ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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飛行機の中というのは外に漏れたくない会話をするときにはこれ以上とない密室空間になる。

シュレイナ伯爵は客席に子供を乗せつつ、自身は客室から独立したコックピットでその少女と2人きりになっていた。

 

「連合軍の反攻計画が前倒しになったわ。こちらも計画を急がないといけなくなった」

ゆえに彼女が現在抱えている悩みを、相談という形で漏らすには十分な機密性を持っていた。

「それはまたなんとも急な話で……後ろの2人と関係が?」

後ろの席の子供は伯爵の養子であるリサ。そして彼女の親友であり最も治療が必要とされている少女、レナータだった。

「別に、あの2人は関係ないわ。貴女にはね」

 

「しかしこの時期に功を焦るとは」

 

「まだ失敗したと決まったわけではないでしょう」

 

「では何が彼らを急がせたと思います?」

言葉に詰まる少女。別に伯爵は答えを求めているわけではなかった。そのため少女の考えが纏まるよりも先に伯爵が自分で答えた。

「ようは資本、金よ」

第二次ネウロイ大戦で本国を失った先進国と欧州各国。海洋貿易国家の扶桑とリベリオン。その両者に差はあるかも知れないが、いずれにしても軍を維持し、さらにネウロイと戦っていく上では莫大な資本が必要となる。ブリタニア、ガリア、カールスラントを見本にすれば、大戦勃発後の国家予算は実に8割が軍事に回されている。当然徴兵に徴兵を重ね男手は不足。国の基幹産業である工業、農業そのものが維持できるかどうかの瀬戸際。国力も既に戦争に耐えうる限界に近づいているのよ。

もう一年、あるいは保って二年。元々第一次ネウロイ大戦で欧州はそれなりにダメージを負っていたけれどそれが回復したところでのこの戦争よ。元々の時点でネウロイとの戦いは短期決戦と決められていたのよ。そうでなければ経済が破綻してしまうから。

「しかし現状は戦争は長期戦に。各国は早期決着を望んでいると」

 

「それに貴女たち501にも原因があるのよ。上手く立ち回りすぎて巣の攻略は想定よりも早く終わらせられると上層部は勘違いしているわ」

本来予算の問題なら今私達が生み出そうとしている秘匿兵器こそ圧倒的低予算で作れるわ。それこそ駆逐艦一隻ほどの値段でネウロイの巣そのものを消失させることができる。伯爵である私の資産で用意できるのだから本来ならどこの国の利益になるはずよ。問題は時間がないってこと。このまま反攻作戦が実施されれば人類の被害は目も当てられないわ。

「ネウロイの巣は人間だけじゃ太刀打ち不可能なのよ。それを上層部はわかってない。機甲師団6個、歩兵師団編成12個…ウィッチ隊を含めてこの数じゃ……」

 

「無茶な。上層部は何を考えて……いや、あの時もう少し損害が大きければもしかしたらこうはならなかった?」

思い当たる節がないわけではないと言った感じに少女は唸る。

「今更考えても無駄よ。兎も角、計画を前倒しにしないといけないけれど現状では完成が間に合うかどうか……」

 

「それが本題か……」

 

「今輸送船団の荷物に紛れ込ませて手配しているけれどそれが無事に届くかどうか」

 

「それほどまでに重要なのね?」

 

「最悪の場合反攻計画自体を遅らせるかしないと……貴女ならどうするのかしら?」

 

今度は本当の質問だった。少女は伯爵の方を少しだけ見つめてから、徐に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

輸送船団は改ダイドー級軽巡洋艦ヴァーノンを旗艦とし、トライバル級駆逐艦4隻で構成された第42駆逐戦隊とハント級駆逐艦4隻で構成された第52駆逐戦隊の2個駆逐艦隊による護衛艦隊の護衛のもと洋上を15ノットの巡航速度で進んでいた。

TC35船団と名付けられたそれはこの時期にしては比較的波が静かな海を白波を立てて突き進んでいた。

 

船団の先陣を切って進むヴァーノンはダイドー級の中では最新鋭に当たる艦で航空ウィッチの運用を可能としていた。

艦首側第一番砲塔を撤去し、その空間にウィッチ射出用の専用カタパルトを設けていた。カタパルトは砲塔下部の給弾機構の跡地に設けられた小型エレベーターに載せられており、そのまま一層下の整備デッキに降りることが可能となっている。

そんな旗艦の会議室に1人の少女が呼び出されていた。呼び出した相手は輸送船団の指揮官であるライアン・アーカート少将。

 

「出港が早まってすまなかったな。まだ休暇中ではなかったのかな?」

席に着くなりアーカート少将は少女に詫びながら、コーヒーでもどうかなと尋ねた。勿論答えを聞いているわけではない。

 

