ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」 作:ヒジキの木
こんにちは。取材でしたよね。ええ、こちらにおかけください。
そうね、前置きをしても長くなりそうだから早速初めましょう。
気になる子がいる。
最初は私の元を離れたばかりのエーリカからだった。
その次にクルピンスキーが私に相談をしてきた。元々教官を務めている身ではあったけれど、流石に私のところに配属されなかった新人まで網羅することはその当時できることではなかったから二人からの相談を受けて私は当時の航空団長に思い切って相談をした。
その結果私はその子と一緒にB7rへの派遣を命じられた。
クルピンスキーにはJG52から離れて羽を伸ばしてくるのも一緒にして来たらどうだと冗談交じりに言われたけれどとてもじゃないけれどそんな気分ではなかった。
それでもまだ余裕があった。B7rが激戦になるなんて知らなかったから。
私と彼女、ハル軍曹と会ったのは山脈に近い位置にあるエリアB7r防衛用の基地に向かう直前だったの。
同じ基地に向かうエーリカとマルセイユも一緒だった。
エーリカからは話しかければ素直に話すタイプで良くも悪くも入隊したばかりの自分と似ていると聞かされていた。
実際会った時は…少し鋭い目をしていた。笑顔もあまりなくて、本当に入隊して1ヶ月も経っていない子なのかって心配になっちゃったわ。
でも制服はどこかサイズがあっていなくて、身長も私とあまり変わらないから見た目だけは10歳で徴兵されたウィッチって感が出ていたわ。
私は身体基準が緩和されるまで入隊できなかったけれど、その基準もさらに下げられているんじゃないかって逆に心配になったわ。いくらなんでも10歳の少女まで最前線で戦わせなければならないなんて……
「でもこの子は3回目の出撃で合計7機撃墜しているからエースなんだよ」
「ふーん。こんな小さいやつがねえ……」
マルセイユが頭をくしゃくしゃと乱雑に撫で回す。子供を相手にしているようだ。というか年齢的に子供に違いないんだけれど。
「飛行時間はどれくらいあるの?」
「訓練で60時間、実戦は40時間です」
少なすぎる。たしかに徴兵組は訓練時間や座学を省略して即戦力として動員するからそのくらいしかかけられないというのはわかる。だけれど現場としてはそんな子を平気で戦場に出すなんて狂っているとしか思えなかった。
その他のことも色々話を聞きたかったけれど、彼女はトラックに揺られてすぐに酔ってしまった。
最初の方こそ聞けばそれなりに返答が返ってきたが、それ以上深くは聞くことが出来なかった。トラックの荷台に設けられた長い腰掛けベンチに転がって始終寝てしまっていた。
「あの子はさ…どこか生き急いでる気がするんだ」
エーリカが言うには、この前の大規模防衛戦の際にルームメイトと小隊の二機を亡くしていたようだ。
それなりに親身になっていた仲だったらしい。
あまりにも残酷すぎるものだった。少なくとも10歳の少女がしていいような体験ではない。
「この前もかなり危ない飛び方をしていたんだ。教官なら、なんとかできないかな?」
「できる限り、なんとかしてみるわ」
とは言っても私にできることは限られている。だけれどこれ以上生き急ぐような飛び方をさせないためにも、彼女の心をどうにかして解す必要があった。
だけれど戦争は、ネウロイはそんな私の決意も、彼女の心も弄び、破壊するかのように時間を与えてはくれなかった。
基地に到着したトラックを降りると、その基地の司令と思われる軍人が基地の喧騒を遮って歩いてきた。
「カールスラントJG52より派遣されましたウィッチ四名到着しました!」
「丁度よかった。たった今スクランブルに上がった部隊が多数のネウロイに囲まれて救援を求めている。残存のウィッチは爆撃機護衛から戻ったばかりですぐには出せない。急で悪いが救援に向かってくれ」
「了解しました!各員速やかに準備にかかります」
