ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
一時は食中毒とネウロイ襲来が重なって基地が壊滅的打撃を受けるかと思われていた。なんとかギリギリのところで援軍が間に合ってくれたからよかったが、あれは私も肝が冷えた。
ハルが機転を効かせてくれなければ一体どれほどの被害が出ていたことやらだ。
そんな基地を救った立役者たちは今サトゥルヌス祭を楽しんでいる。
そんな中で全員の輪に入らず1人だけストライカーユニットが保管されている第二格納庫にいる影の立役者は冷めた目でストライカーを見つめていた。
「なんだ?混ざらないのか?」
声をかけた私に我に帰ったハルは少し寂しそうに一言呟いた。
「混ざる必要も無いでしょう。基地を救った英雄でも無いですし、私はただの輸送隊員ですよ」
「貴官も変わらないさ。全員もれなく英雄だよ」
強がりを言っているように聞こえて、何が彼女をそこまで追い込むのか不思議だった。ここ数ヶ月彼女を見てきて思ったのが、よくこのじゃじゃ馬を彼女は制御し続けたという賞賛だった。
だけれどそのじゃじゃ馬も最強のじゃじゃ馬だ。一騎当千。そんな言葉がぴったりと当てはまる。
「英雄なんて……呪いの言葉に変わりはないですよ」
その言葉は、強がりと切り捨てるのを躊躇するほどの確信を持っているように思えた。
「そういうものか?」
「選択と切り捨て」
「大を生かすために小を切り捨てる。近代戦はそんなものです。個人の活躍よりもよりそっちが重視される」
ストライカーを履いて空を飛んだ時にはそんなこと夢にも思っていなかった。誰かを助けるために誰かを見捨てなければならない。それを英雄と呼ぶのを彼女は嫌っていたのだ。
「現代戦に英雄はいらない……か」
「そもそも個人の戦闘が戦局に寄与する場面が減っているからこそ英雄の定義は切り捨てと選別になってきているのです」
いや、英雄の本質が露わになってきたのだ。それは大昔から、紀元前の英雄ですら行っていた行為と、それに寄って得られた勝利という栄冠の本質。
「だが501に与えられた英雄の称号は違うだろう」
501は、ガリアを覆っていたネウロイを破壊し欧州の地を解放した。その立役者であった。それも戦力も最小限に、誰もかける事なく。それこそ選択をしなかった成功例では無いのだろうか。
「……誰かの思いを切り捨て、誰かの理想を砕いて得られた称号のどこに違いがあるのですか」
だけれど彼女の表情が晴れることはなかった。事情を深く知らない私が軽々しく突っ込んで良い話でもなかったようだ。
「そうか。たしかにそうかもしれないな……ならば私はあえてその英雄の道を行くことにしよう」
「……英雄なんてなるものじゃないですよ」
「生憎その称号は頼み事をするときに使えるからな」
「貴女らしいですね。変わらない……どこか安心しました」
気がつけば彼女は破顔して笑っていた。呆れたような、安心したようなそんな表情だった。
「そっちこそ変わらないな」
「私は中途半端に止まることを選んでいましたが……突き抜けてみようかなって気にはなりました。まあ、これに本格的に戻るのはまだやめておきます」
そう言ってストライカーユニットを見つめていた。
「いつでも言ってくれ。君の意志ならば私は尊重する。誰が何を言ってきたとしても気にするな」
その後も少しだけストライカーを見ていた彼女は、冷えるからみんなのところに戻ろうと言い、格納庫を後にした。
戻れば何やら騒がしい。
どうやら、例の従軍記者が全員の集合写真を撮ると言うことになった。当然ハルの扱いには困ったが、集合写真には入れないでおいた。
彼女は気付けば広場に戻ってきて皆が集まっているところを遠くから見つつ、絵を描き始めていた。鉛筆をいくつか使い分けながら素早く、あっという間に描きあげていく。そっとそれを見ていると視線に気づいた彼女が少しだけ視線を向けた。
「写真も良いですけど、絵でも残しておきたいじゃないですか」
「合理的ではないな。だが悪くない」
「これでも絵には自信があるんです」
たしかに彼女の言葉通り絵の才能は高かった。だがそこに彼女の姿はない。私としては彼女自身の……いや、記憶は記録として私が残すとしよう。
少しくらい写真があってもいいだろうと、記者にこっそりと彼女の姿を撮ってもらった。
