ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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時々思うことがあるんだ。

この戦争がなかったら私達は出会わなかった。自分達が本来目指していた夢を追いかけていたんじゃないかって。

でもそれってなんだか寂しい気がする。今のこの環境がよかったってわけじゃないけど……背中を預けられるほど信頼できる相手ができるかって言われたら難しいんじゃないかな。

 

 

 

ーーそれって私のこと?でも私はただジェットストライカーを作っているだけの主任技師よ?

 

関係ないよ。この武器を作った人だって立派な戦友なんだからさ。

武器にだって命を預けるんだから信頼は変わらないよ。

 

そう言っていた少女はその三日後に両脚を失って、後方に戻される途中で行方不明になった。

移送中の輸送車列がネウロイの攻撃の余波で被害を受けた。ビームが直撃した車両群は原型を止めず、人の体など瞬時に蒸発してしまったから。何も見つからない。だから行方不明。

 

試験飛行を行うウィッチだった彼女もまた、前線でのウィッチ不足から戦場に送り出された。

卓越した飛行技術と試験機を飛ばすため、いつ事故が起きても対処できる知識と発想と忍耐が求められる。替えが利く存在ではなかった。

にも関わらず彼女は死んでいった。

それがなぜだったのかは今となっては分からない。運命というものがあるならひどく残酷なものだ。

 

 

 

その後の研究チームの半壊や工場移転でジェットストライカーは開発自体が遅れて、未だに小数が実験的に導入されているにとどまっている。

それでも完成した機体はこのボロボロの飛行機の機内にある。

振動で揺れる機内で鎖にしっかり固定された台座に寝かせられた機体。

 

Me262 。

それに使用される軸流式魔導エンジンは操縦者から引き出された魔力を増幅用のエーテルと混ぜて燃焼室に組み込まれた燃焼魔導式に導入させ、手前側のファンで圧縮させた空気と混ぜて急速膨張させることで後方への高圧排気を実現させて推進力を得ている。

レシプロ魔導エンジンと違うのはここで、レシプロの場合は純粋にエーテル混合魔力を推進魔導式に直接入れることで推進している。

しかし推進魔導式は組み込み術式がかなり複雑な上に魔導効率はせいぜい30%。残りの大半は熱として放出される。

そのため熱くなりやすいので現状では複数の魔導式をローター式に次々と起動させて断続的な推進力を得る方法としている。

 

ジェットストライカーの方がより高効率で高出力を出すことができる。さらに部品点数も少なく燃焼魔導式は構造が単純だった。

だけれど製造に手間がかかる。特に燃焼室は現在の素材では10時間の飛行にも耐えられないものだった。

 

彼女が死んでなお、ストライカーは次のステップに移行する事が出来ないでいた。

それでもなおこのエンジンはストライカーの新たな主流になる。宮藤理論がそうだったように……今もそう思っている。

 

 

 

 

 

機体が大きく揺れて思考放棄から解放してくれた。コックピットの窓からは滑走路がよく見えた。

隣のコックピット席に座る少女は、先端が白くなった茶髪を揺らしながら操縦桿を握っていた。

「右エンジンに愛着は?」

 

「全く無いわ」

 

「ならエンジン停止……両方のエンジン停止での着陸は?」

流石にそのような経験はない。飛行機だって訓練飛行とストライカーの移送で飛ばしたくらい。片肺での飛行だって経験はなかった。機内を揺らす振動が止まった。同時にエンジンの音も聞こえなくなり風切り音だけになった。

「流石に……そっちはあるの?」

 

「ストライカーでも機体でも何度かね」

 

「なら安心よ」

 

「最終アプローチに入った。このまま降りる!」

先に降りていた仲間達が乗っている機体が滑走路の端っこから抜け出そうとしているのが見えた。

こっちは既に速度が出せない。速度計は失速寸前だった。フラップ操作をする少女の手が少しだけ震えていた。

滑走路まで届くか。手前の草地に飛び込むか。コックピットからは真下がどうなっているのかはわからない。

少しして機体がガタガタと揺れ始めた。そして大きな振動。計器のガラスが砕け散って機体が左右に大きく揺れた。着陸したらしい。私達と積荷はなんとか無事に基地に辿り着く事が出来たらしい。

私達の機体を避けるようにして戦闘機が次々と滑走路に向かっていく。

緊急発進だった。基地は恐ろしいほどに慌ただしくて、戦闘機だけじゃなくて大型機も動ける機体が次々に動き始めていた。

ボロボロの機体は滑走路脇の誘導路でついに停止した。

 

 

