ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
「……風邪?」
夜間飛行の訓練をひかりにするはずだったニーマントさんは、夜の予定が無くなったと1人呟いていた。サングラスを部屋でも暗い時でもつけていて、私にとっては不思議な印象のままだった。
「そう、風邪だよ。うん……」
戻ってきたばかりの輸送機の点検の手を止めたニーマントさんの顔には心配の感情が浮かんでいた。
「ここ数日連続出撃していたし……元々ひかりはそこまで魔力量が多いわけではない。まあそんなところ?」
「よくわかったね。どこかで聴いてた?」
朝からずっと基地にいなくて、事情を知らないはずだったけれどそれでも推測は鋭いものだった。
「いや、ニパの話だけでも結構推測はできる。まあ風邪なら水分と栄養をつけないといけないが……」
「そうなんだ。食糧がさ……」
前の攻撃で食糧庫や弾薬庫を焼かれたのはかなり不味かった。なんとか風邪自体は治癒魔法でどうにかなるとしても体の免疫力や体力を維持するには食べて体力をつけてもらうしかない。
補給路の鉄路だってまだネウロイに占拠されていてどうすることも出来ない。唯一の頼みは空輸と少数のトラックと陸戦ウィッチを伴った鼠輸送だけだった。
それでも基地の人達や私たち502の総員1023名の食事を補給し続けるのは至難の技だった。
「一応リベリオンからの食糧供給でどうにかなっているけど……ダメなのかい?」
そのリベリオンもどうやら国内で生産したはいいけど派遣している部隊が消費しきれなかった分や国内で余った在庫のCレーションを送りつけているようで、殆どが1939年の初期製造品や1941年までの改良がされる前のもので、肉と野菜のシチューと書いてあるのに野菜しか入ってないとか味の面でもあまり評判は良くなかった。
「流石にあの主食が豆ばかりだったり野菜ばかりだったりのCレーションだけじゃ士気に影響が出るよ」
「食べられればなんでもいいと思うけど……」
「そうかな……でももう食糧もまともに残ってないし…」
「あれの便利なところは輸送効率と摂取カロリーだから。味なんか気にしちゃダメだよ」
彼女らしいといえばらしい反応だった。普段の食事もあまり顔を合わせることはない。
「ところでニーマントさんはご飯は食べたの?」
「機内でCレーションを食べてるから大丈夫だよ。尤もその様子じゃあまり美味しい昼食ではなかったようだけれど」
「あはは……下原さんは頑張ってたんだ。だけどやっぱり物がないからね」
どうやら扶桑の料理で水団と言うらしいけど…なんか生煮えに近い小麦粉の塊だった。
結局量も少なくて少し困っていた。それでもまだ最低限の食事ができるだけマシなのかもしれない。
「そういえば明日はサトゥルヌス祭だね」
思い出したかのようにニーマントさんがつぶやいた。その言葉が頭の中で無意識のうちに隅っこに追いやっていた事を思い出させた。
「そうだった!その件で相談があるんだ!」
「相談?」
「このままだと基地のサトゥルヌス祭が中止になっちゃうんだ。でもやっぱりひかりにはこの基地に来てよかったってそう思って欲しいんだ」
「なるほど……必要なものは?」
「えっと……スオムスは簡単な贈り物と豪華な食事をみんなで食べる事が多かったかな。後ガリアはケーキを作るらしいよ」
「なら食事がメインか。後はキャンドルとか木。酒も良いかも……分かった。明日までになんとかする」
「本当⁈」
そんな簡単に出来ることなの⁈
「ラル中佐と私である程度は当てがあるからどうにかしてみるよ」
当てがあったの⁈本当にラル中佐とこんな対等に何かができる人って……何者なんだろう。
「そっか……なんとかなりそうかな?」
「……ところでニーマントさんってスオムス語を話せたんだね」
「よく言われるけど言語はある程度分からないと色々と意思疎通が大変だからね」
少し困った顔で彼女は応えた。たしかに言語の壁はある。
今連合軍内部でもその事が少しだけ議論されていて、言語学者を集めて分かりやすくて戦場でのやりとりに必要な最低限の言葉で意味が伝わる言語を作っているらしい。この言葉は形容詞も少なく、簡素で高速に情報を伝えることが可能なんだとか。
でもあんなに色々できて、ウィッチとしての素質もあってどうして輸送機にばかり乗っているんだろう。あれくらいなら本当にどこの国でもエースウィッチとしてやっていけそうだけど。そもそもあの人……カールスラント人?だよね……
