ、ネウロイの攻撃も止み始めていた。
それでも輸送隊は満身創痍だった。
傷がない2機が先に降り、炎が未だにチラつく翼を振りながら最後の一機、ハルの搭乗機が着陸態勢に入った。
「運んで欲しいのはこの人達よ」
「最重要人物…ウルスラ・ハルトマン?ジェットストライカーの……」
「計画のためにはどうしても魔導ジェットが必要なのよ。そのため現物を入手したいのだけれど作動テストや燃焼、取り扱いのノウハウは紙と物を置かれても分からないから本人達から伝授してもらうしかないのよ。表向きはジェットストライカーの試験運用だけれど」
「回りくどい」
「用途が用途なだけに正規では確保できないのよ。貴女だって分かっているでしょう」
「……気になることがある。これは結局……」
「あまり外部に情報を漏らしたくないわ。今は内緒」
ハルちゃんの三走目
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