最前線らしいといえばらしいけれど、疲労が溜まっている状態での戦闘はあまり歓迎できるようなものではなかった。
それでも軍人は命令とあれば飛ばなければならない。仲間の救助となれば尚更だった。
一足先に送られて、格納庫で待機していたストライカーユニットを装着して空に上がったのは、基地に到着してから十分も経っていなかった。
「ハル、貴女は二番機よ。私についてきて」
自然と私が隊長位置となり、全員を指揮する立場になっていた。同時にハルは四番機の位置に居たけれど、私の側から離したくなかった。だから私はマルセイユを下げて彼女を二番機にした。
「了解しました」
しばらく隣を飛んでいたハルの飛行は、まだ戦場を飛んで1ヶ月しか経っていないということを含めても、かなり完成されていた。それだけでもかなりのものだった。だけれど、その瞳には静かに、そして相反する激しい憎悪が灯っているように思えた。
「まもなく会敵します。私とハルは右から、マルセイユとエーリカは左からよ」
私達が飛行している高度よりも、ウィッチ達が戦っている空は高度が高かった。
必然的にこちらが下から潜り込むような格好になる。しかし、これはある意味好機でもある。ネウロイ相手に一撃離脱をするときは上から襲いかかるのが多かった。そのせいか最近のネウロイはそれを学習してか上からの攻撃に敏感になっている節がある。であれば逆に下からの攻撃はまだ不意打ちになるかもしれないのだ。
「了解よ。ならこっちは好きにやらせてもらうわ」
「えっと……とりあえずマルセイユのバックアップしてるよ」
「無茶はしないで」
マルセイユとエーリカのペアなら大丈夫だろうと判断し、私達は二手に分かれた。まああの二人は競い合う癖があるからチームプレイはあまり期待できない。それでも息が合わないわけではないからエースって不思議。
一方向から飛び込むのではなく複数方向から同時に仕掛けるのが空戦のセオリーであり、最も安全な方法だった。流石のネウロイだって複数方向へ同時攻撃が可能な個体は小型では存在しない。
上昇しながら小型ネウロイ群の中を突っ切る。攻撃をしようとしていた個体を率先して撃破しつつ上に抜ける。
後方からはなたれるビームを回避しようと旋回して、一瞬見えた後ろでハルは私とは真反対、ネウロイの方向を向いて銃撃をし続けていた。
20ミリの薬莢が排出され続けている。
反撃のビーム群が彼女を取り囲もうとしていた。だけれどその時には彼女は再び元の進行方向に戻っていて、私の左隣を飛んでいた。
周りを見れば、追い詰められていたウィッチ達の周りにいたネウロイはすでにマルセイユ達にほぼ駆逐されていた。
「増援だ!」
誰がそう言ったのかは分からなかった。だけれどそれは私達が最も近くて、意識さえ向ければ認識することができた。
ほぼ同じ高度、一撃離脱をするのは難しい。それにここから無理に高度を取ろうとしてもおそらく追撃される方が早い。
ここは速度を使っての一撃離脱。そう思っていた。
「ハル、左側から突入するわ。ついてきて」
ネウロイの注意をひかないように移動。運良くネウロイ達は私達ではなく固まっているウィッチ達を脅威と捉えていた。
「…っ、わかりました」
「…ハル?」
少し動きがぎこちない気がした。
「ちょっとハル⁈」
隣で一緒に飛んでいたはずの少女は、いつのまにか真後ろに向かって飛んでいた。
慌てて旋回をしたけれど、その頃には攻撃をするネウロイに飛び込むように近づいては、力学を無視した機動でネウロイを翻弄し撃ち落としていた。
「なんて無茶をっこれは相当手が焼けそうね」
マルセイユ達の方に向かっていったネウロイも全て撃墜され、機銃の発砲音は聞こえなくなっていた。
その頃になって、ようやく彼女は速度を落とした。
「周辺に敵影無し。帰投する、RTB」
誰の声だったのか一瞬分からなくて、結局それが自分の言葉だっていうのに気づくのが遅れた。
「ハル!貴女血が…」
