ストライクウィッチーズRTA「駆け抜けた空」   作:ヒジキの木

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 第502統合戦闘航空団の隊長と言う立場故に、私のオフィスには毎日なんらかの書類がやってくる。最も膨大なもので言えば補給関連と消費関連のものであるが、それら書類は主に主計科部隊が担当して処理するため基本的には数枚の紙に収まる。では目の前にたまる紙の束は何かといえば、弾薬使用許可や訓練計画の書類、そして異動や補給兵のような人事の書類が大半を占めている。

そして急ぎでロスマン軍曹が持ってきた書類は人事の書類だった。内容が内容だけに大急ぎで見てほしいとやってきたのだ。

その書類を一目見て私もロスマンが言いたいことが分かった。

「配置転換命令…だと?」

1枚は雁淵姉妹に関するものだった。これはまだ良い、姉の方がようやく復帰してこちらに来ると言うものだ。調整、と言うかひかりと話し合ってもらう必要があるが大した問題ではない。

だがもう一つの方が問題だった。

 

 

『ニーマント・ジークフリンデ少尉、右の者は来週付けで第502統合戦闘航空団第一補給中隊航空輸送隊からシュレイナ空中猟兵隊への出向を命ずる』そう書かれた人事異動の書類だった。

「このタイミングでか」

もう間も無く奪還作戦が始まると言うタイミングだと言うのに。

「ええ、雁淵孝美中尉が着隊するのと合わせてね」

 

「……タイミングを合わせたのは書類処理に紛れ込ませやすくするためだろう。だがなぜ今になってなんだ」

何者かの介入があったとしか言いようがない。そもそも彼女については限られた者しか知らないはずだ。

「横槍を入れたのはエドヴァルナ・フォン・シュレイナ伯爵、元カールスラント空軍少佐の伯爵様よ」

ロスマンが言った名前は意外なものだった。

「彼女が?なぜハルを……」

 

ハルの軍歴は現在MIAとなっている。脱走とかそう言った状態になっていないのは元501のニーナなどが手を回したからだ。

そんな彼女をニーマントとして軍に入れるために戸籍と経歴を少しばかり細工した。

元々ネウロイの攻撃で戸籍謄本などは失われてしまった場合が多く個人を特定するのはかなり難しい。

それを利用して私が使えるツテを総動員して軍歴を作り上げた。そのツテには確かに英雄である彼女も混ざっていた。

 

彼女が目をつけたきっかけはそれだろうが、なぜ今になって引き抜きをするのかが分からない。

「分からないわ。でも彼女が私設軍を持っているのは知っているわよね?」

確か第二次ネウロイ大戦勃発直後に作ったやつか。軍からの払い下げが主な旧世代の武装集団だが数名のウィッチが所属していたはずだ。

「中隊にも満たないと言うあれか」

 

「そこに彼女を軍事顧問としてスカウトするつもりよ」

 軍事顧問と言うのは分かるが、彼女は軍を指揮する側の人間ではない。戦術面ではシュレイナ自身が適任のはずだ。

「ますます腑に落ちないな」

このタイミングで彼女を手元におきたい理由……彼女にしか頼めないことか?だとしたらどうして彼女なんだ?接点がないだろう。それこそハルじゃなくてもエーリカやバルクホルンだって良いわけだ。

 

長考。

 

 

何か裏があるはずだが思い当たる節がない。いや彼女に関しては噂程度には色々聞いているがハルが必要とは思えないものばかりだ。

 

 

「手を回すつもり?」

 

「いや、残念だがこちらが打てる手で彼女を引き止めるのは不可能だろう。本人も希望しているようだしな」

困ったことに書類にはハルの同意サインまで書いてある。これではこちらから差し止めを行うことは不可能だ。無視しようにも正式な書類でやりとりされていては無視できない。

「……どうしてハルがこれを希望するのかしら」

 

「確か彼女とシュレイナ伯爵は面識があるはずだ。そこで何かがあったのではないかな」

彼女が何度かシュレイナ伯爵と会っているのは知っていた。人の秘密を探るわけではないが多少は監視を付けておかないと怪我を放置したりしかねないからな。

「でも前線に近いよりかは良いのかしら……」

 

「分からないな。シュレイナ伯爵が何を考えているかだ」

 

いずれにしても答えは出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 黎明の太陽がペテルブルク基地から見える鋸のような山脈の尾根から頭を覗かせた。火球は眩く輝きながら静かに尾根の縁を離れていく。

もうすぐ出撃になる。お姉ちゃんと502JFWへの残留を懸けた戦いが始まる。

どうしてこうなっちゃったのかな?一緒に背中を合わせて戦うことは出来なかったのかな?

ペテルブルク基地の滑走路端は航空機の離着陸が無いと静まり返っていて考え事にはうってつけだった。でも答えが出るとは限らない。

「気にしないで全力を出しなさい」

「ジークフリンデさん?」

この人も同じタイミングでこの部隊を離れる事になるんだっけ。それなのに変わらないと言うか平然としている。

「お姉ちゃんと肩を並べて戦いたかっただけだったんですけど……どこでボタンを掛け違えちゃったのでしょうか?」

 

「少なくとも502に来た時点で彼女の思惑からは外れていたでしょうから、言うならば最初からよ」

痛いところを突かれた。完全に忘れていたけれど、私はあくまで姉の代わりにここにいるんだった。

「う……それはそうかもしれないですけど」

でも早々出ていけはないんじゃないかな?