後で聞いたところによれば基地はその時大型ネウロイの接近を受けていた。しかし502の新入りの子が中心となって撃破をしてくれたらしい。

そうでなければ基地にはかなりの損害が出ていたはずだった。多分着陸したばかりの私達も危なかっただろう。

 

そうは言っても機体の方もかなりボロボロで、左エンジンは大半の部品を失ってボロボロになっていて、右翼側は翼の1/3が消失していた。どうやら着陸の直前に壊れて落ちたらしい。

それでも積荷と私たちは無事だった。

そしてパイロットも……

 

 

 

 

 

ジェットストライカーは普段使われていないという小さな格納庫に持って行かれた。

物置として使っているのか除雪道具などが端っこの方にまとめて置かれているだけの寂しいところだった。

基地は攻撃に参加した機体が戻ってきたり使用された対空砲や兵器の整備で忙しそうで、私達他所の技術者には関心を払っていなかった。

だからこそ使われていなくて人のこない一角を与えたのだろう。

機密指定の多いものだからそう簡単に見せびらかすわけにもいかない。カールスラント軍上層部はそう考えているのでしょう。

 

多国籍軍が入るそんな前進基地に私たちを呼びつけた本人が到着したのは一通りのメンテナンスが終わって戦闘配備のままの基地で遅めの昼食を取った後だった。

 

エドヴァルナ・フォン・シュレイナ伯爵。

名前くらいなら知っている。軍の世界では知らない人が少数派とも言えるカールスラント空軍の最強ウィッチの1人。黎明期のストライカーユニットで活躍した人だった。

20代ながらいまだに美しい彼女は、不釣り合いな古いカールスラント空軍制服に身を通し挨拶もそこそこにストライカーユニットを見学していた。

 

エンジン部分を見ながら、彼女は何か納得したかのような、それでいて目的通りと言うような安堵した雰囲気をしていた。

その後ろにニーマント中尉の姿があった。

「最大の利点は小型化と高出力化が同時に行えるという点というわけか。たしかに画期的なエンジンであるのには間違いない」

 

「ええ、現在のユニットのエンジンの1/4のサイズで二倍に当たる出力を出すことができます」

現在のところは……だけれど。

「……ちょうど良いエンジンね。決めたわ。研究資金は伝えた通り出します」

伯爵は私に向き直り、資金提供を申し出た。

「本当ですか⁈」

 

「ただし、条件として新しい魔道ジェットエンジンを作って欲しいの」

 

「新しい?それは……」

 

「条件はこちらで指定するけれど難しいものではないわ。一回のみの稼働で稼働時間20分。エンジンの直径は380mm以内。推進力はこれの7割。極めて簡易的で構わないわ。数は一つでいい」

そんな条件…航空機用エンジンとしては聞いたことがない。いや稼働時間だけいえば動力付きグライダーとかならあるけれど……一回切り?もしかしてロケット兵器V1のようなものの動力として使うのだろうか?

「それは……」

 

「一ヶ月以内で出来るかしら」

かなりのハードスケジュール。だけれど聴いた限りの条件ならなんとかなりそうだった。

「問題ありませんけど…そのようなもの何に使うのですか?」

 

「貴女には知る必要のないことよ」

その言葉にどこか鋭い殺気が含まれているような気がした。伯爵の隣で黙って聞いていたニーマント中尉は首を横に振ってこちらに黙るように促していた。そこまでされたら私はもうどうすることもできなかった。

それでも次の瞬間には何事もなかったかのように元の雰囲気になっていた。

「でもまあ、長旅でお疲れのご様子ですし皆様方の宿泊は私の屋敷でどうかしら」

 

「それは有難いけれど……よろしいの?」

 

「呼びつけておいて歓迎もしないというのは人としてのモラルに欠けますわ」

 

 

 

 

彼女の屋敷は基地からそう離れていないところにあった。近くの街までは車で1時間ほどと言ったところだろうか。民間人の自主避難地域に指定されているものの、それでも屋敷に人は残っているようだった。

夕食の用意ができるまで待合室で待たされることになった私達。だけれどウィッチの私だけは別の部屋でジェットストライカーについての所見を聞きたいからと連れ出されていた。

あたりは暗くなり始めていたけれど、日は確かに空を赤く染めていた。窓からは併設されている孤児院が見えた。庭に出て子供達が遊んでいる。こんな時間であっても子供たちは元気そうに、戦争の狂気など知らぬと言わんばかりに遊んでいた。

私の視線に気がついたのか伯爵が隣に来てつぶやいた。

「皆この戦争で肉親を失った子達ばかりです。中には戦災だけじゃなく両親揃って戦地へ向かって帰らなかった子も……」

 