「ご心配なく。こちらは命令とあらばいつでも出動できるように準備していましたので。それにしてもまた急ですね」

少女ことブリタニア空軍ウィッチのロベルタ・マナーズ大尉。ラトランド侯爵の称号を持つ家系の長女であり、継承序列一位の貴族だった。今回の船団護衛のためブリタニア空軍が船団に派遣したただ1人のウィッチだった。

 

「反攻計画が前倒しになったのだ。仕方がないさ。上層部は何を考えているのやらだ」

 

「このまま戦争が長引くのを嫌ったのではないでしょうか?」

 

第二次ネウロイ大戦が始まってから既に5年が経っています。欧州の国は国そのものが消滅したところもあれば、本国を失い植民地に国家機能を移設せざるをえなくなりました。それらの国は国力そのものが大きく衰退しています。このまま国家そのものが衰退したままですと扶桑、リベリオンと言った直接の被害をあまり受けていない国の属国か経済植民地としての未来が待っている。各国首脳はそう考えているのでしょう。尤も私達ブリタニアもまた本土こそ失っていませんが第一次ネウロイ大戦の時の対リベリオン債務で戦争前から首が回らなくなり始めていました。

軍縮条約や植民地の一部切り崩しと経済政策でどうにか資本の抽出に当たっていましたがそれも第二ネウロイ大戦によってほとんど吹き飛びました。債務だけで既に第一ネウロイ大戦の時の二倍近い債務が発生しています。

これ以上は経済にも影響が及びますし国の経済が破綻してしまいますわ。

 

「だからこそ早期の決着を望んでいるのでしょう」

ロベルタは区切りをつくようにそう言った。

 

「金と政治か。しかしそのために大勢の将兵を無駄に死なせるわけにはいかん。いくら501がネウロイの巣を想定を下回る損害で撃破したとしてもだ。奇跡というのは何度も起こるものではない」

ましてや今度の巣は501による戦闘すら学習している可能性がある。ますます手強い相手になっているだろう。ネウロイの学習能力は恐ろしく早く、新兵器や新戦術でも半年足らずでそれらに対抗する力を備えてしまう。実質的な人類の優位性は殆どないと言っても過言ではないのだ。

 

「これから払うお金より将兵への見舞金の方が安く上がると考えているのでしょう。幸いブリタニアは徴兵をほぼ行っていませんから国内の人員余力の点で言えばまだ余裕があるのでしょう」

 

「それはあまりにも乱暴ではないかな?」

 

「ですが事実です。現に航海日程の短縮のため総司令部から送られている航路はネウロイの勢力圏にかなり接近しています。本来であればもう少し西側に迂回した航路を取るべきです」

 

彼女がそこまで言ったところで警報が鳴った。艦が搭載している対空レーダーが接近するネウロイを捉えたのだった。

 

 

「状況!」

 

「方位2-3-2の方位より大型ネウロイ接近。距離20マイル。まもなく視認できます」

初老の艦長は落ち着いた口調で答えた。未だに目視では捉えられていないものの、移動速度からすれば後1分ほどでこちらからも視認出来そうだった。

 

「周囲への救援は?」

 

「最も近いのは現在502から派遣されたウィッチ4名。現在こちらに急行中。会敵予想時刻は04」

瞬時にウィッチ隊が合流できるまでの時間とネウロイの射程に船団が入るまでの時間を計算したアーカート少将は船団が十分ほど攻撃にさらされるのを瞬時に悟った。

「現状は我々だけでの対処か」

 

「マナーズ大尉、後2分で発艦します!」

 

「急がせろ!接近されるとこちらの戦力では大型ネウロイは抑えきれん!」

軽巡洋艦と駆逐艦8隻でTC35の6隻の輸送船を大型ネウロイから守り切らなければならない。

 

 

だが現実は無情だった。

相手が大型ネウロイであったことも災いし、主砲の射程に入る前に、ネウロイからの先制攻撃を浴びることになった。

最初の十数発のビームは船団の近くに着弾するも派手な水飛沫を上げるだけにとどまった。

マナーズ大尉の牽制により狙いが集中していない証拠だった。

しかし駆逐艦に直撃のコースを取るビームが出た時、ついに破局が訪れた。

船団右舷にいたハント級駆逐艦の艦首で砲弾を撃ち上げていた主砲の真下に赤い閃光が吸い込まれ、主砲直下から船体が吹き飛んだ。

甲板で砲を操作していた十数人はまとめて爆炎の中に消え、破片と共に細切れになった体を海に、艦橋に吹き飛ばした。

艦首は引きちぎれ、艦橋から前を失った駆逐艦は速度こそ船団に合わせてゆっくりであったものの、突っかかるようにして海面に突き進み、スクリューが海面に露出するほど艦尾を上げたままゆっくりと沈み始めた。

その一隻が開けてしまった穴から多数のビームが輸送船に向かっていった。

間一髪それらはマナーズ大尉のシールドで弾くことが出来たものの、全てを防ぎ切ることはできずシールドが割れ、ビームの残滓がストライカーのエンジン部を直撃。爆発と共にマナーズ大尉は輸送船の甲板に叩きつけられた。