絵描きに夢中になっていると流石に警戒心も散漫になるようで、普段よりも自然な微笑みを切り取れた気がした。
人間が概念として生み出した時間というものは日が登っていようと、未だに夜の闇に包まれていようと同じ時間であることを示す。
やっぱりまだ暗いな。なんて思っても起床の時間であることには変わりない。それどころか本来の起床時間を大幅に過ぎていた。
任務が終わって、多少戦闘もして直ぐに基地に戻されるのかなと思っていたけれど、案外上層部も融通が効くらしい。
サトゥルヌス祭が終わって数時間後には帰るつもりで支度をしていたら、少しの合間ペテルブルク基地での休養が許可された。なんだか気を遣わせてもらっているような気がする。でもこれでサーニャと一緒にいられるぞ。
「あれ……まだいたんですか?」
気がつけば部屋の同居人。というか本来4人用の部屋を一人で占有していたハルが、戻ってきていた。普段から部屋にあまりいない事の多いこいつだったけどまさかサトゥルヌス祭が終わった日の未明から飛行機でどこかに飛んで行くなんて思っていなかった。
こいつもしかして501の時より生活習慣乱れているんじゃないだろうな……
「少しの合間ゆっくりしていくからそのつもりでナ」
とりあえずサーニャと安心して出かけたいからあまりこっちにもサーニャにも心配かけさせるなと釘を入れておく。
さてと……サーニャを探さないと。中佐に呼ばれてたしもしかしたら隊長室かな。
そう思って部屋を出たけれどなんでかハルもついてきていた。
「なんでついてくるんダ?」
「単純に中佐に挨拶しにいくだけです」
行き先が同じだったと言う。まあいいか。
「……なあ、なんで生きているって知らせないんだ?別に501の仲間なら大丈夫だと思うけどナ」
ちょっとだけ一緒に歩いていて沈黙の状態が嫌になって尋ねた。
「情報漏洩は最低限にするべきですから」
どうやらこいつはこいつで厄介な連中に目をつけられているらしい。やっぱりマロニーとか言う頭おかしいやつとそれと同じ思考の過激派は面倒で仕方がない。これじゃあネウロイ戦争が終わっても平穏は来そうにないな。
「そうは言っても結構バレてるよナ」
でもこいつもこいつで変装しないのはなんだか訳がわからない。結局見る人がみれば直ぐにわかるし。
「もうちょっと変装した方がよかったかな…」
「ダロウナー」
だからってカボチャの被り物は絶対違うぞ。なんだその仮装。
いやサトゥルヌス祭で使う予定だった?それはもうなんも関係ないだろう。謝肉祭がギリギリだぞ!
隊長室でサーニャと合流できて、ハルにデートと冷やかしを受けそうになりながらも一緒に出かける約束を取り付けることができた。入れ違いにハルは隊長室に入っていき、少ししてどこかにふらりと行ってしまった。
「ハルさん?」
「なんか中佐に用事があったみたいだぞ」
サーニャは、あいつが前線部隊に戻ってきていることに難色を示していた。気持ちはわかるけどあいつはあいつでなんだかんだ戦場に戻ってくるからなあ……無茶しないならいいけど。
でも前みたいに思い詰めた表情でもないからまだマシなのかな。
そう考えながら偶然格納庫の前を通りかかったらあいつがいた。途中でお弁当というか間食を貰ったりしていたからその合間に先を越されていたらしい。それにしたって神出鬼没なやつだナ。
格納庫でハルが菅野ってやつ相手に何か商売みたいなことしてた。
「これが新型の弾丸?」
「焼夷炸裂徹甲弾。いる?」
「いらねえ!この前だって焼夷弾安くしておくって言うから貰ったのに不発ばかりじゃねえか!」
おいおい、それはまずいだろう。
「あれは安かろう悪かろうだよ。でもこれは違う。対魔道処理を施したギルティング・メタル製高貫通弾頭と遅延信管。炸薬は炸裂時に魔導共鳴を起こすように調整された対ネウロイ用のwh-1火薬を使用した最新のものだよ」
「何してんだアイツ……」
「さ、さあ?」
そもそもなんでそんな最新鋭の弾丸持ってきているんだよ。多分リベリオンが作ったやつだろうけど。
「重量は?」
「扶桑の二号型の弾丸用は120発装填型で40kg。多少通常より重くなるけどそこは割り切ってほしいな」
態度が軟化してる。あれは心がぶれてるな。
「まあそのくらいなら許容範囲だが……」
釣られ始めた菅野を横目にデートの準備だ。これ以上他の奴らに邪魔されるのはごめんだ。
あ!クルピンスキー⁈なにサーニャに言い寄ってるんだ!サーニャをそんな目で見るな!