垂れた血が風に乗って飛んでいく。年相応に血色が良かった顔は、真っ青になっていた。
「あ、えっと…ただの鼻血です」
ヴェルカミから聞いていなければただの鼻血で済ませていた。だけれど彼女の固有魔法は、使用するたびにかなりの負担を彼女にさせてしまうという諸刃の剣だ。
心配だったけれど、私は医療の心得はほとんど持ち合わせていない。
結局基地に着くまでに鼻血は収まり、血の気も回復していた。
だけれど、武器をラックに戻し、ユニットを外している時の動きに違和感を覚えた。どこか片腕を庇っているような、そんな感じがして嫌な予感が頭を横切った。
「貴女、ちょっと待って!」
格納庫を出ようとしていた彼女を呼び止める。
「……なんですか?」
「腕見せなさい」
命令口調だったが拒否権は与えない。
腕を掴んでブカブカの服を巻くしあげれば、そこには痛々しい重度の火傷跡がついていた。ネウロイのビームによるものだ。相当な痛みがあったはずだ。それでも上から服を着て平然を装っているなんて……いや、大方こっそり医務室に行くつもりだったのだろう。
「っ…かすり傷です」
「ヴェルカミ少尉から聞いているわ。来なさい」
負傷していないはずの方の腕を引っ張り、医務室に連れて行った。
幸いこの基地も医療ウィッチが配備されていた。そのおかげで彼女の傷もすぐに治ることとなった。
だけれど怪我はより深刻に、そして広範囲に及んでいた。
「多少筋肉疲労が溜まっているのと血管が少し破裂しているくらいですね。でも頭部の血管は破裂すると危険ですよ?腕の方もそこまで深い傷じゃないですが放置しておくと破傷風になる可能性があるので気をつけてください」
医師の言葉に黙って頷くだけのハル。その目はどこか冷めていて、どこか他人事として捉えているようだった。
「ちょっとは貴女の体も大事にしなさい。……気持ちはわかるけど、貴女が壊れたって誰も喜ばないわ」
固有魔法すら本当は使って欲しくない。使用するたびにこんな傷を受けていてはいつか取り返しがつかないことになってしまう。
「……時間がないんです」
私より目線一つ分低い体が、隣を通り抜けた。
「……どういうこと?」
「なんでもないです。心配かけてすいませんでした」
「あ、ちょっとまだ話は終わって……」
医務室を出て行くハル。部屋に行くのは明白だったけれど、問題があった。
「というか部屋の場所知らないでしょっ‼︎」
ここについて早々に出撃をしたため部屋の場所など知りようがないのだ。
「……?あ、そういえば…そういうことでしたね」
言葉選びに何か違和感を感じた。だけれどそれの意味までは今もわからない。本人に直接教えてもらうしかないのだ。
「夜間飛行⁈ちょっと待ってあの子はまだ10歳よ!」
作戦司令室に私の怒鳴り声が響いた。
事の発端は本当に数分前。出撃の影響で遅い昼食を食べ終わったところで今後の出撃シフトを確認したところからだった。
そのシフトには、本日20時からハルが夜間偵察の任務に組み込まれている事が書かれていた。当然私やエーリカ達もだった。
さりげなく、当たり前のように書かれていたそれに私の感情は爆発した。
たしかに軍人である。だけれどそれ以前に、彼女は幼すぎる。
いくらなんでも怪我をした数時間後に今度は夜、それも経験がない夜間飛行を行わせるなど正気の沙汰ではない。
一応夜間飛行は一通り訓練学校で教わっているだろうが教わっただけで初めから優秀にできるなんてのはありえないのだ。
「だが書類を見る限り優秀だ。それにそっちはどうか知らんがここ一帯のネウロイは夜間はあまり飛んでこない。それでも夜間警戒を怠るわけにはいかないが、夜間飛行もナイトウィッチとのペアで飛ばすから危険は低い。問題あるかね?」
「ありませんけどッ……ですがあの子は昼間の戦闘で負傷しています‼︎」
そう、怪我の報告は、戦闘報告書としてまとめて先ほど提出した。時間もそこそこ経っているから目を通していないはずはないのだ。それでも飛ばそうというのだろうか?