「お姉さんも貴女が心配なのよ。身内なら特にね……それはそれとして不器用すぎる気がするけれど」

 

「過保護すぎるんじゃないんですか?」

私の中で結論は出ている問い。だけどその結論が納得できなくて、モヤモヤしてしまう。ニーマントさんはどこか遠い目をしながら答えた。

「大切な存在だからでしょうね、そう言うのは死の淵からは誰しも遠ざけたいものよ。貴女が姉なら同じことをするでしょうね」

 

「そうですか……やっぱり証明しないとダメですよね」

自分で分かってはいてもこうして他人に指摘されるとストンと腑に落ちる。やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんなんだな。ちょっと安心したかも。

 

「平気よ。貴女は私が鍛えたのだもの、そう簡単に遅れを取ることはないわ」

 

「でも……」

それでも自信があるわけじゃない。ここに来てから実力をつけたのとそう変わらない。ここまで来れたのもみんなのおかげだし。

「負い目があるのか知りませんが全力でぶつかって行かなければ後悔しますよ」

尤もだった。ここで逃げたら私は一生後悔する。多分今後二度とお姉ちゃんに顔向けできない気がする。

 

「……わかりました!やってやります!」

お姉ちゃんと腹を割って話すにはそこしかない。

 

「私も戦いを見守る事は出来るわ。悔いを残さないようにね」

 そう言う彼女の顔は黄金に光る朝日を浴びているのにどこか寂しげだった。そういえば私はニーマントさんの事を何も知らない。そうだ、今日の出撃でお姉ちゃんに勝てたら、その時に尋ねよう。

 

日は完全に昇って周囲はすっかり明るい。もうすぐ出撃になる。格納庫に戻って準備しないと。

 

「私も準備があるし、一緒に戻ろうか」

 

「そういえばニーマントさんは今日はストライカーユニットで飛ぶんですか?」

 今回の出撃は巣を守る航空ネウロイの残減。ブリタニア語でファイタースイープと呼ばれるものになる。前みたいに爆撃機とか、そう言ったのが必要となる場面はないはずだった。だとしたら一緒に飛ぶのかな?

「いいや、私が乗るのはあれだよ」

そう言って彼女が指差したのは、複数あるハンガー格納庫の横に駐機された四発の大型機だった。爆撃機のようにも見えたけれど、胴体の下部と機首部分が不自然に膨らんでいる上に機体上部もラクダのコブのように膨らんでいた。

「ヘンテコな機体だ」

 

「ああ見えて優秀な子さ。ひかりの戦い、楽しみにしているよ」

 

 




Fortress.AEW1

運用国 ブリタニア空軍

全長30.11m
全幅33.24m
空虚重量18.56t

発動機
ロールスロイス・マーリン66×4基(離昇出力1730hp)

最高速度450km/h
航続距離2790km
乗員
操縦士2名、航空機関士1名、空軍士官1名、レーダー手3名、通信兼航法士1名、指揮管制官6名

 カールスラント空軍が世界に先駆け運用を始めた空中通信中継機Do317Cの運用実績を良好と判断したブリタニア空軍が半分対抗心で開発、運用する電子支援機。
ブリタニア空軍は空中での早期警戒、指揮に拘ったため空中通信中継機であるDo317Cとは違い早期警戒機管制機と呼ばれる。
主な役割は後方地域の司令部と戦場との無線を中継する他、搭載した機上レーダーによる索敵、警戒。ウィッチや戦闘機への管制を行う。
Do317Cがキ49 百式電子偵察機とペアを組み早期警戒管制機化していたのに対してこちらは一機で全てを兼務している。

機体はリベリオン空軍B-17(モデル299)とDo317と同じ機体を基礎としているが、Do317が独自設計の機体に仕上げたのに対し設計コストと時間を短縮するためB-17をリベリオンから購入し本国で改造を施している。
主な改造として胴体を切り刻み8m延長。翼を根本から左右1mづつ延長。エンジンをライトR-1820からマーリン66に換装し出力を大幅向上。
武装及び防弾装備の撤去、垂直尾翼及び水平尾翼の形状変更と多岐に渡る。
 コクピット下部の爆撃手席部分と機体上部、そして元爆弾倉にレドームに収められたレーダーを搭載し全集を索敵できるようにしている。
またレーダー自体が対ジャミング対策として最大8チャンネルまで切り替えることができる。
上部レーダーの後方に広域通信用の複数の無線アンテナが格納されたレドームがある。
このため機体上部に二つのコブが並んでいるように見えるためラクダと言う愛称がつけられている。
全6機が改造され、順次運用についている。コールサインは1号機からグッドフェロー、サンダーヘッド、スカイキーパー、バンドッグ、ロングキャスター、オーカ・ニエーバ。
Do317と違い機体はイギリス空軍の標準的な迷彩塗装だが垂直尾翼と胴体側面にそれぞれ固有のエンブレムとストライプ塗装を施している。
機体番号42-32076〜32081

ハルちゃんの三走目

  • ストパン2期
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