「中にはウィッチとしての力を発現させている子もいます。このまま戦争が続けば彼女達でさえ戦場に送り出される……終わらせないといけませんわ」

 

「……全くですね」

 

ふと気づくと私と伯爵しかいなかった部屋を子供が覗き込んでいた。子供と言ってもルッキーニと同じくらいの歳のように見える少女だった。

「こんにちは。孤児院の子?」

 

「違う。私は……リサ。リサ・シュレイナ」

もしかして年の離れた姉妹?でもそんな話は聞いたことがない。でも普通の子供だった。黒色の艶がある髪に少しだけオシャレを意識したワンピース。溢れ出る気品は確かに貴族のものだけれど、でもどこか一般の人のようにも感じる。

「リサちゃんこんにちは」

 

「リサは私が孤児院を立ち上げる前に、別の孤児院から引き取った子なの」

疑問に答えてくれたのは伯爵だった。そこの孤児院もまた戦争孤児を引き受けている場所で、リサちゃんは何人もいる戦争孤児の1人だったらしい。

「そうなのですね」

 

「よろしく!眼鏡のお姉ちゃん」

 

「私はウルスラ・ハルトマンよ」

 

「ならハルトマンさん」

 

 

「さあ、リサ。私達は大事な話をしているから…彼方にいる中尉と遊んでいなさい」

扉の外にいつのまにか立っていたニーマント中尉(多分夕食に彼女も誘われていた)に伯爵はリサを預けた。

預けられた側も満更でもない様子で彼女を連れて部屋を去っていった。

 

「……あれくらいの年の子供は勉強と遊びに精を出すのが良いのよ」

「全くですね……」

だけれどニーマント中尉はそんな年齢でもなかったような……まあいいか。

 

さて、それじゃあ言われている新型エンジンの開発の事をどうにかしないと。研究所に戻ればすぐにでも作れる。結局耐久性と持続時間の問題がジェットエンジンの問題だから、それがほぼないとなれば物を作るのは簡単かも知れない。

 

でもそれでは面白くない。効率化と高出力化。どこまで行けるか楽しみね。

 

 

 

 

 

 

「自己紹介してなかったけど貴女は中尉さんって名前?」

廊下に響く少女の声は、弾みのあるハキハキとしたものだった。それに返答する声は反対に小さめで、少しだけ覇気がなかった。

「違うよ。私は……ただの魔法使いだよ」

 

「魔法使い‼︎私も魔法が使えるんだぁ‼︎」

 

「そうだったんだ。じゃあ……頑張って良い魔法使いになるのかな?」

 

「ううん、魔法使いもいいけどやっぱり冒険家かな……世界にはまだまだ沢山未開の地があるって言うから」

 

「なら魔法が使えるのは冒険にうってつけだな」

 

「笑わないんだね。私の夢」

 

「何を笑う必要があるの?立派な目標じゃない。それに未知への探究は人類にいろんなことを教えてくれるからね」

 

「じゃあ!いつか冒険家になっていろんな大発見するから……楽しみにしててね!」

 

「ああ……悪い奴らとの戦いを終わらせた後ね」

 

「それでお姉さんは魔法使いになってみてどうだったの?」

 

「…空を自由に飛べると思ったけど、いざ飛んでみると空も意外と狭いなって思えてきたよ」

 

「ならもっと高く飛んでみたら?宇宙とか!」

 

「それもいいかもしれないね……誰も、ネウロイも人類もいない未知の世界。もしかしたら私も冒険がしたいのかもしれないね」

 

「じゃあ一緒に冒険しない?人数は多い方がいいでしょ‼︎」

 

「考えておくよ」




jumo004BM

開発国
帝政カールスラント

開発会社
ユンカース社

コンプレッサ8段
燃焼器4
タービン1段
推力910 kgf
回転数8,700 rpm
圧縮比3.14:1
推力重量比12.2 N/kg

世界初のジェットエンジンの座こそ扶桑皇国に譲ったものの、魔道ジェットエンジンにおいてはカールスラントが先んじて量産と配備に漕ぎ着けていた。

カールスラントの魔道ジェットエンジン開発はユンカース社とBMW社の2社が行なっていたが、ジェットエンジンの開発を同時に行うBMWは開発リソースを集中することができず当時製作していたBMW003魔導ジェットエンジンは想定出力を下回る数値しか出ていなかった。
そこでカールスラント技術省は空軍から出向していたウルスラ・ハルトマン中尉をユンカース社に派遣し魔道ジェットエンジンの開発に加えた。
開発は好調となり推力670kgfのjumo004が誕生することとなり軽量化と高出力化をおこなったjumo004BMが量産エンジンとして産声を上げることとなった。

ハルちゃんの三走目

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