疑問が新しくできてしまったけれど、ラル中佐のところに歩き出した彼女を止めることはできなかったし、その後も気がつけば彼女はまたどこかへ飛び立ってしまった。
プロペラ機の音が遠くから聞こえてきた時には、飛び上がった機体を窓の外から見つめることしか出来なかった。
既に気温は氷点下から上がらない。飛行機雲がよく見えた。
ムルマンスクの海は、真冬であっても凍ることはない。
凍てつく寒さに反してその海の水は氷点下にならない。だからこそ最北の不凍港で、前線に近いが故に輸送艦やオラーシャ海軍艦艇がひしめいていた。
駆逐艦や駆潜艇、そして少しの防護巡洋艦がひしめいている軍港に、巨大な翼が降り立った。6発あるエンジンのうち2基を動かしてゆっくり進む飛行艇はあまりの大きさに駆逐艦が小さく見える。
ある程度まで湾内に入った飛行艇に内火艇が横付けされ、扶桑海軍の白い軍服をきた彼女が降りてきた。
「お久しぶりです坂本少佐」
「ああ、久しぶりだサーニャ」
埠頭に登った少佐は、あの頃と変わらず強い覇気を出していた。
「それにしても…すごい飛行艇…」
「世界を半周できる超大艇さ。これがなければ後二日はかかるところだったよ。まあ積もる話もあるだろうが場所を変えよう」
「そうですね。車も用意していますので行きましょうか」
私がここに呼ばれた理由。北欧方面を視察する坂本少佐のお迎えとなっている。坂本少佐直々の指名だった。
でも実際には少し違った坂本少佐用に用意された車に乗ると、坂本少佐が引き連れていた付き人の方が運転席に座った。
「防音仕様になっていますから、もう話しても大丈夫ですよ」
「なるほど、しっかりと暗号は機能していたみたいだな。なら本題だ。これを502のラル中佐に届けてほしい」
それは小さなロケットペンダントだった。特に凝った模様がされているわけではない。
「中身は……」
「ガリア奪還時の情報だ。どうやら502を中心として我々のように巣を攻略できると思っているらしい」
そこまで言った坂本少佐は言葉を一旦区切った。同時に車が動き出した。
「ああ……想定していた損耗よりも少なかったから…」
「そうだ。事情を知らない上層部が作戦を前倒しで強行しているのが現実だ」
また無茶な攻勢をかけるつもりなのね。でもここで攻勢が失敗すればまた世界は逆戻りしてしまう。危うい拮抗の上で成り立っている欧州戦線の現実を知っているのかしら。
「しかし我々のあの作戦は軍の中でもかなりの機密だ。だからラル中佐でも情報を引き出せなかったらしい。それで二週間前に連絡が来た」
「それではペテルブルクまで運べば良いのですね?」
「頼んだよ。くれぐれも気をつけてくれ。軍機の当事者である私達は一応監視されているからな」
少しだけペンダントが重たく感じた。後でもう少し隠し場所を工夫しないといけないかもしれない。
私たちの車の後ろを、トラックがついてきていた。
「あまり振り向かない方がいい。護衛とは言っているがどう考えても監視だよ」
「厳しいですね……」
「ある種の爆弾だからな。人の口に戸は立てられない。生きている以上秘密がいつ漏れるか分からないからな」
二日ほど坂本少佐と行動を共にした私はそのままペテルブルク基地に向かおうとしたけれど、軍の補給隊の支援という急務が入ってしまった。行き先はスオムス軍のタクティカルエアベース。そう呼ばれている小さな基地だった。
なんでもこの荷物の最終的な行き先はペテルブルク基地。ある意味では好都合だった。
小さな双発機を護衛し、向かった先には別の大型機が滑走路の端っこで狭そうに駐機された本当に小さい基地だった。
「サーニャ!久しぶりだな!」
だからなのかな。見知った声はすぐに聞こえてきた。
「エイラ。先週あったばかりじゃなかったかしら……」
「いいだろ?細かいことは気にするなって……」
少しだけ見上げる格好になってしゃべる。久しぶりって感じではないけれどどこか落ち着く感じがする。
少ししていると視界の隅で駐機されていた大型機が牽引車で動かされ、連れてきた飛行機の横に駐機された。
「あっちの機体にオラーシャからの荷物を載せ替えるらしい。無愛想なパイロットなんだなあ……ずっと降りてこないし。あ、あいつがパイロットか……」
コックピットのハッチが開いて、サングラスをかけた少女が降りてきた。
どこかで見たことある。というかあの毛先が銀色の髪の毛は彼女しかない。こちらを意図的に避けるように視線を逸らしているあたりあからさますぎて、少しだけ思考が止まってしまった。
