ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:鹿尾菜

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才能とは生まれついた天性的なものと、絶え間ない努力によって開花した二つしか存在しない。そして圧倒的多数は後者である。

 

ーーエドヴァルナ・フォン・シュレイナ伯爵著『スタンレー山脈の魔物』4章よりーー

 

 

 

欧州、それも高緯度となる土地の冬は恐ろしく寒くなる。

日照時間も短く、朝であってもまだ日は昇らない。

そんな夜間飛行とほぼ変わらない明るさの中でも、空を飛ばなければならない。

「こんな暗いんじゃナイトウィッチの時間じゃないのか?」

夜の闇に慣らしたものの、それでも先導のウィッチ。ニーマントとか言うやつの飛行灯火が無かったら直ぐに迷いそうだ。

一応横にニパとひかりの野郎がいるにはいるがニパの航行灯火は離陸してから直ぐに片方が切れた。

そう言う意味でもこんな時間に訓練をさせられるなんて冗談じゃなかった。特にこの姉の代わりに来た負けず嫌いは夜間飛行もおぼつかない。

さっきからふらふらしたままだ。

まあ、経験がないなら仕方がねえな。

「訓練飛行空域に入る頃には日も昇ってくる。帰る頃には朝日が拝めるよ」

 

「それにしても寒いですよ」

 

「そっか、魔法力をあまり回せてないから……」

ニパがマフラーを首元に巻いた。世話焼きが多いのは結構だがそんなので強くなれるのだろうか。

「じゃあ帰れば良いんじゃないか?」

 

「それは嫌です」

 

 

しばらくの無言。その合間にも日は昇り始めて星空が赤みを帯びて明るくなってきた。まだ暗いがそれでもはっきりと見えるくらいにはなってきた。

 

「もう間も無く訓練空域だ。到着後は模擬戦。私は管野とペアを組む。ニパとひかりでペアだ。そちらから攻勢をかけてくれ」

迷いなく目の前で一定の距離を保って点いていた飛行灯が消えて、位置表示のための小さな赤い光がぼんやりと輝き始めた。

同時にあいつはニパと共に高度を上げていったのか扶桑の空冷発動機の音が遠くなっていった。

 

「あんた……俺だけ苗字呼びだな」

状況が始まるまで少し時間があった。沈黙のままというのも気分が良くなくて、直ぐに思い浮かんだことをそのまま口に出した。

「いやだったかい?」

 

「いや、別に……ただ気になっただけだ」

 

「あまり人と馴れ合うのが好きじゃなさそうだったからね」

 

「あっそ。ならそうしてくれ」

確かに無駄な馴れ合いをするくらいならこのくらいの距離感の方が安心して背中を任せられそうだ。それに腕も良い。

ただし見た目はそれこそ伯爵やニパに比べたら十分子供。多分ひかりと変わらないくらいのガキ。だけど雰囲気だけは歴戦な変わったやつだ。

素性はわからねえが訳ありなんだろう。こうして正式な502ではないにも関わらず嚮導から教官までこなしている。

 

「無駄話は終わりだ。ブレイク」

早速仕掛けてきた2人の火線を左に体を捻って逸らし相手が通過するのを待つ。

飛び込んできたのは1人だけ。もう1人は接触を危惧して上昇していた。連携に失敗したな。

下に行ったやつはやっぱりひかりの野郎だった。そのまま上昇に転じながら距離を取っていた。だけどバディとも距離取ってたら互いに支援できないじゃないか。

 

今回使えるのは弾倉一つ分。予備弾倉は実弾の入った緊急時用だ。

だから無駄にあいつを追う事はしない。各個撃破だ。

ネウロイ相手にするより頭も使わないといけない。普通にぶん殴って撃破するのとは訳が違う。だから実戦の方が絶対に成長に繋がる。それを分かっているのだろうか。

そんな疑問が頭を通って、直ぐに頭を振ってそれを追い払った。

 