ああもう‼︎サーニャ、こっちだ‼︎
結局言い寄ってくる虫を追い払うのにかなり時間を要した。気がつけば太陽が低いながらもある程度の高さまで登っていた。
低くて太い音がして、いつのまにかハンガーには変わった形の旅客機が止まっていた。それのエンジンが空吹かしをしていたらしい。機首には第127輸送航空団のエンブレムであるライフルを咥えたコウノトリが描かれていた。
だけどその輸送航空団は今は南東部の前線を中心にして飛んでいたはずだったしどう見てもそれは輸送機じゃなくて民間機だった。徴用機なんだろう。
それに乗り込もうとしているのは子供が二人と、それにつきそう女性。アガリを迎えて引退したウィッチに見えるな。
いや、それよりも前にどこかで見た事があるような気がする。どこだったか……あー思い出せない。
「なんか……どこかで見たことがあるな」
「エドヴァルナ・フォン・シュレイナ伯爵じゃないかしら?」
「知っているのかサーニャ?」
「第一次ネウロイ戦争の時のエースウィッチ。同時にネウロイ戦争終結後は冒険家として南リベリオン大陸のアマゾン地域の探検とかをしていたはず。確か昔父の書斎に本があって、よく読んでいたの」
「そんなに有名な人だったのか」
そんな冒険談とか自伝は読んだ事なかったな。は!これはもしかしてサーニャへのアプローチに……急いで調べないと!
機体の側で誰かが点検を行っていると思ったら、それはハルだった。さっきまで菅野と商談してなかったかあいつ。
そう思って格納庫をみれば、何か弾薬箱を抱えて何処かに行く菅野の姿があった。
まさかあいつ…飛行機の運行前に片手間で商売擬きしてたのか?やっぱり頭おかしい。
「見送りかな?」
サーニャも気がついたのかじっとりした細目であいつを見ていたら、視線に気がついたあいつはこっちに歩いてきた。相変わらずなんか無表情だな。あれが表の仮面らしい。
「そんなところだな……お客さんなのか?」
「ああ、病気の子供たちを本格的な医療が可能なところに連れて行くんだ」
聞けば子供二人は伯爵が経営している孤児院の子どもらしい。ウィッチとしての能力がすごく強いけれどそれに伴う体の異常…後天性魔力障害を発症したらしい。治療法自体は確立されているけれど、設備などの問題でそれが出来るのは一部の大病院くらいしか出来ない。欧州は軒並み大陸から避難した関係で医療設備はほとんど存在しない状態だったそうだ。
「そっか、頑張れよ」
「頑張ってください」
「二人ともありがとう。デート楽しんでおいで」
なんだかあいつが笑うとこっちも釣られて笑ってしまう。折角だしあいつにもなんか街でプレゼントを見繕うか。サトゥルヌス祭の時あいついなかったし。
基地を出る時に頭上轟音が伸びていき、振り返ればあいつが用意していた飛行機が飛び去っていくのが見えた。飛行機雲を伸ばして最初は腕くらいの大きさに見えていた機影はほんの数秒で空の青色の中に溶け込んでいった。
戻ってきたらプレゼントを渡すついでにもう少しこれまでの事を聞いてみようと思ったけど、私達が基地を去るまでに彼女が戻ってくることはなかった。
仕方がないからプレゼントはひかりとか言う扶桑海軍のウィッチに代わりに渡してもらう事にした。
まあ、あいつらしいといえばあいつらしい。
GA-43
開発国
リベリオン・カールスラント
開発会社
ジェネラル・アヴィエーション社
ユンカース社
全長13.13 m全幅16.15 m
空虚重量2.4t
全備重量4.1t
エンジン
Wright R-1820又はユモ211
最高速度312 km/h
航続距離790km
本機は1931年代に製造されたリベリオンの単発で10座席の旅客機である。
ジェネラル・アヴィエーション社製造は5機であるがライセンス生産並びにエンジン換装の発展型をカールスラントのユンカース社が担当しており戦前ではカールスラント国内線でユモエンジンを積んだ機体が15機運行していた。
戦争が始まるとこれら機体は徴用され輸送機として運用されていた。そもほとんどは東部前線に回されている。
ハルちゃんの三走目
-
ストパン2期
-
RtB
-
アフリカ