「……」
それはエイラも同じだった。でも回復はエイラのほうが早くて、青筋を浮かべて彼女はハルさんに近づいていった。
「……あいつ」
「元気そうだな?」
「……久しぶり」
「久しぶりじゃないよ!なに心配かけさせてんだバカ!」
大胆にもエイラは首を掴んでハルさんを引きずってきた。その頃には私も思考は戻っていて、逆になんて声をかけていいのかわからなくなっていた。怒ればいいのか喜べばいいのか。泣けばいいのか笑えばいいのか。分からなくて、混乱して、口から出てきた言葉は結局再会を喜ぶものでは無かった。
「心配していたんですからね?無茶ばかりして……結局最後まで…」
「公式には彼女は行方不明になっている。私は何者でもないよ」
あまり変わっていない彼女にどこか安心を覚えている自分がいた。
「ふーん?そうかそうか……そのくせ502で運び屋やってるのか」
エイラの言葉に苦笑するハルさん。そういえば501にいた時はあまり笑っている印象はなかった。少しづつ変わっているのかな。
「ラル中佐の頼みだよ。そもそもストライカーはほとんど使ってないし体も休めているよ」
「ンーなら安心した」
「信じるの?」
絶対また無茶なことしてそうだけれど……
「人に言われて変えるような奴じゃないけど嘘はつかないからナ」
「それに……私はまだ飛び続けないといけないから」
「まあ、人手は必要だナ…」
それは否定できなかった。オラーシャも、いいえ。どこの国もウィッチは喉から手が出るほどほしい。それこそ国籍関係なく、自軍に引き入れたいと思っているくらいだ。それほどまでに航空ウィッチは少ない。特にウィッチの消耗は開戦からずっと変わらなくて、なんとか訓練課程の見直しとかで保っているのが現実だった。
「……再会はもういいかな?荷物が積み終わり次第出発する。サーニャ中尉は今のうちに休んでいて」
「なんであんたが指揮してんダ?」
「大尉ですので」
結局飛行機が出るまで数時間かかった。
その頃には夜の闇も流石に無くなっていて、日差しが伸びていた。短い北欧の昼が始まっていた。
三式飛行艇
開発国
扶桑国
開発会社
川西航空機
全長30.4m
全幅98m
空虚重量30.4t 最大積載量10t 最大離水重量55t
エンジン
ネ-0-31型6基
出力2550HP×6基
最高速度460km/h
航続距離14500km
武装
九九式二〇粍二号機銃四型 4丁
三式十三粍機銃一型 8丁
乗員16名
扶桑国が開発した大型飛行艇であり二式飛行艇の開発経験と技術を活かして作られた。その巨体から超大艇、あるいは超大型飛行艇とも呼ばれる。
三胴型の胴体と大型の高翼配置を持つ機体であり扶桑国では初の設計だったが形としてはリベリオンのP-38などの前例がありさほど珍しいものでは無かった。また燃料タンクの構造なども一式陸攻や二式飛行艇で使用された技術を用いており見た目の割には新技術の導入は控えられている。
胴体中央部分はコックピット部分とキャビン部分とされ見た目は一式陸攻の胴体を短くしたような構造となっている。
左右にはフロートを兼ねた左右胴体部分があり、主翼、尾翼などが一体となっている。
気流の乱れを避けるため水平尾翼は垂直尾翼より上となり左右の胴体をつなげるように垂直尾翼内側に設置されている。
発動機は左右主翼に3基づつの合計6基。ネ-0ターボプロップエンジンを搭載している。31型は大型機用にサイズを拡大し出力を上げたもので2500馬力を超える出力を誇る。
武装として20mm機銃を中央胴体の上部に連装式、左右胴体の上部に単装として収めている。共に電動式の動力銃座となっている。
副武装は二式飛行艇から強化された13mm機銃となり左右胴体側面に連装型、後部、前部に単装型で備えられている。
各胴体はそれぞれチューブ式の乗員通路で繋がれている。
主に輸送機としての運用が主であるが主翼には武装を搭載するハードポイントが設けられており爆弾あるいは魚雷を搭載する事も可能となっている。
ハルちゃんの三走目
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ストパン2期
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RtB
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アフリカ