ニーマントは後ろでニパに対して牽制射撃をしていた。背面飛行でMG42を上に撃ちあげていた。

ニパと高度差はそこまでない。発動機を吹かしてその高度差を埋めるために上昇。

背後に回るために旋回をするから速度は必然的に落ちていく。ふと視界の端にひかりの姿が映った。あまり時間をかけてはいられない。

ニパと目が合った。ヘッドオン。真正面からの弾の撃ち合いを演じる。こっちの20mmは弾道特性がいいわけではない。それでも距離が近いから狙いを絞らずともなんとかなった。

ニーマントの援護射撃もあってニパは逃げられない。

「もらった!」

 

「させない!」

 

いつのまにか背後にひかりが迫っていた。振り返った途端水平線から昇った太陽が目を眩ませた。ひかりへの反撃を諦め眩んだまま左捻りで射線から逃れようとする。左腕を何かが掠めた。模擬弾だ。非殺傷の弾丸だけど当たると当然痛い。

それでも撃墜判定になるには胴体に2発以上撃ち込むのが条件だからまだ大丈夫。

高度が失われて速度が上がっていく。視界が戻ると左右を弾丸が通り過ぎていった。あまり良い精度ではない。狙いが甘っちょろい。

これなら……言いかけたところで無線機がノイズと共に鳴った。

 

 

「訓練中止。訓練中止。招かれざる客が来た」

 

「ネウロイ⁈なんでこんなところに!」

 

「知るか!取り敢えず倒せば良いんだろう」

弾倉を実弾が入った方に交換しつつ高度を上げていけば、雲の中から巨大な黒いハニカム構造のパターンが見えた。

円形の外枠と中心の構造物。空力とかガン無視した理解に苦しむ姿だ。それに大きさもかなりでかい。コアの位置は多分真ん中の構造物の中。

先に接敵したニーマントとニパがネウロイに近づいていく。指揮権がニーマントに移ったのかニパが追従する形だった。

ネウロイのビームが2人の姿を隠しかけ、シールドが弾いた光が四方八方に広がっていく。

何射かしたのか白い破片が空中に散った。ネウロイ上部を通過した2人に攻撃が集中して俺らには見向きもしない。

 

「硬いな」

 

「20mmが効かないなんて!」

 

 

ほーん?じゃあここらでやるとするか。

スロットルを全開に。紫電改が一瞬ストールしそうになって、次の瞬間濃い魔力と燃料と空気の混合気を吸い込んだ発動機が身体を蹴り押した。

 

20mmを連射し続けて、外装を幾らか削り取る。

引き金がロックした。ガチんと金属が当たる軽い音がして弾丸の排出が止まった。20mmが空になった。錘にしかならないそれを捨てて拳に推進に使う魔力以外の全てを注ぎ込む。

視界がハニカム構造で埋め尽くされ、捲れ上がって破壊されたそこに拳がぶつかった。

破壊。破壊。魔力で強化された拳が弾丸すら弾くネウロイを飴細工のように破壊して、コアを砕いた。

途端に視界が真っ白になり、腕にかかっていた負担が消えた。

多少ネウロイの破片で服が破けたけどこのくらいなら縫えばいい。

「よっしゃ!俺にかかればこんなの…」

 

急に体が崩れた。足元が不安定になって浮いていられなくなった。

覗き込めばストライカーから黒煙が上がっていた。

「しまッ‼︎」

 

高度が下がっていって、相対的に速度も上がっていく。海水浴まっしぐらなコース。

だけれど体が水面に着く前に誰かに体を抱き上げられた。

「出撃のたびにストライカーを壊していたらまた怒られるぞ」

 

ニーマントの声が後ろからした。だけど扶桑語だったから一瞬誰なのかわからなかった。

「すまねえ……けどストライカー破損は別に良いだろ」

機体なんか消耗品。ネウロイが倒せればそれで良い。

「機体は確かに消耗品だが紫電改はまだ量産出来ていないし予備部品も少ない。そんな使い方していたら直ぐに零式が支給されるよ」

 

「そんときはオメーに頼むよ」

 

「生憎だけど予約は受け付けていないのでね。メッサーシャルクならまとまった数があるからそちらにする?格闘戦と速度なら紫電に負けず劣らずだよ」

 

「いらねえ。紫電改が一番だ」

 