 

「ウィッチがやられた‼︎」

 

「敵ネウロイ船団正面に回り込もうとしています!」

ヴァーノンの艦橋に次々と報告が入る。

アーカート少将は不味いことになったと内心毒突いた。

洋上を進む船と違い空を飛ぶネウロイは数倍の速度を出すことが出来る。それゆえに船団がネウロイから逃れることは不可能だった。

ウィッチという護衛を失った船団の周囲にいくつものビームが着弾し、トライバル級が衝撃と波で大きく船体を揺さぶられる。

 

「船団の頭を押さえる気か‼︎」

「させん!輸送船の盾になる!取り舵いっぱい!」

艦長が咄嗟の指示が飛ぶ。

ヴァーノンが大きく揺れ、輸送船に向かっていたビームの合間に船体を押し込んだ。

衝撃に備えようと手摺を掴んでいたアーカート少将だったが、船体を貫くはずだったビームは一向に船体を貫かなかった。

 

「間一髪。…こちら502統合戦闘航空団派遣隊隊長クルピンスキー。これより船団の援護に入る!」

 

 

 

 

 

「ってことがあってさ。マナーズ大尉に看病してもらうことになったからもう少しここにいるよ」

 

救助されて基地の救護所に収容された僕を、ハルが迎えに来たのは救助されたその日の夜だった。

昼間に献身的な看護を受けたしひかり達も出発は明日だから迎えが来るまでゆっくり出来ると思っていたけれど、これは想定外な早さだった。

 

「ダメです。ロスマンさんからの命令で基地に到着している物資やストライカーと共に早急に回収するようにとの命令です」

うわ、絶対報告が入っているやつだ。だけどハルもハルだよ。早急にって言われてこんな深夜に病人叩き起こすなんて。

「つれないこと言わないでよ。もう少しだけかわいこちゃんと……」

絶対零度の冷めた瞳が見つめていた。完全に怒っている時の目線だ。よくロスマンもしている。

「マナーズ大尉は公爵家の長女ですし彼女自身も現在伯爵位を持っているれっきとした貴族ですけど…将来公爵を継ぐ貴族に手を出す気ですか?」

 

「う…いやそういうわけじゃ……」

なんとなく育ちがいいと思ってたら本当の伯爵だったのね。

「後ロスマンさんが嫉妬しますよ。彼女ああ見えて嫉妬深いですから」

 

「え……それ初耳」

まあ、仕方がないか。ひかり達には置き手紙を残すとして……あ、もしかして物資も一緒に持っていくってことは葡萄ジュースも飲めるかも。




改ダイドー級軽巡洋艦(ヴァーノン級軽巡洋艦)

一番艦ヴァーノン

基準排水量5500t
全長156.05m全幅15.39m

主缶
アドミラリティ式重油専焼三胴型水管缶4基
主機
パーソンズ式ギヤードタービン 4基4軸推進
最大出力62,000 shp
最大速力32.25kn/h

乗員530名
装甲
垂直装甲 76mmNC
砲塔前盾、バーベット 25mmDS
水平装甲(弾薬庫)51mmNC
水平装甲(機関部)25mmNC

兵装
13.3cm(50口径)連装高角砲4基8門
ボフォース40mm連装機関砲4基8門
エリコンFF20mm連装機銃6基12門
53.3cm水上魚雷発射管三連装2基



第一次ネウロイ大戦から急速に発達した航空機が艦隊の脅威となることを予見したブリタニア海軍は従来旧式化した巡洋艦の主砲を高角砲へ乗せ替えた防空巡洋艦を運用していたが、改装ゆえの非合理さや老朽化が深刻となっていた。
そこで新規に防空巡洋艦ダイドー級を計画した。
本来ダイドー級は16隻が建造される予定だったが、建造中に第二次ネウロイ大戦が勃発し、主砲の5.25インチ砲がキングジョージ5世級戦艦の副砲にも使われるなど砲の生産が追いつかなくなっていた。
そこでダイドー級は4隻で建造が打ち切られる事となった。

しかし予算の上では5隻が1936年度予算で計上されておりこの一隻分の予算を投じて建造されたのがヴァーノン級軽巡洋艦である。
本艦はウィッチを運用するウィッチ母艦としての機能を持たせるべく元より生産が追いついていない5.25インチ砲を一基減らし空いたスペースにストライカーの格納庫と武器弾薬庫、燃料タンクも予備部品室などを設けた設計となっている。
その他の兵装としてボフォース40mm連装機関砲を艦橋横と第二煙突前方の左右に二基づつ。20mm連装機関砲を左右に三基づつ搭載している。

予算の都合で建造された艦のため同型艦はおらず、本艦以降は砲の数wっ一基減らし艦橋を改装したベローナ級(準ダイドー級)が建造されることとなる。

ハルちゃんの三走目

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