「報告は受けている。だが彼女自身が進んで志願している。怪我は医療ウィッチが治してくれたから大丈夫だと」
作戦参謀はあくまでも本人の意思を尊重することにしたと取り合う気はないらしい。ならば私が代わりにと思ったけれど、私はハル達の次の夜間偵察飛行に組み込まれていた。エーリカやハルトマンも同じだ。それだけじゃない。ここのウィッチの消耗や現状の人員確保では、ローテーションすらまともに組める状態ではなくなっているのだ。
「こちらとしても心苦しいが……ここが落ちれば欧州全体の防衛線は機能しなくなる。無茶なのは承知だ」
そう、ここは現在山脈と川による天然要塞の中で最も弱いところを抱える絶対防衛線なのだ。
ダキアの平原と、山脈を貫く川が作り出した渓谷地帯。山岳越えが難しい地上のネウロイが唯一入ってきてしまう場所。
「ッ……わかりました」
こんなことなら無理にでも医務室に入れておくべきだった。
昼間に戦闘をしたのに夜まで空を飛ぶなんて、体が保つはずがない。一日二日はよくてもあんな事をし続けたら……
どうしてあの子ばかり…運がないの?それとも何かが彼女を追い詰めている?
上層部はなにを考えているのよ!
夜間飛行は、結局幸運にもなにも起こらずお陰で彼女は無事に帰ってきた。
私は話しかけようとしたけれど、彼女は眠いと言って部屋に戻っていった。無理にでも話をしたかった。だけれどあれは無理に近づけば磁石のように強く反発する。彼女を守らないと……危なすぎる。
けれど戦争は残酷にも、私の教え子達を巻き込んでは彼女達を祭り上げていった。
あ、もう時間?そんなに話していたのね……
貴女はあの子を探しているのね?
たしかに今の彼女の消息は分からないけれど、消失したJG52の末期の戦闘報告書と、1942年の501の戦闘報告書ならどこにあるかわかるわ。まあ、公開される事はないでしょうけど。
私がどうしてそれを知っているか?
秘密よ。
ところでこの後はどちらに?
ハイデマリーのところ……そう、前線基地だから気をつけて。
カ号8型多目的輸送機
製造 三菱、中島、川崎、川西
全長17.8m、全高4.85m、主回転翼直径17.95m
搭載重量3000kg、最大離陸重量4500kg
最大航続距離750km(増槽使用で970km)最高速度時速250km/h
発動機、ネ-0型発動機3基
扶桑国陸軍が開発したオーパーツ。
欧州での渾名はスーパーアンビュランス、フライングアンビュランスなど
発動機であるネ-0型はオストマルク人の技術者であるジェルジ・イェンドラシックによって作られたCs-1ターボプロップエンジンを元に改良されたものである。
元エンジンは現代エンジンの主流である軸流式エンジンというオーパーツじみたものでありながら燃焼問題で400馬力に制限されていた。
扶桑国に研究目的で送られた当エンジンは同国で魔改造を受けた結果本来の仕様通り1000馬力を発揮し連続稼働時間120時間を達成した。
これを元に作られたエンジンとして1200馬力ターボプロップのネ-0、ターボジェットエンジンのネ-5、ターボファンエンジンのネ-10がある。ただしネ-10は技術検証の意味合いが強く採用機はいない。ターボファンエンジンは最終的にブリタニアの機体が搭載する。
カ号8型は胴体並びにローター設計はリベリオンから呼び寄せたシルコスキー博士によって行われた大型輸送ヘリである。
機体はダンデムの2ローター三発機であり、コクピット後方が大きくえぐれた構造となっている。V-107とCH-54を組み合わせたような機体にAW-101のエンジン周りとメインシャフト類を前方のローターに乗せ、ドライブシャフトで後方のローターを回すような機体といえばわかりやすい。
コクピット後方の大きく抉れたところに専用のコンテナユニットを装着するかフックを使いサイズ、形状を問わない貨物輸送を行うことができた。また中島製造の改8型ではエンジンユニット左右に張り出しが設けられ、ここにドロップタンクを搭載することができた。
実際の運用では主に戦場で負傷者の移送やメディカルユニットによる移動式簡易医務室、貨物輸送を行なっていた。
欠点としてローターが生み出す騒音が異常に大きく、戦後の民政転用でも騒音問題が解決できず売れなかった。また最高速度が遅く、最前線での運用はネウロイへの通常火器の能力不足からも行われなかった。
ハルちゃんの三走目
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ストパン2期
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RtB
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アフリカ