抱き上げられ腹に抱えられたまま基地に向かって彼女は進路を変えた。めんどくせえお説教が待っているんだと思うと少し憂鬱だったが、ネウロイを倒せたしトントンだ。

 

「……君はどうして空を飛ぶの?」

 

「決まってんだろう。ネウロイを駆逐する。一匹残らずだ!大体訳分からん奴にいいように蹂躙されるのが気に入らない」

それにウィッチの適性があったならもっと……あの人と肩を並べて飛ぶためにも。

「そっか。なら安心した」

どこかホッとしたような声色だった。

「安心?」

 

「なんでもない。……正義だなって思っただけ」

 

「正義にはその憤怒がある。そして、正義の憤怒は進歩の一要素である」

 

「ヴィクトル・ユーゴー。管野、よく知っているね」

 

「まあ、好きだからな。そういうの」

 

結局話が弾む前にひかり達が合流してあまり会話は弾まなかった。

しかも夕方になるまでずっと正座までさせられた。おかげで足が痺れた。畜生、良いじゃねえかストライカーの一つや二つくらい。今回は全損したわけじゃないし。

 

夜になっても痺れが残ってて寝付くことができず散歩がてら愚痴の一つや二つ溢したかったが、ストライカーの格納庫で萎れてたひかりのやつの手前そんなことが出来るはずもなく夜は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「調子は?」

相変わらず脚は吊られたまま。骨こそくっついたけれどまだ安静にしていないと直ぐに折れてしまうらしく復帰には時間がかかりそうだった。

そんな私を訪ねてきたのは、珍しいことにハルだった。病室に運び込まれてから一度も姿を見せにきてくれなかった子が来たという事はきっと悩みがあるのだろう。

何を悩んでいるのか考えながら、体の調子を逆に聞き返してみた。彼女の体も相当に負担がかかっているはずだ。特に今日は訓練でストライカーを履いていたしネウロイと交戦までしている。

「良好だよ。怪我はまだ治りそうにないけどね。そっちは?隠さないで教えてね……どこまで残ってる?」

 

「色彩は問題なし。腕は相変わらず……」

そこで彼女の言葉が詰まった。悩んでいるようだった。消灯されていて暗い室内だから表情はわからなかったけれど。

「……味覚と嗅覚。どれくらい?」

夜食の入ったバスケットをベッドの横の机に置いてからハルは呟くように教えてくれた。

「……全くしないです」

 

「両方とも?」

 

「ええ……嗅覚は多少なら」

既にかなり深刻なところまで来ている様子だった。

「そっか。教えてくれてありがとう」

 

「……誰にも言わないでください」

 

「……保証はしかねる。既に君の健康状態じゃ軍属である事すら不可能だよ」

そもそもそんな身体でどうしてまだ戦おうとするのか。身近な誰かが傷ついていくのを見ているのはかなり堪える。こうして怪我で何もできない状態だと特に気持ちはナーバスに寄っていく。意識していてももどかしさと怒りと焦燥が込み上げてきて胃が痛み出す。

本当にここら辺でこの子を止めないときっと後悔しそうだった。後悔ならずっと昔からしているけれど……

「それでも戦うのはどうして?」

 

「誰かの願いと、ネウロイを倒せる希望を踏み躙ったからにはその責務を最後まで全うしないといけないからです」

 

「それは……」

ウォーロックの事を言っているのだろうか。だけどあれは……

「失礼します」

 

「あ、待って……」

制止も聞かずに彼女は部屋を後にしてしまった。虚しく宙をきる手が布団の上に落ちた。

「もう良いんだって言ってるのに……頑固なんだから」

彼女も性格的には癖が強い方で、ロスマンやラル曰く食えない奴なのかもしれない。あ、夜食美味しい。

相変わらず料理の腕は落ちていない。ハルの手料理の味だった。

 

小さな紙がバスケットの中に隠されていた。片手でも開けやすいように工夫がされていた。

 

「なんだか照れるなあ」

 

『復帰するのを待っています。やはり貴女がいないと502は寂しさがあります。大尉より』

ハルちゃんが次に走るルート

  • ブレイブ
  • ストライク2
  • アフリカ(1943)
  • RtB

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